50 / 246
18-1 庭でお喋り
しおりを挟む
「どうした? 変な顔してる」
「何でもない。大丈夫。暗くなってきたから、光の加減……じゃないかな」
思わず。いかがわしい想像が頭に浮かんで動揺して、窓のほうに顔を向けた。その視線を凱も追う。
「あ、ほんとだ。日落ちんの早くなってきたねー」
「今電気つけるよ」
「將梧。外出ようぜ。庭行きたい」
立ち上がった俺にそう言って、凱も腰を上げた。
「俺、自分の部屋に置くならコイツかなー」
そう言って。セージの茂みの脇にある得体の知れない何かの像を、凱がコンコンと指で叩く。
体長約140センチで目が3つ。髪が太陽みたいに放射線状に広がったその像は、空からダイブしてきたみたいに頭が下で足が上。
これ、何の魔を除けてるんだろうな?
狭い庭に設置された9体の魔除け像だか守護像だかを一通り見たあと、掃き出し窓の前に設置されたベンチに腰掛ける。
「やっぱ居心地いーね、ここ」
「こんな鬱蒼としてるとこ好きなのか? お前んちもそうなの?」
「んーうちは家ってゆーより……合宿所みたいな感じ。森抜けた崖に建っててさ。ほかの家族も一緒に住んでんの」
「へぇ……おもしろいな」
「そこに越してきたのは中2ん時。俺は春頃まで寮だったけど」
「いつか遊びに行かせて」
「うん。あ。来週でもいーよ」
「来週って……」
「やんの、俺んとこにする?」
どこでセックスするか。
具体的な場所を想定してなかった。普通にうちでと思ってたけど……沙羅に見つかったらいろいろ面倒かも。
「大丈夫……なのか? ほかの家族もいるんだろ?」
「俺の部屋の階、弟の部屋と夜しか家ん中いねぇオジサンの部屋だけだから平気。ここのが落ち着くならここでもいーよ」
「いや。お前の家で問題ないなら、そのほうがいいかな。うちは遅くまで親いないし、前もって言っておけば沙羅も家空けといてくれるけど……あとでいろいろ聞かれるからさ」
「沙羅ちゃん、お前が涼弥のこと好きって知ってんの?」
「うん。昨夜話した。でも、前からそう思ってたって。深音にも気づかれてたよ。二人には、まだ男とつき合う自信ないって言ってある」
「俺と試すって話すの?」
あ……やっぱり嫌だよね。そういうこと人に知られるのって。
俺にとって沙羅は姉で親友で、深音は彼女で同志だけど。凱にとってはほぼ知らない人間だもんな。
それに……。
沙羅は大切なこと不用意に口に出したりしないし、内緒にしてくれって頼んだ秘密は守る。
だけど。
ウッカリの可能性は誰にでもある。巧妙な誘導尋問に引っかかるリスクもだ。
このことを、涼弥に知られたくない。
これは自分の意思で、俺が望むこと。
俺と涼弥は恋人同士なわけじゃないから、お互いが誰と何をしようと文句つけたり非難される立場にない。
それでも。
涼弥にしてみれば、おもしろくないよね……俺を好きなのが本当なら。
だって、自分だったらやっぱり嫌だからな。
たとえば。
涼弥が和沙とつき合って、セックスしてたら。
鈴屋と遊びでやってたら。
玲史に拘束されて攻められてたら。
好きな人が自分以外の人間とそういうことしてるの知ったら、やるせなくなるよ。どうしようもなくても、嫌なものは嫌。
あー……御坂や深音の気持ちがわかった。
なのに。
恋してるんじゃなく、つき合ってるのでもなく。
男と出来るか試すために、友達とセックスしようとしてる俺。
その動機が涼弥を傷つけたくないからだろうが、失くさないためだろうが……あいつにとっては、何だって同じ。
自分を好きなのに、ほかのヤツと? 何だよそれ!?
こうなるよな。
だから、涼弥に知られるリスクは最小限に抑えないと……。
このこと自体の意味がなくなっちゃ、本末転倒だ。
「誰にも話さない。沙羅にもな」
「わかってんならいーよ」
「うん。涼弥が知ったら……嫌な気分になるだろうから」
凱が眉間に皺を寄せる。
「嫌っつーか、誤解すんだろ。ノンケだと思ってたのに俺とじゃさー。あいつ、レイプん時以上にキレちゃうんじゃねぇの?」
「何で? 俺が頼んで……やるんだから、先輩のとは全然違うじゃん。深音とも普通にしてると思ってるはずだし」
「彼女はいーの。男とはねぇって思ってんのにってこと」
「俺が自分の意思で男と、なら……問題ないだろ。お前とつき合うわけじゃないんだからさ」
「お試しのセックスだから気にすんなって言えんの?」
「もし、知られたらな。勘違いされて、お前にまで嫌な思いさせたくないし。とにかく、その時は全部説明するよ」
物わかりの悪いダメな子を、呆れながらも同情する目つきで凱が俺を見る。
「え……何? 俺、おかしなこと言った……?」
「俺はさー誰が好きとかねぇし、セックスに意味なくてもいーの」
「理由は要るだろ?」
「そーね。やんのが大好きってゆーんじゃねぇからな」
凱が口元だけで笑う。
「けど、お前にはあんじゃん? 意味。涼弥にも。だから、嫌な気分になるって考えんだろ」
「うん……」
確かにそうだ。
好きだから。
ほかのヤツとって思うと嫌なんだ。
「何でもない。大丈夫。暗くなってきたから、光の加減……じゃないかな」
思わず。いかがわしい想像が頭に浮かんで動揺して、窓のほうに顔を向けた。その視線を凱も追う。
「あ、ほんとだ。日落ちんの早くなってきたねー」
「今電気つけるよ」
「將梧。外出ようぜ。庭行きたい」
立ち上がった俺にそう言って、凱も腰を上げた。
「俺、自分の部屋に置くならコイツかなー」
そう言って。セージの茂みの脇にある得体の知れない何かの像を、凱がコンコンと指で叩く。
体長約140センチで目が3つ。髪が太陽みたいに放射線状に広がったその像は、空からダイブしてきたみたいに頭が下で足が上。
これ、何の魔を除けてるんだろうな?
狭い庭に設置された9体の魔除け像だか守護像だかを一通り見たあと、掃き出し窓の前に設置されたベンチに腰掛ける。
「やっぱ居心地いーね、ここ」
「こんな鬱蒼としてるとこ好きなのか? お前んちもそうなの?」
「んーうちは家ってゆーより……合宿所みたいな感じ。森抜けた崖に建っててさ。ほかの家族も一緒に住んでんの」
「へぇ……おもしろいな」
「そこに越してきたのは中2ん時。俺は春頃まで寮だったけど」
「いつか遊びに行かせて」
「うん。あ。来週でもいーよ」
「来週って……」
「やんの、俺んとこにする?」
どこでセックスするか。
具体的な場所を想定してなかった。普通にうちでと思ってたけど……沙羅に見つかったらいろいろ面倒かも。
「大丈夫……なのか? ほかの家族もいるんだろ?」
「俺の部屋の階、弟の部屋と夜しか家ん中いねぇオジサンの部屋だけだから平気。ここのが落ち着くならここでもいーよ」
「いや。お前の家で問題ないなら、そのほうがいいかな。うちは遅くまで親いないし、前もって言っておけば沙羅も家空けといてくれるけど……あとでいろいろ聞かれるからさ」
「沙羅ちゃん、お前が涼弥のこと好きって知ってんの?」
「うん。昨夜話した。でも、前からそう思ってたって。深音にも気づかれてたよ。二人には、まだ男とつき合う自信ないって言ってある」
「俺と試すって話すの?」
あ……やっぱり嫌だよね。そういうこと人に知られるのって。
俺にとって沙羅は姉で親友で、深音は彼女で同志だけど。凱にとってはほぼ知らない人間だもんな。
それに……。
沙羅は大切なこと不用意に口に出したりしないし、内緒にしてくれって頼んだ秘密は守る。
だけど。
ウッカリの可能性は誰にでもある。巧妙な誘導尋問に引っかかるリスクもだ。
このことを、涼弥に知られたくない。
これは自分の意思で、俺が望むこと。
俺と涼弥は恋人同士なわけじゃないから、お互いが誰と何をしようと文句つけたり非難される立場にない。
それでも。
涼弥にしてみれば、おもしろくないよね……俺を好きなのが本当なら。
だって、自分だったらやっぱり嫌だからな。
たとえば。
涼弥が和沙とつき合って、セックスしてたら。
鈴屋と遊びでやってたら。
玲史に拘束されて攻められてたら。
好きな人が自分以外の人間とそういうことしてるの知ったら、やるせなくなるよ。どうしようもなくても、嫌なものは嫌。
あー……御坂や深音の気持ちがわかった。
なのに。
恋してるんじゃなく、つき合ってるのでもなく。
男と出来るか試すために、友達とセックスしようとしてる俺。
その動機が涼弥を傷つけたくないからだろうが、失くさないためだろうが……あいつにとっては、何だって同じ。
自分を好きなのに、ほかのヤツと? 何だよそれ!?
こうなるよな。
だから、涼弥に知られるリスクは最小限に抑えないと……。
このこと自体の意味がなくなっちゃ、本末転倒だ。
「誰にも話さない。沙羅にもな」
「わかってんならいーよ」
「うん。涼弥が知ったら……嫌な気分になるだろうから」
凱が眉間に皺を寄せる。
「嫌っつーか、誤解すんだろ。ノンケだと思ってたのに俺とじゃさー。あいつ、レイプん時以上にキレちゃうんじゃねぇの?」
「何で? 俺が頼んで……やるんだから、先輩のとは全然違うじゃん。深音とも普通にしてると思ってるはずだし」
「彼女はいーの。男とはねぇって思ってんのにってこと」
「俺が自分の意思で男と、なら……問題ないだろ。お前とつき合うわけじゃないんだからさ」
「お試しのセックスだから気にすんなって言えんの?」
「もし、知られたらな。勘違いされて、お前にまで嫌な思いさせたくないし。とにかく、その時は全部説明するよ」
物わかりの悪いダメな子を、呆れながらも同情する目つきで凱が俺を見る。
「え……何? 俺、おかしなこと言った……?」
「俺はさー誰が好きとかねぇし、セックスに意味なくてもいーの」
「理由は要るだろ?」
「そーね。やんのが大好きってゆーんじゃねぇからな」
凱が口元だけで笑う。
「けど、お前にはあんじゃん? 意味。涼弥にも。だから、嫌な気分になるって考えんだろ」
「うん……」
確かにそうだ。
好きだから。
ほかのヤツとって思うと嫌なんだ。
0
お気に入りに追加
326
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件
神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。
僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。
だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。
子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。
ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。
指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。
あれから10年近く。
ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。
だけど想いを隠すのは苦しくて――。
こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。
なのにどうして――。
『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』
えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)
転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】
海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。
発情期はあるのに妊娠ができない。
番を作ることさえ叶わない。
そんなΩとして生まれた少年の生活は
荒んだものでした。
親には疎まれ味方なんて居ない。
「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」
少年達はそう言って玩具にしました。
誰も救えない
誰も救ってくれない
いっそ消えてしまった方が楽だ。
旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは
「噂の玩具君だろ?」
陽キャの三年生でした。
家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている
香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。
異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。
途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。
「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる