40 / 110
第6章 目の前の悪夢
離れろ!
しおりを挟む
「しっかりしろ。まだ終わりじゃない」
「うっ……はあっ、はッ……ッう……ン、ああッ! ッアア……ッ!」
何……で……!?
男が射精したことで、目の前の悪夢が終わると思った。
これでやっと終わる。
これ以上、凱は苦しまない。
これ以上、見なくて済むって……。
ああ……そう……だった。
あの時……あの男も、僕の口で射精してすぐに……レイプしたんだ。
1回で終わるとは限らない。
この悪夢がいつまで続くか……わからないんだ。
「っく……ア、アッ! もうっ……ン、ア……つッ……! やめ……あアッ……ッアアアッ……!」
凱の叫び。
激しく動く男。
痙攣。
それをもう2回、繰り返した。
凱の痙攣は、ほとんど止まることがなくなった。
凱は、もう呻きの混じらない呼吸をしていない。
掴んだ腰を男が離せば、凱の身体は即座に崩れ落ちるだろう。
このままじゃ……凱が壊れる……!
今すぐ助けに行かなきゃ……!
こんなになるまで動かない僕がバカだった。
僕の中で、怒りが恐怖を超えた。
待ってて……!
窓枠に固まった指を離そうとしたその時。
ベンチから起こさないままの凱の頭が、僅かに上を向いた。
開いた凱の目が、僕を見やる。
その目が、ちょっと見開いた。
そして、凱は呆れたように笑った……ように見えた。
薄く開いた凱の目は、僕に向いている。
「こいつ……う、つッ……! は……あぶ……ない……から……ッア……!」
凱……!?
「何だ?」
「みつか……ったら……ウ、ア……おまえ……が……やば……いッ……ンアッくッ……!」
『こいつは危ないから』
『見かったらおまえがやばい』
「何を言ってる?」
男が動きを止める。
「う……かれーは、うまい……よ……な……」
「カレー? どうした。イキっぱなしで飛んだか?」
「おれは……だい、じょ……ぶ……だ……から」
『おれは大丈夫だから』
「大丈夫だ?」
髪を掴み、男が凱の頭を持ち上げる。
「もう限界だろう?」
「ッく……っは……はなれろっ! ジャルド……!」
「じゃ……ど? 何だそれは」
「こ、んど……ふたり、で……おほし、さま……みよう……ぜ」
「おまえ、やっぱりイキ過ぎで飛んでるな」
男が、掴んでいた凱の髪を放るように離した。
ゴツンと音がして、凱の頭がベンチに落ちる。
「気絶して逃げようなんてのは、フェアじゃないな」
「にげね……えよ……」
「おまえにそのつもりがなくてもだ」
「そうなった……ら、これ……このひも……はずして、けよ……」
「まったくおまえは……仕方ない。あと1回イッたら終わりにしてやる」
「おれ……が……?」
「こっちが、に決まってる」
「ッ……! アッふ、アア……うッ……! ンッア……ひッ……ア、くうッ……! ア、アアア……ッ!」
緊張と恐怖と怒りで凝り固まった足を動かして、やっとのことでポリタンクから降りた。
大きく深呼吸して、小屋に背を向けて走り出す。
東屋を通り過ぎる。
凱の叫び声が段々と遠くなる。
深緑のジャケットが見えてきた。
私道に辿り着く。
館まで、約1キロ。
頭野中で、凱の言葉がグルグル回る。
『こいつは危ないから』
『見つかったらおまえがやばい』
『おれは大丈夫だから』
みんな……僕も含めて、大丈夫じゃないのに『大丈夫』って言うけど……。
本当は大丈夫じゃないってわかる時……聞くほうは、つらい……。
修哉さんを連れて戻ろう。
1秒でも早く。
凱が僕に帰れって言ったのは、助けはいらないって言ったのは……男が危ない人間だから。
凱を助けようとして失敗して、僕が捕まったら……。
今目の前で見た悪夢が、すぐにでも自分の身に起きたかもしれない。
もし、凱が今夜、僕を壊そうと思ったなら……簡単だっただろう。
小屋のすぐ外に僕がいることを、男に教えるだけでいい……。
『離れろ! ジャルド!』
あの状態で、男に全く疑いを持たせずにはっきりと僕にそう言うことが……凱にとってどれだけ大変だったのか。
その凱の言葉に従った。
だから今、こうして走っている。
だけど、助けは呼ぶ。
僕だけじゃ無理でも、修哉さんがいれば絶対に助けられる。
どのくらい時間が経ったんだろう……?
どのくらいの間……凱の叫び声を聞き続けていたんだろう……。
時間の感覚がなくなるほど……恐怖に支配されていた。
でも。
今は、恐怖より怒りのほうが強い。
僕が怒ることじゃないし、僕が口出しすることでもない。
これは凱の問題で、僕に解決する権利はない。
それでも。
今夜、僕をあそこに行かせたのは凱だ。
凱が、僕を関わらせた。
だから。
僕には、凱を助ける理由があるはず。
残りあとちょっとの距離を、走り続けた。
「うっ……はあっ、はッ……ッう……ン、ああッ! ッアア……ッ!」
何……で……!?
男が射精したことで、目の前の悪夢が終わると思った。
これでやっと終わる。
これ以上、凱は苦しまない。
これ以上、見なくて済むって……。
ああ……そう……だった。
あの時……あの男も、僕の口で射精してすぐに……レイプしたんだ。
1回で終わるとは限らない。
この悪夢がいつまで続くか……わからないんだ。
「っく……ア、アッ! もうっ……ン、ア……つッ……! やめ……あアッ……ッアアアッ……!」
凱の叫び。
激しく動く男。
痙攣。
それをもう2回、繰り返した。
凱の痙攣は、ほとんど止まることがなくなった。
凱は、もう呻きの混じらない呼吸をしていない。
掴んだ腰を男が離せば、凱の身体は即座に崩れ落ちるだろう。
このままじゃ……凱が壊れる……!
今すぐ助けに行かなきゃ……!
こんなになるまで動かない僕がバカだった。
僕の中で、怒りが恐怖を超えた。
待ってて……!
窓枠に固まった指を離そうとしたその時。
ベンチから起こさないままの凱の頭が、僅かに上を向いた。
開いた凱の目が、僕を見やる。
その目が、ちょっと見開いた。
そして、凱は呆れたように笑った……ように見えた。
薄く開いた凱の目は、僕に向いている。
「こいつ……う、つッ……! は……あぶ……ない……から……ッア……!」
凱……!?
「何だ?」
「みつか……ったら……ウ、ア……おまえ……が……やば……いッ……ンアッくッ……!」
『こいつは危ないから』
『見かったらおまえがやばい』
「何を言ってる?」
男が動きを止める。
「う……かれーは、うまい……よ……な……」
「カレー? どうした。イキっぱなしで飛んだか?」
「おれは……だい、じょ……ぶ……だ……から」
『おれは大丈夫だから』
「大丈夫だ?」
髪を掴み、男が凱の頭を持ち上げる。
「もう限界だろう?」
「ッく……っは……はなれろっ! ジャルド……!」
「じゃ……ど? 何だそれは」
「こ、んど……ふたり、で……おほし、さま……みよう……ぜ」
「おまえ、やっぱりイキ過ぎで飛んでるな」
男が、掴んでいた凱の髪を放るように離した。
ゴツンと音がして、凱の頭がベンチに落ちる。
「気絶して逃げようなんてのは、フェアじゃないな」
「にげね……えよ……」
「おまえにそのつもりがなくてもだ」
「そうなった……ら、これ……このひも……はずして、けよ……」
「まったくおまえは……仕方ない。あと1回イッたら終わりにしてやる」
「おれ……が……?」
「こっちが、に決まってる」
「ッ……! アッふ、アア……うッ……! ンッア……ひッ……ア、くうッ……! ア、アアア……ッ!」
緊張と恐怖と怒りで凝り固まった足を動かして、やっとのことでポリタンクから降りた。
大きく深呼吸して、小屋に背を向けて走り出す。
東屋を通り過ぎる。
凱の叫び声が段々と遠くなる。
深緑のジャケットが見えてきた。
私道に辿り着く。
館まで、約1キロ。
頭野中で、凱の言葉がグルグル回る。
『こいつは危ないから』
『見つかったらおまえがやばい』
『おれは大丈夫だから』
みんな……僕も含めて、大丈夫じゃないのに『大丈夫』って言うけど……。
本当は大丈夫じゃないってわかる時……聞くほうは、つらい……。
修哉さんを連れて戻ろう。
1秒でも早く。
凱が僕に帰れって言ったのは、助けはいらないって言ったのは……男が危ない人間だから。
凱を助けようとして失敗して、僕が捕まったら……。
今目の前で見た悪夢が、すぐにでも自分の身に起きたかもしれない。
もし、凱が今夜、僕を壊そうと思ったなら……簡単だっただろう。
小屋のすぐ外に僕がいることを、男に教えるだけでいい……。
『離れろ! ジャルド!』
あの状態で、男に全く疑いを持たせずにはっきりと僕にそう言うことが……凱にとってどれだけ大変だったのか。
その凱の言葉に従った。
だから今、こうして走っている。
だけど、助けは呼ぶ。
僕だけじゃ無理でも、修哉さんがいれば絶対に助けられる。
どのくらい時間が経ったんだろう……?
どのくらいの間……凱の叫び声を聞き続けていたんだろう……。
時間の感覚がなくなるほど……恐怖に支配されていた。
でも。
今は、恐怖より怒りのほうが強い。
僕が怒ることじゃないし、僕が口出しすることでもない。
これは凱の問題で、僕に解決する権利はない。
それでも。
今夜、僕をあそこに行かせたのは凱だ。
凱が、僕を関わらせた。
だから。
僕には、凱を助ける理由があるはず。
残りあとちょっとの距離を、走り続けた。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
エッチな下着屋さんで、〇〇を苛められちゃう女の子のお話
まゆら
恋愛
投稿を閲覧いただき、ありがとうございます(*ˊᵕˋ*)
『色気がない』と浮気された女の子が、見返したくて大人っぽい下着を買いに来たら、売っているのはエッチな下着で。店員さんにいっぱい気持ち良くされちゃうお話です。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる