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第4章 協力者
同志
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自分以外の人間が何を考えているのか、聞かないとわからない。
聞いて答えてもらっても、本当のところはわからない。
何も言わなくてもわかり合える……なんて、奇跡だ。
それでも。
同じようなことを考えて、同じような決意と目的を持った人間とは響き合う。
これが、もし。
スポーツとかの競い合う世界での二人なら、良きライバルに。
思想や主張を同じくする二人なら、同志になる。
僕と烈は、許せない人間に対する怒りを共有する同志だ。
それぞれのターゲットは違っても、求める結果は同じもの。
僕たちはお互いの協力者になった。
「僕もきみに協力する」
無言で肯定し合ったことを、あらためて口にする。
「冷酷になれて賢くて、痛みを無視できる……ほかに必要な条件は?」
「んー実はさ。絶対やるって決めたの、最近なんだよね。だから、まだ具体的な方法は考えてないんだ」
烈がちょっとバツの悪そうな表情になる。
「とにかく、ある人間を苦しめたい。自分がやってることの卑劣さをわからせたい。そのためには……」
「自分が同じくらい残酷にならなきゃいけない。もちろん、手を貸す人間も」
続きを口にした。
烈の考えてることは、僕の考えにピタリと合う。
怖いくらいだ。
「僕も同じだよ。許せないことをする人間に、身をもってその罪の重さを実感させたい……復讐するんだ。その方法は、こっちもまだ計画段階。先にやることもあるし」
烈の瞳が笑う。
「おもしろいね。僕たち……同じ時に同じこと考えて、同じ場所にいる」
「もうひとつ。僕も、被害者は自分じゃないんだ」
まだ……ね。
頭の中でつけ加える。
「だから、きみに言えないこともある。でも、必要になったら話すよ。それでかまわない?」
満足そうに、烈が頷いた。
「僕も、今はまだ全部は話せない。だけど、もう少し自分で動いて計画の骨組みが出来たら話せるよ。それに、ジャルドなら気づくと思う」
片方だけ眉を上げる。
「学校、来るんでしょ?」
そうだ。
今週1週間はゆっくりして来週から、烈と同じ小学校に通わなきゃならないんだった。
烈の今の言葉。
彼が許せない人間か、その被害者が学校にいるんだろう。
「めんどくさいな、学校……」
烈のターゲットについては触れずに、学校に対する素直な気持ちを呟いた。
「ああいうとこ、苦手なんだ」
「そんな感じするね」
烈は楽しそうだ。
「あ。僕、学校でもおとなしくてまじめなキャラだから、よろしく」
「何それ。外国からの転校生を助けてくれないの?」
「僕の助けなんかなくても大丈夫だよ。凱とだって渡り合えるんだから」
凱……か。
「烈。もし、僕の復讐に、小学生の子ども二人じゃ現実的に不可能なことをやる必要が出てきたら……凱にも手を借りたい。きみがさっき言ってたことは承知の上で」
烈の表情が険しくなる。
「きみの計画のことは、絶対に話さない」
「ジャルド……」
「ほかに、あてがないんだ」
「リージェイクは?」
「……無理」
「何で?」
「悪を悪で制するのには、反対だって」
口を開きかけた烈より先に答える。
「リージェイクは、僕がやろうとしてることに感づいてないよ。凱の話をした時に、そう言ってた。復讐は誰も救えないって。だから、相手と同じところまで堕ちる行為には協力してくれない」
「そっか……」
険しい顔のまま、烈が考え込む。
「でも、好き勝手やられるリスクだけじゃない。凱に頼むのは……弱みを握られるのと同じだよ。あとで、とんでもない見返りを要求されるかも」
「うん……」
「いいの?」
「どうしても、凱が必要になったら……どんなリスクでも負うよ」
「……わかった」
「あと、きみにお願いがある」
真剣な顔を烈に向けた。
「僕はこの復讐を、最後までやる。途中で、僕を止めないでほしい」
『最後』を強調して言った。
「うん。ジャルドもね」
「わかった」
「大丈夫。僕も、ちゃんと覚悟してるよ」
そう。
僕たちは覚悟してる。
『悪になる』覚悟だ。
「烈のほうは、計画の目途がつくのって、だいたいいつぐらいになりそう?」
「うーんと……今週中には、どうするか決められると思う。きみは?」
「僕のほうは……」
水曜にヤツの出方を見て、ダメならやり方を変えて金曜日……。
あんまり長引かせたくない。
奏子も子猫も、早めにこれから遠ざけたつけたほうが安全だ。
「金曜くらいかな」
「じゃあ……次の作戦会議は、金曜の夜」
「オーケー」
立ち上がって本棚を見やった。
「本、何冊か借りてくよ」
「あ、ほんとに借りにきたんだ?」
意外そうに烈が言う。
「本のことは、きみを誘う口実だったのに」
「僕も。きみに凱のことを聞くチャンスだと思って来たんだけど……結果は予想以上。いい協力者が見つかったから」
「お互いにね」
「でも、周りには僕たちの関係を知られないほうがいい。急に意気投合したなんて怪しいもん」
「僕は人見知りだし」
「だから、これは小道具」
本を2冊、棚から取り出した。
「少しずつ、親しくなろう」
「うん。年相応にね」
僕たちは視線を合わせて、ニヤリと笑った。
年相応とは言えない目的を持った僕と烈は、お互いを協力者として得た。
まだ、全てをオープンにしたわけじゃない。
それでも。
僕たちは同じ思いを共有し、相手の存在に感謝した。
聞いて答えてもらっても、本当のところはわからない。
何も言わなくてもわかり合える……なんて、奇跡だ。
それでも。
同じようなことを考えて、同じような決意と目的を持った人間とは響き合う。
これが、もし。
スポーツとかの競い合う世界での二人なら、良きライバルに。
思想や主張を同じくする二人なら、同志になる。
僕と烈は、許せない人間に対する怒りを共有する同志だ。
それぞれのターゲットは違っても、求める結果は同じもの。
僕たちはお互いの協力者になった。
「僕もきみに協力する」
無言で肯定し合ったことを、あらためて口にする。
「冷酷になれて賢くて、痛みを無視できる……ほかに必要な条件は?」
「んー実はさ。絶対やるって決めたの、最近なんだよね。だから、まだ具体的な方法は考えてないんだ」
烈がちょっとバツの悪そうな表情になる。
「とにかく、ある人間を苦しめたい。自分がやってることの卑劣さをわからせたい。そのためには……」
「自分が同じくらい残酷にならなきゃいけない。もちろん、手を貸す人間も」
続きを口にした。
烈の考えてることは、僕の考えにピタリと合う。
怖いくらいだ。
「僕も同じだよ。許せないことをする人間に、身をもってその罪の重さを実感させたい……復讐するんだ。その方法は、こっちもまだ計画段階。先にやることもあるし」
烈の瞳が笑う。
「おもしろいね。僕たち……同じ時に同じこと考えて、同じ場所にいる」
「もうひとつ。僕も、被害者は自分じゃないんだ」
まだ……ね。
頭の中でつけ加える。
「だから、きみに言えないこともある。でも、必要になったら話すよ。それでかまわない?」
満足そうに、烈が頷いた。
「僕も、今はまだ全部は話せない。だけど、もう少し自分で動いて計画の骨組みが出来たら話せるよ。それに、ジャルドなら気づくと思う」
片方だけ眉を上げる。
「学校、来るんでしょ?」
そうだ。
今週1週間はゆっくりして来週から、烈と同じ小学校に通わなきゃならないんだった。
烈の今の言葉。
彼が許せない人間か、その被害者が学校にいるんだろう。
「めんどくさいな、学校……」
烈のターゲットについては触れずに、学校に対する素直な気持ちを呟いた。
「ああいうとこ、苦手なんだ」
「そんな感じするね」
烈は楽しそうだ。
「あ。僕、学校でもおとなしくてまじめなキャラだから、よろしく」
「何それ。外国からの転校生を助けてくれないの?」
「僕の助けなんかなくても大丈夫だよ。凱とだって渡り合えるんだから」
凱……か。
「烈。もし、僕の復讐に、小学生の子ども二人じゃ現実的に不可能なことをやる必要が出てきたら……凱にも手を借りたい。きみがさっき言ってたことは承知の上で」
烈の表情が険しくなる。
「きみの計画のことは、絶対に話さない」
「ジャルド……」
「ほかに、あてがないんだ」
「リージェイクは?」
「……無理」
「何で?」
「悪を悪で制するのには、反対だって」
口を開きかけた烈より先に答える。
「リージェイクは、僕がやろうとしてることに感づいてないよ。凱の話をした時に、そう言ってた。復讐は誰も救えないって。だから、相手と同じところまで堕ちる行為には協力してくれない」
「そっか……」
険しい顔のまま、烈が考え込む。
「でも、好き勝手やられるリスクだけじゃない。凱に頼むのは……弱みを握られるのと同じだよ。あとで、とんでもない見返りを要求されるかも」
「うん……」
「いいの?」
「どうしても、凱が必要になったら……どんなリスクでも負うよ」
「……わかった」
「あと、きみにお願いがある」
真剣な顔を烈に向けた。
「僕はこの復讐を、最後までやる。途中で、僕を止めないでほしい」
『最後』を強調して言った。
「うん。ジャルドもね」
「わかった」
「大丈夫。僕も、ちゃんと覚悟してるよ」
そう。
僕たちは覚悟してる。
『悪になる』覚悟だ。
「烈のほうは、計画の目途がつくのって、だいたいいつぐらいになりそう?」
「うーんと……今週中には、どうするか決められると思う。きみは?」
「僕のほうは……」
水曜にヤツの出方を見て、ダメならやり方を変えて金曜日……。
あんまり長引かせたくない。
奏子も子猫も、早めにこれから遠ざけたつけたほうが安全だ。
「金曜くらいかな」
「じゃあ……次の作戦会議は、金曜の夜」
「オーケー」
立ち上がって本棚を見やった。
「本、何冊か借りてくよ」
「あ、ほんとに借りにきたんだ?」
意外そうに烈が言う。
「本のことは、きみを誘う口実だったのに」
「僕も。きみに凱のことを聞くチャンスだと思って来たんだけど……結果は予想以上。いい協力者が見つかったから」
「お互いにね」
「でも、周りには僕たちの関係を知られないほうがいい。急に意気投合したなんて怪しいもん」
「僕は人見知りだし」
「だから、これは小道具」
本を2冊、棚から取り出した。
「少しずつ、親しくなろう」
「うん。年相応にね」
僕たちは視線を合わせて、ニヤリと笑った。
年相応とは言えない目的を持った僕と烈は、お互いを協力者として得た。
まだ、全てをオープンにしたわけじゃない。
それでも。
僕たちは同じ思いを共有し、相手の存在に感謝した。
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