218 / 246
52-5 まずはメイズへ
しおりを挟む
時刻は2時15分過ぎ。
午後のライブは3時半からだから、まずは相性チェックメイズに行くことにした。
「場所は……」
「うちのカフェの先だ」
涼弥が即答し。案内マップを見ることなく校舎に入り、階段を上る。
「じゃあ……沙羅たち、お前の店行ったか?」
「来たらしいが、運良く俺が上がってからだ」
「残念。見てないのか」
メイド服着た涼弥、激レアなのに。
「沙羅にも誰にも見せるなよ、あの写真」
「褒美のお願い、それにするか?」
「……いや。褒美とは別で、写真俺にくれ」
「俺が大事に持っとく」
涼弥がさらに何か言う前に。
「見たきゃいつでも見れるだろ。いつも一緒にいるんだからさ」
納得させる理由を挙げて、笑みを浮かべた。
2-Aのカフェの前には、入店待ちの列。
男子高校生のメイド服姿……今年は成功で何よりだ。客層を見ると、女にウケてるらしい。
客として入るかって涼弥に聞いたら。
『俺以外の男に接待されたいのか?』……って言うからさ。
されたいわけじゃないし。
お腹もいっぱいだし。
今回は、いいや。
メイドの涼弥になら接待されたかったけどな。
素通りするのもなんだから。
入口にいたゴツいメイドに、涼弥が手を上げて挨拶し。チラッと中を覗かせてもらった。
広い教室にギッシリのテーブルは満席で、7割が女の客だ。予想に反して、店員はほぼメイド服。執事の格好してるのは3人だけ。
ほんとにみんな、ノリノリでメイドカフェやってるのか……!
学祭で羞恥心薄まってるのか。
そんなもの、もとからないのか。
謎……でもないのか。
俺だったら嫌だけど。
涼弥も嫌々だったけど。
そういうほうが少数派なのか……?
あ。上沢がいる。
涼弥と同じ、黒のロング丈ワンピースに白いフリフリエプロンで。頭にもデカいフリフリリボンつけて……超楽しげに客と喋ってる。
まぁ、その客は自分の彼氏である生徒会長と役員二人なんだけども。
涼弥と違って。
全然嫌じゃないんだ?
その格好、彼氏に見られるの……恥ずかしさとかなく。
むしろ、来て見て触って楽しんでーって感じ。
恋人を喜ばすことなら、何でもアリ……なのか?
「こんなに繁盛するとは思わなかった」
ドアから離れ、涼弥が頭を振る。
「 男のメイドなんか見て、何が楽しいんだろうな」
「ギャップがいいんだろ。あと、慣れない服着た男が自分に奉仕してくれるとことか?」
「わからねぇ。お前みたいに似合うヤツだけなら、アリだと思うが……」
「似合うって決めるな。本人が嫌がって着る服は似合わない」
「猫の耳は気に入ってたのか」
涼弥が笑う。
「今度、用意しといてやる。尻尾もほしいだろ」
「……お前がつけろよ」
息を吐いて、笑った。
「きっとかわいいぞ」
そして、メイズに到着。
ここも大繁盛してて、長い行列が出来てる。男女の組み合わせより、同性同士2人組が多い。
うちの生徒も客もホモカップルばっかり……なわけでなく。
『恋人関係はもちろん、友人関係の相性チェックにもぜひ!』
壁のポスターにこう書いてあるからだ。
なるほどねー。
これだと、友達だけど実は恋人同士や……実は友達に秘めた思いを抱いてるって場合にありがたいかも。
いや。ここで出る相性度を信頼する根拠はないし、みんな遊びだってわかってやってるはず……。
「中でどの道選ぶか、インスピレーションが合うほど相性がいいって……入口も通る道も違うのにおかしくない?」
「同じ出口に着きたいって思いで勘が冴えるとか?」
「お互いの気配を感じて近づくんだよ」
「何それ匂い?」
「こんなのただの運だろ」
「そう。二人の運試し」
並んでる客たちの会話を聞く限り。この相性チェックは何の根拠もない遊びって百も承知で、その上で……ちょっぴり期待してるってとこか。
「混んでるのに進むの速いな」
呟くような涼弥の声。
続く溜息。
もしかして……ちょっとドキドキしてたりする……のか?
「中、迷路っていうか。何通りかに分かれてる道歩くだけだろ? クイズとかあるわけじゃないし。みんな、サクサク進んでるんだよ。気楽にさ」
もう一度。
「結果は気にするな。ヘコむ可能性あるならやめよう」
釘を刺すと、涼弥が儚げに笑う。
「ヘコまない……ただの遊びだ」
「ん。そうそう」
嘘くさいけどスルーして。
「100パーだったらラッキー。25パーだったら、やっぱ適当だなって思えばいいじゃん?」
この相性チェックの結果のパーセンテージは、100、75、50、25の4種類って書いてある。
「俺たち、今こんなにうまくいってるだろ。100じゃなきゃ、俺たちの相性見抜けないここがバカなの」
一応、結果が悪かった時のためのフォローコメントをしておいた。
「そうだな」
コクコクと頷く涼弥のケータイが鳴り。取り出してタップした画面を見て、笑みを浮かべる。
「木谷からメールだ。津田と会ったら機嫌よくて、いい感じに告白まで持ってけそうだってのと……さっきの相談の礼と……」
涼弥が俺をチラ見して、視線を画面に戻す。
「あ……さっきの礼だ」
何? 何かごまかしたか?
ケータイをポケットにしまい、再び俺を見た涼弥に瞳で問うと。
「木谷が、その……」
言いにくいのか、咄嗟にフェイクを考えてるのか。
最近の涼弥は、俺の前で素直な感情を顔に出すけど。
もともとポーカーフェイスが得意な男だから……本気で隠された思考は読めない。
「選挙の結果、楽しみですねって……お前の気に障ると思ってよ」
「そうか……」
選挙か。
気使ってくれてたのに……何疑ってんだ俺。
涼弥のこと前よりわかったつもりでいて、まだまだだ。修行が足りん。
「ん……大丈夫。それにしてもさ」
窺うような心配顔の涼弥に微笑み。
「木谷と仲良くなったんだな」
「ああ……気さくでわりといいヤツだ。お前狙ってるんじゃねぇなら、警戒する必要もねぇ」
「津田とうまくいくといいけど……」
親友の突然の告白にどう反応するのか……津田の性指向が全くわからないから、何とも。
木谷の読みでは、五分五分だったか。
「お前も応援してるんだろ? 俺と話すのオーケーしたし」
「あいつのためもあるが、善行を積んどこうと思ってな」
ニコッとする涼弥。
「また、そんな……バチがあたるの回避するためとか? バチなんかあたらないってば」
「わかってる。ただ……いいことしてりゃ、悪いことしちまった時に許してくれって頼みやすいだろ」
「誰にだ。カミサマじゃないよな?」
「……あるとすりゃ、お前にだけだ」
僅かに眉を寄せた俺に。
「何もしちゃいねぇぞ」
涼弥が急いで続ける。
「気休めっつーか、念のためっつーか……あと、これだ」
「これ?」
前を顎で示す涼弥。
「こういう時のためだ。運試しみたいなもんなんだろ?」
相性チェックメイズの受付は、もうすぐそこ。
「そう……だな」
一気にプレッシャーを感じて。
不覚にも……ほんのちょっとだけドキドキしてきた。
午後のライブは3時半からだから、まずは相性チェックメイズに行くことにした。
「場所は……」
「うちのカフェの先だ」
涼弥が即答し。案内マップを見ることなく校舎に入り、階段を上る。
「じゃあ……沙羅たち、お前の店行ったか?」
「来たらしいが、運良く俺が上がってからだ」
「残念。見てないのか」
メイド服着た涼弥、激レアなのに。
「沙羅にも誰にも見せるなよ、あの写真」
「褒美のお願い、それにするか?」
「……いや。褒美とは別で、写真俺にくれ」
「俺が大事に持っとく」
涼弥がさらに何か言う前に。
「見たきゃいつでも見れるだろ。いつも一緒にいるんだからさ」
納得させる理由を挙げて、笑みを浮かべた。
2-Aのカフェの前には、入店待ちの列。
男子高校生のメイド服姿……今年は成功で何よりだ。客層を見ると、女にウケてるらしい。
客として入るかって涼弥に聞いたら。
『俺以外の男に接待されたいのか?』……って言うからさ。
されたいわけじゃないし。
お腹もいっぱいだし。
今回は、いいや。
メイドの涼弥になら接待されたかったけどな。
素通りするのもなんだから。
入口にいたゴツいメイドに、涼弥が手を上げて挨拶し。チラッと中を覗かせてもらった。
広い教室にギッシリのテーブルは満席で、7割が女の客だ。予想に反して、店員はほぼメイド服。執事の格好してるのは3人だけ。
ほんとにみんな、ノリノリでメイドカフェやってるのか……!
学祭で羞恥心薄まってるのか。
そんなもの、もとからないのか。
謎……でもないのか。
俺だったら嫌だけど。
涼弥も嫌々だったけど。
そういうほうが少数派なのか……?
あ。上沢がいる。
涼弥と同じ、黒のロング丈ワンピースに白いフリフリエプロンで。頭にもデカいフリフリリボンつけて……超楽しげに客と喋ってる。
まぁ、その客は自分の彼氏である生徒会長と役員二人なんだけども。
涼弥と違って。
全然嫌じゃないんだ?
その格好、彼氏に見られるの……恥ずかしさとかなく。
むしろ、来て見て触って楽しんでーって感じ。
恋人を喜ばすことなら、何でもアリ……なのか?
「こんなに繁盛するとは思わなかった」
ドアから離れ、涼弥が頭を振る。
「 男のメイドなんか見て、何が楽しいんだろうな」
「ギャップがいいんだろ。あと、慣れない服着た男が自分に奉仕してくれるとことか?」
「わからねぇ。お前みたいに似合うヤツだけなら、アリだと思うが……」
「似合うって決めるな。本人が嫌がって着る服は似合わない」
「猫の耳は気に入ってたのか」
涼弥が笑う。
「今度、用意しといてやる。尻尾もほしいだろ」
「……お前がつけろよ」
息を吐いて、笑った。
「きっとかわいいぞ」
そして、メイズに到着。
ここも大繁盛してて、長い行列が出来てる。男女の組み合わせより、同性同士2人組が多い。
うちの生徒も客もホモカップルばっかり……なわけでなく。
『恋人関係はもちろん、友人関係の相性チェックにもぜひ!』
壁のポスターにこう書いてあるからだ。
なるほどねー。
これだと、友達だけど実は恋人同士や……実は友達に秘めた思いを抱いてるって場合にありがたいかも。
いや。ここで出る相性度を信頼する根拠はないし、みんな遊びだってわかってやってるはず……。
「中でどの道選ぶか、インスピレーションが合うほど相性がいいって……入口も通る道も違うのにおかしくない?」
「同じ出口に着きたいって思いで勘が冴えるとか?」
「お互いの気配を感じて近づくんだよ」
「何それ匂い?」
「こんなのただの運だろ」
「そう。二人の運試し」
並んでる客たちの会話を聞く限り。この相性チェックは何の根拠もない遊びって百も承知で、その上で……ちょっぴり期待してるってとこか。
「混んでるのに進むの速いな」
呟くような涼弥の声。
続く溜息。
もしかして……ちょっとドキドキしてたりする……のか?
「中、迷路っていうか。何通りかに分かれてる道歩くだけだろ? クイズとかあるわけじゃないし。みんな、サクサク進んでるんだよ。気楽にさ」
もう一度。
「結果は気にするな。ヘコむ可能性あるならやめよう」
釘を刺すと、涼弥が儚げに笑う。
「ヘコまない……ただの遊びだ」
「ん。そうそう」
嘘くさいけどスルーして。
「100パーだったらラッキー。25パーだったら、やっぱ適当だなって思えばいいじゃん?」
この相性チェックの結果のパーセンテージは、100、75、50、25の4種類って書いてある。
「俺たち、今こんなにうまくいってるだろ。100じゃなきゃ、俺たちの相性見抜けないここがバカなの」
一応、結果が悪かった時のためのフォローコメントをしておいた。
「そうだな」
コクコクと頷く涼弥のケータイが鳴り。取り出してタップした画面を見て、笑みを浮かべる。
「木谷からメールだ。津田と会ったら機嫌よくて、いい感じに告白まで持ってけそうだってのと……さっきの相談の礼と……」
涼弥が俺をチラ見して、視線を画面に戻す。
「あ……さっきの礼だ」
何? 何かごまかしたか?
ケータイをポケットにしまい、再び俺を見た涼弥に瞳で問うと。
「木谷が、その……」
言いにくいのか、咄嗟にフェイクを考えてるのか。
最近の涼弥は、俺の前で素直な感情を顔に出すけど。
もともとポーカーフェイスが得意な男だから……本気で隠された思考は読めない。
「選挙の結果、楽しみですねって……お前の気に障ると思ってよ」
「そうか……」
選挙か。
気使ってくれてたのに……何疑ってんだ俺。
涼弥のこと前よりわかったつもりでいて、まだまだだ。修行が足りん。
「ん……大丈夫。それにしてもさ」
窺うような心配顔の涼弥に微笑み。
「木谷と仲良くなったんだな」
「ああ……気さくでわりといいヤツだ。お前狙ってるんじゃねぇなら、警戒する必要もねぇ」
「津田とうまくいくといいけど……」
親友の突然の告白にどう反応するのか……津田の性指向が全くわからないから、何とも。
木谷の読みでは、五分五分だったか。
「お前も応援してるんだろ? 俺と話すのオーケーしたし」
「あいつのためもあるが、善行を積んどこうと思ってな」
ニコッとする涼弥。
「また、そんな……バチがあたるの回避するためとか? バチなんかあたらないってば」
「わかってる。ただ……いいことしてりゃ、悪いことしちまった時に許してくれって頼みやすいだろ」
「誰にだ。カミサマじゃないよな?」
「……あるとすりゃ、お前にだけだ」
僅かに眉を寄せた俺に。
「何もしちゃいねぇぞ」
涼弥が急いで続ける。
「気休めっつーか、念のためっつーか……あと、これだ」
「これ?」
前を顎で示す涼弥。
「こういう時のためだ。運試しみたいなもんなんだろ?」
相性チェックメイズの受付は、もうすぐそこ。
「そう……だな」
一気にプレッシャーを感じて。
不覚にも……ほんのちょっとだけドキドキしてきた。
0
お気に入りに追加
326
あなたにおすすめの小説
召喚された美人サラリーマンは性欲悪魔兄弟達にイカされる
KUMA
BL
朱刃音碧(あかばねあおい)30歳。
ある有名な大人の玩具の開発部門で、働くサラリーマン。
ある日暇をモテ余す悪魔達に、逆召喚され混乱する余裕もなく悪魔達にセックスされる。
性欲悪魔(8人攻め)×人間
エロいリーマンに悪魔達は釘付け…『お前は俺達のもの。』
山本さんのお兄さん〜同級生女子の兄にレ×プされ気に入られてしまうDCの話〜
ルシーアンナ
BL
同級生女子の兄にレイプされ、気に入られてしまう男子中学生の話。
高校生×中学生。
1年ほど前に別名義で書いたのを手直ししたものです。
童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった
なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。
ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…
えっちな美形男子〇校生が出会い系ではじめてあった男の人に疑似孕ませっくすされて雌墜ちしてしまう回
朝井染両
BL
タイトルのままです。
男子高校生(16)が欲望のまま大学生と偽り、出会い系に登録してそのまま疑似孕ませっくるする話です。
続き御座います。
『ぞくぞく!えっち祭り』という短編集の二番目に載せてありますので、よろしければそちらもどうぞ。
本作はガバガバスター制度をとっております。別作品と同じ名前の登場人物がおりますが、別人としてお楽しみ下さい。
前回は様々な人に読んで頂けて驚きました。稚拙な文ではありますが、感想、次のシチュのリクエストなど頂けると嬉しいです。
開発されに通院中
浅上秀
BL
医者×サラリーマン
体の不調を訴えて病院を訪れたサラリーマンの近藤猛。
そこで医者の真壁健太に患部を触られ感じてしまう。
さらなる快楽を求めて通院する近藤は日に日に真壁に調教されていく…。
開発し開発される二人の変化する関係の行く末はいかに?
本編完結
番外編あり
…
連載 BL
なお作者には専門知識等はございません。全てフィクションです。
※入院編に関して。
大腸検査は消化器科ですがフィクション上のご都合主義ということで大目に見ながらご覧ください。
…………
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる