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第2章 許されざる人間
ヤツとの経緯
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何かをやるって決意した時。
それを本当に望んでいて、どうしてもやりたいことなら。
そのために必要な数々の難題や問題をクリアするのは苦にならない。
みんな、そうだよね。
みんなそれぞれ、自分の中に優先順位がある。
その上位のためなら、下位は切り捨てられる。
僕は、僕にとっての優先順位を決めた。
それが達成されるまで。
それを達成するために、それ以外のどんな犠牲を払ってもかまわない。
何だって出来るんだ。
誰にも言えずに内に溜めていたネガティブな思いを、気が済むまで泣き叫ぶことで外へと解放した奏子は。
淡々と。時には笑顔さえ見せながら、僕の質問に答えた。
奏子の話をまとめると、子猫を拾った経緯はこう。
運動会の次の次の日くらいの、保育園からの帰り道。
その日は館に住むショウさんっていう女の人が迎えにきて、ミカちゃんとそのお父さん……『おじさん』が一緒だった。ミカちゃんと館で遊ぶことになっていたからだ。
4人で歩いていると、子猫の泣き声が聞こえて。バス停のちょっと脇に段ボール箱に入れて捨てられてたクロたちを見つけた。
奏子とミカちゃんはかわいい子猫に大喜びで、ショウさんに何度も促されてしぶしぶその場を離れた。
私道の入り口からショウさんの車に乗って館に向かう途中、おじさんは葉っぱを取りに行くからと車を降りた。
ミカちゃんがあたしも森で遊びたいというので、二人も降りた。
森に入った3人はしばらくの間、それぞれ好きに散策。
奏子とミカちゃんはドングリ集めに夢中。
その時。
おじさんが奏子のところに来て、さっき見た子猫の話をする。
『かわいかったね』
『でも、とても小さいから、誰も拾ってあげなかったら死んじゃうかもしれない』
『かわいそうだよね』
『おじさんちはマンションだから猫は飼えないけど、奏子ちゃんのうちなら飼ってあげられるかもしれない』
『おかあさんが帰ったら聞いてごらん』
『おじさんは仕事の研究で薬になる葉っぱを集めるために、奏子ちゃんのお母さんからこの森でいろいろなことをしていいよって許可をもらってるから。おじさんが子猫をそーっと森に連れてきて隠しておいてあげる』
『明日保育園から帰ったら、おうちの前の道までおいで』
『このこと、誰にも言っちゃいけないよ』
だいたい、こんなことを言われたらしい。
「夜、ママに子猫が飼いたいって言ったら、うちに来るお客さまで猫ちゃんがいると病気になる人がいるからダメって。それで、次の日……おじさんがここを教えてくれたの」
僕は辺りを見回した。
館からあまり離れていない。
でも。傾斜の陰になるから、小径からも私道からも見えない。
「子猫たちの新しいおうちと、屋根も作ってあげたよって」
奏子が、段ボール箱とベニヤ板を指す。
切り株は古く朽ちていて。横に大きく抉れた穴が開いていて、箱が3分の2くらい中に隠れるようになってる。
そこに立てかけられたベニヤ板は、雨をしのぐ屋根の役割をかろうじてしてくれそうだ。
箱の底にはバスタオルが敷かれ、ミルクをあげるための浅い皿もある。
その中で、3匹の子猫がピッタリくっついて寝ている。
その様子に目をやる奏子は、笑顔だ。
「その時、奏子はうれしかった?」
「うん。だって、クロもチャロもハロも、ここにいれば大丈夫になったから」
「そうだね。安心して眠ってる」
僕たち少しの間、子猫を見ていた。
「奏子……」
そろそろ、奏子にとってつらい話になる。
「ほかに、おじさんは……何て?」
僕は奏子がこっちを向くのを待ってから、先を続けた。
それを本当に望んでいて、どうしてもやりたいことなら。
そのために必要な数々の難題や問題をクリアするのは苦にならない。
みんな、そうだよね。
みんなそれぞれ、自分の中に優先順位がある。
その上位のためなら、下位は切り捨てられる。
僕は、僕にとっての優先順位を決めた。
それが達成されるまで。
それを達成するために、それ以外のどんな犠牲を払ってもかまわない。
何だって出来るんだ。
誰にも言えずに内に溜めていたネガティブな思いを、気が済むまで泣き叫ぶことで外へと解放した奏子は。
淡々と。時には笑顔さえ見せながら、僕の質問に答えた。
奏子の話をまとめると、子猫を拾った経緯はこう。
運動会の次の次の日くらいの、保育園からの帰り道。
その日は館に住むショウさんっていう女の人が迎えにきて、ミカちゃんとそのお父さん……『おじさん』が一緒だった。ミカちゃんと館で遊ぶことになっていたからだ。
4人で歩いていると、子猫の泣き声が聞こえて。バス停のちょっと脇に段ボール箱に入れて捨てられてたクロたちを見つけた。
奏子とミカちゃんはかわいい子猫に大喜びで、ショウさんに何度も促されてしぶしぶその場を離れた。
私道の入り口からショウさんの車に乗って館に向かう途中、おじさんは葉っぱを取りに行くからと車を降りた。
ミカちゃんがあたしも森で遊びたいというので、二人も降りた。
森に入った3人はしばらくの間、それぞれ好きに散策。
奏子とミカちゃんはドングリ集めに夢中。
その時。
おじさんが奏子のところに来て、さっき見た子猫の話をする。
『かわいかったね』
『でも、とても小さいから、誰も拾ってあげなかったら死んじゃうかもしれない』
『かわいそうだよね』
『おじさんちはマンションだから猫は飼えないけど、奏子ちゃんのうちなら飼ってあげられるかもしれない』
『おかあさんが帰ったら聞いてごらん』
『おじさんは仕事の研究で薬になる葉っぱを集めるために、奏子ちゃんのお母さんからこの森でいろいろなことをしていいよって許可をもらってるから。おじさんが子猫をそーっと森に連れてきて隠しておいてあげる』
『明日保育園から帰ったら、おうちの前の道までおいで』
『このこと、誰にも言っちゃいけないよ』
だいたい、こんなことを言われたらしい。
「夜、ママに子猫が飼いたいって言ったら、うちに来るお客さまで猫ちゃんがいると病気になる人がいるからダメって。それで、次の日……おじさんがここを教えてくれたの」
僕は辺りを見回した。
館からあまり離れていない。
でも。傾斜の陰になるから、小径からも私道からも見えない。
「子猫たちの新しいおうちと、屋根も作ってあげたよって」
奏子が、段ボール箱とベニヤ板を指す。
切り株は古く朽ちていて。横に大きく抉れた穴が開いていて、箱が3分の2くらい中に隠れるようになってる。
そこに立てかけられたベニヤ板は、雨をしのぐ屋根の役割をかろうじてしてくれそうだ。
箱の底にはバスタオルが敷かれ、ミルクをあげるための浅い皿もある。
その中で、3匹の子猫がピッタリくっついて寝ている。
その様子に目をやる奏子は、笑顔だ。
「その時、奏子はうれしかった?」
「うん。だって、クロもチャロもハロも、ここにいれば大丈夫になったから」
「そうだね。安心して眠ってる」
僕たち少しの間、子猫を見ていた。
「奏子……」
そろそろ、奏子にとってつらい話になる。
「ほかに、おじさんは……何て?」
僕は奏子がこっちを向くのを待ってから、先を続けた。
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