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28-3 おかしい、ものすごく!

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 廊下で話してる俺たちを、通行人がチラリと見やる。涼弥が俺を壁際に追い込んでる感じで……気になる構図だな、また。

「何だよ心配って。俺は江藤に会わないから平気だろ」

「上沢と二人でいちゃ危ねぇ」

 眉間に皺を刻む涼弥を。口を半開きにして、まじまじと見つめる。

「涼弥。お前……考え過ぎ。上沢が俺に何するっていうんだよ」

「何するかわかんねぇから心配なんだ。俺も行くって上沢に言っていいか?」

「いや。不自然だろそれ。つーかさ。お前はまっすぐ家帰って安静にするの。明日遊ぶんだろ?」

「お前が行くなら俺も行く。ひとりじゃ行かせねぇぞ」

「御坂と紫道しのみちもいるから。大丈夫だってば」

「上沢のところにもか?」

「それは……一応、内密行動だし……俺だけかもしれない……けど」

「ならダメだ」

 ダメって……。

「涼弥。どうしちゃったんだよ、ほんとに。痛み止め多く飲んじゃってないか? お前がそんな……」

「上沢はゲイだ。二人きりになるな」

 ずっと合わせてる瞳の奥に、見えるものに目を凝らす。



 本気で心配なのか。
 俺がゲイの男と二人でいるのが気に入らないのか。
 不要な嫉妬を感じてるのか。

 涼弥が……!?



「お前が心配してるのはわかった。けど、もっと信用しろ。俺を。ほかの男に隙なんか見せないし、ちょっとでも変な素振り見たらすぐ逃げる。お前に連絡もする」

 涼弥の不安が何でも、俺に出来るのは安心させること。
 ケガのせいで心弱りしてるとしても。
 間違って処方された薬飲んじゃってるせいだとしても……ただの嫉妬でも。

「どうしてもって言うなら、御坂たちと一緒にいろよ。それなら俺も安心だ」

 お前がひとりでウロウロしてるよりは……と、声に出さずに追加。

 涼弥が逡巡してる。



 涼弥がそういう心配するのはわかるけど、上沢が俺にってのはないだろ。
 これで嫌ってなったら……。
 上沢に、涼弥も一緒にって言う?
 内密に見張るのにそぐわない人員だけど、オーケーか? 



「わかった」

 涼弥が頷いた。
 そして。

「俺、おかしいか?」

 真剣な顔で聞く涼弥に、何て言えば……?



 おかしい。ものすごく! ヤンデレ手前っぽくなってるぞ!  

 
 
 とは言えない。ヤンデレの意味通じなそうだしね。

「ちょっとな。ケガで神経尖ってるんだよ」

 あ……薬飲んでるなら痛みは和らいでるのか。人間、身体に痛いとこあると気持ちもささくれるから、そのせいかとも思ったんだけど。

「ケガは関係ない気がするが……」

「耳の傷のせいで熱っぽかったじゃん? だから、今もまだ頭ボーッとしてるとか。あとは……ほら、薬のせい。眠くなるのあるだろ」

「頭……変だな。お前に会ったら、熱くなってきた」

 おでこ、触って確かめたい。
 でも、今ここではどこも触らないほうがいい。手もやめとこう。
 痛み止め飲んでれば、熱はないはず。

「心配するな。きっと一時的だからさ。あ、小泉だ。お前も教室戻らないと……またあとで」

 廊下の端に、担任の小泉の姿。微妙なところでタイムリミット。

「ああ……またな」

 心もとなげに微笑んで、涼弥が去っていった。



 大丈夫だよね?
 
 確かに変だったから、俺のほうが心配になるんだけど。
 でも。
 今まで避けられ気味だったおかげで、近づいた距離が倍嬉しい。

 俺も、涼弥に会ったら熱くなってきた気が……おかしいのは、俺もかもしれない。

 

 午前の授業は平和に滞りなく終わり。
 ランチタイムは、朝の続きだ。

 かいと御坂が昨日練ったプランの流れをざっと聞いた。

「終わったら、俺は上沢と先に寮に行ってる。鈴屋は斉木のところ。凱は4時までにCルーム。江藤が来て二人がいなくなってから、御坂と紫道がCルームで待機って感じか?」

「そう。何かあったら連絡は俺のところに。一番安全で手が空いてるからさ。必要ならみんなに声かけるよ」

 御坂に頷く。

「頼むな。ブザー鳴るまでいかなくても、助けが要るなら呼べよ。凱も鈴屋も」

「オッケー」

「うん。隣でブザー鳴った時はすぐ連絡するから」

 軽い調子の凱と鈴屋を見て息を吐いた。

「二人とも危機感薄くないか? SOSに駆けつけてドア越しに怒鳴っても、怯まず続行される可能性はあるんだぞ。出来るだけ急いでドア破るけど……」

「僕は大丈夫。凱のほうの様子探るのがメインで、僕自身は念のための警戒だし」

「俺も平気。5分10分何されたってダメージねぇよ」

 危機感……ないんだな。俺のほうがハラハラしてる。

「あと、気になったのひとつ。凱。江藤以外に誰かいたら即SOSして」

「何で?」

「な……んでって、危ないじゃん! ほかのヤツいる時点で、お前取り押さえる気満々だろ?」

「でもさー、向こうの見張りかもよ。俺から江藤守るための」

「じゃあ、俺も部屋に入れてもらう。それなら文句ない」

 凱が唇の端を上げる。

將梧そうご。そんな心配しなくていーよ。悪いほうばっか考えんな。気張って疲れるぜ」

「そう……だけど。もしもの時の策がないと不安で」

 心配し過ぎか?
 これじゃ涼弥と同じ……じゃないよね。江藤が凱をどうこうする可能性は、実際あるもんな。

「大丈夫。話するだけ。噂確かめてくるからさー」

「俺も上沢に聞いてみる。あー……」

 そうだ。頼んどかないと。

「涼弥が、上沢と俺が一緒に見張るって聞いて……心配しちゃって。寮について来るってきかないんだ。悪いけど、御坂。Cルームで見張っててくれるか?」

「え……見張るの? 杉原を?」

 御坂が怪訝そうに問う。

「何も起きてないのにうろついて、面倒起こさないように」

「いいけど……將梧が心配って。まさか、上沢に手出されないかって?」

 こういうことに察しのいい御坂が笑う。

「意外、でもないのか。昨日の見て話聞いてたら、杉原が將梧を大事にしてるのわかるな」

「にしてもさ。あいつ今、少し変かも。原因があるのかないのか……まぁ、そのうち落ち着くと思う」

「せっかくだから、今日は杉原と話してみるよ。待ってる間、時間あるし。川北とは?」

「去年一緒だったから、普通に話せる。あ。紫道は玲史から聞いてるかな? 俺と涼弥のこと」

「必要ねぇなら言ってねぇんじゃん? お前はさー、ゲイなのみんなに知られていーの?」

 凱に聞かれるまで、特に気にしてなかったけど……。

「俺は別に、知られても困らない。深音みおとは終わりにするし……」

「杉原とつき合ってるってオープンに?」

「でも、委員長が男もアリってわかったら、ちょっかい出してくる人たちいそう」

「將梧がノンケのフリ続けても、涼弥は心配すんだろーし。堂々と俺のだっつっても、狙うヤツいるかもしんねぇし」

 御坂と鈴屋、凱のコメントに……迷う。

「お前がどっちでもいーなら、あいつに決めさせれば? ちょうど来たぜ」

 凱の言葉に振り向くと。教室に入った涼弥が、まっすぐこっちに歩いてくるところだった。




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