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095 見当ナシ:R

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 紫道しのみちから着信があった時、学園の最寄り駅に向かう電車に乗ったところだった。
 コールを切って、メッセを送る。

『今電車の中だから、駅に着いたらかけ直すね』
『緊急なら出るよ』

 すぐに通知音が鳴った。

『あとで大丈夫だ』

 ふうん……とりあえず。緊急事態じゃない、と。
 何だろ?

 一緒に教室出て別れて1時間。見回りが終わる頃か。
 明日じゃ遅い用件?
 声が聞きたかっただけとか……は、ないよね。紫道だもん。僕たちのおつき合いはそんな甘々な関係じゃないもん。

 校内でイチャつくとか。
 離れがたくて、放課後も毎日一緒とか。
 逐一行動報告し合ってるとか。
 おはようおやすみメッセするとか、ないし。

 セックスしたくて恋人同士になって。
 やっとセックスして。
 すごくよくて。
 ほかのどの男とするより欲情して。

 ほら。
 今だって。
 いつでもその気になれるくらい。
 早く、また突っ込みたい。
 紫道を抱きたい。
 攻めたい。
 イカせたい。
 喘がせたい。
 泣かせたい。

 だって、かわいいんだもん。
 快楽に溺れてる紫道はもちろん、服着てペニス勃ててない時も。かわいいんだよね。顔も身体もゴツいのにかわいいの、劣情煽り過ぎでしょ。
 つき合えてラッキー。
 つき合ってよかった。
 紫道は僕のもの……って。 

 何コレ。
 何か、嬉しいっていうか。ニヤけるっていうか。こみ上げる……性欲? 勃起するわけじゃないけど。身体の真ん中、つままれる感じ。熱くなる感じ……。

 紫道のこと考えて鼓動が速まるとか。ときめくみたいなの、ないでしょ。ないはず。愛情なんて、思い込み。感じたことないのに。

 幻を信じても失望するだけじゃん?



 せっかく僕のものになってるのに、紫道を幻にしたくない。



 僕を幻にされるのも嫌だから。
 僕たちの関係は甘くなくていい。
 甘いのは身体だけ。セックスの間だけでいい。
 紫道もそう思ってくれてればいいんだけど……。

 平常に戻った鼓動にホッとして、溜息をついた。



 風紀の見回り当番の紫道を残し、さっさと家に帰って私服に着替えてまた戻ってきたのは。昇降口で僕を待ってた翔太と和橙かずとに、エログッズの買い物の付き添いを頼まれて。昨日に続いて、快くオッケーしたから。

 翔太とは風紀委員の面接時に知り合って、まだ日が浅いけど。
 愛のチカラなんて信じてる子だけど。
 もちろん、狙ってるとかじゃないけど。
 いい子だし。
 わりと好みの男だし。
 なついてくれるのは、悪い気しないし。
 エロ方面で頼りにしてくれるなら、応えなきゃね。



 駅前広場に到着。5時半に待ち合わせだから、翔太たちはまだ来てない。早めに家出て、ちょうどよかったな。
 ベンチに腰を下ろし。紫道に電話すると、ワンコールで出た。

「おつかれ。見回りは平和だった?」

「ああ。出かけてるところ……すまない。今、大丈夫なのか?」

 気マズそうな声に笑う。

 僕がどこに行ってると思ってるんだろ?
 つき合ってるんだから。誰とどこにいるか、聞いてもいいのに。遠慮してるのか。別に気にならないのか。
 今日1日、様子がおかしかったのの続きか……あ。



『 お前を好きだってわかって。少しとまどってるんだと思う』



 過った將悟そうごの言葉。頭を振って追い払う。

「全然平気。今ね、駅前広場」

「は? そこの駅の、か?」

「うん」

「何で……何しに……」

 困惑気味な声が面白くて。

「きみに会いに来たの」

 からかっちゃった。

「は……!? 何言っ……え!?」

 あー予想通りの反応。
 でも。こういうの、よくないね。

「ごめん。冗談だよ。帰りに翔太と和橙に会って頼まれて、買い物につき合うの。ここで待ち合わせ」

 一気に説明する。

「翔太たちはこの辺、地元だから。知り合いがいなそうなツノ駅の店に行くんだ。蘭角らんかく大学のとこ」

「何でわざわざ……てか何の……?」

「アダルトショップ。初心者2人じゃ心許ないでしょ」

「……そういうことか」

 納得したらしく、紫道が息を吐く。

「後輩に、変なもんすすめるな」

「うん。最初っからハードなの使うのもアリだけど、いろいろ試して楽しみたいだろうし」

「……お前も、変なもん仕入れてくるな」

「うん。もちろん」

 変なものは要らない。
 買うのは、快楽アップに貢献するアイテムだけ。
 僕が興奮するためのモノとか。きみがヨガり狂うためのモノとか。

「紫道も行かない? きみの好みのやつ、選ぼうよ」

「いや、俺はやめとく」

 ノーが早い。
 まぁ、紫道にとってはハードル高いのかな。アダショで自分に使われるアイテム吟味するのは……でも。

「じゃあ、何にするかはおまかせね」

「そ……」

 それは嫌、とか言うのはナシでしょ。

「必要ないだろ。俺は……お前だけで十分だ」

 ほんと。
 普通にコレ言うの。



 からかうよりタチ悪くない!?



「へぇ……僕の、そんなによかった?」

「ああ。お前のだからイイんだ」

 ストレートに。僕のペニスがイイって……どこで、どんな顔して言ってるんだろ。見たい。
 あー抱きたくなっちゃう。

「玲史。お前に電話した件だが……」

 紫道が話をチェンジ。
 そうだった。

「何かあったの?」

「お前が誰か、知りたがってるヤツがいる」

「え?」

「学祭で沢渡を脅してた茶髪の、八代やしろってヤツだ」

 あの時、すれ違った3人のうちのひとり……うっすらとしか思い浮かばない。

「お前、アイツらと知り合いじゃないよな?」

「うん。街で見かけたこともないし」

「詳しくは明日会って話すが……沢渡にお前の写真が送られてきて、コイツは誰だって聞かれた」

「何ソレ。何で?」

「理由はわからない。お前に心当たりはないか?」

「ないよ。知らないヤツらだもん」

 ストーカーくらい?
 でも、そういう人種っぽくなかったし。

「名前は教えていいって、俺が沢渡に言って……ヤツに教えたんだ。勝手に悪かった」

「それは別にかまわないけど……」

 紫道のオッケーがなくても、沢渡は教えたよね。あの子、西住を守るためなら何だってするだろうし。
 でも。
 目的は何?

 マジで見当ナシ。

「何のためか、わかんないのは気持ち悪いなぁ」 

「……アイツら以外に、誰かとモメてるってのはないか?」

「んー特にない。久しくナンパとかしてないし。ケンカもしてないし。杉原と將悟の件で、水本とあったくらい」

 そっちなら、僕の名前教えろってあり得ないし。

「お前の写真、場所はツノ駅前で……学祭で会った清崇きよたかって男と一緒だった」

「清崇と? 何だ。早く言ってよ」

 自分たちで撮った写真はない……つまり、隠し撮りされたやつか。

「一緒にツノ駅らへんにいたなら、きみとつき合う前のだから」

「……わかってる。先に、お前のほうに心当たりがあるか聞いときたかった」

「てことは……きみも、清崇のほうに理由があると思ってる?」

「お前じゃないとすれば、たぶんな」

 一緒に映ってる写真だもんね。可能性は大……だけど。
 僕とは、ひと月も前に切れてるし。今は幸汰とつき合ってるし。会ってた頃に誰かとモメてるとか、聞いたことないし……って。
 セックスしかしてないんだから、身体しか詳しく知らないじゃん。

「あとで清崇に聞いてみるよ」

「……そうだな。何かわかったら連絡してくれ」

「オッケー」

「玲史」

「ん?」

「……何かあったら、ちゃんと言え」

 静かで強い、紫道の声。

「トラブルでも、大したことなくてもだ。俺に内緒で……何かしようとするな」

「何かって? 浮気とか? しないよ。きみがいいもん」

「玲史」

 ガサガサと、溜息が聞こえた。

「どんなことでも話してくれ。頼む……嫌な予感がするんだ」

「へぇ、スピリチュアルなモノ信じてるの? 意外だね」

「……気のせいならいい。けど、気になって仕方がねぇ」

 軽く流そうとしても、紫道はシリアスモードで。

「ちゃんと言ってくれ……頼む」

 繰り返す。

「わかった。何かあったらね」

 了解しとく……しか、なくない?

 いきなりの心配症。
 やっぱり、今日の紫道はちょっとおかしい。



 僕を好き……だから? なの?



 あーもう!
 考えるな。そんなのなくても楽しい。気持ちイイ。もっとよくしてあげるから。

「オモチャ、ほんとに一緒に選ばなくていいの?」

 話をエロに。

「あ……ああ」

「早くやりたいね」

「そう……だな」

 紫道の声が重くなくなってひと安心。
 視界に小さく、翔太と和橙らしき姿。

「あの子たちだ」

「じゃ、あ……2人によろしく言っといてくれ」

「はーい」

 通話を切った。



 さて、と。
 嫌な予感なんかより、身体にリアルに感じる僕との快楽で紫道の頭をいっぱいにすべく……エログッズを厳選しに行くとするかな。



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