上 下
43 / 110
第7章 対話

助けに向かう

しおりを挟む
 小部屋から出たリージェイクは玄関には向かわず、廊下を奥に進んでいく。

れつ。応急セットを持って来い。ジャルドは洗面所からタオルを」

 そう指示を出しながら、リージェイクがキッチンへ。

 洗面所に駆け込んで。棚からバスタオル2枚とフェイスタオル3枚を取って、玄関へと戻る。
 すぐに。小型の緑色のバックを持った烈と、2Lの水のペットボトルを2本抱えたリージェイクが合流する。

 僕たちは無言のまま、館を後にした。



「場所は?」

 ジョギングくらいのペースで走りながら、リージェイクが聞いた。

「崖側にある小屋」

 同じペースで後に続き、答える。

「偶然じゃないんだな?」

 僕がそこに行ったのはって意味で、聞いているんだろう。
 ほかにも、何故そこに行ったのかっていう、言外の問いも含んでいる。

「昼間そこに行った時、星のリスト表が壁に貼ってあったから……」



 どこまで話そうか……。

 昨夜も東屋まで行ったこと。かいが『明日また来てよ』って誘ったことは、言わないほうがいい。
 だけど、偶然じゃないのは……はっきりさせておきたいと思った。



「凱が使ってる小屋かなって。それで、行ってみたら……叫び声がして……」

 いったん、言葉を切った。
 出来るだけ簡潔に、残りを続ける。

「窓から覗いたら、凱が男にやられてた。レイプされてる、助けなきゃと思った。僕がいることが凱にわかれば、どうにか出来るかもって。でも凱が、男は変態で危ないから、僕に離れろって……」

「凱がきみに!?」

 足を止めずに、リージェイクが振り返る。
 眉の間に深い皺。

「きみの存在を男に知られる危険性を考えないのか……」

「考えてたよ! ちゃんと!」

 つい大きくなった声の音量を下げる。

「凱は、助けは要らないって言ったんだ。ほかの言葉も全部、男には1ミリも怪しまれないように……うまく僕に伝えた。あんな状況なのに……」

「助けは要らないって言ったんなら。やっぱり、行かないほうがいいんじゃない?」

 烈が僕に言う。

「さっきも言ったけどさ。理由があってそうなってるとして、途中で止めたら……凱が耐えた苦痛が無駄になるよ」

「それは……」

 僅かに息を上げながらも冷静な烈の言葉に、反論出来なかった。

「凱は抵抗していたか?」

 リージェイクの問いに、首を横に振る。



 僕に『帰れ』『離れろ』とは言ったけど。凱自身は、男から逃れようとはしていなかった。

 それに……。
 今、あの場から離れて考えてみると……相手がひとりなのに、凱がおとなしく両手を縛られる状況が想像出来ない。
 しかも、服を脱がされてから……脱いでから、か?



「華奢に見えるが、凱はケンカが強い。簡単にどうこうされるとは思えない……止まれ!」

 ふいに、リージェイクが僕と烈を制止するように手を横に上げた。

「誰か来る。そこの陰に、急げ」

 私道の左側の路肩にある木とススキの茂み。
 僕たちは、その後ろに素早く移動して息を潜めた。

 1分くらい経って。
 10メートルほど前方の私道に、右側から男がひとり現れた。



 小屋の中にいた男の顔を、一度も見ていない。

 見えたのは裸の後姿だけ。
 細身の筋肉質。
 短くも長くもない黒髪。
 冷酷な喋り方。

 凱に苦痛を与えながらのセックスを楽しんでいた男。



 急ぐふうでも、キョロキョロと周りを気にかけるふうでもなく。私道に踏み出した男は、しばし館のほう……僕たちのいるほうを眺めた。
 近くにある外灯のおかげで。僕たちからは、男の姿がはっきりと見えた。

 深緑のジャケットの制服を着た高校生。
 細身で背は高め。
 シャープな顎に黒縁の眼鏡をかけたその顔は、一言で表すなら『まじめな委員長』だった。
 マンガや学園ドラマにサブキャラで出てくる、クラス一まじめで正義感の強い……ちょっと神経質でおかたそうな……。

 意識して目を瞬いた。



 この男……だった……よね?



 髪の色も長さも体格も合う。
 何より今。制服姿で、小屋のほうからやって来た。
 この男に違いない。

 なのに、この違和感。

 この男が、ついさっきまであんなことをしていたなんて……実際に目にしていなければ信じがたいものがある。



「ねえ。あの男が凱に咬みついて変態プレイしてたの?」

 烈が小声で尋ねる。

「全然そんなふうに見えないんだけど」

 僕も同感。

「でも、そうなんだよ。1時間も凱を責め続けて……見てるのがほんとにつらかった」

「……1時間も見てたのか」

 リージェイクの言葉は溜息まじりだ。

「館に戻るまで、そんなに時間が経ってるとは思わなかったし。放っておくなんて出来なかったし……」

 踵を返した男が、大通りへと私道を進んでいく。
 学校指定らしいバッグを手に姿勢よく歩く様は、塾帰りの高校生みたいだ。

「今の男が相手なら、小屋にはもう凱しかいない」

 男が視界から見えなくなると、リージェイクが立ち上がって息をついた。

「手当てして連れ帰ろう」



 僕たちは、小屋へと急いだ。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

サンタの村に招かれて勇気をもらうお話

Akitoです。
ライト文芸
「どうすれば友達ができるでしょうか……?」  12月23日の放課後、日直として学級日誌を書いていた山梨あかりはサンタへの切なる願いを無意識に日誌へ書きとめてしまう。  直後、チャイムの音が鳴り、我に返ったあかりは急いで日誌を書き直し日直の役目を終える。  日誌を提出して自宅へと帰ったあかりは、ベッドの上にプレゼントの箱が置かれていることに気がついて……。 ◇◇◇  友達のいない寂しい学生生活を送る女子高生の山梨あかりが、クリスマスの日にサンタクロースの村に招待され、勇気を受け取る物語です。  クリスマスの暇つぶしにでもどうぞ。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

にほいち47

多摩みそ八
ライト文芸
フィクション旅行ライトノベル 女子大生4人がバイクで日本一周するお話です

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...