Gear-Theater(ギア・シアター)

小本 由卯

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プロローグ

主無き工房

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 ある街に存在する技師の工房。
 その工房の中に汚れた衣服を纏う女性の姿があった。
 彼女はこの街の役場で働く役員である。

 女性の視界に広がるのは、隅々まで手入れの行き渡った工房の室内。 
 これを手掛けたのは他でもなく、目を凝らせながら工房の中を見回る
彼女自身であった。

(これだけ綺麗になれば何も言われないよね……?)
 そんな疑問を過らせながら綺麗に磨かれた壁に映る自身の姿を
見据えていると、上の階へと続く階段の方から足音が聞こえてきた。

 女性が階段の方向へ視線を移すと、そこから姿を現していたのは何処か彼女と
雰囲気がよく似た青年であった。
 彼もまた、女性と同じ目的で役場からやってきた存在である。

 階段から下りた青年がその周囲に視線を移していると、その様子に気が付いた
女性が彼へと問い掛ける。

「どうかな……? 十分綺麗になったと思うのだけれど……」
「驚くくらい綺麗になっているよ」

「ありがとう、上の階の方はもう終わったの?」
「こっちも終わったよ、本当ならここも手伝うつもりだったけど手こずって
しまった……」
 申し訳なさそうに答える青年に対し、女性はなだめるように言葉を返す。

「……頑張ったね」
「うん、お互いに……」
 2人は互いに労いの態度を向けながら、見違えた工房の姿を見渡していると
晴れやかな声で女性が口を開く。

「それじゃあ片付けて役場に戻ろうか……」
 女性がそう言いかけたその時、彼女の視界に青年の纏う汚れた衣服が映り込む。
 まるで今の自分を映したような彼の姿を見て、女性は再び口を開く。

「いや……さすがにこのまま外に出るのはちょっと嫌だよね、着替えて
いこうか……」
「……了解」

 苦い表情のまま笑みを浮かべる女性に対し、青年は静かに頷いた。
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