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第4章 協力者
彼を知るチャンス
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夕食は恐ろしく和やかに進んだ。
修哉さんと凱の作ったカレーは、超本格的ですごくおいしかった。
お腹が満たされたみんなは、食後のアイスクリームを食べながら談笑中だ。
「今日はジャルドと何して遊んだの?」
ショウが奏子に尋ねた。
「お庭と森で、キレイなお花があるところを案内したの。ね?」
奏子が僕を振り向く。
「うん。コスモスがすごかった。あと、青い花も」
僕と奏子は。子猫たちと過ごす時間を、森で花を探してたっていうことに決めてあった。
奏子に嘘をつかせるのは、もちろん心苦しい。
けど。
奏子自身が子猫のことを秘密にしたいと望んでいる……今のところは。
僕と奏子が毎日森に消える。
それをショウたちが不審に思わないうちに、解決しなきゃならない。
「僕は向こうでも、毎日森に行ってたんだ。緑が好きだから、ここにも森があって嬉しいよ」
「それはよかった」
ショウは全く疑っていない。
奏子の身に起きたことに誰も気づかないのは、それが思いもよらないことだからか。
何かがあったような素振りを見せずにいられる、奏子の強さのおかげか。
それとも。
あの日ここに奏子の母親がいたら、やっぱり気がついたんだろうか。
物事の行方は、ちょっとしたタイミングでガラリと変わる。
ヤツが奏子を小屋に連れて行った時。
僕がここに来て、森に行った時。
その時、奏子の両親は留守だった。
そして、今も僕はここにいて、復讐計画を練っている。
「うちの森はあまり手を入れてないけど、危険な動物はいないはずよ。柵のない崖の近くには行かないようにね」
「うん。わかってる!」
「はい」
僕たちは同時に返事をした。
「ごちそうさまでした」
聞こえてきた声の主に、話しかける。
「烈。今日はありがとう。今度、また遊びに行ってもいいかな」
「……うん。いいよ」
ボソッと答えた烈は俯いたまま立ち上がり、そそくさとダイニングから出ていった。
去り際にチラリと僕と目を合わせて口角を上げたことに、僕以外は気づいていない。
「今日、烈に本を借りたんだ」
ショウに言った。
「ちょっとだけ話もしたんだけど、烈ってすごく物知りなんだね」
「そうね。本とパソコン漬けの毎日だから。私としてはもっと人と関わって成長してほしいわ。頭だけじゃなく心も育てないと」
「なら、オレはショウの中じゃ及第点だな」
向かい側から、凱が口を挟む。
「山ほど人と関わって、経験値上げてるから」
「あんたの関わり方はまっとうじゃないでしょ。だから心がひねてんのよ。それと、ショウじゃなく母さんって呼びなさい」
凱が肩を竦めた。
「今さらどっちでもいいじゃん? ひとりの人間同士、対等でいようぜ。なあ? ジャルド」
凱が僕に話を振る。
「母さんって呼べる存在がいるのは羨ましいですよ」
あえて嫌味っぽく言ってみる。
今夜やっと顔を合わせたのに、食事中は当たり障りない言葉をいくつか交わしただけ。
せっかくだから、もう少し踏み込んだ会話をしたい。
修哉さんとリージェイクは、すでに後片づけをしにキッチンに消えてるから、多少険悪になっても問題ないし。
「そうかぁ……」
凱と目が合う。
「んじゃ、母さん」
僕から視線を外さずに、凱が言う。
「今夜はクラスのヤツとお星さま見るからさ。門の鍵開けたままにしといて。オレが最後に閉めとくから」
「わかった。修哉さんにも言っとくわ」
凱が素直に『母さん』と呼んだことに満足してか。
僕の嫌味が先日のような流れに発展しなくて済んだことに安堵してか。
どっちかわからないけど、ショウの声に険はない。
「お友だちによろしく」
「邪魔しに来ないでねーっと」
凱が腰を上げる。
まだ、僕を見たままだ。
「夜の森は楽しーぜ」
意味ありげに片目をつぶり。凱は鼻歌まじりにテーブルを回り、奏子の頭をクシャクシャっと撫でた。
「子どもは早く寝ろよー」
そう言い残してダイニングを後にする凱を、目で追った。
「今日は何故かご機嫌ね」
ショウが息をつく。
「さて。奏子は寝る支度しようか」
「ショウ。お星さまって……空の星? それとも、何かの呼び名?」
一応、確認。
「星よ、空の。流星群ていうの? 凱はよく森に見にいくの。たまに一緒に見に来る友だちが何人かいるみたい。この時期は、こじし座だったかな」
「へぇ……」
「らしくないでしょ。あの子が星なんて」
「案外、ロマンティストなのかも」
言いながらも、そう思ってはいなかった。
人を破壊する男に、お星さまは似合わない。
それに……。
『夜の森は楽しいぜ』
凱は僕にそう言った。
あのウィンクは『来い』ってことかな?
夜の森で星を見ながら、邪魔されずに楽しくお喋りしましょう?
それとも。
何かの罠か?
凱の意図が何であれ、これは彼を知るチャンス。
行ってみるしかない。
修哉さんと凱の作ったカレーは、超本格的ですごくおいしかった。
お腹が満たされたみんなは、食後のアイスクリームを食べながら談笑中だ。
「今日はジャルドと何して遊んだの?」
ショウが奏子に尋ねた。
「お庭と森で、キレイなお花があるところを案内したの。ね?」
奏子が僕を振り向く。
「うん。コスモスがすごかった。あと、青い花も」
僕と奏子は。子猫たちと過ごす時間を、森で花を探してたっていうことに決めてあった。
奏子に嘘をつかせるのは、もちろん心苦しい。
けど。
奏子自身が子猫のことを秘密にしたいと望んでいる……今のところは。
僕と奏子が毎日森に消える。
それをショウたちが不審に思わないうちに、解決しなきゃならない。
「僕は向こうでも、毎日森に行ってたんだ。緑が好きだから、ここにも森があって嬉しいよ」
「それはよかった」
ショウは全く疑っていない。
奏子の身に起きたことに誰も気づかないのは、それが思いもよらないことだからか。
何かがあったような素振りを見せずにいられる、奏子の強さのおかげか。
それとも。
あの日ここに奏子の母親がいたら、やっぱり気がついたんだろうか。
物事の行方は、ちょっとしたタイミングでガラリと変わる。
ヤツが奏子を小屋に連れて行った時。
僕がここに来て、森に行った時。
その時、奏子の両親は留守だった。
そして、今も僕はここにいて、復讐計画を練っている。
「うちの森はあまり手を入れてないけど、危険な動物はいないはずよ。柵のない崖の近くには行かないようにね」
「うん。わかってる!」
「はい」
僕たちは同時に返事をした。
「ごちそうさまでした」
聞こえてきた声の主に、話しかける。
「烈。今日はありがとう。今度、また遊びに行ってもいいかな」
「……うん。いいよ」
ボソッと答えた烈は俯いたまま立ち上がり、そそくさとダイニングから出ていった。
去り際にチラリと僕と目を合わせて口角を上げたことに、僕以外は気づいていない。
「今日、烈に本を借りたんだ」
ショウに言った。
「ちょっとだけ話もしたんだけど、烈ってすごく物知りなんだね」
「そうね。本とパソコン漬けの毎日だから。私としてはもっと人と関わって成長してほしいわ。頭だけじゃなく心も育てないと」
「なら、オレはショウの中じゃ及第点だな」
向かい側から、凱が口を挟む。
「山ほど人と関わって、経験値上げてるから」
「あんたの関わり方はまっとうじゃないでしょ。だから心がひねてんのよ。それと、ショウじゃなく母さんって呼びなさい」
凱が肩を竦めた。
「今さらどっちでもいいじゃん? ひとりの人間同士、対等でいようぜ。なあ? ジャルド」
凱が僕に話を振る。
「母さんって呼べる存在がいるのは羨ましいですよ」
あえて嫌味っぽく言ってみる。
今夜やっと顔を合わせたのに、食事中は当たり障りない言葉をいくつか交わしただけ。
せっかくだから、もう少し踏み込んだ会話をしたい。
修哉さんとリージェイクは、すでに後片づけをしにキッチンに消えてるから、多少険悪になっても問題ないし。
「そうかぁ……」
凱と目が合う。
「んじゃ、母さん」
僕から視線を外さずに、凱が言う。
「今夜はクラスのヤツとお星さま見るからさ。門の鍵開けたままにしといて。オレが最後に閉めとくから」
「わかった。修哉さんにも言っとくわ」
凱が素直に『母さん』と呼んだことに満足してか。
僕の嫌味が先日のような流れに発展しなくて済んだことに安堵してか。
どっちかわからないけど、ショウの声に険はない。
「お友だちによろしく」
「邪魔しに来ないでねーっと」
凱が腰を上げる。
まだ、僕を見たままだ。
「夜の森は楽しーぜ」
意味ありげに片目をつぶり。凱は鼻歌まじりにテーブルを回り、奏子の頭をクシャクシャっと撫でた。
「子どもは早く寝ろよー」
そう言い残してダイニングを後にする凱を、目で追った。
「今日は何故かご機嫌ね」
ショウが息をつく。
「さて。奏子は寝る支度しようか」
「ショウ。お星さまって……空の星? それとも、何かの呼び名?」
一応、確認。
「星よ、空の。流星群ていうの? 凱はよく森に見にいくの。たまに一緒に見に来る友だちが何人かいるみたい。この時期は、こじし座だったかな」
「へぇ……」
「らしくないでしょ。あの子が星なんて」
「案外、ロマンティストなのかも」
言いながらも、そう思ってはいなかった。
人を破壊する男に、お星さまは似合わない。
それに……。
『夜の森は楽しいぜ』
凱は僕にそう言った。
あのウィンクは『来い』ってことかな?
夜の森で星を見ながら、邪魔されずに楽しくお喋りしましょう?
それとも。
何かの罠か?
凱の意図が何であれ、これは彼を知るチャンス。
行ってみるしかない。
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