56 / 83
第10章 夜明け前の攻防
チェイス -2
しおりを挟む
8時間ほど前と同じ道順を辿りN橋のところに走り着いたタクシーは、3軒のラブホテルが連なる横道へと右折した。
最奥にあるホテルの入口の前でタクシーを降りたキノは、辺りに人影がないことを確認し、駐車場から小振りなエントランスに向かって足を速める。
無人の玄関ホールに設置されているパネルには、各部屋の写真による選択ボタンがついている。空室は3部屋。
キノがボタンに手を伸ばしかけた時、背後で自動ドアが開いた。反射的に振り向いたキノの全神経が、緊張に固まる。
視界より先に耳に入って来たのは、甲高い女の声だった。
「もう30分も待ってるのよ。5時の約束じゃなかったの? 別々に来た方がいいのはわかるけど、時間くらいは守ってくれなきゃ…」
続いて姿を現した27、8歳くらいのその女は、キノがいるのに気づき言葉を止めた。ホールの隅に置かれた椅子に腰掛け、口元を手の平で覆いながら、声のトーンを落とし話を続ける。
「とにかく…外にいるのは嫌だから、中で待ってるわ。あともう少しで着くんでしょう? うん…」
キノはほっと息をつくと、2階にある部屋のボタンを押した。
先程いたホテルと同様、屋外に非常階段はなく、窓は15センチ足らずの隙間しか開かないに違いない。けれども、地に近い場所をキノに選ばせるのは、いざとなれば、窓を割ってでも逃げるという思いなのだろうか。
「じゃあ、出来るだけ早く…でも、気をつけてね…」
電話を終えた女が、キノの方へと視線を向ける。機械から出されたキーを受け取ったキノは、そそくさとエレベーターに乗り込んだ。
何か…嫌な感じがする。ひどく居心地が悪い。頭のどこかに、何かが引っかかってるみたいに…。
正方形のベッドの脇。二人掛けのソファーの端に腰を下ろしたキノは、室内を暗く映すテレビの画面に視線を向けたままだった。その意識は、脳裏にかかる灰色の靄を見つめている。
キノを落ち着かせなくさせているのは、不自然で明るい淫靡さを醸し出すこの部屋の雰囲気ではない。日曜の午前5時にラブホテルの一室にひとりぼうっとする自分を、傍からから見て滑稽に思えるからでもない。
今ここにいることは間違っていないか。ここは本当に安全な場所なのか。
あのホテルからうまく出られて、追って来る車も何とか振り切った。手が届くところまで近づけば、リシールの人たちは私をどうにでも出来るだろうから、人目があっても街中にはいられない。誰にも見つからないうちに遠くの街まで行っちゃった方が、安全だったかもしれない。だけど…。
奏湖からの電話を切った直後、そして、タクシーで夜明け前の街に走り出した時と、キノは咄嗟に考え得る最善の方法を採り、今この部屋に身を潜めたつもりだった。
力の護りを持ちその祈りを発動する呪文を知るかぎり、キノ一人で完全に安全と言える場所は、ヴァイの地のどこにもない。
けれども、しばしの間だけでも神経を休ませられるところ、一時だけでも目を閉じ心を弛緩させるに足るところがあるとするなら、それはここで充分なのだろうか。
館の近くにいたかった…。今戻ることは出来なくても、ギリギリまで諦めたくない。だから、もし大丈夫になった時に、すぐに行ける場所に…。
キノはゆっくり立ち上がると、小さな窓から外を眺めた。
私がここにいるのを知られなければ、リシールに護りを奪われることはない。だから、とりあえずは安全なはずなのに…どうしてちっとも安心出来ないの? それどころか、不安が膨れて破れそう…。
キノはもう間もなく地表を這い始める陽の兆しを空に探しながら、心に噛みつく不安の源に対峙する。
奏湖さんは…ジーグがラシャへ降りたら、人質は二人になるって言った。涼醒は大丈夫だって思いたい。でも、もしかしたら、本当に捕まってるのかもしれない。あの時は逃げられても、その後で見つかったかもしれない。希由香は…館から動けない。
キノは固く目を閉じる。
浩司にとって希由香は人質になり得る。シキは、万一のこととしてその心配をしてた。でも、浩司が降りなくてもそれは同じ…ううん、もっと悪い。
キノは瞼の間に皺を寄せる。
今のジャルドたちの状況を、シキは本当に知らなかったの…? そして、考えなかったの? 私にとっても、同じ危険があるってことを…。
キノの脳裏に、安らかに眠るような希由香の顔が浮かぶ。自分を励まし力づける涼醒の笑顔が浮かぶ。そして、目を閉じ青ざめた浩司の顔が。
護りは、必ず持ち帰らなきゃならない。でも、希由香と涼醒を傷つけさせないためなら、私は護りを渡してしまいそうになるかもしれない。それなら…ジャルドたちの手に入らないものにしちゃった方がいいの? 彼らのほしいものを持たなければ、私に対して質を取る意味はなくなる…?
キノは目を開ける。
護りは発動された方が、誰の危険も減らせるのかも。だけど…浩司の祈りを諦めるには、まだ早過ぎる。まだ残ってる望みを自分から捨てることが、私に出来る…? 浩司が命まで賭けた望みを…。
窓の外はまだ暗く、時折通る車のライトだけが時の流動を伝える。
夜明け直前の静謐に沈む街。束の間の凪の街は、目醒める間際の最後の一呼吸を今吸い込み、吐き出そうとしている。
護りを発動しなきゃならなくなった時、浩司のしたいことを祈るべきだと思った。でも、それが何か、知ることは叶わない。だから、私の思いつくかぎりで、浩司の望みに近いことを祈ろうと思った。希由香を思うなら…浩司にかけられている呪いを解く。浩司を闇から救うことを。それは、希由香と私の願いでもある。だけど…。
キノは頭を振った。
浩司が、全く別のことを望んでいる気がしてならない。そして…涼醒の無事を祈りたい自分がいる。館にいる希由香の安全も、守りたい…。
今にも白み始めようとしている空から目を背け、キノはソファーへと戻る。
涼醒、今どこにいるの? もし、危ない目にあってたら…そう思うと、いても立ってもいられない。涼醒は、自分のすることをちゃんと選んでた。私もそう出来るって信じてる。でも、大切なものをひとつだけ選ぶ。その潔さが…私にはないよ…。
キノは自分を襲う恐怖心を直視する。
発動さえすれば、その祈りが何だろうと、護りはジャルドたちに奪われない。ラシャに戻すことだけを考えるなら簡単なことだけど…何を祈るかを決めるのが、ものすごく怖い。こんなにも怖く感じるのは…それによって変わる運命が、自分のものだけじゃないってわかってるから…。シキは、どうして私にこの重荷を背負わせたの?
低いテーブルに肘をつき、キノは頭を抱え込んだ。
あと丸一日のうちに、どうにか館に戻らないかぎり、私は選ばなきゃならない。誰の安全を? 誰の望みを? 自分の身だけが危険に晒されるなら、自分の運命だけを左右するなら、どんなにか楽なのに…。
キノは組んだ両手にあごを乗せ、深くて長い溜息をつく。
今の私…ひとりで内に籠ってたら、煮詰まってひからびちゃいそう。時間が経つのをここでじっと待ってるよりも、タクシーで走り回ってた方がよかったかもしれない。リシールに見つかる可能性は高いけど、大通りを走ってれば手は出せないはずだし…。
キノは、部屋の半分を占めるベッドに目をやった。枕の間から見える時計の数字は、午前5時03分を示している。
それに…はっきりしない、この泡立つ不快感は何? 囲まれた空間にいて逃げ場がないのを、ただ単に息苦しく思ってるだけ? 私のどこかを、何かが引っ掻き続けてる。漠然とした不安じゃなくて、根拠のある不安に気づかないでいるみたいなこの感覚…私、ここにいることに不安を感じる何かを、見落としてるの…?
キノはまだ新しい記憶を捲る。
後ろを走る車は1台もいなかった。すれ違う車はいたけど、Uターンしてくるのはいなかった。だけど…大通りからここへの道に曲がった時、対向車線に停まってる車がいたような…気がする。
視線を宙に泳がせたまま、キノはゆらりと立ち上がった。
あの時は後ろだけを用心してたから、特に気にならなかったけど…よく考えたら、リシールが乗ってたかもしれない…? N橋のところ…館に近い、昨夜も見張りがいた場所…。
ベッドのまわりを無意識に歩きながら、キノは頭の中に現れてくるものを見つめる。得体の知れない不安が、その正体を見せ始めている。
もし、私がこのホテルに入ったのを知られてるとしたら…? でも、そうだとしても、リシールじゃない私のいる部屋まではわからないはず…。あと1時間もすれば、護りは発動出来るようになる。万一の時は、彼らに奪われる前に…。
見開いたキノの目が、ベッドサイドの時計に釘づけになる。
さっきの女の人…確か『もう30分も待ってる』『5時の約束』って言ってた。今5時になったところなのに、変じゃない? 時間の思い違いはありえるけど…聞こえた話から、知られたらまずい相手とホテルで待ち合わせかなって勝手に思って安心しちゃってたけど…もし、彼女が追っ手の一人だったら? もし、仲間を待ってたとしたら、私がどの部屋にいるかは…。
キノは膨らむ疑念をほとんど直感で肯定し、自分の迂闊さに舌打ちする。
ここから出なきゃ…! 今捕まったらおしまいだ。外にリシールが待ち構えてるとしても、ここで全ての望みを奪われるのをただ待つのは嫌…護りがラシャに戻るのが必然なら、私は逃げられる…!
一目散にドアへと走り、キノは静かに部屋の鍵を外す。
諦めるのは、出来ることが何もなくなってから…まだ大丈夫。
『真に必要な時、護りは必ずラシャへと戻る』
そう言ったのは誰だった? それが本当だって信じたい。今がその時だって…。
わずかに引いたドアの隙間から廊下に誰もいないことを確認し、キノは部屋を抜け出した。
最奥にあるホテルの入口の前でタクシーを降りたキノは、辺りに人影がないことを確認し、駐車場から小振りなエントランスに向かって足を速める。
無人の玄関ホールに設置されているパネルには、各部屋の写真による選択ボタンがついている。空室は3部屋。
キノがボタンに手を伸ばしかけた時、背後で自動ドアが開いた。反射的に振り向いたキノの全神経が、緊張に固まる。
視界より先に耳に入って来たのは、甲高い女の声だった。
「もう30分も待ってるのよ。5時の約束じゃなかったの? 別々に来た方がいいのはわかるけど、時間くらいは守ってくれなきゃ…」
続いて姿を現した27、8歳くらいのその女は、キノがいるのに気づき言葉を止めた。ホールの隅に置かれた椅子に腰掛け、口元を手の平で覆いながら、声のトーンを落とし話を続ける。
「とにかく…外にいるのは嫌だから、中で待ってるわ。あともう少しで着くんでしょう? うん…」
キノはほっと息をつくと、2階にある部屋のボタンを押した。
先程いたホテルと同様、屋外に非常階段はなく、窓は15センチ足らずの隙間しか開かないに違いない。けれども、地に近い場所をキノに選ばせるのは、いざとなれば、窓を割ってでも逃げるという思いなのだろうか。
「じゃあ、出来るだけ早く…でも、気をつけてね…」
電話を終えた女が、キノの方へと視線を向ける。機械から出されたキーを受け取ったキノは、そそくさとエレベーターに乗り込んだ。
何か…嫌な感じがする。ひどく居心地が悪い。頭のどこかに、何かが引っかかってるみたいに…。
正方形のベッドの脇。二人掛けのソファーの端に腰を下ろしたキノは、室内を暗く映すテレビの画面に視線を向けたままだった。その意識は、脳裏にかかる灰色の靄を見つめている。
キノを落ち着かせなくさせているのは、不自然で明るい淫靡さを醸し出すこの部屋の雰囲気ではない。日曜の午前5時にラブホテルの一室にひとりぼうっとする自分を、傍からから見て滑稽に思えるからでもない。
今ここにいることは間違っていないか。ここは本当に安全な場所なのか。
あのホテルからうまく出られて、追って来る車も何とか振り切った。手が届くところまで近づけば、リシールの人たちは私をどうにでも出来るだろうから、人目があっても街中にはいられない。誰にも見つからないうちに遠くの街まで行っちゃった方が、安全だったかもしれない。だけど…。
奏湖からの電話を切った直後、そして、タクシーで夜明け前の街に走り出した時と、キノは咄嗟に考え得る最善の方法を採り、今この部屋に身を潜めたつもりだった。
力の護りを持ちその祈りを発動する呪文を知るかぎり、キノ一人で完全に安全と言える場所は、ヴァイの地のどこにもない。
けれども、しばしの間だけでも神経を休ませられるところ、一時だけでも目を閉じ心を弛緩させるに足るところがあるとするなら、それはここで充分なのだろうか。
館の近くにいたかった…。今戻ることは出来なくても、ギリギリまで諦めたくない。だから、もし大丈夫になった時に、すぐに行ける場所に…。
キノはゆっくり立ち上がると、小さな窓から外を眺めた。
私がここにいるのを知られなければ、リシールに護りを奪われることはない。だから、とりあえずは安全なはずなのに…どうしてちっとも安心出来ないの? それどころか、不安が膨れて破れそう…。
キノはもう間もなく地表を這い始める陽の兆しを空に探しながら、心に噛みつく不安の源に対峙する。
奏湖さんは…ジーグがラシャへ降りたら、人質は二人になるって言った。涼醒は大丈夫だって思いたい。でも、もしかしたら、本当に捕まってるのかもしれない。あの時は逃げられても、その後で見つかったかもしれない。希由香は…館から動けない。
キノは固く目を閉じる。
浩司にとって希由香は人質になり得る。シキは、万一のこととしてその心配をしてた。でも、浩司が降りなくてもそれは同じ…ううん、もっと悪い。
キノは瞼の間に皺を寄せる。
今のジャルドたちの状況を、シキは本当に知らなかったの…? そして、考えなかったの? 私にとっても、同じ危険があるってことを…。
キノの脳裏に、安らかに眠るような希由香の顔が浮かぶ。自分を励まし力づける涼醒の笑顔が浮かぶ。そして、目を閉じ青ざめた浩司の顔が。
護りは、必ず持ち帰らなきゃならない。でも、希由香と涼醒を傷つけさせないためなら、私は護りを渡してしまいそうになるかもしれない。それなら…ジャルドたちの手に入らないものにしちゃった方がいいの? 彼らのほしいものを持たなければ、私に対して質を取る意味はなくなる…?
キノは目を開ける。
護りは発動された方が、誰の危険も減らせるのかも。だけど…浩司の祈りを諦めるには、まだ早過ぎる。まだ残ってる望みを自分から捨てることが、私に出来る…? 浩司が命まで賭けた望みを…。
窓の外はまだ暗く、時折通る車のライトだけが時の流動を伝える。
夜明け直前の静謐に沈む街。束の間の凪の街は、目醒める間際の最後の一呼吸を今吸い込み、吐き出そうとしている。
護りを発動しなきゃならなくなった時、浩司のしたいことを祈るべきだと思った。でも、それが何か、知ることは叶わない。だから、私の思いつくかぎりで、浩司の望みに近いことを祈ろうと思った。希由香を思うなら…浩司にかけられている呪いを解く。浩司を闇から救うことを。それは、希由香と私の願いでもある。だけど…。
キノは頭を振った。
浩司が、全く別のことを望んでいる気がしてならない。そして…涼醒の無事を祈りたい自分がいる。館にいる希由香の安全も、守りたい…。
今にも白み始めようとしている空から目を背け、キノはソファーへと戻る。
涼醒、今どこにいるの? もし、危ない目にあってたら…そう思うと、いても立ってもいられない。涼醒は、自分のすることをちゃんと選んでた。私もそう出来るって信じてる。でも、大切なものをひとつだけ選ぶ。その潔さが…私にはないよ…。
キノは自分を襲う恐怖心を直視する。
発動さえすれば、その祈りが何だろうと、護りはジャルドたちに奪われない。ラシャに戻すことだけを考えるなら簡単なことだけど…何を祈るかを決めるのが、ものすごく怖い。こんなにも怖く感じるのは…それによって変わる運命が、自分のものだけじゃないってわかってるから…。シキは、どうして私にこの重荷を背負わせたの?
低いテーブルに肘をつき、キノは頭を抱え込んだ。
あと丸一日のうちに、どうにか館に戻らないかぎり、私は選ばなきゃならない。誰の安全を? 誰の望みを? 自分の身だけが危険に晒されるなら、自分の運命だけを左右するなら、どんなにか楽なのに…。
キノは組んだ両手にあごを乗せ、深くて長い溜息をつく。
今の私…ひとりで内に籠ってたら、煮詰まってひからびちゃいそう。時間が経つのをここでじっと待ってるよりも、タクシーで走り回ってた方がよかったかもしれない。リシールに見つかる可能性は高いけど、大通りを走ってれば手は出せないはずだし…。
キノは、部屋の半分を占めるベッドに目をやった。枕の間から見える時計の数字は、午前5時03分を示している。
それに…はっきりしない、この泡立つ不快感は何? 囲まれた空間にいて逃げ場がないのを、ただ単に息苦しく思ってるだけ? 私のどこかを、何かが引っ掻き続けてる。漠然とした不安じゃなくて、根拠のある不安に気づかないでいるみたいなこの感覚…私、ここにいることに不安を感じる何かを、見落としてるの…?
キノはまだ新しい記憶を捲る。
後ろを走る車は1台もいなかった。すれ違う車はいたけど、Uターンしてくるのはいなかった。だけど…大通りからここへの道に曲がった時、対向車線に停まってる車がいたような…気がする。
視線を宙に泳がせたまま、キノはゆらりと立ち上がった。
あの時は後ろだけを用心してたから、特に気にならなかったけど…よく考えたら、リシールが乗ってたかもしれない…? N橋のところ…館に近い、昨夜も見張りがいた場所…。
ベッドのまわりを無意識に歩きながら、キノは頭の中に現れてくるものを見つめる。得体の知れない不安が、その正体を見せ始めている。
もし、私がこのホテルに入ったのを知られてるとしたら…? でも、そうだとしても、リシールじゃない私のいる部屋まではわからないはず…。あと1時間もすれば、護りは発動出来るようになる。万一の時は、彼らに奪われる前に…。
見開いたキノの目が、ベッドサイドの時計に釘づけになる。
さっきの女の人…確か『もう30分も待ってる』『5時の約束』って言ってた。今5時になったところなのに、変じゃない? 時間の思い違いはありえるけど…聞こえた話から、知られたらまずい相手とホテルで待ち合わせかなって勝手に思って安心しちゃってたけど…もし、彼女が追っ手の一人だったら? もし、仲間を待ってたとしたら、私がどの部屋にいるかは…。
キノは膨らむ疑念をほとんど直感で肯定し、自分の迂闊さに舌打ちする。
ここから出なきゃ…! 今捕まったらおしまいだ。外にリシールが待ち構えてるとしても、ここで全ての望みを奪われるのをただ待つのは嫌…護りがラシャに戻るのが必然なら、私は逃げられる…!
一目散にドアへと走り、キノは静かに部屋の鍵を外す。
諦めるのは、出来ることが何もなくなってから…まだ大丈夫。
『真に必要な時、護りは必ずラシャへと戻る』
そう言ったのは誰だった? それが本当だって信じたい。今がその時だって…。
わずかに引いたドアの隙間から廊下に誰もいないことを確認し、キノは部屋を抜け出した。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる