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第7章 対話
明日また来てよ
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凱の破壊者としての一面を聞いて、復讐の協力者になってほしいと思った。
今、彼の別の面を知って。僕の中で、さらなる興味が湧き上がるのを感じる。
人を壊す理由を知りたい。
自分を犠牲にする目的を知りたい。
苦痛に耐える方法を知りたい。
屈辱に耐える方法を知りたい。
恐怖を超える『何か』を知りたい。
そして、悪になることの意味を知りたい。
僕は、凱みたいに強くなりたいと思った。
館に着いた僕たちは、誰にも顔を合わせることなく2階に上がった。
自分の部屋のベッドに下ろされて瞼を上げた凱は、天井のライトを眩そうに見て目を瞬いた。
「大丈夫?」
烈の声に、凱が上体を起こす。
「ん……っつ! いって……」
「リージェイクが薬持ってくるから、もう少しだけ起きてて」
僕と烈は、凱を支えてベッドの縁に腰かけた状態にする。
「悪い……寝ちゃって……もう大丈夫」
「ほんとに大丈夫?」
そう聞くと、凱は首を傾げて口角を上げた。
「ジャルドはさー、自分が大丈夫って言う時……ほんとは大丈夫じゃなくて無理してるから、オレにも確認すんの?」
聞き返された問いに、答えられなかった。
凱が先に答える。
「オレが大丈夫って言うのは、ほんと」
「どういう意味の大丈夫? まだまともに歩けないし痛いでしょ?」
烈が重ねて聞いた。
「精神的に何ともないってこと?」
「そーね。痛いとこあってもオレに変わりはねぇじゃん?」
「あの男が狂犬病ウィルスとか持ってなければね」
烈の嫌味に、凱が笑う。
「明日、あいつに聞いとかねぇとな」
「明日学校行くの!?」
「あの男と話すの!?」
ほぼ同時に声を上げた烈と僕に凱が眉を寄せた時、ドアが開いた。
リージェイクが水のペットボトル……今度のは500ml……と薬を手に入ってくる。
「抗生剤と痛み止めだ」
オレンジ色の錠剤のシートとペットボトルを凱に手渡しながら、リージェイクが言う。
「この抗生剤は3日間続けて」
無言で促すリージェイクを見て、凱は薬を取り出し水で飲み下す。
そして、次に差し出された痛み止めに首を横に振る。
「そっちはいらない」
「飲んで眠れば楽になるよ」
「早く治るわけじゃねぇだろ? 神経麻痺させて感じなくても、痛みはそこにあんだからさ。オレはそんな方法で楽になりたくねぇの」
「……つらかったら飲むといい。デスクに置いておくから」
リージェイクが僕と烈を見る。
「二人も、そろそろ寝ないとね。とっくに日付が変わってる」
「うん」
「わかった」
僕と烈の返事に頷いて、リージェイクはドアへと向かった。
「ジェイク!」
凱が呼び止める。
「今日はいろいろしてくれて、ありがと」
振り向いたリージェイクに、凱が続ける。
「あと、悪いけどアレは聞けない」
凱を見つめるリージェイクの瞳に、悲しみと落胆の憂いの影が差す。
「オレは……後悔してねぇからさ」
「……わかった。おやすみ」
リージェイクは部屋を出て行った。
「おまえたちも行けよ。明日つらくなるぜ」
そう言って、凱はシャツのボタンを外し始めた。
まだぎこちない指の動きをみかねた烈が代わりに外し、シャツを脱がせる。
無数の傷口には、まだ血が滲んでいるところもある。
胸に揺れるペンダントの銀の側面に、赤い傷がチラチラと映った。
「血がついちゃってるから、お風呂の洗剤でつけとくよ」
「サンキュ」
烈がバスルームへと消える。
「烈ってすごいね。何でも知ってるし」
その姿を目で追いながら呟いた。
「そー、オレがこんなだから。烈は大変なの。ショウに余計な心配かけねぇようにフォローしてくれて、知らなくていーことまで知ってマセちゃってさ」
そうか……。
血のついたシャツがあればショウが心配する。
この傷を見せるのは、ちょっとアレだし……。
ちゃんとシャツを着て小屋から戻ったのもそのためか。
アレ……。
「凱……さっきのアレって何のこと?」
「あー……アレ」
凱は僕と合った目を逸らさずに。
でも、瞳を揺らした。
「内緒。オレとジェイクの」
「仲良くないんじゃなかったの?」
戻って来た烈が言った。
「良くも悪くもねぇっつーか、どっちにもなれねぇの。ジェイクは……オレを認めも憎みもしねぇからな」
僕と烈が口を開く前に、凱が続ける。
「それより、もう寝ようぜ。オレもさすがに限界」
「そうだね。僕も眠いや」
烈が欠伸をした。
「烈。ジャルド。ありがとねー」
屈託なく礼を言う凱の顔に浮かぶ笑みは、やっぱり破壊者にはそぐわない。
だけど……。
「あ。ジャルド」
おやすみを言いながら烈と一緒に部屋を出ようとする僕を、思い出したように凱が呼んだ。
破壊者にふさわしい鋭い眼差しが僕を射る。
「明日また来てよ。森じゃなくて、ここに」
「わかった」
頷いて、ドアを閉めた。
長い1日が終わった。
今、彼の別の面を知って。僕の中で、さらなる興味が湧き上がるのを感じる。
人を壊す理由を知りたい。
自分を犠牲にする目的を知りたい。
苦痛に耐える方法を知りたい。
屈辱に耐える方法を知りたい。
恐怖を超える『何か』を知りたい。
そして、悪になることの意味を知りたい。
僕は、凱みたいに強くなりたいと思った。
館に着いた僕たちは、誰にも顔を合わせることなく2階に上がった。
自分の部屋のベッドに下ろされて瞼を上げた凱は、天井のライトを眩そうに見て目を瞬いた。
「大丈夫?」
烈の声に、凱が上体を起こす。
「ん……っつ! いって……」
「リージェイクが薬持ってくるから、もう少しだけ起きてて」
僕と烈は、凱を支えてベッドの縁に腰かけた状態にする。
「悪い……寝ちゃって……もう大丈夫」
「ほんとに大丈夫?」
そう聞くと、凱は首を傾げて口角を上げた。
「ジャルドはさー、自分が大丈夫って言う時……ほんとは大丈夫じゃなくて無理してるから、オレにも確認すんの?」
聞き返された問いに、答えられなかった。
凱が先に答える。
「オレが大丈夫って言うのは、ほんと」
「どういう意味の大丈夫? まだまともに歩けないし痛いでしょ?」
烈が重ねて聞いた。
「精神的に何ともないってこと?」
「そーね。痛いとこあってもオレに変わりはねぇじゃん?」
「あの男が狂犬病ウィルスとか持ってなければね」
烈の嫌味に、凱が笑う。
「明日、あいつに聞いとかねぇとな」
「明日学校行くの!?」
「あの男と話すの!?」
ほぼ同時に声を上げた烈と僕に凱が眉を寄せた時、ドアが開いた。
リージェイクが水のペットボトル……今度のは500ml……と薬を手に入ってくる。
「抗生剤と痛み止めだ」
オレンジ色の錠剤のシートとペットボトルを凱に手渡しながら、リージェイクが言う。
「この抗生剤は3日間続けて」
無言で促すリージェイクを見て、凱は薬を取り出し水で飲み下す。
そして、次に差し出された痛み止めに首を横に振る。
「そっちはいらない」
「飲んで眠れば楽になるよ」
「早く治るわけじゃねぇだろ? 神経麻痺させて感じなくても、痛みはそこにあんだからさ。オレはそんな方法で楽になりたくねぇの」
「……つらかったら飲むといい。デスクに置いておくから」
リージェイクが僕と烈を見る。
「二人も、そろそろ寝ないとね。とっくに日付が変わってる」
「うん」
「わかった」
僕と烈の返事に頷いて、リージェイクはドアへと向かった。
「ジェイク!」
凱が呼び止める。
「今日はいろいろしてくれて、ありがと」
振り向いたリージェイクに、凱が続ける。
「あと、悪いけどアレは聞けない」
凱を見つめるリージェイクの瞳に、悲しみと落胆の憂いの影が差す。
「オレは……後悔してねぇからさ」
「……わかった。おやすみ」
リージェイクは部屋を出て行った。
「おまえたちも行けよ。明日つらくなるぜ」
そう言って、凱はシャツのボタンを外し始めた。
まだぎこちない指の動きをみかねた烈が代わりに外し、シャツを脱がせる。
無数の傷口には、まだ血が滲んでいるところもある。
胸に揺れるペンダントの銀の側面に、赤い傷がチラチラと映った。
「血がついちゃってるから、お風呂の洗剤でつけとくよ」
「サンキュ」
烈がバスルームへと消える。
「烈ってすごいね。何でも知ってるし」
その姿を目で追いながら呟いた。
「そー、オレがこんなだから。烈は大変なの。ショウに余計な心配かけねぇようにフォローしてくれて、知らなくていーことまで知ってマセちゃってさ」
そうか……。
血のついたシャツがあればショウが心配する。
この傷を見せるのは、ちょっとアレだし……。
ちゃんとシャツを着て小屋から戻ったのもそのためか。
アレ……。
「凱……さっきのアレって何のこと?」
「あー……アレ」
凱は僕と合った目を逸らさずに。
でも、瞳を揺らした。
「内緒。オレとジェイクの」
「仲良くないんじゃなかったの?」
戻って来た烈が言った。
「良くも悪くもねぇっつーか、どっちにもなれねぇの。ジェイクは……オレを認めも憎みもしねぇからな」
僕と烈が口を開く前に、凱が続ける。
「それより、もう寝ようぜ。オレもさすがに限界」
「そうだね。僕も眠いや」
烈が欠伸をした。
「烈。ジャルド。ありがとねー」
屈託なく礼を言う凱の顔に浮かぶ笑みは、やっぱり破壊者にはそぐわない。
だけど……。
「あ。ジャルド」
おやすみを言いながら烈と一緒に部屋を出ようとする僕を、思い出したように凱が呼んだ。
破壊者にふさわしい鋭い眼差しが僕を射る。
「明日また来てよ。森じゃなくて、ここに」
「わかった」
頷いて、ドアを閉めた。
長い1日が終わった。
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