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27-7 よかった

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 着替えを済ませ、用意された夕飯を掻き込んで。リビングのソファで沙羅と向き合った。

 食べてる間に、どうして涼弥とのことを知ってるのかを聞いたら。御坂がわざわざ電話してきたっていう。
 情報の出どころはそこしかないってわかってたけど……何故わざわざ?

 その答えは。
 昨日の沙羅とのことを俺に話したから、代わりに俺のネタを沙羅に提供……御坂なりに、これでイーブンのつもりらしい。

 まぁ、実際は。和沙と涼弥がホテルに入ったところを目撃して、俺と涼弥のことで気を揉んでるはずの沙羅を安心させたかったんだろうな。



 いろいろあったけど、俺が涼弥に告白してうまくいった。



 御坂からこれだけしか聞いてない沙羅に、今朝からの一連の出来事を大雑把に話した。涼弥の家でのことは、ほとんど端折って。

「和沙と涼弥がホテル入ったこと、樹生いつき將梧そうごに言うなんて思わなかった」

 沙羅が息を吐く。

「將梧に知らせる前に和沙に確認しなきゃ。でも、どうしてあの二人が?って深音と話してたところに樹生が来て。あの場所にいた理由、教えたのはうかつだったわ」

「俺が涼弥を好きなの知って、御坂が微妙な反応してさ。かいが聞いたんだよ。人のこと、むやみに自分から喋るヤツじゃないじゃん?」

「そうね……とにかく。結果良ければっていうけど。そのあといろいろ、けっこう大変だったんだ」

「うん。みんなの協力がなかったら、こうはうまく運ばなかったな。ほんと感謝してる」

「それにしても、あの涼弥が学校でキスとか。やっぱりギリギリだったんじゃない? 間に合ってよかった」

「昨日の今日だからな」

 沙羅が視線に乗せた問いに答える。

「昨日、凱とセックスしたよ。深音みおと出来たから女も平気だけど俺……男のほうがその気になる」

 予想がついてたせいか、沙羅に驚きはなく。

「どっちが……?」

「俺が受けでって始めた。でも、お前が言ったこと考えてさ。攻めでやった。すごくよくて……凱のおかげで心の準備出来たから、涼弥に告れたよ」

 さすがにセックスの内容までは語らないけど。攻めか受けかは言わないと、沙羅の関心は満たせない。
 心配もしてたしな……受けはダメって。

「なんか……身近な人のリアルに聞くと照れるわ」

 沙羅が手のひらで顔をあおぐ。

「將梧が凱を……」

「頼むから。俺の前で想像するな」

「次は涼弥とね」

 腐った脳裏でどんな妄想描いてるのか。
 そう思わせる沙羅の微笑みに、溜息をついた。

「あいつのケガが治るまでやらないって。やっと気持ち通じたんだから、少しは初々しくいさせて」

「將梧はそれでいいかもしれないけど、涼弥にとっては拷問よ。キスはいいのにその先はお預け……不憫ね。我慢してるの、ちゃんと褒めてあげないと」

「俺だって我慢してる」

 反論気味に言うと、沙羅が感心した表情で見つめてくる。

「何?」

「將梧って、雄の部分がなさ過ぎて心配だったから。好きな人にはちゃんと性欲あるんだ」

 性欲って……女子高生が言うと生々しいな。

「俺もホッとしたよ。自分がゲイだってわかって。ちょっとだけバイか」

「浮気しないでね」

「しない。なぁ、御坂のことだけど……」

 俺の話が一通り終わったところで、さっきはスルーした御坂のことを話題に出すと。沙羅が上目づかいで非難の目を俺に向ける。

「話すつもりではいるけど、浮気で連想されるとムッとくるわ」

「ごめん」

 実際、そのワードで話を振った自分が無神経だったと反省。

「聞いたんでしょ。樹生と寝たって」

「うん。御坂は……たぶん俺のほうが誘った。都合よく解釈したって言った。でも、誘ったのお前のほうだろ?」

 沙羅が自嘲気味に微笑んだ。

「女連れの樹生とホテルの前で会って、何故か女は帰して後ろついて来たの。深音と別れてから文句言いに行ったら、時間あるなら話したいって」

「それで?」

「ヒマならさっきの女呼び戻せばって言ったら、こうよ。連絡先なんか知らない。どうでもいい女だから」

 あー……事実なんだろうけど、沙羅の神経逆撫でる返しだよね。

「少しでも好みなら誰でもいいんだって言うから。じゃあ、私でもかまわないってことよね。今日の遊び相手……って」

「かまうに決まってんじゃん。御坂にとってお前は遊びにならないだろ」

「そう言われた」

 それで?

 口には出さずに片眉を上げる。

「ほかをあたるわ。私にも、誰でもいいからやりたい時はあるのって。そしたら、樹生が、わかった。今から知らない男として相手するよって……ホテルに」

「沙羅、お前……」

「わかってる。嫌味と意地悪。勝手にすればって放っとくか、自分が立候補するか。樹生の選択肢は2つだけ」

「わかってただろ。御坂がどっち選ぶのか」

 沙羅が目を伏せた。

「意地張って、別れた男とホテル行ったわけじゃないよな」

「昨日の相手は知らない男だった」

「は……? そういうていなだけだろ」

「樹生がいい。悔しいけど」

 顔を上げた沙羅の瞳が潤んでる……気がする。
 いや。笑ってる?

「後悔してないから大丈夫」

「あー……なら、よかった……のか?」

 よくわからないけどさ。
 沙羅が納得してるならそれでいい。

「それはまだ未定。でも、和沙たち見かけて後つけてなかったら、こうはならなかったって思うと……ほんと、タイミングって怖いわ」

「偶然はないっていうしな」

 そうか。
 ホテルの前で沙羅と御坂が会って。沙羅が御坂を誘って、御坂が沙羅にホテルの前にいた理由を聞いて。それを俺が知って、涼弥に聞きに。
 で、動画を撮られて……今に至ると。

 ことの発端は和沙と涼弥……か。

「お前と深音、和沙に聞いてなかったのか? 涼弥に彼氏のフリしてもらうってさ」

「全然。だから、ほんっとに衝撃だったの。二人一緒に裏に向かうんだもん。涼弥は將梧が好きなのに何してるのよって」

「心配してくれてありがとな」

「今日一日、気が気じゃなかった。真相を聞きたくても、和沙は休みだったし……だからよけいに」

 沙羅がちょっと申し訳なさそうにしつつ、からかう瞳で俺を見る。

「涼弥がやり過ぎちゃったのかと思って」

「おい。やめろその発想」

「ごめん。でも、ほんと安心した。將梧と涼弥は、いつかはうまくいっただろうけど。今日こうなってよかった」

「ん……よかった」



 こうなるべくしてこうなった。

 あとから見ればそう思えても、最中にいる時はわからない。チャンスとタイミングの僅かなズレで物事の行方が変わることを、あらためて実感する俺。

 向かうなら、ハッピーな未来がいいよな。


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