上 下
214 / 246

52-1 後輩へのアドバイス

しおりを挟む
「終わった。待たせたな」

「ああ。將悟そうご……」

 はれて恋人と一緒に過ごせる自由時間……なんだけど。
 俺を待ってたのは、涼弥だけでなく。 

「お疲れさまです。早瀬さん、ちょっと時間もらえますか?」

 さっきから涼弥と話し込んでた1年が言った。

 涼弥とちょっとだけかぶる、この男。名前……何だっけ。

「え……と?」

木谷きたにだ。お前に聞きたいことがあるらしい」

「俺に……何?」

「向こう、杉原さんに聞こえないとこで」

 階段のほうを示す木谷。

「そ……れは……」

 いいのか?

 涼弥を見ると。

「かまわない。行ってやれ」

「じゃあ……」

 すでに歩き出した木谷と、階段前の空きスペースへ。



「俺、津田が好きなんです」

 足を止めて振り返り。唐突に、木谷が切り出した。

「中学から一緒で一番の親友で。俺がそういう目で見てるなんて、あいつは夢にも思ってないはずです」

「そう……か」

「俺は男に興味ないって言ってたし。あいつにもゲイの素振りは全然なかったし。嫌われるのが怖くて、必死で気持ち隠して。そのくせ、頭の中ではあいつのことばっか考えててって……ヤバいですよね」

 何て答えていいかわからず。無言でいると、すぐ。 

「似てるでしょ? つき合う前の、あなたと杉原さんの関係に」

 まぁ、ザックリ見れば……。

「そ……うかも……」

「相談したんです。もう限界近いし、俺はどうしたらいいか。杉原さんは、どうやってうまくいったのか」

「俺たちは……」



 いろいろあって。
 きっかけがきっかけを呼ぶ感じで。
 ただ。
 今こうなれたのは、お互いにずっと……思ってたからだ。



『お前が好きだ』って。



「きっかけはあったけど、それで突然その気になったわけじゃない。うまくいくために何かしたとかじゃなくてさ」

 木谷はじっと俺を見てる。

「涼弥は? 何て言ってた?」

「『俺はろくなことしちゃいない。將悟が俺を好きだっての知って、信じただけだ。奇跡だろ』って。あの人、ほんとにあなたが好きなんですね」

「うん……」

 照れる。人に言われると。

「あなたは? ほんとに杉原さんを好き? 流されたんじゃなく?」

「そんなわけあるか」

「親友だから。失くしたくないから、なんとか応えようとしたんじゃなく?」

「……そんなんでつき合ったら、お互いつらくなるだけだ」

 感情を抑えた声で言った。



 ちょっとムカつき。
 ちょっと呆れ。

 ちょっと、コイツの真意が見えたから。



「すみません。嫌な聞き方しました」

「わかったろ。ほんとだって」

 木谷が苦笑する。

「はい。これで津田にハッキリ言い切れる。早瀬さんたちは本物だから、心配するなって」

「心配? してるのか? 津田が……俺を?」

「あいつ、早瀬さんに憧れてるんですよ。ここで同じ部活入って、何かと面倒みてもらって」

「俺、あんまり特徴ないほうだと思うけど……」

「自分じゃわからないんですね」

 方眉を上げる俺に。

「自分の弱い部分を知ってて、それを表に出さないでいられる。絵を描いてる時は以外は、マジメなクラス委員長の自分を徹底させてるみたいだ……」

 木谷の言葉に軽く驚いた。
 ほとんど部活でしか会ってないのに。津田は、俺の委員長仮面に気づいてたのか。

「ここでうまくやってくお手本にしたかったって。あいつも、弱い面見せちゃったら嗜虐心を刺激するタイプだから。あと、劣情をそそる系。あなたと同じ」

「え……俺はそんなんじゃないぞ」

「そうですか? 今まで襲われたこと一度もない?」

「……ある、けどさ」

 木谷が口角を上げる。

「実際、津田もうまくやってました。目立たない弱者じゃなくて、簡単に手出しされないバリア張る感じで。俺もいるし。で……選挙も立候補した」

「そっ……か……」

「なのに、いきなり。杉原さんとつき合い出したから。あいつ、動揺しちゃって。彼女もいたはずなのに、どうして友達と!?」

 彼女は偽装で。
 次々といろいろあって。
 展開は確かに早かったけど。

「ずっと好きだったんだよ。ハッキリ自覚したのがひと月前なだけでさ。涼弥の気持ち知ったのも」

 俺がそう答えると、木谷が溜息をついた。

「杉原さんの押しに負けて、とか。さっき俺が言ったようなこと、津田に聞いて。俺は違う心配しました。あなたを好きなんじゃないか……」

「それはないだろ」

「はい。否定された上、エロい目で見るなって怒られた。でも、杉原さんとの仲は半信半疑で。だから、俺が聞こうかなって。ちょうど、風紀で一緒だし」

「津田とそういう話あんまりしてないけど……聞かれればちゃんと答えたよ。お前が教えてあげて」

「そのつもりです」

 木谷の視線が俺の後ろへ。
 つられて振り向くと、腕組みした涼弥が俺たちを見てる。

「今の話、涼弥がいても話せただろ?」

 視線を戻して木谷に言うと。

「無理してつき合ってた場合、本当のこと言えないでしょ。友達としての気持ちしかないけど傷つけたくないから……とか」

 なるほど。
 でも……。

「よく、涼弥がオーケーしたな」

「あーソレ。俺と二人で話すの心配するってことは、あなたを信用してないんだなって言ったから」

 木谷が笑う。

「俺、人の弱み見抜くのけっこう得意で。杉原さん、自信たっぷりに見えてそうじゃないとこ……かわいいですよね」

「お前が言うな」

 このあざとい感じ。
 外見の雰囲気は涼弥と同種でも、中身は全然似てないじゃん。

「あなたを落とした杉原さんに興味湧いて、近づいて。はじめは警戒されちゃったけど、津田のこと相談したら……思いのほか親身になってくれたんです」

 涼弥が警戒解いたの、コイツが狙ってるのが俺じゃなく津田だってわかったからだな。

「で、今日。選挙の発表のあとぶっちゃけることにしたから、津田を知ってる早瀬さんにアドバイスもらいたい。取り次いでほしいって頼みました」

 急に、シリアスな瞳で俺を見つめる木谷。

「選挙の結果が悪かったとして。気落ちしてるとこつけ込んで告るのって卑怯ですか?」

「つけ込むくらいでうまくいくなら、ほかの時でもオーケーすると思うから……いいんじゃないか」

「そうかな。弱ってる時って、ガード緩くなるでしょ。だから、受け入れてもらいやすい気がして……」

「それ、投げやりになってるみたいじゃん。その気がなきゃ、津田はちゃんとノーって言えるヤツだと思うよ」

「あ……やっぱり?」

 木谷がニッとする。

「早瀬さんは? 落ち込んでる時にやさしくされたら……普段ならダメっていうようなことでも、いいよってなっちゃいませんか?」

「ならない……はず」

 はずって何だ。
 言い切れないのか俺。

「もし、なるなら。普段でもいいよって言えることだろ」

「そっかぁ……うん。そうですね」

「木谷」

 長くかかった話も終わりそうになったから。

「津田もお前が好きって可能性、自分でどれくらいだと思ってる?」

 聞いた。
 残酷かもしれないけど。

「うーん……49パーセントくらい?」

「なら。返事もらう前に手は出すな」

 反応なんか人に依る。
 俺の知る津田は、ほんの一部だろうし。
 この二人がどれくらいお互いを大事に思ってるかも知らないし。

 だけど。
 だから。

「津田にその気がなかったら傷つける。お前も傷つく。失くす覚悟がないなら、一か八かはやめろ」

 出来るアドバイスはこれだけだ。

 木谷が俺を見つめて頷いた。

「わかりました。ありがとうございます」

「津田、当選するといいな」

「そしたら、一緒に喜んで……ドサクサにまぎれて告ります。そっちのほうが俺も嬉しいし」

「ん。がんばれ」

「はい」

 素直な笑みを浮かべる木谷に微笑みを返し。

「じゃあ、津田によろしく」

 待ちくたびれてるだろう涼弥のもとへ戻った。



しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが

なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です 酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります 攻 井之上 勇気 まだまだ若手のサラリーマン 元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい でも翌朝には完全に記憶がない 受 牧野・ハロルド・エリス 天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司 金髪ロング、勇気より背が高い 勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん ユウキにオヨメサンにしてもらいたい 同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

処理中です...