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第8章 カウンセラー
特別ルール
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早々に綾さんの独特な誘導に観念したからには、このカウンセリングを少しでも自分にとって苦痛じゃないものにしよう思い口を開く。
「綾さんは、いつからここにいるんですか?」
「えーと……4年半くらい前からね」
4年半。
確か……。
「ショウたちがここに来たのと同時期に、あなたが派遣されたんですね。カウンセラーとして」
つまり、その時期にラストワがカウンセラーを派遣する必要があったってことで。それはショウたち親子のうちの誰かである可能性が高い。
クライアントは誰だったのか。
ショウか烈か、凱か……あるいは、ほかの誰かか。
綾さんは、言うかな?
「そうよ。それからずっとここにいて……必要な時はカウンセラー、それ以外はこの館の事務職ってところかしら」
自分からは言わない……か。
「女の人に年齢を聞くのは失礼かもしれませんが……今、何歳ですか?」
「37。エルファと同じ。彼とは高校から大学まで一緒だったわ。その後、29歳の時に受けたカウンセラーの養成講習でまた一緒になったの」
昔を懐かしむように、綾さんが微笑んだ。
「彼とは……いわゆる腐れ縁ってやつね」
そんなに前から親しいんだ。
そして、今も。
だから、あんな賭けをしてるのか。
「結婚は? 子どもはいるんですか?」
続けて、プライベートなことをズケズケと聞いてみる。
僕についてすでに豊富な情報を持っている綾さんに、対抗するつもりはない。
ただ。
話題にタブーはないと言い切った彼女に、聞かれて困る答えはないはずだから。
「結婚は22歳の時に一度。14歳の息子がひとり、イギリスの寄宿学校にいるわ」
「そうなんですか……」
この人に息子がいるのか。
年齢から考えたら不思議じゃないけど、なんか、へえーって感じ。
あとは……何かないかな。聞くこと。
好きな食べ物とか嫌いなおかずとか聞くのは、あまりにもバカそうだし。
館の人間のことを聞いてみようか。
綾さんから見てどんな感じかひとりずつ聞いていけば、だいぶ時間が稼げる……。
「じゃあ、次は私から質問するわね。一方的な質疑応だと尋問みたいになっちゃうから」
沈黙と呼べるほどの時間は経っていなかったけど、僕からの問いが途絶えたと見た綾さんが言った。
「あ、その前に。私たちのカウンセリングの特別ルールを作らない?」
「特別ルール……?」
「そう。お互いの要望をひとつずつ取り入れて……どうかしら?」
だんまりを決め込むことなく自分から雑談を始めた僕に、綾さんは気をよくしたみたいだ。
通常のカウンセリングじゃなく世間話にしてくれた上に、さらに、僕にもそのルールを決めさせてくれるのか……と、好意的に考えてみる。
それなら……。
「答えたくない質問をスルーさせてください」
綾さんの眉が片方上がる。
「答えたくないと言ったらそれ以上追求しない、というルールにしてほしいです」
エルファとの根競べのようなカウンセリングと同じことを、ここでまでしたくない。
僕の要望に暫し逡巡し、綾さんがゆっくりと2、3度頷いた。
「いいわよ……私の要望とセットなら」
「何ですか?」
「嘘はなし、というルール」
答えたくないと言えばスルーで、嘘はなし。
それだと……ちょっと不便だ。
僕が知っているって綾さんがわかっていることで答えたくないなら問題ない。
だけど……。
嘘はなしだと、知らないフリが出来なくなる。
言わずに済む代わりに、僕がそれを知っていることはバレる。
「どう?」
ゆったりと笑みを浮かべる綾さん。
ラストワが派遣したカウンセラー……甘く見てたら、知らないうちに追い込まれちゃいそうだ。
「綾さんは、いつからここにいるんですか?」
「えーと……4年半くらい前からね」
4年半。
確か……。
「ショウたちがここに来たのと同時期に、あなたが派遣されたんですね。カウンセラーとして」
つまり、その時期にラストワがカウンセラーを派遣する必要があったってことで。それはショウたち親子のうちの誰かである可能性が高い。
クライアントは誰だったのか。
ショウか烈か、凱か……あるいは、ほかの誰かか。
綾さんは、言うかな?
「そうよ。それからずっとここにいて……必要な時はカウンセラー、それ以外はこの館の事務職ってところかしら」
自分からは言わない……か。
「女の人に年齢を聞くのは失礼かもしれませんが……今、何歳ですか?」
「37。エルファと同じ。彼とは高校から大学まで一緒だったわ。その後、29歳の時に受けたカウンセラーの養成講習でまた一緒になったの」
昔を懐かしむように、綾さんが微笑んだ。
「彼とは……いわゆる腐れ縁ってやつね」
そんなに前から親しいんだ。
そして、今も。
だから、あんな賭けをしてるのか。
「結婚は? 子どもはいるんですか?」
続けて、プライベートなことをズケズケと聞いてみる。
僕についてすでに豊富な情報を持っている綾さんに、対抗するつもりはない。
ただ。
話題にタブーはないと言い切った彼女に、聞かれて困る答えはないはずだから。
「結婚は22歳の時に一度。14歳の息子がひとり、イギリスの寄宿学校にいるわ」
「そうなんですか……」
この人に息子がいるのか。
年齢から考えたら不思議じゃないけど、なんか、へえーって感じ。
あとは……何かないかな。聞くこと。
好きな食べ物とか嫌いなおかずとか聞くのは、あまりにもバカそうだし。
館の人間のことを聞いてみようか。
綾さんから見てどんな感じかひとりずつ聞いていけば、だいぶ時間が稼げる……。
「じゃあ、次は私から質問するわね。一方的な質疑応だと尋問みたいになっちゃうから」
沈黙と呼べるほどの時間は経っていなかったけど、僕からの問いが途絶えたと見た綾さんが言った。
「あ、その前に。私たちのカウンセリングの特別ルールを作らない?」
「特別ルール……?」
「そう。お互いの要望をひとつずつ取り入れて……どうかしら?」
だんまりを決め込むことなく自分から雑談を始めた僕に、綾さんは気をよくしたみたいだ。
通常のカウンセリングじゃなく世間話にしてくれた上に、さらに、僕にもそのルールを決めさせてくれるのか……と、好意的に考えてみる。
それなら……。
「答えたくない質問をスルーさせてください」
綾さんの眉が片方上がる。
「答えたくないと言ったらそれ以上追求しない、というルールにしてほしいです」
エルファとの根競べのようなカウンセリングと同じことを、ここでまでしたくない。
僕の要望に暫し逡巡し、綾さんがゆっくりと2、3度頷いた。
「いいわよ……私の要望とセットなら」
「何ですか?」
「嘘はなし、というルール」
答えたくないと言えばスルーで、嘘はなし。
それだと……ちょっと不便だ。
僕が知っているって綾さんがわかっていることで答えたくないなら問題ない。
だけど……。
嘘はなしだと、知らないフリが出来なくなる。
言わずに済む代わりに、僕がそれを知っていることはバレる。
「どう?」
ゆったりと笑みを浮かべる綾さん。
ラストワが派遣したカウンセラー……甘く見てたら、知らないうちに追い込まれちゃいそうだ。
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