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第3章 危険な男

テーブルに着いて

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 僕とリージェイクがダイニングに着くと、すでに5人がテーブルにいた。

 叔父のラストワ。
 50代前半くらいの日焼けしたおじさん。
 20代後半くらいの小柄なおばさん。
 僕と同じ歳くらいの少年。
 そして、奏子。

「ジャルド! こっち来て!」

 僕に気づいた奏子が呼ぶ。
 奏子の両隣の席は、二つとも空席だった。

 いつもの席が決まってるとか、ないのかな……?

「行ってやって」

 迷っている僕の後ろから、料理の皿を乗せたカートを押すショウの声。

「あの子、あなたのこと気に入ったみたい」

 ショウの笑顔に笑みを返し、奏子の左側の席についた。

 館のダイニングテーブルはすごく広い。
 隣の席まで60センチくらいあって、間にもうひとり座れそう。
 向かいなんて、1.5メートルは離れている。

「今日はハンバーグなの。あたしの好きなおかずにしてくれたんだよ。お昼ご飯の時はいなかったから」

「そっか。楽しみだね」



 昼食会は本格的なコース料理だった。
 もちろん、おいしかったけど。黙々と食べる食事は楽しくない。
 こういう普通の食事のほうが好きだ。

 継承者の顔合わせの昼食会は、子どもが学校や保育園を休んで参加する必要はない会だったから。顔合わせの継承者本人の汐と、僕とリージェイク以外はみんな大人だった。



 ふと視線を感じて前を見ると、正面に座る人物と目が合った。
 控えめで神経質そうな少年……たぶん、ショウの10歳のほうの息子だ。

 よろしくって感じで微笑むと、彼は素早く瞬きをして俯いて。
 少し待ってみたけど、彼は顔を上げなかった。

「ジャルドは、ずっとここにいることになったんでしょ? ラスおじさんが言ってた」

「うん。とりあえず夏までね。これからもよろしく」

「こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします」

 奏子が礼儀正しく返事をする。

 これ、ラスおじさん……ラストワの真似だな。

 彼は、5歳の子どもに対しても丁寧語で話す。
 
「はい。お待たせー」

 ショウが目の前に料理の皿を並べていく。
 ポテトのついたハンバーグ。ライス。スープ。サラダ。

「やったー!」

 奏子が嬉しそうに手を叩く。

「どうぞ」

 ショウの後に続いてカートを押してきたせきが、グラスにオレンジジュースを注ぐ。

「ありがとう」

 お礼を言うと、汐はニッコリ頷いて先に進んだ。



 独自に定めたルールに厳しい僕たちリシールの一族だけど、立場や能力の上下で待遇の差はほとんどない。
 この世界に3か所ある拠点……館には、それぞれの地域のリーダーとなる継承者がいる。
 必要な時に必要な状況では彼らに絶対服従の場合はあるけど、日常でかしずいたり下手に出たりはしない。

 だから。この館の継承者である汐も特別扱いされることなく、15歳の少女として夕食の給仕を手伝っている。
 テーブルの席次も、主賓だとか上座だとかは全然気にしない。



 料理と飲み物を配り終えたショウと汐が席につく。

「さあ、どうぞ召し上がれ。冷めないうちに食べましょう!」

 ショウの声で夕食が始まった。

「いただきまーす!」

 奏子がいち早くナイフとフォークを握る。
 ジュースを一口飲んでテーブルを見回した。



 昼食会の時は、ほかにもお客さんがいっぱいいて総勢60人くらいだったけど。ほとんどの人はすでに帰ったらしい。
 今は12脚のテーブルに10人分の食事が用意されてて、席についてるのは9人。

 僕がいる側は、左からショウ、僕、奏子、汐、リージェイク。
 その向かいにおばさん。左にラストワ、おじさん、少年って続いて、その隣……ショウの正面は空席だ。

 そこに座るはずだったのは……リージェイクのいう危険な男に違いない。



 隣にいるショウに尋ねる。

「ショウ。もうひとりは来ないの?」

 視線で空席を指した。

「あぁ……かいね」

「凱?」

「私の息子。今日は7時までに絶対帰って来いって言ったのに……まだなのよ」

 苦笑いしながら、ショウが続ける。

「礼儀知らずで、ごめんね」

「ううん」

 首を横に振った。



 彼、凱に会ってみたかったけど……残念だな。


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