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17-8 オッケー
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俺を見つめる凱の瞳が……1ミリも動かない。
何ていうの? 閉じてる? 固まってる? 確かに俺に焦点は合ってるのに、別のもの見てる感じ。
え……ダメだった?
試したくなったら相手するって言ったのは、軽口でジョーク?
俺が本気なのわかって引いてるとか……?
そうだとすると恥ずかしいわ。
けっこう意を決したつもりだったのがまた……地味に堪えるな。
凱の思考は停止してるのか。
はたまた、超高速処理中なのか。
声をかけようとしたその時。
山吹色に透けた瞳に瞼が落ちて……ゆっくりと上がった。
「いーよ。来週ってテスト終わったらってこと?」
「う……ん。そう」
「オッケー」
ニコッとする凱の瞳は、もう俺をちゃんと見てる。
見てない間に何考えてた?
オッケーしてくれたのは嬉しいけど、なんか……ない?
言うこととか。
聞くこととか。
確認することとか。
注意事項とか。
「あー……のさ。理由とか聞かないの?」
「男が平気か試したいんだろ?」
「うん」
「いざやろうとして身体が拒否ったら、涼弥を傷つけるから」
「うん」
「そうなる前に知っときたいんだよな? 男が無理なら、友達のままでいんのに」
「う……ん」
「不安なのは、キスした時思わず突き放したせい? そん時の状況なら仕方ねぇって言えるけど、つき合ってからじゃほかの言いわけねぇもんな」
「そう……だよ。もしキスして嫌悪感なくてもその先に……触られて鳥肌で悪寒だったらって思うと怖い。それに……自分が無反応だったらもっと……」
想像してゾッとして、頭を振った。
「怖い。涼弥を好きだっていうのも嘘になりそうで。俺が無理してるって思われる。男となんて本当は嫌なのに、気持ち悪いのに、怖いのに、自分のために我慢してるって……そう思わせたら、あいつは絶対俺から離れる……」
「はーっ」
黙って俺の不安を聞いてた凱が、わざと声を出して息を吐いた。
「ほんと悲観的だねお前。何で悪いほうにばっか考えんだよ」
「仕方ないだろ。ほんとに不安でほんとに怖いんだから。涼弥のことになると臆病なの、自分でもわかってる。ほかは、わりとリスクあってもいけるんだけどさ」
「さっきも言ったよな。そんな好きな相手に嫌悪感なんかあるわけねぇって。あ、これちょーだい。腹減った」
凱がお盆に載った菓子に手を伸ばす。
うちには常に、個包装されたチーズタルトやクッキーなんかの洋菓子がある。探偵事務所のクライアントからの頂き物だ。
「お前も糖分取れよ。頭働かさないとねー。いただきます」
チョコブラウニーのプラフィルムを剥がし、かぶりつく凱。
俺もひとつ手に取って食べ始める。
暫し6時のおやつタイム。
甘いお菓子で腹を満たすと、頭も少しほぐれてきた。
はじめからそのつもりだったとはいえ、延々と自分の悩み相談をし続けた上に。
友達に、男とのセックスを試させてくれって……。
つい2日前の俺からしたら、あり得ない自分だ。宇宙人とすり替わっちゃたのレベルで。
俺だってさ、ちゃんと考えたしわかってるよ?
これは気軽にお願いする頼みじゃない。
友達を、リトマス試験紙みたいに道具扱いするのと変わらない。
しかも。
自分が鳥肌悪寒で無反応だったら涼弥を傷つけるから、まずはお前で試したいって……お前を傷つけるのは平気だからって言ってるのと変わらないじゃん!?
いや。実際は、凱が傷つくとは思ってない。
俺が無理だったとしても、それが俺たちの関係に影響するとも思わない。
それは……。
凱のことを。
人を慰めるためとか取引でとか、自分で自分を道具のように使ってる人間だからって思ってるわけじゃなくて。
理由は何でも、せっかくだからやろうって考えてる、とも思ってない。もちろん。
凱が、そういうところ全部承知で受け入れてくれたって思えるから。
そして、嫌なことダメなものにはノーって言える強さのある人間だって……信じられるからだ。
結局のところ、甘えてるんだよな。
『試したくなったら相手するぜ』
凱にとってそのオファーは、脚くじいたなら肩貸すぜっていうのと同じくらい……自然な善意というか、友達の俺への手助けというか……。
とにかく、凱の独特な思考と感性に甘えちゃってるの。めいっぱい。
だけど。
確認はしとかなきゃダメだろう。
たった2日ですでに大切な友達になってる凱に。俺に示すやさしさに、きちんと向き合いたいからさ。
「凱。いくつか聞いておきたいんだけど」
「うん?」
おやつ食べたあとの子どもみたいに満足そうな凱に、大人な話題でごめんよ。
「俺の相手するの……何でオッケーした?」
「あんだけ思い悩んでんの聞いたら、放っとけねぇだろ。遊びで誘ってんじゃねぇのわかってるからな」
「少しも抵抗ないのか?」
「ねぇよ。友達だし。お前、好きだしねー」
「あ……ありがと」
息をついた。
ちょっとためらってから次に。
「もしさ、俺が無理だった場合……お前、気にする? 軽くショック受けたりとか……」
「大丈夫。全然傷つかねぇって。だから、俺にしたんだろ?」
「それだけじゃないけど……まぁ、そう……かな」
「安心して。やっぱ無理っつったらそこでやめるから」
確認する前にそう言ってくれた凱の瞳に嘘はない。
ホッとした……つくづく自分勝手な俺。
「うん……」
その気になってやめるのって、自制心要るよな。凱には感謝だ。
恐怖と嫌悪の中でやめてもらえなかったら、なんて考えたくない。
ていうか……あらためてリアルに考えるとこの頼み……男と出来るか試したいって……鳥肌も悪寒もなくて無反応でもない場合……。
俺、ほんとにコイツとセックスするんだ……よね!?
一気に現実味を帯びたイメージを描き出しそうとする頭を、必死に止めようとする俺。
今ここで自分が欲情するとかあり得ないけど……万が一ってこと、あるもんな。
何ていうの? 閉じてる? 固まってる? 確かに俺に焦点は合ってるのに、別のもの見てる感じ。
え……ダメだった?
試したくなったら相手するって言ったのは、軽口でジョーク?
俺が本気なのわかって引いてるとか……?
そうだとすると恥ずかしいわ。
けっこう意を決したつもりだったのがまた……地味に堪えるな。
凱の思考は停止してるのか。
はたまた、超高速処理中なのか。
声をかけようとしたその時。
山吹色に透けた瞳に瞼が落ちて……ゆっくりと上がった。
「いーよ。来週ってテスト終わったらってこと?」
「う……ん。そう」
「オッケー」
ニコッとする凱の瞳は、もう俺をちゃんと見てる。
見てない間に何考えてた?
オッケーしてくれたのは嬉しいけど、なんか……ない?
言うこととか。
聞くこととか。
確認することとか。
注意事項とか。
「あー……のさ。理由とか聞かないの?」
「男が平気か試したいんだろ?」
「うん」
「いざやろうとして身体が拒否ったら、涼弥を傷つけるから」
「うん」
「そうなる前に知っときたいんだよな? 男が無理なら、友達のままでいんのに」
「う……ん」
「不安なのは、キスした時思わず突き放したせい? そん時の状況なら仕方ねぇって言えるけど、つき合ってからじゃほかの言いわけねぇもんな」
「そう……だよ。もしキスして嫌悪感なくてもその先に……触られて鳥肌で悪寒だったらって思うと怖い。それに……自分が無反応だったらもっと……」
想像してゾッとして、頭を振った。
「怖い。涼弥を好きだっていうのも嘘になりそうで。俺が無理してるって思われる。男となんて本当は嫌なのに、気持ち悪いのに、怖いのに、自分のために我慢してるって……そう思わせたら、あいつは絶対俺から離れる……」
「はーっ」
黙って俺の不安を聞いてた凱が、わざと声を出して息を吐いた。
「ほんと悲観的だねお前。何で悪いほうにばっか考えんだよ」
「仕方ないだろ。ほんとに不安でほんとに怖いんだから。涼弥のことになると臆病なの、自分でもわかってる。ほかは、わりとリスクあってもいけるんだけどさ」
「さっきも言ったよな。そんな好きな相手に嫌悪感なんかあるわけねぇって。あ、これちょーだい。腹減った」
凱がお盆に載った菓子に手を伸ばす。
うちには常に、個包装されたチーズタルトやクッキーなんかの洋菓子がある。探偵事務所のクライアントからの頂き物だ。
「お前も糖分取れよ。頭働かさないとねー。いただきます」
チョコブラウニーのプラフィルムを剥がし、かぶりつく凱。
俺もひとつ手に取って食べ始める。
暫し6時のおやつタイム。
甘いお菓子で腹を満たすと、頭も少しほぐれてきた。
はじめからそのつもりだったとはいえ、延々と自分の悩み相談をし続けた上に。
友達に、男とのセックスを試させてくれって……。
つい2日前の俺からしたら、あり得ない自分だ。宇宙人とすり替わっちゃたのレベルで。
俺だってさ、ちゃんと考えたしわかってるよ?
これは気軽にお願いする頼みじゃない。
友達を、リトマス試験紙みたいに道具扱いするのと変わらない。
しかも。
自分が鳥肌悪寒で無反応だったら涼弥を傷つけるから、まずはお前で試したいって……お前を傷つけるのは平気だからって言ってるのと変わらないじゃん!?
いや。実際は、凱が傷つくとは思ってない。
俺が無理だったとしても、それが俺たちの関係に影響するとも思わない。
それは……。
凱のことを。
人を慰めるためとか取引でとか、自分で自分を道具のように使ってる人間だからって思ってるわけじゃなくて。
理由は何でも、せっかくだからやろうって考えてる、とも思ってない。もちろん。
凱が、そういうところ全部承知で受け入れてくれたって思えるから。
そして、嫌なことダメなものにはノーって言える強さのある人間だって……信じられるからだ。
結局のところ、甘えてるんだよな。
『試したくなったら相手するぜ』
凱にとってそのオファーは、脚くじいたなら肩貸すぜっていうのと同じくらい……自然な善意というか、友達の俺への手助けというか……。
とにかく、凱の独特な思考と感性に甘えちゃってるの。めいっぱい。
だけど。
確認はしとかなきゃダメだろう。
たった2日ですでに大切な友達になってる凱に。俺に示すやさしさに、きちんと向き合いたいからさ。
「凱。いくつか聞いておきたいんだけど」
「うん?」
おやつ食べたあとの子どもみたいに満足そうな凱に、大人な話題でごめんよ。
「俺の相手するの……何でオッケーした?」
「あんだけ思い悩んでんの聞いたら、放っとけねぇだろ。遊びで誘ってんじゃねぇのわかってるからな」
「少しも抵抗ないのか?」
「ねぇよ。友達だし。お前、好きだしねー」
「あ……ありがと」
息をついた。
ちょっとためらってから次に。
「もしさ、俺が無理だった場合……お前、気にする? 軽くショック受けたりとか……」
「大丈夫。全然傷つかねぇって。だから、俺にしたんだろ?」
「それだけじゃないけど……まぁ、そう……かな」
「安心して。やっぱ無理っつったらそこでやめるから」
確認する前にそう言ってくれた凱の瞳に嘘はない。
ホッとした……つくづく自分勝手な俺。
「うん……」
その気になってやめるのって、自制心要るよな。凱には感謝だ。
恐怖と嫌悪の中でやめてもらえなかったら、なんて考えたくない。
ていうか……あらためてリアルに考えるとこの頼み……男と出来るか試したいって……鳥肌も悪寒もなくて無反応でもない場合……。
俺、ほんとにコイツとセックスするんだ……よね!?
一気に現実味を帯びたイメージを描き出しそうとする頭を、必死に止めようとする俺。
今ここで自分が欲情するとかあり得ないけど……万が一ってこと、あるもんな。
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