29 / 110
第5章 探索と調査と忠告と
悪いこと
しおりを挟む
「おまえに聞かせるような話じゃないが、凱のしたことを知っておまえがあいつをどう思うか……興味がある。つまり、オレがおまえを知るために話すってことだな」
修哉さんが、半分笑って半分険しい瞳で僕を見る。
「善と悪を知るのは基本だが、善と悪両方を許容する器が、継承者には不可欠だ。ジェイクは、悪を許容しない。おまえはどうかな」
悪を許容出来るかどうか……。
許容する。
そう、言い切れない。
ヤツが奏子にした悪事を許せないから。
母を殺したヤツらを許せないから。
許容しない。
そうも、言いきれない。
悪になる覚悟をしてるから。
そして、近いうちに。自分の意思で、悪に分類される行為をしようとしてるから。
悪に種類はないんだろうか。
許容される悪と許容されざる悪。
あるのは、そんな悪の種類じゃなくて……それを行う人間の動機の種類なのかもしれない。
「ジャルド。はじめに言っておくが、凱のやったことは全くかばいようのない悪事だ。暴行事件と違って相手に非があるわけじゃない。ただ、ジェイクを苦しめ痛めつけるためだけのな」
修哉さんが言った。
リージェイクに非がないのはわかってたけど、この人がそう言うなら……凱がしたのは本当に悪いことなんだろう。
「修哉さんは、じゃあ……この時は凱を責めた?」
「ああ。責めたさ。あいつの右腕を叩き折った」
「え……!?」
驚いて、修哉さんに向けていた身体を少し後ろに引いた。
「そんなもんじゃ釣り合わない苦しみを、ジェイクは味わったんだ。オレが凱を罰するのは間違いなんだろうが……ジェイクがされたことを目の当たりにして、いい加減腹に据えかねたオレは、ついやりすぎちまったってわけだ」
「凱は、反省したの?」
「腕の1本で反省するくらいなら、はじめからやりはしない」
鼻で笑って、修哉さんが続ける。
「凱はな、何をやるにしても報復は覚悟の上だ。だから、うちの人間以外とやり合うのは放っておいた。しっぺ返を食らえば何かしら学ぶだろうしな。実際、何度か痛い目もみてる」
「そう……なんだ」
会話の切れ目に考える。
凱が壊した人間と、壊されずに反撃した人間の違いは何だったんだろう。
僕には、どうしても……壊される人間にはそれだけの理由があるように思える。
でも、それは。
自分にも壊したい人間がいるから、凱の行為を正当化したいだけなのかとも思う。
「最初は、嫌がらせに毛の生えた程度のもんだったらしい」
修哉さんが話し始める。
「凱が、ジェイクがやったように見せかけて教師や友人に悪さをして、第三者にジェイクを攻撃するよう仕向けるとか、そういった類のな。あとは、ジェイクの彼女を寝取ったりもした」
「リージェイクはこたえなかったんだね」
「そうだな。だが、3人目の彼女を寝取られた時……」
「3人目?」
つい口を出した。
せいぜい1、2年の間のことなのに、リージェイクがそんなに恋愛に積極的だったなんて意外だ。
修哉さんが笑う。
「15、6のガキのくせに、二人とも女にもてた。リシールは女好きだしな」
リシールが種の保存……本能といえるかは疑問……の欲求が強いのは知ってるけど、この欲求はムダなもの。
僕たち一族の男は、欲求はあっても子孫を残せない。
リシールが一定数から増えないのは、この制限のためだ。
「まだ、中学生か高校生だったんでしょ?」
「やりたい盛りさ。おまえはまだ本当のガキだからな。そのうちわかる」
おかしそうに言う修哉さんに、少しムッとした。
「……それで?」
「凱が寝取った3人目の女を、ジェイクは真剣に思っていた。そして、凱が自分への嫌がらせのために騙して誘惑した女とは、ただの遊びだと知っていた。だから、ジェイクは凱がさっさと手放したその女とヨリを戻した」
修哉さんの顔から笑いが消える。
「凱は、こう思ったんだろうよ。この女のためなら、ジェイクは何でもするってな」
「何を……させられたの?」
「女をさらって、飢えた男どもに襲わせようとした。ジェイクがそのことに気づいて、必ず助けに来るように仕向けてだ」
頭の中に、悪夢の日のイメージが浮かびそうになる。
「間に合ったんだよね?」
「もちろんだ。凱の目的は、女を襲わせることじゃなかったからな。凱が苦しめたいのは、あくまでもジェイクだ」
「どうやって……?」
「自分の目の前で、しかも自分のせいで、好きな女が輪姦《まわ》される。それは、ジェイクを充分苦めるだろう。だが……」
眉をひそめた修哉さんが、ふいに言葉を止めた。
「おまえ、セックスの知識はあるよな。輪姦されるって意味はわかるか?」
修哉さんの質問はストレートかつダイレクトだ。
「わかるよ。複数人に強姦……レイプされるって意味だよね。母の事件のことなら、気を使わないで……僕は大丈夫だから」
「……ならいいが」
修哉さんが僕の瞳の奥を窺うように見つめ。
見えた何かに納得するように頷いて、話を再開する。
「凱は、それ以上にジェイクを苦しめるだろう方法を使った。好きな女が襲われそうになっている場面に現れたジェイクに、凱は……選ばせたんだ」
「選ばせた……?」
「女か、自分か……どっちがやられるか」
無意識に、震える手を握りしめた。
修哉さんが、半分笑って半分険しい瞳で僕を見る。
「善と悪を知るのは基本だが、善と悪両方を許容する器が、継承者には不可欠だ。ジェイクは、悪を許容しない。おまえはどうかな」
悪を許容出来るかどうか……。
許容する。
そう、言い切れない。
ヤツが奏子にした悪事を許せないから。
母を殺したヤツらを許せないから。
許容しない。
そうも、言いきれない。
悪になる覚悟をしてるから。
そして、近いうちに。自分の意思で、悪に分類される行為をしようとしてるから。
悪に種類はないんだろうか。
許容される悪と許容されざる悪。
あるのは、そんな悪の種類じゃなくて……それを行う人間の動機の種類なのかもしれない。
「ジャルド。はじめに言っておくが、凱のやったことは全くかばいようのない悪事だ。暴行事件と違って相手に非があるわけじゃない。ただ、ジェイクを苦しめ痛めつけるためだけのな」
修哉さんが言った。
リージェイクに非がないのはわかってたけど、この人がそう言うなら……凱がしたのは本当に悪いことなんだろう。
「修哉さんは、じゃあ……この時は凱を責めた?」
「ああ。責めたさ。あいつの右腕を叩き折った」
「え……!?」
驚いて、修哉さんに向けていた身体を少し後ろに引いた。
「そんなもんじゃ釣り合わない苦しみを、ジェイクは味わったんだ。オレが凱を罰するのは間違いなんだろうが……ジェイクがされたことを目の当たりにして、いい加減腹に据えかねたオレは、ついやりすぎちまったってわけだ」
「凱は、反省したの?」
「腕の1本で反省するくらいなら、はじめからやりはしない」
鼻で笑って、修哉さんが続ける。
「凱はな、何をやるにしても報復は覚悟の上だ。だから、うちの人間以外とやり合うのは放っておいた。しっぺ返を食らえば何かしら学ぶだろうしな。実際、何度か痛い目もみてる」
「そう……なんだ」
会話の切れ目に考える。
凱が壊した人間と、壊されずに反撃した人間の違いは何だったんだろう。
僕には、どうしても……壊される人間にはそれだけの理由があるように思える。
でも、それは。
自分にも壊したい人間がいるから、凱の行為を正当化したいだけなのかとも思う。
「最初は、嫌がらせに毛の生えた程度のもんだったらしい」
修哉さんが話し始める。
「凱が、ジェイクがやったように見せかけて教師や友人に悪さをして、第三者にジェイクを攻撃するよう仕向けるとか、そういった類のな。あとは、ジェイクの彼女を寝取ったりもした」
「リージェイクはこたえなかったんだね」
「そうだな。だが、3人目の彼女を寝取られた時……」
「3人目?」
つい口を出した。
せいぜい1、2年の間のことなのに、リージェイクがそんなに恋愛に積極的だったなんて意外だ。
修哉さんが笑う。
「15、6のガキのくせに、二人とも女にもてた。リシールは女好きだしな」
リシールが種の保存……本能といえるかは疑問……の欲求が強いのは知ってるけど、この欲求はムダなもの。
僕たち一族の男は、欲求はあっても子孫を残せない。
リシールが一定数から増えないのは、この制限のためだ。
「まだ、中学生か高校生だったんでしょ?」
「やりたい盛りさ。おまえはまだ本当のガキだからな。そのうちわかる」
おかしそうに言う修哉さんに、少しムッとした。
「……それで?」
「凱が寝取った3人目の女を、ジェイクは真剣に思っていた。そして、凱が自分への嫌がらせのために騙して誘惑した女とは、ただの遊びだと知っていた。だから、ジェイクは凱がさっさと手放したその女とヨリを戻した」
修哉さんの顔から笑いが消える。
「凱は、こう思ったんだろうよ。この女のためなら、ジェイクは何でもするってな」
「何を……させられたの?」
「女をさらって、飢えた男どもに襲わせようとした。ジェイクがそのことに気づいて、必ず助けに来るように仕向けてだ」
頭の中に、悪夢の日のイメージが浮かびそうになる。
「間に合ったんだよね?」
「もちろんだ。凱の目的は、女を襲わせることじゃなかったからな。凱が苦しめたいのは、あくまでもジェイクだ」
「どうやって……?」
「自分の目の前で、しかも自分のせいで、好きな女が輪姦《まわ》される。それは、ジェイクを充分苦めるだろう。だが……」
眉をひそめた修哉さんが、ふいに言葉を止めた。
「おまえ、セックスの知識はあるよな。輪姦されるって意味はわかるか?」
修哉さんの質問はストレートかつダイレクトだ。
「わかるよ。複数人に強姦……レイプされるって意味だよね。母の事件のことなら、気を使わないで……僕は大丈夫だから」
「……ならいいが」
修哉さんが僕の瞳の奥を窺うように見つめ。
見えた何かに納得するように頷いて、話を再開する。
「凱は、それ以上にジェイクを苦しめるだろう方法を使った。好きな女が襲われそうになっている場面に現れたジェイクに、凱は……選ばせたんだ」
「選ばせた……?」
「女か、自分か……どっちがやられるか」
無意識に、震える手を握りしめた。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。


スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。


会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる