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029 僕とするのも嫌?:R

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 放課後。
 紫道しのみちと駅へと向かう道すがら、風紀で坂口の面接を一緒に受けた翔太の話をした。最初、瓜生くりゅうのほうはどうだったのか聞いたんだけど……何故か紫道はあまり語らず。
 どうしたんだろうって思いつつ、駅前のファストフードで向かい合ったところ。

「風紀委員の認定、受かって嬉しい?」

「ああ……もう、ほぼ決まりだしな」

 あ。なんか暗い? 物憂げ?
 これって……。

「僕とつき合うの、やめたい?」

 やっぱり嫌になったなら、ハッキリ言えばいいのに。
 まぁ……残念だけどさ。とっても。

 そう思いながらも、明るく尋ねた。

「は!?」

 驚いた声を上げて。

「玲史……お前は、気が変わった……のか?」

 逆に聞く紫道。悲しげなその表情に、ちょっと安堵した。

「変わるわけないじゃん。やっとつき合えるんだから」

 思い違いかな。

「いいんでしょ? 約束、もうすぐ完了で」

「う、ん……いい、けど……」

「けど?」

「……いろいろ、不安で……余裕が、ねぇんだ」



 口数少なかったり、たどたどしかったりってそのせい?

 まだ何もしてないのにっていうか。今から即セックスするんでもないのに。
 こんなデカい身体で。僕とつき合うこと、ほぼ確定して不安がって。でも、嫌がってない……むしろ。
 今、僕に向ける瞳は怯えと期待って感じ……。



 あーもう、煽られる!



「ねぇ。これ食べたら出よ」

 フライドポテトをつまんで。ソフトクリームがのったアイスコーヒーを一口飲んで言った。

「人気のないとこ行きたいなぁ」

「なん……寮はダメだ」

 焦ったふうな紫道が微笑ましい。

「ちょっと2人きりで、大事な話したいだけ」



 具体的な日取りとか。
 どこまでのプレイならオッケーかとか。
 周りに人いると、紫道は話しにくいかと思って。

 あとは。
 キスくらいしたいかな……。



「風紀の本部前で、涼弥が言ってたやつ……何だ? 瓜生に見られてた、あいつにとっちゃ殴られたほうがマシっての……」

『大事な話』で思い出したのか。
 紫道が出したのは、タイムリーな話題。

「涼弥に聞いたら、お前に聞くほうがいいっつーから……気になってたんだ」

「アレは、水本にキスしただけ。將悟そうごたちの動画悪用しないように、こっちも水本のキスシーン撮っといたの」

 あ……れ? 紫道の眉間に深い皺。

「同意ナシでしたから。瓜生から見ればやっぱりマイナスかと思って、坂口との面接にしたんだけど……」

「お前、それ……平気なのか?」

「え?」

 それって何?

「水本は涼弥と仲悪いヤツだろ。その男に……」

 キスのこと?

「ただのキスだよ。水本は好きでも嫌いでもないし。かいがしてもよかったんだけど、一度モメたことあるらしくて。僕のほうがまだ嫌悪感ないかなって……一応、水本に配慮してあげたつもり」

「玲史……」

 紫道がためらうように唇を動かしてから声を出す。

「好きじゃないと、キス出来ないってのは……嘘なのか」



 え?
 僕がそんなこと言うわけないよね?
 何その一昔前の映画とかの娼婦みたいなコメント。



「誰の意見?」

「……俺とやった女が……俺が、つき合ってたヤツに最後何回かされて嫌だったって話した時……言われた」

「嫌だったの?」

「……最悪にな」

「セックスはよかったんでしょ?」

 紫道がバッと辺りを見回す。店内は混んでるほう。

 誰も聞いてないから大丈夫。聞かれても、大丈夫。うちの制服見て、どうせゲイカップルって思われてるから今さら。

 でも、気になるなら。

「外行く?」

「そう……だな」

 残ったポテトを口に入れ、飲み物を手に店を出た。



 駅前広場のベンチが空いてたから、そこに落ち着いて。通り過ぎる男女カップルや、すぐ近くできゃあきゃあ騒いでる女子高生グループを眺めながら。
 ソフト入りコーヒー飲みつつ、話を再開。

「つき合ってた男、誰だっけ?」

「……康志やすしだ」

 名前なんて何でもいいんだけど、そのクズって連呼するのもアレだから聞いた。

「脅されて仕方なく抱かれてるのに、身体は喜んじゃうのが嫌だったんだよね」

 紫道が顔をしかめる。

「キスは最悪って。口の中は感じないの? フェラもさせられたでしょ? そのほうが嫌じゃない?」

 重ねた問いに、紫道の表情がさらに険しくなり。

「俺は……」

 ファストフードの店内みたいに誰かに聞こえる心配はなくても、こういう話は苦手らしく。

「康志にやられるのは、義務みたいなもんだって思い込ませてた。口に……突っ込まれるのもな」

 大きく息をついてから、ボソボソと口を開く紫道。

「はじめは……痛いし苦しいしで、イクのも屈辱で……何度も後悔したが……」

「やめなかったのは部活のため」

 代わりに言う。

「で、だんだん慣れて。抱かれるのが快感になった」

 紫道は否定しない。

「それで?」

「……よけい、康志が憎くなった」

 空になったアイスコーヒーのカップをギシリと握り、紫道が続ける。

「部の大会が終わったらお前とも終わりだ……大会の3日前、俺ん中じゃこれが最後だって日に言ったんだ。それで、キスされて……すげ……嫌で……よ」

 フェラよりも!?

 その前に。

「それまで康志は、キスしてこなかったの?」

「……しない。つき合うっつっても、形だけだ。やるのも、俺を屈服させたいのと出したいだけ……だからだろ。なのに……クソッ」

 憎々しげに。苦しげに、吐き出す紫道。

「脈絡ねぇこと喋っちまったけど……とにかくよ。俺にとっちゃ、キスってのは……愛情表現っつーか、性欲と関係ねぇもんだと思ってる」

 愛情……って。紫道までそんな得体の知れないモノ、いいモノみたく認識してるのか。

「だから、お前が平気でするってのが……わからねぇ」

「そっか」

 考えたのは一瞬。

「じゃあさ。僕とするのも嫌?」

「そりゃ、お前とはつき合うんだから……」

 泣いちゃうんじゃってくらい悲痛な顔してうつむき加減だった紫道が、うろたえように僕に向けた目を泳がせる。

「まだ、好きじゃないでしょ?」

「……わからねぇ」

「したい、今」

「は……!?」

 女子高生がこっち見るほどの声を上げて驚く紫道の腕を掴んで、立ち上がった。



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