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153 僕はきみに愛されてる:R
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寝室に戻り。再び、濡れたシーツをさっと取り替えた。
学祭の夜に紫道を泊める前に用意した防水のやつだから、簡単。便利。今までは自分の部屋でセックスすることなんかなかったから不要だったけど、もう必需品。
1回限りのオアソビの相手やセフレとラブホでやるだけと違って、終わったら一緒に寝るんだもん。
つき合うって、こういうことなんだなぁ。
まだ2夜めだから、まだ新鮮。まだ慣れない。
でも。
護身用ナイフを肌身離して寝るのは問題ナシ。実用のためってより、精神的なオマモリだし。オマモリがないと眠れないわけじゃないし。
恋人が隣にいるんだし。
教えられた通り、枕の下にナイフを忍ばせて寝るようになって。自分以外の人間と同じベッドで安心して眠る日が来るなんて、想像出来なかったけど……悪くない。
恋愛感情も恋愛関係も、悪くない。すごく楽しい。
自分で経験しないとわからないコトって、あるよね。
いつかは消える幻にやっきになる人のサマを端から見てて、みんなよくやるなーって思ってた。
そんな頑張っても、見合う対価は得られないんじゃない?
手に入れたつもりの相手の心なんか、見えないのに?
失くして悲しんだって、すぐほかを好きになるじゃん?
恋愛に狂ってバカみたいな真似するの、何で?
ソレがホンモノって、どうしてわかるの?
ニセモノじゃない?
滑稽じゃない?
虚しくならない?
そうそう、そういう時はこういう行動するよね……っていうのは、わかるようになった。周りの人間を見てて、知識として。
予想のつく展開。他人に読めるようなテンプレみたいな展開を楽しむなら、恋愛ってエンタメとかゲームとかと同じじゃん?
セックスしたいからする、だけのほうがシンプルで楽なのに。
こんなふうな認識だったのが、変わった。
楽しいの。
好きな男を抱くのがイイ。好きな男に好かれるのがイイ。好きだって思えるのがイイ。
トクベツだって思えるのがイイ。
大切だって思えるのが、イイ。
紫道と一緒にベッドの上。並んで横になって、毛布にくるまって。おやすみって言って。
自分以外の体温に触れて。自分のじゃない呼吸が聞こえて。何かの、誰かの気配を感じる中で目を閉じてるのに。警戒しなくていいの。気を抜いていいの。安心して眠っていいの。
不思議な感覚。
上半身は裸だけど、健全に。腕はくっついてるけど、性的な接触も性的欲求もナシ。
男と一緒にベッドにいるのに、何もしないで。欲情もせず。ただ黙ってリラックス……。
「寝たか?」
紫道に聞かれ。
「うん」
答える時点でウソだけど。半分はウソじゃない。
いろいろあって疲れた1日で、一瞬で眠りに落ちれるくらいクタクタだけど。紫道を抱いて満たされてから、ずっと気分よくて。今はフワフワ夢見心地。
隣で、紫道がこっちに横向きになった気配。
そして、静かな溜息。
「眠れないの?」
「……お前が寝たら寝る」
え?
「何で?」
「お前が、安心して眠れるように」
目を開けた。
紫道のほうに身体を向ける。
「安心してるよ」
「お前が、淋しくないように」
「淋しくないよ。きみがいるし」
もともと、ひとりが淋しいなんて思うことないし。
「どうかした? 何か不安?」
「ああ……自信がねぇ」
え?
「何の?」
「……お前に、実感させたいんだ。見えなくても。幻だと思ってても。ちゃんと……愛されてるってのを」
暗がりで、目が合った。
「俺だって、家族以外の……そういうのはよくわからねぇ。お前が初めてだ。それでも、お前にわからせたい」
紫道の瞳が鈍く光ってる。キレイだなって思った。
「ひとりじゃねぇ。俺がいる。今、ここにいなくてもだ」
「……ソレって、僕を愛してるってこと?」
「そうだ」
え……そうなの?
急に何?
まぁ、言葉としては僕も使うけど。『愛されてるね』ってからかったり。『アイノチカラ』とか。
でもさ。
シリアスに。現実に。愛とか言っちゃうと……幻みが増さない?
非現実的っていうか。
「僕を好きなのは知ってるし。わかってるし。僕も好きだし」
楽しいし。
「違いってある?」
「……好きじゃ足らねぇ。もっと強い。玲史……」
紫道の手が、僕の髪にやさしく触れる。死んだ細胞の薄い層を通して、熱が伝わる。
「俺がお前を愛する。だから、知ってくれ。愛される感覚っつーか……お前を大切に思うヤツがいるってことを、だ」
僕に向けられるその声が、喉より深いところから絞り出すようで。とても必死で。
「ど……うしたの?」
戸惑った。
愛、なんて。
そんなクサいセリフ吐くキャラだっけ?
幻の愛を語るとか信じるとか、なかったじゃん?
僕と同じで。
はじめての恋愛なんでしょ?
トクベツな気持ちがあって。
好きだっていうのは、確かな気持ちで。
好かれてるのも、感じてて。
好き合ってるのを、確認して。
自覚したばっかじゃん?
愛とかって、わからなくない?
そんな正体不明で儚くて。アヤシゲで。精神のバグかもしれない。いち刹那後には消えちゃうかもしれない。
そんなマボロシに。幻想の世界みたいなとこに……。
堕ちる気なの?
「今、言っておきたかった。見せてやれねぇが、俺は……お前を愛してる」
僕の頭をゆっくりひと撫でして、紫道の手が離れた。
「それだけだ。安心して眠……」
「あ……見える!」
紫道の腕を掴む。
闇に慣れた目にうっすらと。指でなぞる皮膚にハッキリと。
「なに、が……?」
「思ってるだけじゃ、ないのと同じだから。口に出す。行動で示す。何でもそうだよね」
「玲史……?」
「きみが自分で咬んだ傷」
指先を、紫道の首筋へ。
「僕が咬みつくのを受け入れて出来た傷。見えてるじゃん?」
「これは……」
「コレだって、アイノアカシってやつの一種……でしょ?」
「……お前がそう、言うならそう……だな」
「うん」
愛が幻でも何でも。
紫道が僕に実感させたいなら。わかってほしいなら。
わかってあげたいと思う……なんて。
フワフワ気分でフラワーになってるみたい。頭。身体も。
だってさ。
こんなシーンなのに、したいのはセックスじゃなくて。
紫道を安心させたい。
さっきされたのと同じように、紫道の頭を撫でる。熱を伝えるように。
あったかい。
うん。満足。
「じゃ、寝よっか」
「ああ……」
あとは、さっさと。安心して眠れるとこ、見せなきゃ。
見えるモノは信じられる。
「僕はきみに愛されてる……」
目をつぶって微笑んで。
呪文みたいに呟いた。
学祭の夜に紫道を泊める前に用意した防水のやつだから、簡単。便利。今までは自分の部屋でセックスすることなんかなかったから不要だったけど、もう必需品。
1回限りのオアソビの相手やセフレとラブホでやるだけと違って、終わったら一緒に寝るんだもん。
つき合うって、こういうことなんだなぁ。
まだ2夜めだから、まだ新鮮。まだ慣れない。
でも。
護身用ナイフを肌身離して寝るのは問題ナシ。実用のためってより、精神的なオマモリだし。オマモリがないと眠れないわけじゃないし。
恋人が隣にいるんだし。
教えられた通り、枕の下にナイフを忍ばせて寝るようになって。自分以外の人間と同じベッドで安心して眠る日が来るなんて、想像出来なかったけど……悪くない。
恋愛感情も恋愛関係も、悪くない。すごく楽しい。
自分で経験しないとわからないコトって、あるよね。
いつかは消える幻にやっきになる人のサマを端から見てて、みんなよくやるなーって思ってた。
そんな頑張っても、見合う対価は得られないんじゃない?
手に入れたつもりの相手の心なんか、見えないのに?
失くして悲しんだって、すぐほかを好きになるじゃん?
恋愛に狂ってバカみたいな真似するの、何で?
ソレがホンモノって、どうしてわかるの?
ニセモノじゃない?
滑稽じゃない?
虚しくならない?
そうそう、そういう時はこういう行動するよね……っていうのは、わかるようになった。周りの人間を見てて、知識として。
予想のつく展開。他人に読めるようなテンプレみたいな展開を楽しむなら、恋愛ってエンタメとかゲームとかと同じじゃん?
セックスしたいからする、だけのほうがシンプルで楽なのに。
こんなふうな認識だったのが、変わった。
楽しいの。
好きな男を抱くのがイイ。好きな男に好かれるのがイイ。好きだって思えるのがイイ。
トクベツだって思えるのがイイ。
大切だって思えるのが、イイ。
紫道と一緒にベッドの上。並んで横になって、毛布にくるまって。おやすみって言って。
自分以外の体温に触れて。自分のじゃない呼吸が聞こえて。何かの、誰かの気配を感じる中で目を閉じてるのに。警戒しなくていいの。気を抜いていいの。安心して眠っていいの。
不思議な感覚。
上半身は裸だけど、健全に。腕はくっついてるけど、性的な接触も性的欲求もナシ。
男と一緒にベッドにいるのに、何もしないで。欲情もせず。ただ黙ってリラックス……。
「寝たか?」
紫道に聞かれ。
「うん」
答える時点でウソだけど。半分はウソじゃない。
いろいろあって疲れた1日で、一瞬で眠りに落ちれるくらいクタクタだけど。紫道を抱いて満たされてから、ずっと気分よくて。今はフワフワ夢見心地。
隣で、紫道がこっちに横向きになった気配。
そして、静かな溜息。
「眠れないの?」
「……お前が寝たら寝る」
え?
「何で?」
「お前が、安心して眠れるように」
目を開けた。
紫道のほうに身体を向ける。
「安心してるよ」
「お前が、淋しくないように」
「淋しくないよ。きみがいるし」
もともと、ひとりが淋しいなんて思うことないし。
「どうかした? 何か不安?」
「ああ……自信がねぇ」
え?
「何の?」
「……お前に、実感させたいんだ。見えなくても。幻だと思ってても。ちゃんと……愛されてるってのを」
暗がりで、目が合った。
「俺だって、家族以外の……そういうのはよくわからねぇ。お前が初めてだ。それでも、お前にわからせたい」
紫道の瞳が鈍く光ってる。キレイだなって思った。
「ひとりじゃねぇ。俺がいる。今、ここにいなくてもだ」
「……ソレって、僕を愛してるってこと?」
「そうだ」
え……そうなの?
急に何?
まぁ、言葉としては僕も使うけど。『愛されてるね』ってからかったり。『アイノチカラ』とか。
でもさ。
シリアスに。現実に。愛とか言っちゃうと……幻みが増さない?
非現実的っていうか。
「僕を好きなのは知ってるし。わかってるし。僕も好きだし」
楽しいし。
「違いってある?」
「……好きじゃ足らねぇ。もっと強い。玲史……」
紫道の手が、僕の髪にやさしく触れる。死んだ細胞の薄い層を通して、熱が伝わる。
「俺がお前を愛する。だから、知ってくれ。愛される感覚っつーか……お前を大切に思うヤツがいるってことを、だ」
僕に向けられるその声が、喉より深いところから絞り出すようで。とても必死で。
「ど……うしたの?」
戸惑った。
愛、なんて。
そんなクサいセリフ吐くキャラだっけ?
幻の愛を語るとか信じるとか、なかったじゃん?
僕と同じで。
はじめての恋愛なんでしょ?
トクベツな気持ちがあって。
好きだっていうのは、確かな気持ちで。
好かれてるのも、感じてて。
好き合ってるのを、確認して。
自覚したばっかじゃん?
愛とかって、わからなくない?
そんな正体不明で儚くて。アヤシゲで。精神のバグかもしれない。いち刹那後には消えちゃうかもしれない。
そんなマボロシに。幻想の世界みたいなとこに……。
堕ちる気なの?
「今、言っておきたかった。見せてやれねぇが、俺は……お前を愛してる」
僕の頭をゆっくりひと撫でして、紫道の手が離れた。
「それだけだ。安心して眠……」
「あ……見える!」
紫道の腕を掴む。
闇に慣れた目にうっすらと。指でなぞる皮膚にハッキリと。
「なに、が……?」
「思ってるだけじゃ、ないのと同じだから。口に出す。行動で示す。何でもそうだよね」
「玲史……?」
「きみが自分で咬んだ傷」
指先を、紫道の首筋へ。
「僕が咬みつくのを受け入れて出来た傷。見えてるじゃん?」
「これは……」
「コレだって、アイノアカシってやつの一種……でしょ?」
「……お前がそう、言うならそう……だな」
「うん」
愛が幻でも何でも。
紫道が僕に実感させたいなら。わかってほしいなら。
わかってあげたいと思う……なんて。
フワフワ気分でフラワーになってるみたい。頭。身体も。
だってさ。
こんなシーンなのに、したいのはセックスじゃなくて。
紫道を安心させたい。
さっきされたのと同じように、紫道の頭を撫でる。熱を伝えるように。
あったかい。
うん。満足。
「じゃ、寝よっか」
「ああ……」
あとは、さっさと。安心して眠れるとこ、見せなきゃ。
見えるモノは信じられる。
「僕はきみに愛されてる……」
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