リアルBL!不安な俺の恋愛ハードルート

Kinon

文字の大きさ
上 下
224 / 246

53-3 浮気はしない

しおりを挟む
 前にいた女子数人に続いて体育館に入ると、ちょうど観客が一斉に笑ったところだった。

 学祭のライブ会場である体育館は、暗幕を張らず明るいまま。ステージ前に5メートル強の空きスペースがあって、そこから後ろ3分の2くらいまでパイプイスが並んでて。
 後方のドアから、その客席まで歩いてく。

 ステージの真ん中でコントをやってるのは、確か2-Eの二人だ。
 ツカミはバッチリらしく、大勢の客の前で喋る二人は堂々としてて見てて安心な感じ。
 冷めたムードだと、見てるほうがなんか恥ずかしくなる時あるよね。



「ウケるお笑い出来るのってすごいな」

「ああ。俺にゃ真似出来ない」

 頷いた涼弥が、空いた席に座ろうとする俺の肩を叩く。

「沙羅たちがいるぞ」

 見ると、左側の前3列めらへんにいた。
 海咲みさきちゃん、深音みお、和沙と一緒だ。

「何か聞くことあるって言ってたろ」

「あ、うん。始まっちゃってるけど……大丈夫かな。ちょっと行ってくる。待ってて」



 涼弥を置いて、沙羅たちのところへ。
 横から近づく俺に、深音が気づいた。隣は和沙。で、海咲ちゃん、沙羅って横一列に座ってる。

將悟そうごも来たんだ。この人たちおもしろいね」

「うん。みんなでお笑い見に来たのか? バンド?」

 沙羅も俺に気づいて手振ったけど、すぐに海咲ちゃんと話しながら視線はステージだ。
 誰目的で来たのか知るだけなら、深音に聞いても同じだよな。

「そうだ! 生徒会長、おめでとう!」

「……ありがとう。成り行きでさ」

 めでたくないし、乗り気でもない……やるしかないんだけども。
 あと、声小さめにしよう。

「がんばってね。あ……今、平気? 話せる?」

「え、うん。俺も聞きたいことある……」

 深音に言いながら、和沙を見る。

「行って。大丈夫だから」

 許可をもらった俺と深音は、客席を離れ壁際に移動した。



「將悟の聞きたいことって?」

 深音に先を促され。

「沙羅に聞いてくれって佐野に頼まれたんだけどさ。海咲ちゃんが誰目当てでライブ見たいのかどうか」

「海咲、お笑い好きなの。同じクラスの子の彼氏が出るって聞いて、絶対見に行くねって約束したみたい。だから、その人が目当て……っていうのかな? 今やってる左側の人」

「そうなんだ」

 友達の彼氏を見に来たんなら、佐野が気にする必要はないな。
 よかった。
 悲しいお知らせしなくて済む。

「ありがと……あ。海咲ちゃんには、佐野が知りたがってたって内緒にしといて」

「わかった」

「で、お前は? 話って何かあったのか?」

「私じゃなくて、沙羅のことなんだけど……」

 深音の表情が微妙だ。

「彼氏の樹生くん、今お化け屋敷でゾンビでしょ? 最後まで?」

「うん。沙羅と海咲ちゃん、午後イチで来た。樹生がどうかした?」

 そういや、樹生には会ってない。
 でも……沙羅の様子見たかぎり、ケンカしてるふうじゃなかったよな。

「海咲はお笑いの人目的だけど、沙羅は……バンドで見たい人いるって……その人、3年生で……」

 言いにくいことなのか、言ったらマズいことなのか。
 歯切れの悪い深音の言葉の先を待つ。

「去年、沙羅たちとよくライブハウスに行ってたの、知ってる?」

「あー……夏頃から何回か、話聞いた。クリスマスとかも行ってたよな」

「そう。でね、そこでギター弾いてる人……沙羅が好きになって。それで……」

 考えるように、深音が少し間を置いた。

「その人と何かあったみたい。將悟に話してるかわかんないけど……」

 話してない。
 沙羅がバンドマンとどうこうってのは初耳だ。



 ただ……。
 深音がぼかした『何かあった』が。つき合ってないけどセックスしたって意味なら、聞いてる。

 沙羅の初体験の相手だ。
 うちの学園の3年……話に合う。

 で、その男を見に来たのか。

 見たいって、純粋にライブを?
 懐かしくて?
 過去の男……見たくなる心境って?



「誰かまではわからないけど、少し聞いてる。樹生は知ってるのかな」

「みんなといる時会ったことあるから。それでね、昼前……沙羅と海咲がアイス買いに行ってる時、マップの前で樹生くんと会って……頼まれたの」

「何……?」

「ライブで、沙羅の様子が変だったら教えてほしいって」

 深音が不安げな顔してる。

「変って、どんなの? ウットリ見つめてたら? ライブでノリノリで跳ねてたら?」

「ノリノリなのは変じゃないんじゃん? どんなバンドか知らないけどさ」

「終わって声かけられて仲良く話してたら?」

「うーん……そのくらいは……つーか。樹生は沙羅の浮気の心配してるわけじゃないかも。会ってまたつらくなるとか、そういう……」

「つらいなら、見に来ないでしょ」

「確かに……でも、樹生が浮気の心配って……」

「和沙も言ってた。自分がしたことされる心配、する資格ないから。何もしなくていい。沙羅は浮気なんかしない」

「まぁ、そうだな」

 大筋は同意。

「お前は? もし、何かあやしかったら……樹生に教えるか?」

 弱々しい笑みを浮かべる深音。

「もう、メールしちゃったの」

「え?」

「和沙が。『気になるなら自分の目で確かめに来て。その男の出番、ラストだから4時20分』って……樹生くん、来るかな?」

「どう……だろう。あっち、ヒマになってたらたぶん……」

「沙羅は、来てくれたら嬉しいよね。浮気の心配されたとしても」

「あー……そうかもな」

 心配、させたがってたよね。
 俺にはよく理解出来ない心理だけど。

「樹生くんに来てほしい。でも、来なくて……沙羅がその人と喋ったりしたら、教えたほうがいい?」

 喋るくらい何でもない。
 けど。
 心配されたいならさせたほうがいいのか?
 そもそも、樹生は心配するか?

「和沙に賛成。気になって、当番抜けてここ来るならそれでよし。来ないなら、それもよし。深音は何もしなくていいと思うよ」

「うん……そうする」

 ホッとした様子の深音の瞳が、イタズラっぽく光る。

「將悟は浮気とか、しないでしょ?」

「しない。する気ないし、したら大変だ」

「お仕置きされちゃう?」

 腐女子って……好きだよな、そのワード。

「たぶん……かなりひどく。お前も、気をつけろよ。和沙もそういうの厳しそう」

「わかる? お仕置きはいいけど……殺されちゃうかも」

 わお……過激だね?
 てか、お仕置きはいいんだ?

「しないから大丈夫」

 目を見開いた俺を安堵させて笑う深音。

「よかった」

 ふと、客席に目をやると、和沙がこっちを見てる。

「そろそろ行かないとマズいだろ」

「うん。將悟もライブ楽しんで」

「ん。じゃあな」



 深音との話を終え、涼弥のところに戻った。

「悪い。放置して」

 時間かかっちゃったから、そう言って隣に座ると。

「沙羅じゃねぇ、前の女と……」

 涼弥に見据えられ。

「ほかの話もあってさ。ごめん」

 悪いことは何もしてないんだけども。
 謝ると。

「お仕置きだな」

 ほんのり笑みを含んだ低い声で言われた。



しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

処理中です...