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第3章 危険な男
警戒しろ
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多くの物事には二面性がある。
誰かにとっていい出来事も、ほかの誰かにとっては悪い出来事に。
毒は薬に、薬は毒にもなる。
人だって同じだ。
プラスもマイナスも。
同時に。
同じところに。
ひとりの人間の中に、存在する。
自分にとても役に立つだろう人間が、同時に自分に害を及ぼす危険がある時。どうするのが賢明なのか。
諸刃《もろは》の剣を手にするには、それなりの覚悟が必要になる。
夕食を取るために、僕とリージェイクは1階のダイニングに向かっている。
「ひとつ、きみに言っておきたいことがあるんだ」
3階の部屋で湿っぽい雰囲気になってから無口だったリージェイクが、口を開いた。
夕食は7時にって聞いてた僕が、そろそろ下に行こうって言った時も。リージェイクは頷いて腰を上げただけ。
気が咎めていて。努めて明るい声で返事をする。
「何? さっきの話なら、もう気にしないで。自分でもちょっと大げさだったかなって。僕は大丈夫だから」
「ジャルド。私の前では強がらないでほしい。血の繋がりはなくても、私はきみを弟だと思ってる」
リージェイクが真剣な顔で続ける。
「困ったことがあったら何でも言ってほしい。ここで一緒に生活するなら、なおさら……きみが思ってるよりも、私は役に立てると思うよ」
「ありがとう」
本心からそう言った。
「言っておくことってそれ?」
「いや。この館の人間の中に、ひとり……危険な男がいる」
危険。
その言葉を聞いて、僕の脳裏にあの男たちが浮かび上がる。
けど。
それは瞬時にかき消された。
今の僕は、あの時の無力な子どもじゃない。
僕と母を襲ったあの男たちは、もう僕にとって危険な存在にはなり得ない。
「危険といっても、直接的にきみの安全を脅かす類のものじゃない」
僕の思考を知ってか知らずか、リージェイクが言い添える。
「でも……リージェイクがわざわざそう言うなら、よっぽどなんだ」
その事実に、ひどく興味をそそられた。
「その人、リシールなんでしょ?」
「一応は。だけど、きみの思うリシールとは……かなりかけ離れてると思うよ」
「会ったことあるの? よく知ってる人?」
「きみがラストワのところへ来る前までの3年間、彼と一緒に過ごした。学校と寮。そして、この館で」
「へえ……」
「今もここに住んでる。ショウの息子なんだ」
「え!?」
あのサバサバしたおばさんの?
「歳は18。10歳の弟がいる。きみと同学年かな」
18歳で10歳の弟がいるショウの息子。
でもいったい、危険な男って……。
「言っておきたいのは……彼には十分に警戒しろということだ」
普段あまり聞かないリージェイクの迫力ある声色に、足を止めた。
リージェイクも立ち止まり、険しい顔を僕に向けている。
「警戒しろって……どういう……」
「彼に乗せられるな。つけ込まれるな。言葉に惑わされるな。うわべに騙されるな。彼を思い通りにしようとするな。彼に……弱みを見せるな」
口を開けて、リージェイクを見つめる。
「彼は破壊者だ。そして、恐ろしく頭が切れる」
「破壊者……」
「彼は全てを……壊したいんだ」
「壊すって、窓を割るとか暴力をふるうとか?」
「いや。物理的に物を破壊したり、人の身体を傷つけたりするわけじゃない。物事が失敗するよう、人が破滅するように仕向けるんだ」
「どうやって……?」
「人に取り入って、信用させて、陥れ、裏切る。操り、疑わせ、自信をなくさせ、希望を奪い、絶望させる。人を……精神的に壊す」
「何のために……そんなことするの?」
「……わからない。相手が憎いとか、恨みがあるとか。自分に都合がいいとか、そういう彼の得るはっきりしたメリットはない」
「人が苦しむのを見るのが楽しい……とか?」
「それは、少しはあるかもしれない」
一瞬、リージェイクは少し疲れたような笑みを口元に浮かべた。
「だけど、彼はただ……壊し続けているだけに見える。だからこそ、危険だ」
暫しの沈黙。
「わかった……気をつける」
僕たちは前を向いて歩き始めた。
「リージェイク」
「ん?」
「お腹すいたね」
リージェイクが僕の頭をクシャっと撫でる。
「ああ。ペコペコだ」
夕食のメニューより。リージェイクの言う危険な男がどんな人間なのか、気になって仕方なかった。
その人物の存在が、僕のミッション……ヤツへの復讐にプラスになるかマイナスになるか。
しっかりと見極めておかないと。
プラスになるなら近づいて、マイナスになるなら距離を置こう。
そんな僕の考えは、まったく通用しない可能性もある。
危険な男は、『諸刃の剣』そのものかもしれないから。
誰かにとっていい出来事も、ほかの誰かにとっては悪い出来事に。
毒は薬に、薬は毒にもなる。
人だって同じだ。
プラスもマイナスも。
同時に。
同じところに。
ひとりの人間の中に、存在する。
自分にとても役に立つだろう人間が、同時に自分に害を及ぼす危険がある時。どうするのが賢明なのか。
諸刃《もろは》の剣を手にするには、それなりの覚悟が必要になる。
夕食を取るために、僕とリージェイクは1階のダイニングに向かっている。
「ひとつ、きみに言っておきたいことがあるんだ」
3階の部屋で湿っぽい雰囲気になってから無口だったリージェイクが、口を開いた。
夕食は7時にって聞いてた僕が、そろそろ下に行こうって言った時も。リージェイクは頷いて腰を上げただけ。
気が咎めていて。努めて明るい声で返事をする。
「何? さっきの話なら、もう気にしないで。自分でもちょっと大げさだったかなって。僕は大丈夫だから」
「ジャルド。私の前では強がらないでほしい。血の繋がりはなくても、私はきみを弟だと思ってる」
リージェイクが真剣な顔で続ける。
「困ったことがあったら何でも言ってほしい。ここで一緒に生活するなら、なおさら……きみが思ってるよりも、私は役に立てると思うよ」
「ありがとう」
本心からそう言った。
「言っておくことってそれ?」
「いや。この館の人間の中に、ひとり……危険な男がいる」
危険。
その言葉を聞いて、僕の脳裏にあの男たちが浮かび上がる。
けど。
それは瞬時にかき消された。
今の僕は、あの時の無力な子どもじゃない。
僕と母を襲ったあの男たちは、もう僕にとって危険な存在にはなり得ない。
「危険といっても、直接的にきみの安全を脅かす類のものじゃない」
僕の思考を知ってか知らずか、リージェイクが言い添える。
「でも……リージェイクがわざわざそう言うなら、よっぽどなんだ」
その事実に、ひどく興味をそそられた。
「その人、リシールなんでしょ?」
「一応は。だけど、きみの思うリシールとは……かなりかけ離れてると思うよ」
「会ったことあるの? よく知ってる人?」
「きみがラストワのところへ来る前までの3年間、彼と一緒に過ごした。学校と寮。そして、この館で」
「へえ……」
「今もここに住んでる。ショウの息子なんだ」
「え!?」
あのサバサバしたおばさんの?
「歳は18。10歳の弟がいる。きみと同学年かな」
18歳で10歳の弟がいるショウの息子。
でもいったい、危険な男って……。
「言っておきたいのは……彼には十分に警戒しろということだ」
普段あまり聞かないリージェイクの迫力ある声色に、足を止めた。
リージェイクも立ち止まり、険しい顔を僕に向けている。
「警戒しろって……どういう……」
「彼に乗せられるな。つけ込まれるな。言葉に惑わされるな。うわべに騙されるな。彼を思い通りにしようとするな。彼に……弱みを見せるな」
口を開けて、リージェイクを見つめる。
「彼は破壊者だ。そして、恐ろしく頭が切れる」
「破壊者……」
「彼は全てを……壊したいんだ」
「壊すって、窓を割るとか暴力をふるうとか?」
「いや。物理的に物を破壊したり、人の身体を傷つけたりするわけじゃない。物事が失敗するよう、人が破滅するように仕向けるんだ」
「どうやって……?」
「人に取り入って、信用させて、陥れ、裏切る。操り、疑わせ、自信をなくさせ、希望を奪い、絶望させる。人を……精神的に壊す」
「何のために……そんなことするの?」
「……わからない。相手が憎いとか、恨みがあるとか。自分に都合がいいとか、そういう彼の得るはっきりしたメリットはない」
「人が苦しむのを見るのが楽しい……とか?」
「それは、少しはあるかもしれない」
一瞬、リージェイクは少し疲れたような笑みを口元に浮かべた。
「だけど、彼はただ……壊し続けているだけに見える。だからこそ、危険だ」
暫しの沈黙。
「わかった……気をつける」
僕たちは前を向いて歩き始めた。
「リージェイク」
「ん?」
「お腹すいたね」
リージェイクが僕の頭をクシャっと撫でる。
「ああ。ペコペコだ」
夕食のメニューより。リージェイクの言う危険な男がどんな人間なのか、気になって仕方なかった。
その人物の存在が、僕のミッション……ヤツへの復讐にプラスになるかマイナスになるか。
しっかりと見極めておかないと。
プラスになるなら近づいて、マイナスになるなら距離を置こう。
そんな僕の考えは、まったく通用しない可能性もある。
危険な男は、『諸刃の剣』そのものかもしれないから。
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