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第5章 探索と調査と忠告と
森を探索
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10月22日、月曜日。
今日のやるべきことを決めた。
ひとつは、森の探索だ。
館の敷地内の森は特に活用されていない雑木林って感じで。クヌギやナラ、杉なんかがランダムに並んでいる。
密集しているところもあればそうじゃないところもあるし、中には人工的に植えられたらしい場所もある。
探すのは、ヤツの拠点のあの小屋みたいな建造物だ。
同じような小屋がほかにあるかどうか。
館から2キロほど続く私道の、左右100メートルくらいの範囲を調べることにした。
まずは左側の森に入り、大きなジグザグに歩く。
ところどころにある木立以外に、視界を遮るものはあまりない。
地面に生える雑草の丈は短くて、歩くのに困難な箇所もない。
たまに、土手みたいに盛り上がったところがあるくらい。
館から私道を下って1キロ弱。
私道から垂直な距離だと60メートルくらいの位置に、あの小屋。
ここまでは、何もない。
小屋を尻目に、先へと進んだ。
私道の終わり……大通りにぶつかる手前の空き地までの左側の森には、あの小屋以外の建造物はなかった。
だけど、12、3台分の車が駐車出来るこの空き地の隅に、個人宅の庭に置く倉庫を少しだけ立派にしたようなプレハブ小屋がある。
近くまで行くと、このプレハブ小屋が今はろくに使われていないだろうことがわかった。
中はたぶん、12~14帖くらい。
外観はボロくあちこちに錆が出ていて、窓にはベニヤ板が打ちつけられている。
唯一、出入り口になるドアにかけられた二つの南京錠だけが古びていない。
ひとつは鍵で開ける真鍮色のやつで、もうひとつは4桁のダイヤル式のもの。
プレハブ小屋を一回りして、空き地を離れた。
駐車スペースとして使ってる空き地から、今度は館に向かって森を歩く。
館に戻るのに逆向きになるから、森はまた私道の左側だ。
暫くは何もなかった。
木と緑。
足元には草と落ち葉、枯れ枝。
たまにドングリ。
サクサク、サクサク、ザクザク。
サクサク、ペキッ。
サクサク……。
森を歩くのが好きだ。
人間の作ったものが一切ない自然の中にひとりでいると、自分が人間であることも忘れられそうな気がしてくる。
草木の茶系と緑系の色彩は、僕の脳を落ち着かせる。
館を出て森を探索すること2時間弱。
リラックスして歩きながら、昨夜の出来事を頭の中でもう一度整理する。
夕食時の凱の言葉に自分への誘いが含まれてると思って、彼を探しに出た。
私道の路肩に天体望遠鏡。
聞こえてきた悲鳴のような音。
そこから森に入った。
小さな灯り。
東屋。
凱と女のセックス。
館の自分の部屋に戻ってシャワーを浴びて眠りに落ちるまでの間、ずっと考えていた。
『悪い。明日また来てよ』
凱はそう言った。
だから。
凱が僕を森に誘ってたのは、思い違いじゃない。
凱は僕が来るのを待っていたはず。
だけど、予定外に女が来た。
それはあり得ることかもしれない。
二人が恋人同士で、女が凱に会いたくて。約束してないけど、彼がよく星を見てることを知っていてあの場所に来たとか。
可能性としては。凱が女と会う予定がある上で僕に来させたっていうのも、ないとは限らないけど。
そして……。
そして、あの状況に遭遇した。
自分がセックスしているところを人に見られるって……避けられるなら避けたいことじゃないの……?
でも。
人に見られたくないなら、あんな場所でやらないだろうから……凱にとっては気にならないことなのか。
ほかの人に内緒にしたかったのかどうかはわからないけど、はっきり『来いよ』って言ったわけじゃないから……僕が必ず森に、自分を探しに来るって……凱は確信していなかったのかもしれない。
だから、女といる場面に僕が来たら来たでかまわなかった。
実際、かまわない感じだったし。
かまったのは、僕のほうだ。
凱のしていたセックスはたぶん、一般的な男女の行為だと思う。
直に見たことがあるのは母親がレイプされてるところだけだけど……見たくなくても目に入るテレビや映画のセックスシーンや知識としての生殖行為のシステムから考えて、普通のセックスとひどくかけ離れたものじゃないはず。
なのに……。
怖かった。
自分がやられるかもって危険は感じなかった。
自分に危害を加えられる心配はなかった。
自分がやられた時の感覚が甦ったわけでもない。
じゃあ、どうして……?
昨夜の恐怖の要因を考えていると、ちょうどその現場が見えてきた。
あの東屋。
崖側から私道に向かって斜めに歩く僕の左手に、昨夜の東屋。
そして、その少し右の木が密集したところに木造の何かがある。
位置的に東屋より下……館から離れた場所にあるそれは、ヤツの小屋と同じタイプの小屋だった。
東屋にいる凱たちを見たところで止まった昨夜の僕は、その近くにあるこの小屋に気づかなかったんだ。
ドアに鍵はない。僕はそっとドアを開ける。
まさに小屋。
天井は低くて、広さは空き地にあったプレハブより狭い10帖くらい。
山の簡易休憩所みたいに、幅の広いベッドになりそうな背のないベンチが二つ置いてある。
あとは、箱が詰まった棚。
床に段ボール箱が三つ。
イスとテーブルはなし。
ここ、いいじゃん!
少しばかり落ちていた気分が上向きになる。
森の探索の目的は、こういう建造物を見つけることだったから。
この小屋は、だいぶ理想的だ。
ただし……。
壁に貼られた紙に目をやった。
そこに書かれているのは、年間流星群リスト。
この時期は確かに『こじし座』とある。
すぐ近くにあの東屋。
流星群リスト。
口の空いた段ボール箱を覗き込む。
昨夜見た、白い天体望遠鏡。
この小屋は、凱の拠点だ。
今日のやるべきことを決めた。
ひとつは、森の探索だ。
館の敷地内の森は特に活用されていない雑木林って感じで。クヌギやナラ、杉なんかがランダムに並んでいる。
密集しているところもあればそうじゃないところもあるし、中には人工的に植えられたらしい場所もある。
探すのは、ヤツの拠点のあの小屋みたいな建造物だ。
同じような小屋がほかにあるかどうか。
館から2キロほど続く私道の、左右100メートルくらいの範囲を調べることにした。
まずは左側の森に入り、大きなジグザグに歩く。
ところどころにある木立以外に、視界を遮るものはあまりない。
地面に生える雑草の丈は短くて、歩くのに困難な箇所もない。
たまに、土手みたいに盛り上がったところがあるくらい。
館から私道を下って1キロ弱。
私道から垂直な距離だと60メートルくらいの位置に、あの小屋。
ここまでは、何もない。
小屋を尻目に、先へと進んだ。
私道の終わり……大通りにぶつかる手前の空き地までの左側の森には、あの小屋以外の建造物はなかった。
だけど、12、3台分の車が駐車出来るこの空き地の隅に、個人宅の庭に置く倉庫を少しだけ立派にしたようなプレハブ小屋がある。
近くまで行くと、このプレハブ小屋が今はろくに使われていないだろうことがわかった。
中はたぶん、12~14帖くらい。
外観はボロくあちこちに錆が出ていて、窓にはベニヤ板が打ちつけられている。
唯一、出入り口になるドアにかけられた二つの南京錠だけが古びていない。
ひとつは鍵で開ける真鍮色のやつで、もうひとつは4桁のダイヤル式のもの。
プレハブ小屋を一回りして、空き地を離れた。
駐車スペースとして使ってる空き地から、今度は館に向かって森を歩く。
館に戻るのに逆向きになるから、森はまた私道の左側だ。
暫くは何もなかった。
木と緑。
足元には草と落ち葉、枯れ枝。
たまにドングリ。
サクサク、サクサク、ザクザク。
サクサク、ペキッ。
サクサク……。
森を歩くのが好きだ。
人間の作ったものが一切ない自然の中にひとりでいると、自分が人間であることも忘れられそうな気がしてくる。
草木の茶系と緑系の色彩は、僕の脳を落ち着かせる。
館を出て森を探索すること2時間弱。
リラックスして歩きながら、昨夜の出来事を頭の中でもう一度整理する。
夕食時の凱の言葉に自分への誘いが含まれてると思って、彼を探しに出た。
私道の路肩に天体望遠鏡。
聞こえてきた悲鳴のような音。
そこから森に入った。
小さな灯り。
東屋。
凱と女のセックス。
館の自分の部屋に戻ってシャワーを浴びて眠りに落ちるまでの間、ずっと考えていた。
『悪い。明日また来てよ』
凱はそう言った。
だから。
凱が僕を森に誘ってたのは、思い違いじゃない。
凱は僕が来るのを待っていたはず。
だけど、予定外に女が来た。
それはあり得ることかもしれない。
二人が恋人同士で、女が凱に会いたくて。約束してないけど、彼がよく星を見てることを知っていてあの場所に来たとか。
可能性としては。凱が女と会う予定がある上で僕に来させたっていうのも、ないとは限らないけど。
そして……。
そして、あの状況に遭遇した。
自分がセックスしているところを人に見られるって……避けられるなら避けたいことじゃないの……?
でも。
人に見られたくないなら、あんな場所でやらないだろうから……凱にとっては気にならないことなのか。
ほかの人に内緒にしたかったのかどうかはわからないけど、はっきり『来いよ』って言ったわけじゃないから……僕が必ず森に、自分を探しに来るって……凱は確信していなかったのかもしれない。
だから、女といる場面に僕が来たら来たでかまわなかった。
実際、かまわない感じだったし。
かまったのは、僕のほうだ。
凱のしていたセックスはたぶん、一般的な男女の行為だと思う。
直に見たことがあるのは母親がレイプされてるところだけだけど……見たくなくても目に入るテレビや映画のセックスシーンや知識としての生殖行為のシステムから考えて、普通のセックスとひどくかけ離れたものじゃないはず。
なのに……。
怖かった。
自分がやられるかもって危険は感じなかった。
自分に危害を加えられる心配はなかった。
自分がやられた時の感覚が甦ったわけでもない。
じゃあ、どうして……?
昨夜の恐怖の要因を考えていると、ちょうどその現場が見えてきた。
あの東屋。
崖側から私道に向かって斜めに歩く僕の左手に、昨夜の東屋。
そして、その少し右の木が密集したところに木造の何かがある。
位置的に東屋より下……館から離れた場所にあるそれは、ヤツの小屋と同じタイプの小屋だった。
東屋にいる凱たちを見たところで止まった昨夜の僕は、その近くにあるこの小屋に気づかなかったんだ。
ドアに鍵はない。僕はそっとドアを開ける。
まさに小屋。
天井は低くて、広さは空き地にあったプレハブより狭い10帖くらい。
山の簡易休憩所みたいに、幅の広いベッドになりそうな背のないベンチが二つ置いてある。
あとは、箱が詰まった棚。
床に段ボール箱が三つ。
イスとテーブルはなし。
ここ、いいじゃん!
少しばかり落ちていた気分が上向きになる。
森の探索の目的は、こういう建造物を見つけることだったから。
この小屋は、だいぶ理想的だ。
ただし……。
壁に貼られた紙に目をやった。
そこに書かれているのは、年間流星群リスト。
この時期は確かに『こじし座』とある。
すぐ近くにあの東屋。
流星群リスト。
口の空いた段ボール箱を覗き込む。
昨夜見た、白い天体望遠鏡。
この小屋は、凱の拠点だ。
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