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第7章 対話

加勢を得て

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 何かを推し量るように、れつは僕の瞳を見つめている。

 たった数秒を何十倍にも長く感じて口を開きかけた時。
 ようやく、烈が頷いた。

「わかった。僕も行く」

 ホッとして深い息を吐いた。

「だけど、きみひとりじゃ無理な状況だったから修哉さんに頼もうとしたんでしょ? 僕ひとり増えても……ダメじゃない?」

「厳しいかもしれないけど、うまくやれば……きみに窓から男の気を逸らしてもらって僕が飛び込むとか」

「リージェイクは? 継承者だし、頼りになるでしょ?」

「リージェイクに頼むのは……」

 確かに烈の言う通り、彼がいれば簡単に助けられるだろう。
 ただ……。

かいがリージェイクにしたことを思うと……悪い気がして」

 烈の眉間の皺が深くなる。

「聞いたんだ……あのこと」

「うん。だから……リージェイクの気持ちを考えると、ちょっと……ね」

 きっと、リージェイクは凱を助けるために動いてくれる。
 それがわかるから……ためらうんだ。

「頼めば助けてくれると思う。リージェイクはそういう人だから。だけど……」

「出来れば見たくないよね。レイプまがいの現場なんて。しかも、凱の」

 烈は僕のためらい……そして、リージェイクが感じるだろう気持ちを代弁する。

「でもさ、同時にプラス面もあるよ」

 さらに。
 思ってもみなかった気持ちを、それに続ける。

「凱が今、本当にレイプされてボロボロになってるなら、リージェイクはそれを見て満足するかもしれないから」

「そんなこと……」

 ない。
 とは言えない。

 僕だったら、満足する。
 だからこそ。
 復讐を考えるんだから。


 同じ苦しみを与えて、同じように苦しむ姿が見たい。



 そう思う人間なら、満足するだろう。

 自分に被害を与えた人間に同様の被害を与えても、自分の受けた被害が消えるわけじゃない。
 純粋に計算すれば、被害を受けた人間が倍になるだけ。
 そこに実質的なプラスはない。

 それでも。
 心理的なプラスはある。
 人に与えた苦しみを自らにも味わわせる……そのイコールに、心のどこかは満たされる。
 復讐はそのためにあるはず。

 もちろん。それで罪悪感とかマイナスな感情を抱く人間は、はなから復讐なんてしない。

 リージェイクはどうだろう。
 自分自身でやり返すことは絶対にしなくても、自分とは何の関係もなく……自分が悪にならずに凱が苦しむところを見られるとしたら?

 それを目にした時、リージェイクは何を思うのか。



「……ないと思うけど、わからない」

「じゃあ、頼もうよ。凱を助けたいんでしょ?」

「きみは? きみも、助けたいって思ってる?」

 凱について淡々と話していた烈に確認する。

「僕は、凱のこと好きだよ」

 ほんの少しだけ照れくささを滲ませた真剣な表情で、烈が答える。

「最低なことも悪いことも、人としてどうなのってこともするけど……尊敬するところもあるんだ。だから、散々人を苦しめた凱が苦しむのは当然とか自業自得とか思ってないし、助けがいるなら助けたいと思う」

「うん」

「ただ……リージェイクにしたことだけは、本当にひどかったから。僕がリージェイクだったら、凱が苦しんでるのを見ても同情出来ない。いい気味だって思うよ」

「うん。わかった」

 烈にも冷酷な部分がある。
 ちゃんと、心もある。

「リージェイクのところに行こう」

 そう言って小部屋のドアに向かった時、廊下に足音が聞こえた。
 僕たちは顔を見合わせる。

 ドアにノックの音。

「ジャルド。いるの?」

 リージェイクだ。
 ドアを開けた。

「ジャルド。烈。何があった?」

 僕たちを交互に見やり、リージェイクが言った。

「森で、凱が男にやられてケガしてる。ジャルドが見たんだ。助けに行こうとしてたとこ」

 烈が一息で言った。
 眉をひそめたリージェイクが僕を見る。
 心配そうな瞳。

「僕は大丈夫。男が凱を痛めつけて楽しんでて、何とかして助けたかったけど……」

 凱は僕を館に帰した。
 だけど……。

「早く行かないと、凱が……苦しんでる」

 一刹那。リージェイクは悲痛な表情で目を閉じた。
 すぐに開けたその瞳に。恐怖や怯え、嫌悪の片鱗を探す。
 一遍も見つからない。

「急ごう」

 それだけ言って、リージェイクが踵を返す。
 僕と烈が、後に続いた。


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