上 下
61 / 246

20-2 攻めはよくて受けがダメって理屈は何

しおりを挟む
 沙羅が目を瞬いた。

「嘘……誰と!? 学園の子!?」

「さっき一緒にいたしゅうと。俺、話してるの聞いちゃってさ。涼弥すげー焦ってた」

 聞こえた涼弥と悠の会話と、その後のやり取りを沙羅に話した。



「だから、お前にすぐ出てくれって言ったんだよ。悠に会わせたくないってより、悠の前で俺と話すの嫌だったんだろ。嫌っていうか……気マズいじゃん?」

 沙羅は黙って俺を見つめたまま。

「俺が大丈夫って、あいつちゃんと信じてるかな? 俺の気持ち知らないんだからさ。そんな気に病むことないよな?」

 沙羅の返しがない。

「もし感づいてたとしても。俺がハッキリ言うまでは、涼弥の自由だろ。逆も……」

 あれ? 俺ひとり言?

「おい。聞いてる? 何でお前が固まってんの」

「涼弥が……」

 やっと口を開く沙羅。



 続きは? なし?

 おかしいな。沙羅にとっては大して衝撃でも重大でもないじゃん?
 まさか。もしや。実は自分も涼弥が好きなことに今気づいた……!?

 なんてな。
 実の姉妹で男取り合う三角関係もドロドロでエグいけど。
 姉と弟と男の三角は、いびつ過ぎだろ。
 大丈夫。俺らにそれはあり得ん。



「涼弥が攻めなんて、ショック!」

「え……!?」

 そこ!? ずっと考え込んでたの、そこなの?

「知ってるでしょ? 最近の私の萌え。筋肉質で男らしい受けに、一見受けっぽい中性的な攻めのカプ。涼弥と將梧そうごならピッタリだったのに」

 腐ってるな。とことん。
 けどさ。
 今は切り離そうよ?

「沙羅。現実にそれ持ち込むな。俺は真剣に話してるの。涼弥が攻めなのは納得だろ」

 沙羅が目を細める。

「じゃあ、將梧は受けなの? 悠くんに抱いてみない?って言われたなら、攻めもアリなんじゃない?」

 う……そこ来るか。

「俺は……正直どっちがいいか、自分でもわからないけど。もし、いつか涼弥とってことになったら、受けになる……のかな?」

 マジメに考えてみるも、現実味がいまいち。
 男同士のセックスが、まだ実感として湧かないんだよね。
 妄想は……あくまで妄想で。

「その前に。男が平気かどうかが先。男がアリかナシか、わかってから考えるよ」

「でも!」

 ソファの上に足まで乗せた身体を真横にして、俺を正面に見据える沙羅。

「もし本当に涼弥以外の人とやる気なら、將梧が攻めにして」

「は……!? 何だよ。いい加減、お前の自萌え押しつけんのやめて」

「そうじゃないの! 初めての受けは涼弥とじゃなきゃダメ」

「だから何で……?」

 沙羅の言いたいことが、本気でわからない。
 攻めはよくて受けがダメって理屈は何。

「だって、ほかの人に抱かれてとりこになっちゃったらどうするの!? 好きじゃない男に!」

 あーそういう……快楽堕ちとかメス堕ちとか。マジで心配なのか?
 腐ってもいいけどね、沙羅ちゃん。

 BLとリアルは別物よ?

「そんなことあり得ないって。そもそも誰かとする予定ないから」

 嘘は堂々と。

「ほんと?」

 挑むような沙羅の瞳に、たじろいだら負けだ。
 たとえ、俺とかいのことを疑ってても。認めなきゃ、ただの推定……っていうかさ。
 この前、凱と何かしても心配しないって言ってたじゃん?

「うん。それに、好きな相手は特別なんだろ? 御坂がさ。気持ちがあるとないとじゃいろいろ……あ。悪い」

 沙羅の視線の鋭さが増す。

樹生いつきと何の話してるのよ。誰とでも寝る男の言うことなんか真に受けないで」

「でもあいつ、好きな相手とするのはいろいろ違うって。お前が嫌なら仕方ないし、言い分全部が正しいわけじゃないけど……」

「間違ってるでしょ? 彼女がやめてほしいって頼んでること、平気でするのは」

「そうだけどさ。御坂にとって、お前とやるのと浮気は全然別なの。それだけはわかってやれよ」

 お互いの瞳を暫し見つめ合ったあと、沙羅が溜息をついた。

「頭でわかるのと感情も、全然別なの。將梧は樹生寄りの考え方が出来るのかもしれないけど、涼弥は私寄りだと思う」

 否定しようとしてやめる。



 沙羅の言う通りかもしれない。
 今の俺は、セックスをお試しでやろうとしてるんだもんな。
 好きな相手と……涼弥とつき合ったら、俺は変わるのか。変わらないのか。

 わからないなら、後悔しなそうなほうを選ぶしかない。
 けど。
 それが今出来れば……後悔なんて言葉はないよな。



「俺が男と経験あったら、涼弥はそんなに気にする? 深音とつき合ってるの知ってるし、この前の時もいたし。自分とつき合う前のことまで気にするもの?」

「女は別。それに、將梧だって気にしてるんでしょ? 悠くん」

 俺は眉を寄せた。

「ね? そういうもの」

「わかったよ。俺は、ちゃんとつき合ったら浮気はしない。その前にもし誰かと何かあっても……涼弥には知られないようにする。セックスの虜とやらにはならない」

 沙羅がニッコリと微笑む。

「浮気しないのはイイコね。虜にならないように祈ってあげる。だけど……もし何かあって涼弥にバレた時は覚悟しとかないと」

「何を?」

 あ。微笑みが黒い笑みに……瞳の輝きが増したのは……。 

「お仕置き。涼弥はきっと、タフでねちっこいセックスするタイプだと思うから」

 話がどうしてもそっちに行くのは、もう諦めるしかないのね。

「十分気をつけるよ」

 反論せずにそう言って、コーヒーを飲み干した。



 沙羅と話すと、気が軽くなりも重くなりもする。
 自分と違うモノの見方をする人間の意見を聞くのはためになるし、よけいな情報に煩わされることもあるからさ。
 ラストの姉の助言は除外して、あらためて向こう1週間の予定を見直す俺。

 後悔しないように、大事なことは自分で決めないとな。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)

俺のソフレは最強らしい。

深川根墨
BL
極度の不眠症である主人公、照国京は誰かに添い寝をしてもらわなければ充分な睡眠を得ることができない身体だった。京は質の良い睡眠を求め、マッチングサイトで出会った女の子と添い寝フレンド契約を結び、暮らしていた。 そんなある日ソフレを失い困り果てる京だったが、ガタイの良い泥棒──ゼロが部屋に侵入してきた!  え⁉︎ 何でベランダから⁉︎ この部屋六階なんやけど⁉︎ 紆余曲折あり、ゼロとソフレ関係になった京。生活力無しのゼロとの生活は意外に順調だったが、どうやらゼロには大きな秘密があるようで……。 ノンケ素直な関西弁 × 寡黙で屈強な泥棒(?) ※処女作です。拙い点が多いかと思いますが、よろしくお願いします。 ※エロ少しあります……ちょびっとです。 ※流血、暴力シーン有りです。お気をつけください。 2022/02/25 本編完結しました。ありがとうございました。あと番外編SS数話投稿します。 2022/03/01 完結しました。皆さんありがとうございました。

姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王

ミクリ21
BL
姫が拐われた! ……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。 しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。 誰が拐われたのかを調べる皆。 一方魔王は? 「姫じゃなくて勇者なんだが」 「え?」 姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?

エレベーターで一緒になった男の子がやけにモジモジしているので

こじらせた処女
BL
 大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。  とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…

[本編完結]彼氏がハーレムで困ってます

はな
BL
佐藤雪には恋人がいる。だが、その恋人はどうやら周りに女の子がたくさんいるハーレム状態らしい…どうにか、自分だけを見てくれるように頑張る雪。 果たして恋人とはどうなるのか? 主人公 佐藤雪…高校2年生  攻め1 西山慎二…高校2年生 攻め2 七瀬亮…高校2年生 攻め3 西山健斗…中学2年生 初めて書いた作品です!誤字脱字も沢山あるので教えてくれると助かります!

家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている

香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。 異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。 途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。 「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

処理中です...