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第6章 目の前の悪夢
帰れ
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ひとしきり続いた凱の叫び声は止み、速くて荒い息づかいだけが聞こえる。
「痛みで萎えたか」
「うっ、や……め、っあ……」
男の手が凱のペニスを撫で上げる。
握りしめるように掴んだ手を、上下に動かす。
「くッ……っあ……ん……う、あっ……」
断続的な凱の呻き。
「すぐによくしてやる」
「く……あッ……」
凱から腰を離し、男が言った。
「後ろ向け」
男が凱の身体の下に腕を入れて、持ち上げるように半転させる。
「おっと。抜いとかなきゃな」
「っつ……! うっ!」
凱の腕から無造作に引き抜かれた2本の針が、床に投げ捨てられた。
針の抜けた4つの穴からこぼれる血が、ポタポタと落ちる。
男がベンチから降りた。
それを待っていたかのように、凱の頭がこっちを振り返る。
素早く後方を見やり、僕を見る。
散々な目にあいながらも、的確に僕を捉える鋭い視線。
こんな時なのに。
凱の強さに……感心せずにはいられない。
……・……・……。
凱がまた、無音で何かを言った。
わ……れ……え……?
……・……・……。
もう一回。
か……せ……え……?
そう読み取れるけど、たぶん……違う。
凱の言いたいことって……!?
男がベンチに戻った。
手には小さめのボトルを持っている。
凱が下を向いて息をつく。
仰向けから肘をついた四つん這いの体勢になった凱の手は、手首のところで括られていて。その手指は壁についている。
凱が指先で木の面を打ち、カツカツと音を立てた。
「何だ。待ちきれないのか?」
「んなわけ……ねえだろ……早く……家に、帰れよ……」
「何?」
「今日は……もう、家に帰れっ……て言ってん……の」
言いながら、凱が首を後ろにひねって男を見る。
その途中で。一瞬より長く、僕に視線を投げた。
凱……?
それ……僕に言ってるの……!?
『早く家に帰れ』
『今日はもう家に帰れ』
そうか……!
さっきの言葉は『われえ』でも『かせえ』でもなく、『かえれ』だ……!
僕がわからないから、声を出して伝えるために。
帰れって言えるように、男から話しかけさせた……。
『彼は破壊者だ。そして、恐ろしく頭が切れる』
リージェイクが、凱をそう言った。
その凱が帰れっていうからには、それがベストな行動なんだろう。
僕がここにいて、自分を助けられるかもしれなくても……僕の助けはいらない。
それが、凱の考えだ。
そのままの意味で助けがいらないのか、僕には無理って意味なのか。
どっちにしても、凱は僕が今ここで自分を助けようとすることは望んでいない。
言う通り、僕は帰ったほうがいい。
でも……。
凱は……大丈夫なのか……!?
これには、ちゃんと終わりがあるの……!?
僕は無力な子どものまま、ここから逃げるしかないのか……?
「痛みで萎えたか」
「うっ、や……め、っあ……」
男の手が凱のペニスを撫で上げる。
握りしめるように掴んだ手を、上下に動かす。
「くッ……っあ……ん……う、あっ……」
断続的な凱の呻き。
「すぐによくしてやる」
「く……あッ……」
凱から腰を離し、男が言った。
「後ろ向け」
男が凱の身体の下に腕を入れて、持ち上げるように半転させる。
「おっと。抜いとかなきゃな」
「っつ……! うっ!」
凱の腕から無造作に引き抜かれた2本の針が、床に投げ捨てられた。
針の抜けた4つの穴からこぼれる血が、ポタポタと落ちる。
男がベンチから降りた。
それを待っていたかのように、凱の頭がこっちを振り返る。
素早く後方を見やり、僕を見る。
散々な目にあいながらも、的確に僕を捉える鋭い視線。
こんな時なのに。
凱の強さに……感心せずにはいられない。
……・……・……。
凱がまた、無音で何かを言った。
わ……れ……え……?
……・……・……。
もう一回。
か……せ……え……?
そう読み取れるけど、たぶん……違う。
凱の言いたいことって……!?
男がベンチに戻った。
手には小さめのボトルを持っている。
凱が下を向いて息をつく。
仰向けから肘をついた四つん這いの体勢になった凱の手は、手首のところで括られていて。その手指は壁についている。
凱が指先で木の面を打ち、カツカツと音を立てた。
「何だ。待ちきれないのか?」
「んなわけ……ねえだろ……早く……家に、帰れよ……」
「何?」
「今日は……もう、家に帰れっ……て言ってん……の」
言いながら、凱が首を後ろにひねって男を見る。
その途中で。一瞬より長く、僕に視線を投げた。
凱……?
それ……僕に言ってるの……!?
『早く家に帰れ』
『今日はもう家に帰れ』
そうか……!
さっきの言葉は『われえ』でも『かせえ』でもなく、『かえれ』だ……!
僕がわからないから、声を出して伝えるために。
帰れって言えるように、男から話しかけさせた……。
『彼は破壊者だ。そして、恐ろしく頭が切れる』
リージェイクが、凱をそう言った。
その凱が帰れっていうからには、それがベストな行動なんだろう。
僕がここにいて、自分を助けられるかもしれなくても……僕の助けはいらない。
それが、凱の考えだ。
そのままの意味で助けがいらないのか、僕には無理って意味なのか。
どっちにしても、凱は僕が今ここで自分を助けようとすることは望んでいない。
言う通り、僕は帰ったほうがいい。
でも……。
凱は……大丈夫なのか……!?
これには、ちゃんと終わりがあるの……!?
僕は無力な子どものまま、ここから逃げるしかないのか……?
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