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第5章 探索と調査と忠告と
悪になれる
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「凱がリージェイクにしたことは、最低だと思う。だけど……」
小さく深呼吸した。
「だけど、きっと凱は後悔してない。最低のことをした自分から逃げてもいない。だから……やったことは許せないけど……凱は許せる」
暫しの沈黙。
「そうか。おまえは……」
修哉さんの言葉を待つ。
「悪になれるんだな。誰に非難されようと、自分自身が必要と認めれば」
悪になれる……僕自身が必要と認めれば……。
「そうだね。悪いってわかってることでも、後悔しない自信があったら僕はやる。僕は……リージェイクみたいに正しいことだけしてられない」
「なるほどな」
修哉さんは、納得するように頷いた。
「凱がおまえを気に入るわけだ」
「どうして?」
「根っこのところが似てるんだ。おまえと凱は」
根っこ?ってどこ?
「現に、凱がジェイクにしたことを聞いても、あいつに嫌悪感を持たなかったろう?」
確かにそうだ。
凱のしたことは、ほんとにひどい。
なのに……。
「おまえにもあるんだよ。凱と同じ冷酷さが」
修哉さんに、険しい瞳を向けた。
でも……その通りだ。
ヤツへの復讐に必要な冷酷さが、僕にはあるはず。
烈の協力者になるって決めた時も、そう思った。
目的を遂げるためなら。
冷酷にも残酷にもなれる自信がある。
「悪い意味ばかりじゃない。いい意味で、冷酷さを必要とする場面もあるだろう。だがな、それは自分にも向けられる、諸刃の剣だ」
諸刃の剣。
凱を、そう思ったんだ。
「修哉さんにもある? 冷酷な部分」
「そりゃあるさ。だから……忠告しとこう」
「何……?」
「自分を放り出すな。人に残酷なことをするうちに、自分自身に残酷になっていることに気づかなくなる。気づくのが遅ければ……壊れるぞ」
「……わかった」
「凱に興味を持つのもいいが、ジェイクとも話せよ。二人の思考を合わせ持てば、おまえはバランスの取れた男になれる」
「そうかなぁ」
まるで正反対みたいな二人の考え方を同時に持ったら、うまくコントロール出来なくてよけいアンバランスになる気がする。
「努力するよ」
とりあえず、そう言っておく。
「そうだ。おまえは身体も鍛えろよ。そのうち、烈と一緒にトレーニングだ。そんな細っこいと、さらにガキに見られちまうからな」
笑みを残し、修哉さんはバラの手入れに戻っていった。
その後、保育園から帰って来た奏子と子猫たちのところに行って遊びながら。みんなと夕食を食べながらも、修哉さんと話したことが頭から離れなかった。
凱がリージェイクにしたこと。
そして、修哉さんが言ったこと。
凱がリージェイクにしたことを、ヤツ以外の人には出来ないけど……ヤツには出来る。
きっと、ヤツと同じくらいの悪人にも。
相手の善悪にかかわらず、それはリージェイクから見れば同じ悪なんだろう。
でも。
僕にとっては同じじゃない。
じゃあ、凱にとっては?
悪い教師に暴行したのと、苦しめるためにリージェイクをレイプさせたのは……凱にとって同じ悪なんだろうか。
修哉さんのくれた忠告……人に残酷なことをする、の意味はわかる。
だけど、自分自身に残酷になるっていうのはどういう意味だろう。
自分をわざと苦しめる?
自分を誰かに痛めつけさせる?
わざわざそんなことする意味って……あるのかな。
考えてもわからないことだらけで。凱と話がしたかった。
凱がくれる答えは、何故か僕のほしい答えの気がした。
凱は夕食に現れなかった。
ショウに聞いたら、月曜はバイトじゃないからそのうち帰ってくるとのこと。
昨夜から、今夜も森に行こうって思っていた。
それは、1日経った今。行かなくちゃって決意になった。
『明日また来てよ』の言葉は、館じゃなく森で会うつもりで言ったはず。
だから。
凱は館に戻らずに、そのまま森で僕を待っているかもしれない。
何時頃行こうか。
昨夜は、9時半くらいだった。
凱が館を出てから1時間後に僕も出た。
その1時間の間に……ああいう状況になっていたわけだけど。
さすがに、今日も同じ光景に出くわすとは思えない。
今日も同じくらいの時間に行くか、早めに行くか。
今は午後8時ちょっと前。
館にいても、どこか落ち着かない。
凱が東屋にいなかったら待てばいいや。
寒くはないし、夜の森も好きだし。
そう思って部屋を出ようとしたその時、ドアがノックされた。
「はい」
「私だ」
リージェイクの声。
短く息を吐いて、ドアを開けた。
小さく深呼吸した。
「だけど、きっと凱は後悔してない。最低のことをした自分から逃げてもいない。だから……やったことは許せないけど……凱は許せる」
暫しの沈黙。
「そうか。おまえは……」
修哉さんの言葉を待つ。
「悪になれるんだな。誰に非難されようと、自分自身が必要と認めれば」
悪になれる……僕自身が必要と認めれば……。
「そうだね。悪いってわかってることでも、後悔しない自信があったら僕はやる。僕は……リージェイクみたいに正しいことだけしてられない」
「なるほどな」
修哉さんは、納得するように頷いた。
「凱がおまえを気に入るわけだ」
「どうして?」
「根っこのところが似てるんだ。おまえと凱は」
根っこ?ってどこ?
「現に、凱がジェイクにしたことを聞いても、あいつに嫌悪感を持たなかったろう?」
確かにそうだ。
凱のしたことは、ほんとにひどい。
なのに……。
「おまえにもあるんだよ。凱と同じ冷酷さが」
修哉さんに、険しい瞳を向けた。
でも……その通りだ。
ヤツへの復讐に必要な冷酷さが、僕にはあるはず。
烈の協力者になるって決めた時も、そう思った。
目的を遂げるためなら。
冷酷にも残酷にもなれる自信がある。
「悪い意味ばかりじゃない。いい意味で、冷酷さを必要とする場面もあるだろう。だがな、それは自分にも向けられる、諸刃の剣だ」
諸刃の剣。
凱を、そう思ったんだ。
「修哉さんにもある? 冷酷な部分」
「そりゃあるさ。だから……忠告しとこう」
「何……?」
「自分を放り出すな。人に残酷なことをするうちに、自分自身に残酷になっていることに気づかなくなる。気づくのが遅ければ……壊れるぞ」
「……わかった」
「凱に興味を持つのもいいが、ジェイクとも話せよ。二人の思考を合わせ持てば、おまえはバランスの取れた男になれる」
「そうかなぁ」
まるで正反対みたいな二人の考え方を同時に持ったら、うまくコントロール出来なくてよけいアンバランスになる気がする。
「努力するよ」
とりあえず、そう言っておく。
「そうだ。おまえは身体も鍛えろよ。そのうち、烈と一緒にトレーニングだ。そんな細っこいと、さらにガキに見られちまうからな」
笑みを残し、修哉さんはバラの手入れに戻っていった。
その後、保育園から帰って来た奏子と子猫たちのところに行って遊びながら。みんなと夕食を食べながらも、修哉さんと話したことが頭から離れなかった。
凱がリージェイクにしたこと。
そして、修哉さんが言ったこと。
凱がリージェイクにしたことを、ヤツ以外の人には出来ないけど……ヤツには出来る。
きっと、ヤツと同じくらいの悪人にも。
相手の善悪にかかわらず、それはリージェイクから見れば同じ悪なんだろう。
でも。
僕にとっては同じじゃない。
じゃあ、凱にとっては?
悪い教師に暴行したのと、苦しめるためにリージェイクをレイプさせたのは……凱にとって同じ悪なんだろうか。
修哉さんのくれた忠告……人に残酷なことをする、の意味はわかる。
だけど、自分自身に残酷になるっていうのはどういう意味だろう。
自分をわざと苦しめる?
自分を誰かに痛めつけさせる?
わざわざそんなことする意味って……あるのかな。
考えてもわからないことだらけで。凱と話がしたかった。
凱がくれる答えは、何故か僕のほしい答えの気がした。
凱は夕食に現れなかった。
ショウに聞いたら、月曜はバイトじゃないからそのうち帰ってくるとのこと。
昨夜から、今夜も森に行こうって思っていた。
それは、1日経った今。行かなくちゃって決意になった。
『明日また来てよ』の言葉は、館じゃなく森で会うつもりで言ったはず。
だから。
凱は館に戻らずに、そのまま森で僕を待っているかもしれない。
何時頃行こうか。
昨夜は、9時半くらいだった。
凱が館を出てから1時間後に僕も出た。
その1時間の間に……ああいう状況になっていたわけだけど。
さすがに、今日も同じ光景に出くわすとは思えない。
今日も同じくらいの時間に行くか、早めに行くか。
今は午後8時ちょっと前。
館にいても、どこか落ち着かない。
凱が東屋にいなかったら待てばいいや。
寒くはないし、夜の森も好きだし。
そう思って部屋を出ようとしたその時、ドアがノックされた。
「はい」
「私だ」
リージェイクの声。
短く息を吐いて、ドアを開けた。
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