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第7章 対話
助けに向かう
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小部屋から出たリージェイクは玄関には向かわず、廊下を奥に進んでいく。
「烈。応急セットを持って来い。ジャルドは洗面所からタオルを」
そう指示を出しながら、リージェイクがキッチンへ。
洗面所に駆け込んで。棚からバスタオル2枚とフェイスタオル3枚を取って、玄関へと戻る。
すぐに。小型の緑色のバックを持った烈と、2Lの水のペットボトルを2本抱えたリージェイクが合流する。
僕たちは無言のまま、館を後にした。
「場所は?」
ジョギングくらいのペースで走りながら、リージェイクが聞いた。
「崖側にある小屋」
同じペースで後に続き、答える。
「偶然じゃないんだな?」
僕がそこに行ったのはって意味で、聞いているんだろう。
ほかにも、何故そこに行ったのかっていう、言外の問いも含んでいる。
「昼間そこに行った時、星のリスト表が壁に貼ってあったから……」
どこまで話そうか……。
昨夜も東屋まで行ったこと。凱が『明日また来てよ』って誘ったことは、言わないほうがいい。
だけど、偶然じゃないのは……はっきりさせておきたいと思った。
「凱が使ってる小屋かなって。それで、行ってみたら……叫び声がして……」
いったん、言葉を切った。
出来るだけ簡潔に、残りを続ける。
「窓から覗いたら、凱が男にやられてた。レイプされてる、助けなきゃと思った。僕がいることが凱にわかれば、どうにか出来るかもって。でも凱が、男は変態で危ないから、僕に離れろって……」
「凱がきみに!?」
足を止めずに、リージェイクが振り返る。
眉の間に深い皺。
「きみの存在を男に知られる危険性を考えないのか……」
「考えてたよ! ちゃんと!」
つい大きくなった声の音量を下げる。
「凱は、助けは要らないって言ったんだ。ほかの言葉も全部、男には1ミリも怪しまれないように……うまく僕に伝えた。あんな状況なのに……」
「助けは要らないって言ったんなら。やっぱり、行かないほうがいいんじゃない?」
烈が僕に言う。
「さっきも言ったけどさ。理由があってそうなってるとして、途中で止めたら……凱が耐えた苦痛が無駄になるよ」
「それは……」
僅かに息を上げながらも冷静な烈の言葉に、反論出来なかった。
「凱は抵抗していたか?」
リージェイクの問いに、首を横に振る。
僕に『帰れ』『離れろ』とは言ったけど。凱自身は、男から逃れようとはしていなかった。
それに……。
今、あの場から離れて考えてみると……相手がひとりなのに、凱がおとなしく両手を縛られる状況が想像出来ない。
しかも、服を脱がされてから……脱いでから、か?
「華奢に見えるが、凱はケンカが強い。簡単にどうこうされるとは思えない……止まれ!」
ふいに、リージェイクが僕と烈を制止するように手を横に上げた。
「誰か来る。そこの陰に、急げ」
私道の左側の路肩にある木とススキの茂み。
僕たちは、その後ろに素早く移動して息を潜めた。
1分くらい経って。
10メートルほど前方の私道に、右側から男がひとり現れた。
小屋の中にいた男の顔を、一度も見ていない。
見えたのは裸の後姿だけ。
細身の筋肉質。
短くも長くもない黒髪。
冷酷な喋り方。
凱に苦痛を与えながらのセックスを楽しんでいた男。
急ぐふうでも、キョロキョロと周りを気にかけるふうでもなく。私道に踏み出した男は、しばし館のほう……僕たちのいるほうを眺めた。
近くにある外灯のおかげで。僕たちからは、男の姿がはっきりと見えた。
深緑のジャケットの制服を着た高校生。
細身で背は高め。
シャープな顎に黒縁の眼鏡をかけたその顔は、一言で表すなら『まじめな委員長』だった。
マンガや学園ドラマにサブキャラで出てくる、クラス一まじめで正義感の強い……ちょっと神経質でおかたそうな……。
意識して目を瞬いた。
この男……だった……よね?
髪の色も長さも体格も合う。
何より今。制服姿で、小屋のほうからやって来た。
この男に違いない。
なのに、この違和感。
この男が、ついさっきまであんなことをしていたなんて……実際に目にしていなければ信じがたいものがある。
「ねえ。あの男が凱に咬みついて変態プレイしてたの?」
烈が小声で尋ねる。
「全然そんなふうに見えないんだけど」
僕も同感。
「でも、そうなんだよ。1時間も凱を責め続けて……見てるのがほんとにつらかった」
「……1時間も見てたのか」
リージェイクの言葉は溜息まじりだ。
「館に戻るまで、そんなに時間が経ってるとは思わなかったし。放っておくなんて出来なかったし……」
踵を返した男が、大通りへと私道を進んでいく。
学校指定らしいバッグを手に姿勢よく歩く様は、塾帰りの高校生みたいだ。
「今の男が相手なら、小屋にはもう凱しかいない」
男が視界から見えなくなると、リージェイクが立ち上がって息をついた。
「手当てして連れ帰ろう」
僕たちは、小屋へと急いだ。
「烈。応急セットを持って来い。ジャルドは洗面所からタオルを」
そう指示を出しながら、リージェイクがキッチンへ。
洗面所に駆け込んで。棚からバスタオル2枚とフェイスタオル3枚を取って、玄関へと戻る。
すぐに。小型の緑色のバックを持った烈と、2Lの水のペットボトルを2本抱えたリージェイクが合流する。
僕たちは無言のまま、館を後にした。
「場所は?」
ジョギングくらいのペースで走りながら、リージェイクが聞いた。
「崖側にある小屋」
同じペースで後に続き、答える。
「偶然じゃないんだな?」
僕がそこに行ったのはって意味で、聞いているんだろう。
ほかにも、何故そこに行ったのかっていう、言外の問いも含んでいる。
「昼間そこに行った時、星のリスト表が壁に貼ってあったから……」
どこまで話そうか……。
昨夜も東屋まで行ったこと。凱が『明日また来てよ』って誘ったことは、言わないほうがいい。
だけど、偶然じゃないのは……はっきりさせておきたいと思った。
「凱が使ってる小屋かなって。それで、行ってみたら……叫び声がして……」
いったん、言葉を切った。
出来るだけ簡潔に、残りを続ける。
「窓から覗いたら、凱が男にやられてた。レイプされてる、助けなきゃと思った。僕がいることが凱にわかれば、どうにか出来るかもって。でも凱が、男は変態で危ないから、僕に離れろって……」
「凱がきみに!?」
足を止めずに、リージェイクが振り返る。
眉の間に深い皺。
「きみの存在を男に知られる危険性を考えないのか……」
「考えてたよ! ちゃんと!」
つい大きくなった声の音量を下げる。
「凱は、助けは要らないって言ったんだ。ほかの言葉も全部、男には1ミリも怪しまれないように……うまく僕に伝えた。あんな状況なのに……」
「助けは要らないって言ったんなら。やっぱり、行かないほうがいいんじゃない?」
烈が僕に言う。
「さっきも言ったけどさ。理由があってそうなってるとして、途中で止めたら……凱が耐えた苦痛が無駄になるよ」
「それは……」
僅かに息を上げながらも冷静な烈の言葉に、反論出来なかった。
「凱は抵抗していたか?」
リージェイクの問いに、首を横に振る。
僕に『帰れ』『離れろ』とは言ったけど。凱自身は、男から逃れようとはしていなかった。
それに……。
今、あの場から離れて考えてみると……相手がひとりなのに、凱がおとなしく両手を縛られる状況が想像出来ない。
しかも、服を脱がされてから……脱いでから、か?
「華奢に見えるが、凱はケンカが強い。簡単にどうこうされるとは思えない……止まれ!」
ふいに、リージェイクが僕と烈を制止するように手を横に上げた。
「誰か来る。そこの陰に、急げ」
私道の左側の路肩にある木とススキの茂み。
僕たちは、その後ろに素早く移動して息を潜めた。
1分くらい経って。
10メートルほど前方の私道に、右側から男がひとり現れた。
小屋の中にいた男の顔を、一度も見ていない。
見えたのは裸の後姿だけ。
細身の筋肉質。
短くも長くもない黒髪。
冷酷な喋り方。
凱に苦痛を与えながらのセックスを楽しんでいた男。
急ぐふうでも、キョロキョロと周りを気にかけるふうでもなく。私道に踏み出した男は、しばし館のほう……僕たちのいるほうを眺めた。
近くにある外灯のおかげで。僕たちからは、男の姿がはっきりと見えた。
深緑のジャケットの制服を着た高校生。
細身で背は高め。
シャープな顎に黒縁の眼鏡をかけたその顔は、一言で表すなら『まじめな委員長』だった。
マンガや学園ドラマにサブキャラで出てくる、クラス一まじめで正義感の強い……ちょっと神経質でおかたそうな……。
意識して目を瞬いた。
この男……だった……よね?
髪の色も長さも体格も合う。
何より今。制服姿で、小屋のほうからやって来た。
この男に違いない。
なのに、この違和感。
この男が、ついさっきまであんなことをしていたなんて……実際に目にしていなければ信じがたいものがある。
「ねえ。あの男が凱に咬みついて変態プレイしてたの?」
烈が小声で尋ねる。
「全然そんなふうに見えないんだけど」
僕も同感。
「でも、そうなんだよ。1時間も凱を責め続けて……見てるのがほんとにつらかった」
「……1時間も見てたのか」
リージェイクの言葉は溜息まじりだ。
「館に戻るまで、そんなに時間が経ってるとは思わなかったし。放っておくなんて出来なかったし……」
踵を返した男が、大通りへと私道を進んでいく。
学校指定らしいバッグを手に姿勢よく歩く様は、塾帰りの高校生みたいだ。
「今の男が相手なら、小屋にはもう凱しかいない」
男が視界から見えなくなると、リージェイクが立ち上がって息をついた。
「手当てして連れ帰ろう」
僕たちは、小屋へと急いだ。
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