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「何だ?」

 玲史れいじの笑みに胡散臭げな目を向けて、水本が尋ねる。

「お友達の江藤さんの……シークレット情報」

「はぁ!?」

かい。端末で画像」

「あーアレ?」

 凱がケータイ画面をタップしながら、玲史とともに水本の前へ。

「聞かれちゃマズいから。耳貸して」

 水本より10センチくらい背の低い玲史が、横からヤツの腕を掴んでちょっと屈ませる。

「いったいじゅんが何っ……ッ……ん……!」

 う……わ、玲史……!?

 緊迫感の薄れた空間が、新たな緊張に包まれた。
 俺を含めて。マイルドに水本と玲史のやり取りを眺めてた店の中にいる人間は、唐突な出来事に驚きを隠せない模様……凱を除いて。



 玲史が水本にキスしてる。



 突然ってだけじゃなく。まったく予期してなかった玲史の行動に、水本は咄嗟に拒絶のリアクションが取れなかったようで。
 プラス、首に回された玲史の右手に押さえられ、頭も動かせないっぽい。

 場が停止しておよそ10秒後、水本が両手で玲史の肩を掴んで引き剥がした。

「な……にしやがる!? なんの……」

 事態を飲み込めない顔で玲史を、そして、凱を見て固まる水本。
 玲史も凱を見る。

「撮れた?」

 かまえたケータイを下ろし、凱が黒く微笑む。

「連写でバッチリ。最後いーね。お前のこと引き寄せてるみたいで」

「ごめんね。將梧そうごと杉原の動画の……保険にもらっといた。そんなに悪くなかったでしょ? 男も」

 平然と言い放つ玲史を、水本はひきつった表情でただ見つめるだけ。たぶん、言葉が出ないんだろうな。
 ちょっと……同情する。

「將梧。もういいよ。帰ろう」

 玲史のニッコリと満面の笑みを見て。
 コイツが一番怖いんじゃないの? 数々の面において……と思った。



 玲史の行動が新たな揉めゴトを引き起こすこともなく。
 微妙な空気の中、涼弥に顔の血を顔を洗い流させてから。ディスガイズを無事脱出した俺たち6人は、駅に向かって歩き出した。

 店の中ではアレコレあってすっかり忘れてた唯織いおりのことを、店を出てすぐに尋ねると。さっき増えた他校の3人と顔を合わせたくない事情があって、店での対峙には加われなかったらしい。
 駅付近で沢井と合流する予定の唯織には、会ってしっかり礼を言わなきゃな。



 俺と涼弥が、あらためてみんなにありがとうを伝えて一段落ついたあと。

「玲史。お前、何であんなこと……」

 言葉を濁して聞いた。
 きっと、御坂も沢井も涼弥も気になってるはずだけど、誰も言い出さないから。

「言った通り、保険だってば。自分のキスシーンこっちに押さえられてたら、水本が將梧の悪用する確率グッと下がるでしょ」

「だからってさ……」

「深く考えないで。ただの演技。俳優と一緒。来る前、凱と話してたんだ。同じネタ作れないかなーって」

「俺がやるより玲史のほうがあいつ、嫌悪感ねぇだろ」

「ノンケにとったら男はみんな……ダメなんじゃない?」

 凱への御坂の問いにも、疑問が浮かぶ。

「それって、女ならいいのか? あー……誰でも?」

「よっぽど自分の嫌いなタイプじゃなければ。基本、男はそうだと思うけど。ねぇ?」

「どうだろうな。俺はあんまり……その手のことは、得意じゃないから……何とも言えないが……」

 御坂に話を振られた沢井は、ちょっとしどろもどろだ。
 ほんとに得意じゃなそう……硬派な感じだしね。



 女好きの御坂はともかく。
 一般的な男は、女に……たとえば、かわいい女にキスされたら。
 ラッキーって思えるの? 好意を持った相手じゃなくても?
 ゲイだってさ。
 好みの男ならオッケーって思えるのか?

 俺は……全然そうは思えないんだけど。

 玲史や凱にとっては、嫌悪感ナッシングなことなら……まぁよしとするか。
 なんかモヤっても、助かったのは事実だ。

 事前に知ってたら反対したけどな。



「水本の顔は見物だった。殴るよりスカッとしたな。涼弥。お前はこれでよかったか?」

「十分だ。こうなったのも自分のせいだ。俺が悪い」

「何べん言ってんだよそれ。いつまでもウジウジしてんじゃねぇ。早瀬に愛想つかされるぞ」

 沢井の言葉で、涼弥が俺を見る。



 あーつかさないからさ。
 今! みんないるとこで、ジッと見つめないで!
 


「んじゃ、早く二人きりにしてやろーぜ」

 涼弥プラス4人の視線に耐えられず俯いた俺に、凱の声。

「將梧。お前、家帰ったら涼弥の面倒みてやれよ」

「うん。大丈夫」

「明日のことは樹生いつきと考えとくねー」

 顔を上げた俺に、凱が意味ありげな瞳で微笑む。

「お前はそっち。キッチリハッキリ。誤解残んねぇように、させねぇようにな」

「そうする。ありがと……」

 凱に笑みを返し。

「玲史も御坂も、沢井も。ありがとな」

 あらためて礼をする俺から涼弥へと視線を移し、沢井が口を開く。

「早瀬の顔、やったのは俺だ。1発殴ってもいいぞ」

「ダメだ。これは自業自得だから。やるなよ」

 すかさず、涼弥に言った。

「なら…俺がお前にやられる分、將梧のお返しと帳消しだな」

「そりゃ助かる。今のお前殴るのは気が引けてたとこだからよ」

「涼弥! 友己ともき!」

 沢井の笑い声に、唯織の呼ぶ声が重なる。
 ちょうど駅が見えてきたところだ。

「うまくいったって? 結局、何がどうしたっての?」

「悪かったな、手間かけさせて。助かった。ありがとう」

「うわ。やられてるじゃん。涼弥が何で? 縛りつけられでもした?」

 涼弥の顔を見て眉を寄せた唯織が、俺に視線を移す。

「將梧が来てるってことは、チームのいざこざじゃないよな?」

 唯織のクエスチョン全てに答えるには、気力がないだろう涼弥をいたわってくれてか。

「俺がわかってることは説明する。涼弥からは今度な。今日は帰らせてやれ」

「いいよ。とりあえず、解決してよかった。水本に加えて松田もだと、揉めるのしんどいしね」

 沢井の言葉に、唯織はあっさり承諾した。

「ありがとな、唯織。お前が涼弥の居場所教えてくれてなきゃ、もっとやられてたよ」

「いまいちわかんないけど、役に立ったなら何より。將梧も今度、俺らとつるもうな」

「うん。そのうちまた顔見せる」

「じゃあ、唯織。悪いが、詳しいことは日曜に話す。友己……頼むな」

「ああ、任せとけ。つってもよ、お前らが何でそうなってんのかは俺も知らねぇ。あとで聞かせてもらうぞ」

「わかった」




 駅に着き。俺と涼弥は、玲史たち5人と別れて改札を抜けた。

 涼弥の家に一緒に行って傷の手当をして、取り急ぎ今話さなきゃならないことだけは話し合うつもりでいる。



 水本との一件にカタがついて、手を貸してくれた友達たちには感謝しかない。
 コトの発端は、撮られた動画……いや、涼弥の誤解……そもそもあそこでキス……俺が話あるって言った……涼弥が目逸らすから……じゃなくて。

 俺たちの意思疎通がなってないからだ。



 反省しきりの俺。

 するなら、反省は行動とセットにしなきゃな。



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