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19-1 テスト前日、気分転換にジムに来た

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 かいがうちに来た日の夕食時。
 沙羅が俺に言った。



『誰と何するのも將梧そうごの勝手だけど。涼弥が好きなら、知られた時のリスクは自分で負うのよ』



 それはわかってる。
 リスクを負ってでも。涼弥とつき合うために、自分の性指向を確かめる必要があるのか?
 イエス。
 どうしても、イエスだ。
 傷つけるより怒らせるほうがマシ……そう思うのっておかしいかな?

 そして。
 もし、怒らせたら。
 涼弥が、俺にだけじゃなく凱にもその怒りをぶつけるかもしれない。
 これは、全力で阻止するとして。
 俺への怒りは受け止める。涼弥の気が済むまで。

 あとは……。
 涼弥が俺を嫌うかもしれない。

 だけど、このリスクは小さいはず。
 自分とつき合う前に、相手が誰かとセックスしたことあったら嫌い……なんてならないだろ。
 本当に好きならさ。

 そう思ってたら、沙羅に聞かれた。



『涼弥が、クラスメイトと昨日セックスしたって聞いたら、どう? ショック? ムカつく? 悲しい?』
 


 ショックだ。
 1年前とかならまだしも、昨日……しかも、クラスメイトと……嫌だな。ムカつきはしないけど、悲しくなるよ。
 でも。
 嫌いにはならない。好きじゃなくなるなんてあり得ない。
 そんなことで気持ちが消えるなら、そもそもショックなんか受けないじゃん?



 この夜。ほかにも沙羅と話したけど、男とのセックスを凱と試すことは内緒のまま。
 リスクを負う気持ちも変わらない。



 次の日は普通に学校で。
 その次も。次の次の日も、わりと平和な日常で。

 うちの学園に5日間通った凱は、すでに転校生じゃなく。2-Bの一員としてクラスに溶け込んでる。
 ゲイともノンケとも分け隔てなく。初っ端から仲良くなった俺とはもちろん、ほかには御坂と佐野、鈴屋、そして、何故か玲史と親交を深めてる模様。



 涼弥と俺は相変わらず……と言えるか微妙なところ。
 物理の授業を同じ教室で受ける時以外に、涼弥の姿を見ることはほとんどなく。
 いつも通りの通学時も。
 試験前の1週間は部活動停止のため、水木金とまっすぐ家に向かう帰宅時も。

 まぁ普段から……単発バイトや仲間との会合でほぼ毎日夜まで街にいる涼弥と、帰りにバッタリ出くわすことは滅多になかったけどさ。



 それにしても、会わな過ぎじゃないの?
 ろくに話してなかったこの1ヶ月の間でさえ、1日数回は校内で見かけてたし。
 その前は、朝の電車が同じになることもあったのに。

 もしや……さらにガッツリ避けられてるのか?

 でも、理由がないよね?
 最後にまともに喋った火曜日の昼は、今度遊ぼうって言ってたし。



 そんな感じでちょっとモヤってた金曜日。
 新庄とD組のノンケが揉めて、凱と玲史と一緒に仲裁に出向いた時に。エキサイトしたD組側の誰かに突き飛ばされたところを、涼弥に抱き留められた。
 どっから瞬間移動してきた!?ってくらいのナイスタイミングで現れた涼弥に礼を言って、そのあと言葉が続かなくて。
 そしたら……。



『来週の土曜、時間取れるか? 話がある』
  
 

 そう言われて、オーケーした俺。

 2学期の中間考査は、来週の月火水の3日間。
 来週テストが終わったら。
 来週末。
 来週の土曜。



 来週……イベントあり過ぎだろ。
 そのうちのひとつは、凱が江藤の寮に話をしに行くことだけどさ。

 不安に期待にストレスにプレッシャー、さらに恐怖にドキドキ……1週間後の俺って、どうなってるんだろうな?



 そして、テスト前日の今日。日曜日。

 沙羅の提案により、気分転換を兼ねて二人でジムに来てる。
 同じ日程でテストを控える沙羅と俺は、昨日の土曜は1日中家にこもってテスト勉強に精を出した。
 だから、今日は息抜きで。
 机の前にばっかいると、身体もなまるしね。

 いつものように筋トレマシーン数種をこなしたあと、沙羅と並んでトレッドミルで汗を流す。
 ジョギング程度の速さでやることが多いけど、今日は少し早歩きくらいの速度でのんびりと。



「今日は何時頃までいる?」

 隣で、俺よりやや速い速度でマシンの上を軽快に歩く沙羅に尋ねる。

「5時。ちょっとマジメに、絞らないと」

「全然太ってないじゃん」

「彼氏がいないと身体が、緩むの。そんなの、悔しいから」

 早くも少し息が上がり始めた沙羅。言葉に険がある。
 よけいなコメントはしないでおこう。



 学校帰りにジムに寄る場合は、だいたい1時間半くらい。長くても2時間の運動で終了。
 休日の今日は、ここに着いたのが1時半。今はまだ2時51分。5時までは、まだ2時間以上ある。

 さすがに、沙羅も。ぶっ通しでこれをやり続けるつもりはないだろうけどさ。
 すでに気分転換分の運動は、お腹いっぱいな俺。

 でも、沙羅が帰るまではここにいる。



 もともと。最寄りの駅前にあるこのジムに1年半前に入会した俺たちは、それぞれ好きな時に個別に通ってたんだよね。
 だけど、半年くらいした頃。
 沙羅にしつこく声をかける男がいて。困った沙羅が俺に合わせて来るようになって。
 その時の男を見かけなくなってホッとした沙羅が一人でジムに行くと、また新たに変なのが……で、常に二人でジム通いすることに。

 ピッタリそばにいなくても。仲良さげな男が一緒だと、ナンパ男も粘着気質男も声かけづらいみたいね。
 ということで。
 弟の俺は、ジムでは沙羅の虫除け役。

 5時まで……何するかな。



 20分ほど歩いてからマシンを降りる。

「俺、ちょっとサウナ行ってくる。30分くらい」

「1時間でもいいよ。大丈夫。今のところ変な人、いないし」

「様子見に戻るから。無理しないで、たまに休めよ」

 まだまだやる気満々の沙羅に声をかけ、ロッカールームに向かった。
 


 トレーニングウェアを脱いで軽くシャワーを浴びてから、サウナルームへ。
 腰にタオルを巻き。お茶のペットボトルを持って、いざ……。

「將梧」

 サウナのドアまで3メートルのところで。
 名前を呼ばれて。振り向く前に、その声の主がわかった。



 涼弥だ。



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