上 下
61 / 167

061 もうすぐ4時だし:R

しおりを挟む
「無理です!」

 つき合うことに、真っ先にノーを出したのは沢渡さわたりだった。

「おこがましくて……考えるのも気が引けます」

「エロい妄想のネタにして抜くのはアリのくせに?」

「それは……俺だけの世界で、別の次元で。そこでは俺の自由だから」

 堂々と言う沢渡……は、置いといて。

「きみは?」

 西住にしずみに尋ねる。
 ノーっていうなら、この子のほうでしょ。

「正直にね」

「俺は……実際につき合うかどうかは置いといて、形としては賛成です。じゃなきゃ、脅しを無効に出来ない……ですよね?」

 素で驚いてるっぽい沢渡をチラ見して、西住が僕に聞き。

「沢渡に俺のこと言わせたの、そのためなんだし。俺にバレてつき合うってなれば、問題ない。アイツらに好き勝手はさせない」

 返事を待たずに続ける。



 冷静だ。
 この子、いいじゃん。
 細身のサッパリ顔は僕の好みじゃないけど。
 正義感あって。
 エロ方面の思考回路はまだ疎そうだけど。
 臨機応変が利いて、頭の回転は悪くない。

 変態自認する子の相手も、十分務まりそう。



「うん。その意気で」

 微笑むと、西住の表情もリラックスしたものになった。

「じゃ。沢渡くんの先輩にそれ伝えて、一見落着だね。連絡先ってわかる? どっかで待ち合わせしてるとか?」

 終わった感を漂わせる僕と西住と違い、沢渡は見開いた目で口も開けてる。

「どうしたの?」

「……あり得ない」

 怖いモノ見たのを否定するように、首を横に振る沢渡。

「西住が俺と……なんて」

 せっかく終わりかけてるのに。
 要らないとこ引っかからないでほしいなぁ。

「聞いてた? 形だけだって」

「形だけでも、です」

 沢渡の視線は西住へ。

「俺となんて、気持ち悪くないのか?」

「いや、別に……実害はないだろ」

 西住は、いたって冷静。

「先輩たちが言いふらしたら、きみまで変な目で見られる……」

「男とつき合うの、うちではおかしくないだろ」

「俺と、だ。変態とつき合うのは変態だって思われる……嫌だ」

「嫌って。俺はかまわない。とにかく、早く……」

「かまえよ!」

 話を進めようとする西住を、沢渡が遮った。

「そんな簡単に、俺と関わって……いいのか?」

「え……」

「さっき言ったろ、きみに何するかわからないって。きみが近くにいたら……どうにかならない自信がないんだ」

「あ……でも……」

 2人の会話を黙って聞いてた僕に、西住が救いを求める眼差しを向ける。

「つき合うフリは、アイツら用にで……この件が片付けば解消……ですよね?」

 なんか。
 ちょっぴり面倒くさくなってきた。

「それは2人で決めれば。今日、学祭終了まででもいいし。せっかくだから、もっと深く知り合ってみてもいいし」

 甘やかすのはタメにならないしね。

「あるんでしょ? 沢渡くんと、やる覚悟」

「は? い、や……それは……」

 西住が目を泳がせる。

「まだ……」

「形だけでもフリでも何でも。気にかけてオッケーするくらいだから、イヤじゃない。抱かれてもいいって思ってる」

 やさし気な笑みを浮かべて、沢渡を見やった。

「少なくとも、この子にはそう思われてるってこと」

「え!?」

 西住も沢渡を見る。

 ここで驚くくらい初心なの?
 男の経験は、あるみたいなのに。

「俺が抱かれる側!?」

 あ。そこなの。

「逆だろ? だってお前……」

「先輩たちは俺を犯すつもりで、それはそれで仕方ないと思ったけど。きみとなら、俺が抱きたい。想像ではいつもそうだ」

 淡々と語る沢渡。

「きみは、自分で思ってるより色気があるんだ。すごくそそられる。声も、身体も。もちろん、匂いも。今だってもう……」

「フリだからな!」

 語気荒く、西住が念を押す。

「俺に原因があることで、お前が自分を投げ出すの……放っておけないからで、お前に抱かれたいとか……そういうのじゃない!」

「この人が、その気あるって」

 僕を見る沢渡と目を合わせ、唇の端を上げてみせた。

「なかったら。きみがどうなろうと、自分の心配が先だと思うよ」

「高畑さん! 困ります。コイツ煽るの、やめてください」

「ウソは言ってないけど。ホントにつき合っちゃう可能性、ゼロじゃないでしょ?」

「そ、れは……」

 西住が口ごもる。

 ゼロです!……って、即答しないのが答え。
 完全拒否じゃなく。ゼロだと思ってた可能性が1以上あるってなったら……。

「夢が現実になるなんて、夢だ」

 沢渡が呟く。

 妄想が捗るよね。
 瞳孔開いてるみたいだし。

「最悪な日のはずが……最高の日に……どうにかなりそうだ」

「落ち着け! 大丈夫だから。どうにもなるな」

「……西住。やさしい」

「違うだろ! お前……ついさっきまで、形だけつき合うのも無理っつってたくせに! 豹変し過ぎ……」

「必死なところもいい。情熱的なのは大歓迎だ」

「高畑さん! 止めてください!」

 危機感に駆られた西住の表情は、なかなか。
 2人のコントふうなやり取りはちょっと面白いけど、そろそろタイムリミットかな。

 そう思うと同時に、スマホが鳴った。
 紫道しのみちからの電話だ。


「はいはい」

「まだ西住たちと一緒か?」

 明るくない紫道の声。
 
「うん。何かあったの?」

「アイツらと会って、沢渡のことを話した。西住にバラしたから脅しにはのらないってな」

「よかった。じゃあ、もう解決?」

「……いや。証拠を見せろって言いやがる」

「この子たち、つき合うことになったからって言って」

 暫しの間。

「今、2人の写真撮れるか?」

「オッケー。すぐ送る」



 通話を切り。画面をタップして、カメラを起動。

「紫道がアイツらといて、話つけてる」

「え……マジですか? 今?」

 期待の声を上げたのは西住。
 沢渡のほうは、脅しの件なんかすでに遠くに行っちゃってる感じ。

「そう。で、脅される要素はなくなったって証拠に。きみたちの写真が必要なんだって」

 西住と沢渡に向けて、スマホをかまえる。

「だから、つき合う雰囲気でね」

 顔を見合わせる2人。

「早く。もっとくっついて」

「でも……」
「わかりました」

 西住は引き気味。
 沢渡は興奮気味。
 並んだ2人の違和感がすごい。

「セックスするかどうかは、あとでゆっくり話し合えばいいから。今は演技でも仲良さ気にして」

 西住の眉がピクッと内に寄る。

「沢渡くん」



 もうすぐ4時だし。
 学祭も5時までだし。
 紫道も待ってるし。
 これ以上時間かけてらんない。

 何だかんだ、西住も気がないわけじゃなさそうだし。
 自覚ないみたいだけど、ネコで攻められるのが似合うタイプだし。



「キスしていいよ。僕が許す」

 このくらい、いいでしょ。
 自らを焦らす自虐趣味はないけどね。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

支配された捜査員達はステージの上で恥辱ショーの開始を告げる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

性的イジメ

ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。 作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。 全二話 毎週日曜日正午にUPされます。

高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる

天災
BL
 高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる。

珍しい魔物に孕まされた男の子が培養槽で出産までお世話される話

楢山コウ
BL
目が覚めると、少年ダリオは培養槽の中にいた。研究者達の話によると、魔物の子を孕んだらしい。 立派なママになるまで、培養槽でお世話されることに。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

部室強制監獄

裕光
BL
 夜8時に毎日更新します!  高校2年生サッカー部所属の祐介。  先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。  ある日の夜。  剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう  気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた  現れたのは蓮ともう1人。  1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。  そして大野は裕介に向かって言った。  大野「お前も肉便器に改造してやる」  大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…  

処理中です...