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第2章:息子の同性愛指向を治したい
5. セックスもする そこに嫌悪感があるんだね
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「清美さん」
葦仁先生の呼ぶ声に、清美さんが俯いていた顔を上げる。
「世間や社会がどうであれ、母親のあなたが認めないと…啓祐くんの心は安らがない。ほかの誰より、あなたに否定されるほうがきついからね」
「私は…」
その先が続かない清美さんを見て、葦仁先生が首を傾げる。
「同性愛の何が気に入らない? 今の法律じゃ結婚出来ない、子どもが望めない以外に。パートナーが同性だってことそのものに嫌悪感があるの?」
「ある人のほうが多いでしょう? だから、世間にはそのことを隠してる人がたくさんいるし、堂々と人に言えないんじゃない」
「あなたもしつこいな」
葦仁先生が大げさに溜息をついた。
「他人は関係ないんだよ。あなたはどうなのか。それだけを問題にしてる」
「私は、同性を好きになるって発想が理解出来ないの。家族や友人に対する愛情と違うでしょう? だって、同性が恋愛対象ってことは……」
「文字通り、恋をして愛する」
言い淀む清美さんの真意を読み取ったであろう葦仁先生が、代わりに続ける。
私にもわかった。きっと、啓祐さんも。
「そして、セックスもする。そこに嫌悪感があるんだね、あなたは」
刹那の沈黙。
ハッキリ口にしたからには、葦仁先生の頭に清美さんを納得させる理論がある…そう信じたい。
「愛する相手とともに、性的欲求を満たす行為だ。ごく自然なことだよ」
「自然……? どこが自然なの?」
「面倒だから、あなたも本音で話してほしい」
そう前置く葦仁先生に、眉間に深い皺を刻む清美さん。
「あなたは、子どもを作る目的以外でセックスしたことは今までに一度もないって言える? 避妊具なんか見たこともない?」
ドストレートな質問。
清美さんの目が泳ぐ。息子の前でのセックスの話題に抵抗があるのはわかる。
だけど、これを越えなきゃ嫌悪感を消すのは無理なはず。
「あるよね。あなたの好きな言い方をすれば、世の中の夫婦と恋人関係にある男女の大部分が、快楽のためだけに身体を重ねた経験がある。それは普通だろう?」
葦仁先生は、清美さんの答えを待たずに話を進めている。聞くまでもない問いは、単なる確認だ。
「対象が同性なだけで、同性愛者も変わらない」
「違うでしょう!? 男同士でなんて……」
再び途中で言葉を止める清美さん。
「汚いとか不潔だとでも言う? 想像すると気持ち悪い?」
やれやれと呆れ口調の葦仁先生が、啓祐さんの視線を受けて笑みを浮かべる。
「そう感じる人間がいるのは理解出来るよ。知らないことに対して一方的な見方になるのは仕方ない」
「先生だってそうじゃないの!? 普通なら男の人と……そういうことするのは、考えられないはずだわ」
「いや。僕は平気だ。ゲイじゃないけど男と寝たことがある。若い時にね」
え……!?
「え……!?」
驚きを口に出したのは啓祐さんだ。
「先生、バイだったの?」
「違うよ。事情があってやむなくね。でも、嫌悪感はなかったな」
さらに何か言いたげな啓祐さんを制し、葦仁先生が清美さんを見る。
「男同士のセックスを、あなたがどう思おうと自由だ。女同士のもね。誰もあなたに同性愛を強いることはないだろうし」
「結局……何が言いたいの」
「まず、啓祐くんは成人したひとりの男として、誰と恋愛してセックスするのも自由。自分の責任において性的な欲求を満たすのは自然なことだから。それはわかるよね?」
「理解するのと認めるのは別でしょう」
「次に。あなたが同性愛を否定するのは、世間や社会がどうのってことより…同性同士の性的な行為を嫌悪してるから?」
「生理的に受けつけないことってあるでしょう?」
「そうだね。僕にもあるよ」
「なら、わかるでしょう? 自分の息子が……考えたくもないことをするなんて、出来るものならやめさせたいって思うじゃない!」
声を荒げた清美さんが、肩で息をする。
「その感覚はわからないな」
「どうして!」
「僕にも心から嫌悪することはある。だけど、もし、それを愛する人が自分の意思で楽しんでやってるなら、僕はやめてほしいとは思わない。愛する人の一部だからね。もちろん、他人に害を与える行為や犯罪は論外だけど」
葦仁先生の眼差しが、まっすぐに清美さんを射抜く。
「あなたは同性愛者を嫌悪してるかもしれない。でも、その前に、啓祐くんは愛する息子だろう?」
「そうよ。だから……」
「自分の好まない要素は排除して、自分の理想の息子像に合わせたい?」
「そうじゃないわ……」
「同性愛指向のある啓祐くんは愛せない? その事実を知ったのは最近でも、もともと彼はそうなのに? あなたの愛は、条件つきだってこと?」
「違う……!」
清美さんが叫ぶように言い放つ。
「違うの……私は……怖いのよ!」
怖い?
息子が同性愛者なのが?
何で?
やっぱり世間の目が?
何が怖いのか、清美さんが話し始めるのに1分以上の時間を要した。
誰もが、葦仁先生さえも、彼女が自分のタイミングで口を開くのを見守っていたから。
葦仁先生の呼ぶ声に、清美さんが俯いていた顔を上げる。
「世間や社会がどうであれ、母親のあなたが認めないと…啓祐くんの心は安らがない。ほかの誰より、あなたに否定されるほうがきついからね」
「私は…」
その先が続かない清美さんを見て、葦仁先生が首を傾げる。
「同性愛の何が気に入らない? 今の法律じゃ結婚出来ない、子どもが望めない以外に。パートナーが同性だってことそのものに嫌悪感があるの?」
「ある人のほうが多いでしょう? だから、世間にはそのことを隠してる人がたくさんいるし、堂々と人に言えないんじゃない」
「あなたもしつこいな」
葦仁先生が大げさに溜息をついた。
「他人は関係ないんだよ。あなたはどうなのか。それだけを問題にしてる」
「私は、同性を好きになるって発想が理解出来ないの。家族や友人に対する愛情と違うでしょう? だって、同性が恋愛対象ってことは……」
「文字通り、恋をして愛する」
言い淀む清美さんの真意を読み取ったであろう葦仁先生が、代わりに続ける。
私にもわかった。きっと、啓祐さんも。
「そして、セックスもする。そこに嫌悪感があるんだね、あなたは」
刹那の沈黙。
ハッキリ口にしたからには、葦仁先生の頭に清美さんを納得させる理論がある…そう信じたい。
「愛する相手とともに、性的欲求を満たす行為だ。ごく自然なことだよ」
「自然……? どこが自然なの?」
「面倒だから、あなたも本音で話してほしい」
そう前置く葦仁先生に、眉間に深い皺を刻む清美さん。
「あなたは、子どもを作る目的以外でセックスしたことは今までに一度もないって言える? 避妊具なんか見たこともない?」
ドストレートな質問。
清美さんの目が泳ぐ。息子の前でのセックスの話題に抵抗があるのはわかる。
だけど、これを越えなきゃ嫌悪感を消すのは無理なはず。
「あるよね。あなたの好きな言い方をすれば、世の中の夫婦と恋人関係にある男女の大部分が、快楽のためだけに身体を重ねた経験がある。それは普通だろう?」
葦仁先生は、清美さんの答えを待たずに話を進めている。聞くまでもない問いは、単なる確認だ。
「対象が同性なだけで、同性愛者も変わらない」
「違うでしょう!? 男同士でなんて……」
再び途中で言葉を止める清美さん。
「汚いとか不潔だとでも言う? 想像すると気持ち悪い?」
やれやれと呆れ口調の葦仁先生が、啓祐さんの視線を受けて笑みを浮かべる。
「そう感じる人間がいるのは理解出来るよ。知らないことに対して一方的な見方になるのは仕方ない」
「先生だってそうじゃないの!? 普通なら男の人と……そういうことするのは、考えられないはずだわ」
「いや。僕は平気だ。ゲイじゃないけど男と寝たことがある。若い時にね」
え……!?
「え……!?」
驚きを口に出したのは啓祐さんだ。
「先生、バイだったの?」
「違うよ。事情があってやむなくね。でも、嫌悪感はなかったな」
さらに何か言いたげな啓祐さんを制し、葦仁先生が清美さんを見る。
「男同士のセックスを、あなたがどう思おうと自由だ。女同士のもね。誰もあなたに同性愛を強いることはないだろうし」
「結局……何が言いたいの」
「まず、啓祐くんは成人したひとりの男として、誰と恋愛してセックスするのも自由。自分の責任において性的な欲求を満たすのは自然なことだから。それはわかるよね?」
「理解するのと認めるのは別でしょう」
「次に。あなたが同性愛を否定するのは、世間や社会がどうのってことより…同性同士の性的な行為を嫌悪してるから?」
「生理的に受けつけないことってあるでしょう?」
「そうだね。僕にもあるよ」
「なら、わかるでしょう? 自分の息子が……考えたくもないことをするなんて、出来るものならやめさせたいって思うじゃない!」
声を荒げた清美さんが、肩で息をする。
「その感覚はわからないな」
「どうして!」
「僕にも心から嫌悪することはある。だけど、もし、それを愛する人が自分の意思で楽しんでやってるなら、僕はやめてほしいとは思わない。愛する人の一部だからね。もちろん、他人に害を与える行為や犯罪は論外だけど」
葦仁先生の眼差しが、まっすぐに清美さんを射抜く。
「あなたは同性愛者を嫌悪してるかもしれない。でも、その前に、啓祐くんは愛する息子だろう?」
「そうよ。だから……」
「自分の好まない要素は排除して、自分の理想の息子像に合わせたい?」
「そうじゃないわ……」
「同性愛指向のある啓祐くんは愛せない? その事実を知ったのは最近でも、もともと彼はそうなのに? あなたの愛は、条件つきだってこと?」
「違う……!」
清美さんが叫ぶように言い放つ。
「違うの……私は……怖いのよ!」
怖い?
息子が同性愛者なのが?
何で?
やっぱり世間の目が?
何が怖いのか、清美さんが話し始めるのに1分以上の時間を要した。
誰もが、葦仁先生さえも、彼女が自分のタイミングで口を開くのを見守っていたから。
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