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032 初恋もまだ、だったな:S

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 俺を見てずっとニコニコ顔の玲史と寮の玄関前で別れ、出来るだけ急いで自室に戻り。
 心行くまでオナニーに耽った。

 興奮と性欲が収まり、冷静になり。思い返し。思う。



 このまま玲史とつき合って、セックス……しちまうと……さらに、わからなくなるんじゃ……?
 玲史を好きなのか、どうか……が。



 1年間緩く軽く誘われて。想像してみてと言われ、気になるようになった。

 俺の目の前で、頭の中で俺を犯してオナるのを見せられて。熱くなってガチガチに勃った。

 キス、をして。嫌ではないだろう、くらいでしたら…予想外に気持ちよくて。興奮した。勃った。
 玲史に……欲情した。

 抜くための妄想じゃなく。
 リアルで、だ。



 身体が玲史に反応する。
 身体は、玲史をほしがった。
 それはもう否定出来ないだろ。

 でも……心はどうだ?



 頭をガシガシと掻いた。
 ダメだ。
 わからない。恋愛感情ってのが、マジでわからない。
 
 そいつのこと考えてドキドキするのが恋か?
 ドキドキするが、結果……オナっちまうんだぞ?
 そりゃ違うよな。

 そいつと一緒にいたいとか、会いたいと思うとかか?
 特には思わない、てより。ほぼ毎日学校で顔合わせてるし。
 最近じゃ寮に帰ってからも……妄想に登場してるしな。

 結局。性欲から思ってるのか、純粋な恋心ってやつなのか……区別がつかない。
 恋してるからやりたくなる、のが本来なのか。
 いや。やりたいってだけのヤツがいるのも知ってる。そっちが本能として正常なのか。相手が男でも。



 恋愛の経験も免疫もなくて。なのに、どこかイイモノだって思ってる……ガキ過ぎだろ。高2にもなって情けねぇ……。
 初恋もまだ、だったな。

 近頃めっきり多くなった溜息をついた。



 だいぶ遅めの夕飯に行くと、空いてる食堂にたすくの姿……ちょうどトレイを持って席に向かうところだ。

「おー紫道しのみち。今日は遅いじゃん」

 俺に気づいた佑とともに、端の席へ。

「お前も……どうした?」

 佑が暗い。

「何かあったのか?」

「今日も補習だった」

「お疲れ。テストの赤点、3教科だったか?」

「そう。勉強したのによ。来週追試終わるまで……またお預けだ。今週末はエロなしだぜ」

 ふてくされてガツガツ飯を掻き込む佑を見て、口元がほころぶ。
 感情表現が素直なのは長所だな。

「残念なのは俺だけみたいでヘコむ。あいつ全然平気そうでさ」

「まぁ仕方ない。追試がんばれ」

「プラス。次のテスト、赤点取ったら月1しかしねぇって。ひどいだろ?」

 はぁーっと息を吐き、佑が続ける。

「自分とつき合って成績落ちるのはダメ、セックスし過ぎてバカになったら困るってよ。全然やり足りてねぇのに。これでもセーブしてんのに。せつねぇな」

「そりゃ、シン先輩なりの……気遣いだろ。お前のためを思って……」

「俺の? なんないね。ダメなら罰のプレッシャーより、出来たらご褒美のがやる気出んだよ俺は!」

「落ち着け。俺じゃなく本人に言わないと伝わらないぞ」

「だな」

 どこか憂いを帯びた顔で頷く佑。確かに切なそうだ。

「あ。言うの忘れてたぜ。風紀! やったじゃん。受かって何より」

「あ、りがとう……」

「高畑も……めでたくつき合えるな」

 ついさっきの物憂げな表情は消え、佑の顔がニヤニヤ楽しげになる。

「いつやるんだ? もしかして、もうやったとか?」

「ば……そんなわけねぇだろ!」

 つい、声を大きくした。

「正式決定は……まだ、だ」

「何ひよってんだよ。もう決まりだ。やるの、楽しみじゃねぇの?」

 声を下げて言うと、佑にそう聞かれ。

「気持ちがハッキリしないままで、いいのか……」

 歯切れ悪く答える。

「やったら、恋愛感情あるかないか……どうでもよくなっちまうんじゃ……」

「いいじゃん。高畑とやってみて気に入ったら、好きってことでさ」

「……それじゃ、セフレだ」

「つき合うんだから、違うだろ。あー、まぁ……お前の妄想と違ってセックスが合わねぇ可能性もあるか。5パーくらいは」

 エロ話で落ち込みを忘れたのか、すっかりいつもの調子になった佑がからかう。

「けど、高畑が経験豊富なら。お前、簡単に落ちんじゃね?」

「……だろうな」

 言うか。

「今日、玲史とキスした」

「へ? 何だ、ちゃんと進んでんじゃん」

「勃った」

「ん。当然」

 佑が満足そうに頷く。

「そうか……?」

「俺もいつも勃つぜ」

「……お前は好きな相手だからな」

「じゃあ、お前も好きなんだろ」

「何とも思ってないヤツとキスしたこと、あるのか?」

「ねぇよ」

 予想通りの答えだ。なら、あてにならない。

「大丈夫だって。んなことより、次ん時。邪魔が入んねぇ場所でキスすんなら、心づもりしとけ。止まんねぇかもじゃん?」

「それはない。やる時はちゃんと予定するみたいだ」

 今からセックスするってのをハナからわかってるのは……流れで突然より、心構えがしっかり出来ていい。

「最初ははじめてでいろいろ不安もあって、きっちり決めてやったけどさ。今じゃ俺、完全勃ったら止める自信ねぇよ。高畑、自制心あるんだな」

「ああ……」



 実際。部屋じゃ今はやめる自信ないって言ったわりに、玲史は涼しい顔してた……見た感じでは。
 俺に気持ちのいいキスを教えて。

 勃ってなかったのか?

 普通にまっすぐ立って歩いてったしな。
 反応したとしても、俺ほどじゃないだろ。

 慣れてるからか。
 自制心、のおかげか。
 恋愛感情……ないのか?



 玲史がわからない……って、あたりまえだ。
 俺自身のことも、わからないんだからな。



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