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本編
魔女の像
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書庫の最奥に設けられた小さな部屋の中を、静かに見回す義姉妹の姿があった。
彼女たちはジェデトの頼みによって、この部屋の整理を任されていた。
本来、魔女は数多の魔法を駆使するとされているが、それらは自分たちに都合の
良いものばかりではない。
生活の上で魔女に課せられる労力は、人間とそれほど変わらないのである。
「そういえば、この部屋に来るの初めてだった」
「ここまで来る用事なんて今まで無かったからね」
2人が会話をしていると、マリーチルの目にあるものが留まる。
それは、部屋の隅に設置された魔女の像であった。
「へぇ……本以外のものも置いてあるんだね」
マリーチルは近づきながら、好奇の眼差しで像を観察する。
大きな存在感を放つその像は、まるで部屋と2人の魔女を監視するかのように
凛々しい雰囲気を纏っていた。
「私たちが悪いことでもしたら、怒って攻撃してきそうだね」
「……マリーちゃん、恐ろしいこと言わないで」
「もしそうだとしても、しっかり綺麗にして帰れば大丈夫だよ」
苦い表情を浮かべるアズリッテをなだめるようにマリーチルが答えると
やがて2人は、部屋の整理へと取り掛かった。
「何だか、言うほど散らかっていない気がするんだけど、もしかしてジェデトって
かなりの綺麗好き?」
「もしそうなら、私たちも見習わないといけないね」
2人が陽気な会話をしながら作業を進めていると、再びマリーチルの瞳があるものを捉えた。
(……何これ?)
「……? マリーちゃん?」
マリーチルが突然、部屋の隅に設けられた本棚の隙間を覗き込んだ。
その様子に気が付いたアズリッテも合わせるように覗き込むと、その先に見えた
のは、本棚の隙間に隠れるように造られた把手であった。
「これって……引いたら何かが動くやつだよね? ジェデトが造ったのかな?」
「うん、そうだと思う……でも……」
アズリッテは隙間から顔を離し、マリーチルへ何かを言おうとした瞬間
鈍い作動音と共に部屋の中へと振動が響き渡る。
すると、置かれていた魔女の像が後退を始めた。
事を察したアズリッテがマリーチルの方へ視線を向けると、そこには笑みを
浮かべながら装置の把手を引く姉の姿があった。
「ふふ、やっぱりね」
唐突にマリーチルが起こした行動によって、困惑の表情を浮かべたまま
硬直するアズリッテ。
そんな妹の様子をよそに、マリーチルは誇った表情で言葉を
続ける。
「実はこの像、最初に見た時から何か仕掛けがありそうだなって思ったんだよね」
「ちょっとマリーちゃん!? 何で!?」
「いや……あの真面目なジェデトが造ったものだったら、上から何か降ってきたり
床が抜けたりすることはないだろうと思って……」
「ジェデトちゃんじゃなくても造らないよそんなの……」
「それに、動かされて困るものだったら初めから私たちに、ここの整理なんて
頼まないはずだよ」
「確かにそうだけど……」
2人は後退した魔女の像へ近づくと、元々像の置かれていた床からその地下へと
続く階段が伸びていた。
「……折角だからこの先も綺麗にしておこうかな」
「まさか……下りる気なの!?」
「うん、動かしちゃったからにはね」
「どうする? アズリーは待ってる?」
「いや、私も行くよ……」
マリーチルの問いにアズリッテが不服な顔で答えると、揃って2人は
地下へと続く階段を進んでいった。
彼女たちはジェデトの頼みによって、この部屋の整理を任されていた。
本来、魔女は数多の魔法を駆使するとされているが、それらは自分たちに都合の
良いものばかりではない。
生活の上で魔女に課せられる労力は、人間とそれほど変わらないのである。
「そういえば、この部屋に来るの初めてだった」
「ここまで来る用事なんて今まで無かったからね」
2人が会話をしていると、マリーチルの目にあるものが留まる。
それは、部屋の隅に設置された魔女の像であった。
「へぇ……本以外のものも置いてあるんだね」
マリーチルは近づきながら、好奇の眼差しで像を観察する。
大きな存在感を放つその像は、まるで部屋と2人の魔女を監視するかのように
凛々しい雰囲気を纏っていた。
「私たちが悪いことでもしたら、怒って攻撃してきそうだね」
「……マリーちゃん、恐ろしいこと言わないで」
「もしそうだとしても、しっかり綺麗にして帰れば大丈夫だよ」
苦い表情を浮かべるアズリッテをなだめるようにマリーチルが答えると
やがて2人は、部屋の整理へと取り掛かった。
「何だか、言うほど散らかっていない気がするんだけど、もしかしてジェデトって
かなりの綺麗好き?」
「もしそうなら、私たちも見習わないといけないね」
2人が陽気な会話をしながら作業を進めていると、再びマリーチルの瞳があるものを捉えた。
(……何これ?)
「……? マリーちゃん?」
マリーチルが突然、部屋の隅に設けられた本棚の隙間を覗き込んだ。
その様子に気が付いたアズリッテも合わせるように覗き込むと、その先に見えた
のは、本棚の隙間に隠れるように造られた把手であった。
「これって……引いたら何かが動くやつだよね? ジェデトが造ったのかな?」
「うん、そうだと思う……でも……」
アズリッテは隙間から顔を離し、マリーチルへ何かを言おうとした瞬間
鈍い作動音と共に部屋の中へと振動が響き渡る。
すると、置かれていた魔女の像が後退を始めた。
事を察したアズリッテがマリーチルの方へ視線を向けると、そこには笑みを
浮かべながら装置の把手を引く姉の姿があった。
「ふふ、やっぱりね」
唐突にマリーチルが起こした行動によって、困惑の表情を浮かべたまま
硬直するアズリッテ。
そんな妹の様子をよそに、マリーチルは誇った表情で言葉を
続ける。
「実はこの像、最初に見た時から何か仕掛けがありそうだなって思ったんだよね」
「ちょっとマリーちゃん!? 何で!?」
「いや……あの真面目なジェデトが造ったものだったら、上から何か降ってきたり
床が抜けたりすることはないだろうと思って……」
「ジェデトちゃんじゃなくても造らないよそんなの……」
「それに、動かされて困るものだったら初めから私たちに、ここの整理なんて
頼まないはずだよ」
「確かにそうだけど……」
2人は後退した魔女の像へ近づくと、元々像の置かれていた床からその地下へと
続く階段が伸びていた。
「……折角だからこの先も綺麗にしておこうかな」
「まさか……下りる気なの!?」
「うん、動かしちゃったからにはね」
「どうする? アズリーは待ってる?」
「いや、私も行くよ……」
マリーチルの問いにアズリッテが不服な顔で答えると、揃って2人は
地下へと続く階段を進んでいった。
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