滅びろ人間!小児性犯罪者への復讐

Kinon

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第3章 危険な男

初対面

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 男は、濃いグレーの細かいチェック柄のズボンに薄いミント色のワイシャツ姿。
 こげ茶色のネクタイ。
 手に持った深緑のジャケットの胸にはエンブレム……校章かな。たぶん、学校の制服だ。

 烈と同じ茶色の髪に、瞳は薄茶色。
 ピアスとペンダントをつけている。
 やせ型で、身長175センチくらい。
 
 ショウの言葉を繋いで入ってきたこの青年……が、要警戒の危険な男?
 もっとこう……すさんだ感じの悪者風味の男を想像してたから、ちょっと拍子抜けした。



「おっ、うまそー」

 9人の視線が自分の動きを追っているのを気にもせず。男……かいは空いてる席に腰を下ろし、胸の前で両手を合わせ。

「いただきます!」

 冷えたハンバーグをガツガツと食べ始めた。

 数秒の間のあと、ハッとしたようにショウが口を開く。

「凱! あんたどこほっつき歩ってたのよ。今夜はラストワたちと夕食だって言ったでしょ!」

「だから急いで帰ってきたんだよ」

 凱は口の中の食べ物をジュースで飲み下してから、キョロキョロとテーブルを見渡した。

「ラストワ! 久しぶりー。相変わらず、すました顔で世界征服とか企んでんの?」

 素早くラストワを見ると、口元も目も笑っている。

「そんなくだらねぇことしてねぇでさ。もっと人生楽しもうぜ? 先は短いんだからよ」

 凱が、今度はリージェイクに目を向ける。

「おー! 我が親友ともリージェイク! 今年は全然会えなくて淋しかったぜ。もう少しではるばるイギリスまで会いに行くとこだったな」

「久しぶり、凱。元気そうで何よりだ」

 あ。
 リージェイクが不機嫌だ。

 声に抑揚がない。
 ついでに表情もない。
 仮面みたいな顔で、凱をじっと見つめている。

「元気元気。平和なもんよ。オレは、ね」

 凱はハンバーグとライスを口にかき込み、スープをすすった。

 誰も言葉を発しない。
 凱が次々と料理を平らげるのを、全員が見守ってるみたいだ。
 ほんの2、3分のことなのに。僕にはちょっと、この静けさが奇妙に感じられる。

 奏子に話しかけようと身体を横に向けたその時、凱が僕の名を呼んだ。

「ジャルド!」

 凱に向き直る。

「ジャルド……だよな?」

「はい」

 返事をした。



 凱は何も言わず、僕の瞳から視線を外さない。
 僕も凱の瞳に視線を固定する。

 さっきよりも空気が動かない。



 数十秒後、凱がニヤリと笑った。
 僕も軽く微笑んだ。

「オレ、ずっとおまえに会うの楽しみにしてたんだぜ。せっかく来たんだから、ゆっくりしてくんだろ?」

「凱。ジャルドとリージェイクは、夏までここにいることになったの」

 ショウの言葉に、凱が目を見開く。

「へー……! そりゃいーや」

「悪さしないで仲良くしなさいよ。わかった?」

「わかってるわかってる。これでも、心配してたんだからさ。悲劇の継承者の少年を、ね」

 ピキッと音が聞こえそうなほど、空気が固まった。

 さっきの奇妙な静けさなんか比じゃない。
 奏子がちゃんと息をしているか気になった。



 そう。
 僕にはまだ余裕がある。
 初対面の凱が、あの事件のことを話題に出しても。



 悲劇の継承者の少年。



 その言葉に対する僕の反応を、凱は試してる。
 みんなが黙っているのは、よけいな擁護は僕を認めていないことになるからだ。

 11歳はまだまだ守られるべき子どもだっていうのが、世間一般の考え方かもしれないけど……継承者の僕にはあてはまらない。
 それに。ひとりの人間として認められることを望むなら、自分で対処しなきゃならない。



「僕は大丈夫ですよ、凱。悲劇は確かに起きましたが、継承者としての資質に支障はありません」

 沈黙の中、ごく普通の調子で言った。

 ああ、そうか。
 丁寧な言葉遣いはこういう時、便利なんだ。
 感情的になりにくくて、冷静に話せる感じ。

 凱が片方の眉を上げる。

「大丈夫? ほんとに? 母親が目の前でなぶり殺されたんだろ?」

「凱! よしなさい!」

 ショウの制止を無視して、凱がたたみかける。

「おまえはなーんにも出来ねぇ無力なガキだった。大事なママ、最後まで叫んでなかった? 助けてージャルドーって。何て言ってあげたの? 助けられなくてもさー、せめてこの世の別れの……」

「そこまでだ!」

 野太い声で怒鳴ったのは、修哉さんだ。

 さすがに僕の余裕も尽きかけていたけど、耐えられないほどじゃない。

 心から切り捨てたパーツを思い出す。



 この1年間。
 僕は少しずつ、自分の中の傷ついて血を流す部分から離れていった。
 自分を保つために、いつかもう一度向き合って同化しなきゃならなくなることは承知の上で。

 離れて見るそれは、すごくかわいそうで。不憫で痛々しくて……憐れだなぁって思う。
 まるで他人事みたいに。
 そうすることが、僕には必要だったんだ。

 その憐憫の情ってやつを……切り捨てた。

 だから、大丈夫。



「僕は……」

 自分に集まる視線の中から凱のものを選んで、自分のそれと合わせて続ける。

「致命傷を負わされて地下に置き去りにされた母の最期に、居合わせていませんでした。その頃、僕はさらわれて売られる子どもたちと一緒に、どこかの倉庫に監禁されていたからです。だから……」

 ヒック……。

 右に目をやると、奏子が声を抑えて泣いていた。

 ごめん。奏子。
 こんなこと聞かせて……すぐ終わるから。

「あなたの問いには答えられません」

 眉を寄せて顎をつまむ凱。

「ふうん。そっか。それは残念。じゃあさー監禁されてた時のこと聞かせて」

「凱。いい加減にしろ……!」

 怒りを含んだ声で言ったのは、リージェイクだ。

「悪気はねぇの。オレは心から心配してるだけ。次世代の継承者がトラウマに苦しんでねぇかって」

 リージェイクに移った凱の視線が僕に戻るのを待って、口元だけで微笑んだ。

「心配は要りません。僕の代で、リシールは今以上に繁栄してると思いますよ。そのためにも凱、あなたの協力を期待しています」

 この15分足らずの間で、もう何度目かの沈黙。



「ふ……ははっ!」

 破ったのは、凱の笑い声。

「いいねージャルド。気に入ったな」

「……それは嬉しいです。今後ともよろしくお願いします」

「うん。よろしくー」

 僕たちはもう一度、お互いに笑顔を見せ合ってから視線を外した。

 凱は自分の食事に戻り、コーヒーを飲み干したラストワと修哉さんが席を立つ。
 張り詰めた空間が弛緩したところで、椅子から降りた奏子が僕に抱きついた。

「ジャルド……」

「ごめんね。大丈夫だよ」

「うん……」

 顔を上げた奏子がぎこちなく微笑む。
 その鼻のてっぺんを軽く突っつくと、不自然さの消えた笑顔になった。



 強がりじゃなく。
 本当に大丈夫だった。
 僕を傷つけようとして凱が放った言葉は、その目的地を見つけられなかった。

 それは僕の中になかったから。



「きみは強いわね」

 隣に立ったショウが呟くように言った。
 首を横に振る。

「僕はただ……弱い、無力な子どもでいるのをやめただけ」



 そう。
 無力な子どもはやめるって決めた。
 そして、強くなるんだ。

 奏子のため……いや。僕自身のために、ヤツに復讐する。
 それが出来れば、強い自分になれるんじゃないか。
 そんなふうに思っていた。



 強さの意味を、まだわかっていなかった。


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