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084 淋しくないか……?:S

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 胸元で聞こえる規則正しい寝息に合わせて息すること、15分くらい。たぶん。

 寝てる……よな?

 玲史の異変察知センサーに触れないように、出来る限り動かず。先に寝ちまわないように、玲史を見てた。
 睡眠は全く足りてないが、眠気はどっかいっちまってる。さっきの玲史の動きと話が気になって。つーか、謎で。
 いや。
 軽く衝撃、で。

 その前に。
 セックスしてほかのこと全部飛んじまう前に気にかかったことが、脳ミソに戻って……アレコレ考えちまって。

 玲史がどこぞの社長か何かの息子らしいのは、納得。高級そうなこのマンションにひとりで住んでる理由も、あり得なくはない。義理の母親のことも。嘘じゃなく、本当の話なんだろう。
 ただ。
 玲史が言ってた……。

『大切にされてるって思ったこと、一度もないから』
『 僕には家族っていう感覚がよくわからない』

 親に大切にされてるって思えない家で育ったのか?
 家族を感じないってのは、家族なのに他人みたいだってことか?
 何でもないふうに、サラッと言うのは……実際、玲史にとって大したことじゃないのかもしれない。
 けど。
 それは、どうなのか。



 淋しくないか……?



 そして、さっき。
 眠ってるのに、他人の動きに反応して。寝起き直後に人にナイフをあてられる、的確な身のこなし。
 眠ってる間も警戒するように教えられた、と。

 まるで、自分以外は敵……とでもいうような。

 枕元にナイフ?
 護身術?
 相手を攻撃?
 危険に備える?
 戦闘モード?

 何だそりゃ。

 そんなもんを玲史に仕込んだ元軍人? 先生?
 誰だとしてもだ。
 子どもに教えることか?

 父親は関知してなさそうだった。
 母親 はいなかったし、知らないし……そう、言ってたな。
 あ……離婚したっつってたか。
 玲史がまだ小さい頃、なんだろう。

 どこの家にも、いろいろある。それはわかってる。
 けど……。
 いや、だからこそ。
 
 知りたい。
 玲史のことを、もっと。
 知ってほしい。
 俺はお前の敵じゃない。



 俺は、お前を大切にしたいと思ってる。



 いくらかは伝わったのか。
 こうして今、俺にくっついて眠れてるんだからな。

 よかった。マジで。

 人あたりも悪くない。
 頭も回る。
 顔もかわいい。
 性指向と嗜好はともかく、そっち方面も得意。
 なのに。
 恋愛経験がないってのは、人を警戒するように教えられたせい……かもしれない。

 俺は玲史が好きだ。

 玲史が俺をどう思ってるのか。俺と同じ感情があるのか、ないのか。
 まぁ、俺にとっても初の感情だ。急ぐことはない。
 少なくとも、俺たちはつき合い始めて。
 今日……昨日になるのか? セックスした……しまくって。



 これから、だよな。



 とりあえず。
 玲史が、俺とやるのに満足したってのでオーケー……あ。
 さっき。水飲んで落ち着いて。やろうかって、玲史に言われて。ダメだ、寝ろ……って返して。

 素直に言うこと聞いたのは、意外だった。

 玲史にとっちゃ。俺を口先で言いくるめるのも、力ずくで言いなりにさせるのも……簡単だろ。
 なのに、アッサリ引き下がって。
 安心して眠れってのを、ちゃんと聞いて。寝てくれた。



 俺の胸に頭あずけて。おとなしく一緒に眠る。安心、してくれた……。



 それが、ひどく嬉しい。
 安心した。

 玲史の寝顔を見てると、不思議な気持ちになる。
 俺より小さくて。目をつぶってる顔は幼く見えて。守ってやりたくなる。守ってやらなけりゃって思う。

 玲史は、小柄でも力は強いし。
 ケンカも強い。
 メンタルも強い。
 俺より強い男が、俺に守られる必要はないだろう。
 俺もそこそこ強いほうだが、玲史には敵わない。セックスじゃ、攻められて……グズグズになったしな。
 なのに、思っちまう。



 コイツの何かを、俺が守ってやらねぇと……って。



 今はわからない何かを、わかる時がくればいい。
 そう、願いながら……目を閉じた。



 寝たと思ったら意識取り戻して。

 あーまだ寝てねぇ……のか? あれ? 朝……か? もう? 寝てねぇ……よな?

 てことが、たまにある。
 今もだ。

 視界に、明るい栗色のフワフワした髪。俺の胸に顔を埋めるように、玲史が眠ってる。
 昨夜というか、今朝早くのことを思い出す。昨日。夕方。夜。一気に全部。
 そして、まず。
 玲史がまだ起きてないことに、広角が上がる。

 ぐっすり安眠出来たんだな……やっぱり、けっこう疲れてたのか。
 今何時……って。



 2時33分。2時……昼のか!?



 疲れきってたとしても。よく、こんなに寝たな。まぁ……寝直したの6時半だし、アリか。

「ん……紫道しのみち……おはよ」

「おはよう……」

 顔を上げて微笑む玲史に見つめられ、少し照れくさい。

「アナルの調子はどう?」

 起きて一番に。さわやかに聞くのか。それを。

「……大丈夫、だ……」

 たぶん、な。

「よかった。ちょっと使い過ぎちゃったから」

 さすがに。
 昨夜の……セックス、を。
 時間経ってあらためて思い出返すと……こっ恥ずかしい。
 すげ……恥ずかしい。
 自分がどうだったか、とか。何されたか、とか。何言ったか、とか。何さらしたか、とか。



 どれだけイキまくってたか、とか……!



「お前は、どこも何ともないか?」

 蘇るエロ記憶を振り払い、尋ねるも。

「もちろん。やっと、きみとやれたし。きみ、よくイッたし。よく啼いたし。超かわいかったから。絶好調」

 玲史の返答に。恥ずかしくて俯きたくなる……が。俯くとよけいに俺の顔が玲史に見える。この体勢だと、位置的に。

「僕たち、セックスの相性いいじゃん。攻めれば攻めるほど、きみ気持ちよくなったし。痛いのもよくなったみたいだし。ほんとかわいくて……」

 恥ずかしさで死ねるくらい、恥ずかしくなった。

「玲史、やめろ!」

 つい、強い口調になるも。

「その顔。赤くなってかわいいね。朝から楽しいなぁ」

 玲史は気にせず……。

「寮には、夜までに帰ればいいんでしょ? 何か食べて、もう1回やる?」

 俺の乳首を指先で撫でる。
 ゾクッとしちまう。

「つッ! やめ……」

「ここ、ちゃんと覚えてるみたい。気持ちいいとこだ……って」

「ッく……」

 マズい。勃ちそ……昨夜散々やった、のに……。

「朝……つか、もう昼だが……起きて真っ先にやるもんじゃねぇだろ……」

「そうだね」

 すぐさま手を引いて、玲史が上体を起こす。

「焦らされてからのが、いいんでしょ?」

「いや、そういうわけじゃ……」

「セックスはオアズケして。何して遊ぼっか。恋人同士って、やる以外何するもの?」

 聞かれ。考えながら、起き上がる。
 腰がちょっと痛い。

「何だろうな」

 一緒に筋トレ。ゲーム。飯食う。街ブラブラ? 映画でも見るか?
 みんな、何してんのか……今度、たすくに聞いてみよう。將悟そうごにも……。

「え! もう2時半!?」

 時計を見た玲史の驚く声。

「そんなに寝たの、久しぶり……」

 ドアの向こうから、アプリの通知音。

「あっちに置きっぱなし。取ってくるね」

 軽やかにベッドを降りた玲史が、部屋から出て。スマホ2台を手に戻ってくる。
 遮光カーテンのおかげで少し薄暗いが、よく見える中。全裸で立ったままスマホを操作する玲史に、恥ずかしげはなく。勃ってもなく。エロさもない……のを見て、下を向いた。

 ちょっと乳首触られたくらいで、うっかり……その気になっちまうところだった。
 どうしたんだ俺……昨夜の残り火か。余韻か。新たな欲か。



 身体が疼く……!



「翔太からメッセージ……ねぇ、紫道」

 呼ばれて視線を向ける俺の目に、玲史の黒い笑顔。

「人助けしない? かわいい後輩の」

 差し出されたスマホの画面に、シンプルなメッセージ。



『ヘルプ! ケツにちんぽ挿れるコツ、教えてください! 大至急です!』



 木谷翔太……人助け……か。
 するのはいい。風紀の後輩の役に立てるなら。玲史が乗り気なら。

 木谷の『この頼み』に……助けになることがあるなら、だ。


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