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9-2 俺も、慰められるかな?

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 改札を抜けて、深音みおの家を目指すその道中。
 俺の心中を察してかどうか。
 深音は黙って隣を歩く。



 き……気マズいんですけど。とっても。
 これからセックスするような雰囲気じゃないじゃん……!

 いや。十分承知してるよ?
 あの途切れた会話の続きは、俺が始めなきゃって。
 深音はそれを待ってるって。

 でも、自分でも実体を掴めてない涼弥に対する気持ちを、表す言葉が見つからない。

 だから、話題を変えよう。
 男らしくなくて結構。臆病者なの俺は。



 そう思った矢先。深音が先に口を開く。

將梧そうごはまだ自覚してないのかもしれないけど……」

 あー……変え損なったね。話題。

「あんな瞳で見てたら、私みたいにもしかしたらって考えの下地のある人がいたら……気づくと思う。涼弥くんのこと」

「いつから? 俺、そう思われるようなことしたか言った?」

 涼弥をどう思ってるのか。追求しないでくれることに甘えて話を進める俺。

「決定的だったのは今日のだけど、夏くらいからかな? たまーにあの人の話が出た時の口調の変化とか。コミケ帰りにみんなでお宝読んで、紗羅がこのキャラ涼弥にそっくりーって騒いだ時とか」

 そう……怒ったんだよね。全然似てないだろってムキになって。

「わかった。納得」

 深音が問うように首を傾げる。

「たださ、俺自身まだハッキリわからないんだ。友達だからもともと好きだし、恋愛感情かって聞かれたら違う気もするしで」

「涼弥くんとセックスしたいって思う? れたいとか挿れられたいとか」

 う……ドストレートにきたね。さすが腐女子。
 男同士のアレコレを恥ずかし気もなく話せるってスゴイよ。

「思わないから問題なんだ」

 深音の家の前に到着。
 
「俺、自分が男と出来る気がしない」



 中学の時。
 同学年のヤツらや先輩たちに、何度か襲われたことがある。
 だけど、全部未遂で済んで。
 服剥ぎ取られて床に押さえつけられて、撫で回されたこともあったけどその程度。
 でも。
 男にムリヤリやられそうになった恐怖は、リアルに感じた。

 男に欲情しない原因は、腐男子なことプラスこの恐怖感だって……薄々は気づいてたんだ。

 そして、あの高1の終わり。
 中等部の校舎の裏や校庭の隅や放課後の教室で複数人に襲われるのと違い、ひとりの信頼してた先輩の寮の部屋。ベッドの上で犯されかけた。
 ご丁寧に両手両足を拘束され、口は塞がれ。用意周到にローションまで垂らされて。
 尻の穴に挿入された指の感覚と、諦めと絶望の混じったあの恐怖がセットになって。

 その結果。
 突っ込まれる恐怖感は突っ込む嫌悪感へと繋がり、攻め受け両方にマイナスイメージを抱くことに。



 それでもさ。
 実践するのには怖気づいても、やりたくはなると思うんだよね。ムラッとして脳内で抱いたり抱かれたりを妄想するとか。

 好きな相手がいればその相手とのセックスを想像するもんなんだろ? 普通は。

 なのに。
 たとえ恋愛感情で好きだとしても、涼弥と何かする妄想には歯止めがかかる。
 そこには、ほかの理由もあるからだけど……本当は俺自身が認めたくないだけ。

 往生際が悪いって、かなりやっかいな欠点だよな。



 あー……なんか落ち込んできた。
 男と出来る気がしないって言ったけど、深音とも今出来るかわからない。

 家に入ってすぐシャワーを浴びて。カーテンの引かれた薄暗い深音の部屋で、ひとり待ってる俺。
 腰にバスタオルを巻いただけの恰好で、ベッドに腰かけてジッとしてる。



 引き受けたからには気持ちを切り替えて、最善を尽くさねば!

 薄い本でも眺めながら、自分でちょっとしごいといたほうがいいかなー。
 それやったら女のコに失礼かなー。
 でも、勃たないほうが失礼だろうしなー。
 俺がBLオカズに抜いてること深音は知ってるし、今さらオナニー現場見たからって気にしないと思うしなーたぶん。

 軽く人格崩れかけてるね、俺も。

 はぁー。いろんなこと忘れたい。
 深音が言ったように。嫌な記憶も涼弥のことも、自分のこのグチャグチャした気持ちも。
 かいが言ったみたいに、頭空っぽにしたい。

 俺も……セックスで慰められるかな?



「お待たせ」

 バスタオル1枚で深音が部屋に戻ってきた。



 女の裸体に特別興奮しなくても、物理的な刺激でペニスはちゃんと反応してくれる。
 さらに今は、セックスって行為に前向きな期待を抱く俺。

 大丈夫。やれるよな?



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