上 下
147 / 246

37-1 どうしようもねーバカだろ俺……!

しおりを挟む
 5時25分。
 涼弥が補習&追試から解放される……のを、南海みなみが教室の前で待ってる。
 終わってすぐに、涼弥が俺のメッセージを読むのが先か。教室を出た涼弥に、南海が声かけるのが先か。
 どっちにしろ、二人は俺が今いるここに来る。



 写真部の部室は、普通の教室より狭い。奥に暗室があるせいか。
 この広くない部屋に、桝田ますだと一緒にいる。俺がここにいるってバレないように、今すでにケータイを切ってるのが不安だ。

 不安なのは、桝田をほとんど知らないから。

 うちの学園の生徒に、男に襲われる危険性を否定するヤツはいない。見たり聞いたり危ない目にあったり……嫌でも、身近に起こり得る可能性アリって認識になってる。

 自分がゲイでもノンケでも。よく知らない男には気をつけようってね。



 俺がここにいることを簡潔に説明して、南海が部室を出て行ってから。室内は静かなまま。
 部室のドアの向かいに暗室へのドア。左右の壁にパソコンが1台ずつ置かれたデスクが合わせて10。真ん中は空きスペースだ。暗室側の天井に、今は閉じてるプルダウン式のスクリーンが吊ってある。

 左奥のデスクに腰を据え、桝田はパソコンを操作してる。逆側のデスクのイスに座り、その後ろ姿を見てる俺。



 想像と違って。桝田は体育会系のがっしり体型に、日焼けした野性味ある顔の男だった。黒い短髪で背は高め。雰囲気は紫道しのみちに近い。

 あの動画を撮った写真部の部長で、南海の友達っていう先入観から。
 線の細い、色白で神経質そうなインドアタイプだと思ってたよ。あと、南海と同類の……一癖も二癖もありそうな男だって。

 でも、目の前にいる桝田は、無口で他人が苦手っぽい感じ。



『暗室で、お喋りでもして友好を深めてて。俺と杉原くんが入ってきたら静かにね』



 南海はそう言ったけど。
 まだ暗室に身を隠してもいないし、お喋りもしてない。

「あの、桝田さん。そろそろ隠れないと……」

 振り向いた桝田が俺に向ける目が険しくて、たじろいだ。
 集中力の要る操作中だったか。そもそも、作業の邪魔になるこの一連の計画が迷惑なのかも。

「そうだね」

 溜息まじりに桝田が答える。ワイルドな見た目にそぐわず、ソフトな言葉づかいだ。
 腰を上げた桝田が、険しさを増したってより……どこか苦痛な表情で俺を見る。

「こういうことはやりたくないんだけど、仕方ない」

 あー……告白シーンの立ち聞きは気がすすまないのか?
 でもさ。
 俺と涼弥のキスシーン、のぞき見して撮ったじゃん?

 そう思いつつ。

「すみません」

 謝る俺に、桝田が首を横に振った。

「キミは悪くない」

 暗室のドアを開けて灯りをつけた桝田が、俺を先に通すためにドアを支えて立つ。

 セーフライトの赤い光じゃなく普通の電球に照らされた部屋は、いろんな器具や機材が棚と流し台に置かれてる。デジタルが主流の今は、あまり暗室として使われてないみたいだ。 

「謝るのは俺のほうだよ」

 え……!?

 桝田を越えて3歩ほど暗室に足を踏み入れたところで。
 背後からの桝田の声に1秒遅れて、両手を乱暴に掴み上げられた。

「いッ……何……ぐッ……!?」

 口にタオルか何かを押し込まれ。後ろ手に両腕を押さえられたまま後方に引っ張られる。

「おとなしくしといたほうがいいぜ」

 この声……桝田じゃない……!

 耳元で言いながら、俺の口に素早くダクトテープを貼りつけて男が笑う。

「そうすりゃ何もしねぇよ。今はな」

 後ろで、両手の親指をギュッと括られた。たぶん、結束バンドだ。

「ここに……」

 視界に現れた桝田が、流し台の脇に脚を固定された四足の木イスを指さした。



 始めからこのつもりか……!? 南海の計画か……!?



 声は出せないから、瞳に問いを乗せて睨む俺に。

「座って。もう少ししたら話せるから」

 桝田がうっすらと微笑む。

「ごめんね。晃大こうたはここに来ない。杉原を別の場所に連れてく」

 何……だよそれ……俺は質なのか……涼弥に……何する気……。

 イスに座らされ。括られた両手の間にくぐらせたPPテープで、両足首をイスの脚に縛りつけられ。
 それをした男が目の前に立った。

「安心しろ。俺もそっち行くからよ」



 水本……!



「お前の相手はコイツがやる。ここのライブ映像、杉原と見てるぜ」

 見開いた目で水本を、そして、桝田を見つめる。



 涼弥と……ライブ……って……お前の相手は……って……。



「ごめんね」

 桝田がケータイを俺に向けた。
 無音だけど、写真を撮ったんだろう。画面をタップしてるってことは、画像を送った……きっと南海に。
 それを涼弥に見せて、連れてくのか!? どこに……!?

「杉原の出方次第じゃ、お前は無事かもしんねぇぞ?」

淳志あつし……俺は……」

隼仁はやと。今さら出来ねぇってのはなしだぜ」

「やるよ。必要なら、だ」

 水本と桝田の会話を聞きながら、状況を把握しようと気を落ち着かせようとするも……考えれば考えるほど、マズい方向に理解が進み。



 どうしようもねーバカだろ俺……!



 上沢に、江藤に警告されてたのに。シン先輩にも。
 十分警戒してたつもりなのに。

 簡単に騙されてんじゃん!

 ズルさに免疫少ないからじゃない。経験不足だからじゃない。
 甘過ぎなんだよ。ガードが緩いどころじゃない。
 自分の身を守る意識がこんな低いくせに。



 涼弥に。心配するななんて、よく言えたもんだな……!!?



 ゲームの効果音みたいな着信が鳴り、水本がケータイを取り出した。

「ゴーサインだ」

 一瞬、桝田がギュッと目をつぶったのを見た。

「ちゃんとやれよ」

 桝田の肩を叩いた水本が、視線を俺に移す。

「向こうの様子もライブ配信してやるからな。楽しみにしてろ」

 言い置いて、水本が出て行った。

 立ち上がろうとして。
 イスの背の後ろにある両手と足首が繋がってる状態じゃ、物理的に無理なことがわかった。
 口は塞がれてて喋れない。動けない。

 桝田が俺に何しようとしても……防げない。



 涼弥……!

 

 お前を守るって言ったのに……ごめん……!



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】

海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。 発情期はあるのに妊娠ができない。 番を作ることさえ叶わない。 そんなΩとして生まれた少年の生活は 荒んだものでした。 親には疎まれ味方なんて居ない。 「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」 少年達はそう言って玩具にしました。 誰も救えない 誰も救ってくれない いっそ消えてしまった方が楽だ。 旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは 「噂の玩具君だろ?」 陽キャの三年生でした。

家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている

香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。 異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。 途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。 「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!

【完結】泥中の蓮

七咲陸
BL
柳月人は前世で暴行をされ、引きこもりの末に家族と不和となり自殺をする。 もう終わった人生のはずが、目が覚めると小さい手…転生していた。 魔法と剣のファンタジーのような世界で双子の弟として転生したが、今度こそ家族を大切にしようと生き足掻いていく。 まだ幼い自分が出会った青年に初恋をするが、その青年は双子の兄の婚約者だった。 R規制は※つけています。 他サイトにも掲載しています 毎日12、21時更新

処理中です...