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第2章 許されざる人間
ヤツへの怒り
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「これから毎日見に来て、ミルクもあげなさい。おじさんは、水曜と金曜に来るからねって」
週に2日……今日は金曜だ。
「ここに最初に来た日と今日のほかに、おじさんが来たのは何回かな?」
「2回」
てことは、今週の水曜と先週の金曜。
子猫を拾ったのは先週の火曜か水曜か木曜……か。
「最初にここに来た時、おじさんは奏子に……何も変なことしなかった?」
奏子が僕を見つめたまま、数秒の沈黙。
「何もされなかった。でも……」
奏子が言い淀む。
最初のひと言が、一番きつい。
自分の経験上からわかる。
それは、心の中で蓋をしてある記憶だから。
つらい記憶を頭で再現して声にして語るのは、もう一度それを体験することとあまり変わらない。
変わるのは、それにちゃんと終わりがあるのを知っているってことだけ。
「でもね……」
奏子は、僕の瞳から視線を外さない。
おじさんとの間に何があったのか。
それを僕に伝えることを、奏子自身も望んでいるからだ。
奏子の話から。ヤツが自分の見てる前で、奏子に森でおしっこをさせたことがわかった。
「すごく嫌だった。でも……」
「クロたちのためだった」
僕が先に言う。
「うん」
奏子は大きく頷いた。
「このこと、お母さんか誰かに言った?」
子猫が今もここにいることから、言っていないことはわかってるけど聞いておく。
「ううん。おじさんが……ここに子猫がいることも、おじさんに会ったことも、お母さんたちには内緒だよって。奏子ちゃんは子猫は飼っちゃダメって言われたんだから、これは本当はダメなことなんだよって。おじさんも奏子ちゃんのために内緒にしておいてあげるから、言うこと聞こうねって」
ひどい理屈だ。
ここに子猫のおうちを作ったのは自分のくせに、悪いことをしてるんだって罪悪感を奏子に植えつけている。
その上、内緒にしておいてあげるだなんて恩を着せて……。
「だから、お母さんには内緒で、おじさんの言うことは聞かないといけないの」
ヤツの『言うこと』は、ほかに何があったのか……。
次の時。
その次の時。
そして。今日のことを、奏子は話した。
おじさんが奏子に何を強要したのか。
記憶の蓋を開けた奏子は、僕に全てを伝えようと話し続けた。
思い出すことに、恐怖があったはず。
言葉にすることに、嫌悪感があったはず。
それでも話し続けられたのは、もっと強い感情が奏子の心を支配していたから。
怒りだ。
怒りは、恐怖や嫌悪……そのほかのネガティブな感情に勝つんだ。
週に2日……今日は金曜だ。
「ここに最初に来た日と今日のほかに、おじさんが来たのは何回かな?」
「2回」
てことは、今週の水曜と先週の金曜。
子猫を拾ったのは先週の火曜か水曜か木曜……か。
「最初にここに来た時、おじさんは奏子に……何も変なことしなかった?」
奏子が僕を見つめたまま、数秒の沈黙。
「何もされなかった。でも……」
奏子が言い淀む。
最初のひと言が、一番きつい。
自分の経験上からわかる。
それは、心の中で蓋をしてある記憶だから。
つらい記憶を頭で再現して声にして語るのは、もう一度それを体験することとあまり変わらない。
変わるのは、それにちゃんと終わりがあるのを知っているってことだけ。
「でもね……」
奏子は、僕の瞳から視線を外さない。
おじさんとの間に何があったのか。
それを僕に伝えることを、奏子自身も望んでいるからだ。
奏子の話から。ヤツが自分の見てる前で、奏子に森でおしっこをさせたことがわかった。
「すごく嫌だった。でも……」
「クロたちのためだった」
僕が先に言う。
「うん」
奏子は大きく頷いた。
「このこと、お母さんか誰かに言った?」
子猫が今もここにいることから、言っていないことはわかってるけど聞いておく。
「ううん。おじさんが……ここに子猫がいることも、おじさんに会ったことも、お母さんたちには内緒だよって。奏子ちゃんは子猫は飼っちゃダメって言われたんだから、これは本当はダメなことなんだよって。おじさんも奏子ちゃんのために内緒にしておいてあげるから、言うこと聞こうねって」
ひどい理屈だ。
ここに子猫のおうちを作ったのは自分のくせに、悪いことをしてるんだって罪悪感を奏子に植えつけている。
その上、内緒にしておいてあげるだなんて恩を着せて……。
「だから、お母さんには内緒で、おじさんの言うことは聞かないといけないの」
ヤツの『言うこと』は、ほかに何があったのか……。
次の時。
その次の時。
そして。今日のことを、奏子は話した。
おじさんが奏子に何を強要したのか。
記憶の蓋を開けた奏子は、僕に全てを伝えようと話し続けた。
思い出すことに、恐怖があったはず。
言葉にすることに、嫌悪感があったはず。
それでも話し続けられたのは、もっと強い感情が奏子の心を支配していたから。
怒りだ。
怒りは、恐怖や嫌悪……そのほかのネガティブな感情に勝つんだ。
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