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生贄にうってつけの身体
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ある小さな村では最近水害が絶えなかった。山中の湖に住む水神の祟りだ、生贄を立てるべきかと村の重鎮は連日話し合い、民は震えあがっていた。村が日に日に不穏な空気を増していく中、突然旅の男が訪ねてきた。何用かと問うと男は、生贄はいらんかねとふざけた口調で話し始めた。男は各地を転々として生贄を斡旋する商いを営んでいるということだった。怪しむ村の者たちに、水神に捧げるのにふさわしい者がいると男が連れてきたのは、雪のように白い肌と冷たい美貌をもつ一人の少女だった。
「ねぇ、今日水神様の贄になった娘の話聞いたかい」
村の女どもは生贄の恐怖から解放され、いつもより明るい声で噂話に忙しい。
「あの子の噂なら私も聞いたよ。なんでも今まで色んな神の生贄にされてきたのに、しばらくするとケロリとした顔で帰ってくるらしい」
「ばからし。大方お役目から逃げ出したんだろ」
「それが、神様の祟りはちゃんとおさまっているんだって、ねぇ、きっと今回も……」
ふと女たちの噂話が途切れた。生贄の娘を連れてきたよそ者の男が近くを通ったからだ。細面に切れ長の瞳。どこか女性的な色気のある男。彼は自分は神と人との仲介者であると長老にのたまったらしい。
「頭がおかしいのかもしれないね」こそこそと一人の女が話し出した。
「頭は変かもしれないけど、この村ではお目にかかれないようないい男なのは間違いないよ」
「あの娘とどういう関係なんだろう?恋仲?」
「馬鹿だね、自分のいいひとを生贄に差し出す男がどこにいるってんだい」
村の女たちの口さがない噂話を気にも留めず、男は水神の宮がある山の方を見やった。
どうどうと滝の音がする祭殿の中、裸身の少女と異形の化け物が絡みあっている。
「どうじゃ、これでも感じぬか!」
異形は激しく少女の身体を穿っているが、少女の白い面は動かない。
「はぁ、なぜじゃ、何故おぬしは何も感じておらぬのだ。これではわしは精気を得ることができん……っ!」
異形がその精の素を少女の中に吐き出す。それは儀式の終わりを意味していた。少女はわずかに身じろぎして肉棒を自らの身体から引き抜いた。そしてさっと立ち上がり、横に脱ぎ散らかされた自らの着物を素早い手つきで身に着け始める。その顔にも、動作にも性の交わりの余韻は一切漂っていなかった。
精を吐き出した後、その動きを止めていた異形がやがて動き出し、憎々し気に顔を歪めた。
「きさま何者だ、何故神と交わって何も感じずにいられるのだ。」
「私はただの生贄です。この一帯への水害を止める代わりにあなたへと差し出されました」
「お前がただの生贄であるものか!あぁ、これでは、わしは力を得ることができん……しかし、しかし、神として約束を破ることはすまい。この地への水害はもう起こることはないだろう……」
少女は一寸の乱れもない着物姿で神に向かって一礼し、祭殿をあとにした。残るは肩を落とした神の姿。
「ただの人間の娘が神と交わって正気でいられるなど……」
その呟きは広い祭殿の虚空に溶けていった。
少女が村に戻ると村の者たちはどよめいた。
本当に生きて帰ってくるなんて。
見てごらん、あの冷たい顔。普通の娘じゃないよ。
あの子、本当に人間かい?鬼や化け物の類じゃないだろうね。
水害を鎮めたにも関わらず、彼女を迎えたのは、理解できないものを見る眼差し。それを意にも介さず、少女は自分を生贄に差し出した男の元へと戻っていった。
「ただいま戻りました、カイさん」少女にカイと呼ばれた男は切れ長の目をさらに細くして笑った。
「なんだい、今回も戻ってきたのかい、百合」
「私が戻らないと損するのはカイさんでしょう」
「違いない!アタシもこの商売長いが、アンタほど生贄にうってつけの女にはもう100年生きたって出会えないだろうね。さて、用は済んだし、さっさと村を出ようか」男は陰口を叩く村人達を冷ややかな目で見ながら少女の背を押した。
「お泊りにならないの?」
「こんな田舎臭い村の飯をこれ以上食うのはごめんさ。今から出れば、少しはマシな宿にたどり着けるだろう。さ、行くよ百合」
「はい、カイさん」
百合とカイが出会ったのはほんの1年前。何度生贄に捧げられても生きて帰ってくる少女の噂を聞いてカイが彼女のもとにやってきたのだ。
少女は生まれながらの孤児であった。年頃になると生来の器量の良さが際立ち、良い値が付くだろうと養親に売り飛ばされた。最初のうちはみな美しい彼女に卑しい目を向け、その身体を好きに暴いたが、何をされても冷たく凍りついた面持ちに嫌気が差し、最後には彼女を手放すのだった。
初めて彼女が生贄に選ばれた時も、主人が少女の頑なさに倦んでいた頃だった。その地で起きていた不作をおさめようと神に差し出されたのだが、それは体のいい厄介払いでもあった。
しかし彼女は生きて帰ってきた。不作は止んだが、皆が彼女を気味悪がり、噂は広がった。その噂を聞きつけて現れたのがカイだった。ぜひ彼女をもらい受けたいと交渉を持ち掛ける男に、少女の主人は喜んで彼女を売った。
「アタシはカイってんだ。これからよろしく頼むよ。しかし、アタシも仲介屋としてずいぶん多く神様連中の好むおんなを見てきたが、こんな上物を見たのは初めてだ」
それからカイは彼女を「商品」として容赦なく生贄に送り出した。ただカイは彼女を抱くことはなかった。今までの人生で男に散々肉欲をぶつけられてきた彼女にとって彼は異質な存在だった。一度不思議に思って聞いたことがある。なぜ自分を抱かないのか、と。少女の問いにカイは片眉を歪め、「なーんも感じない娘っ子なんか、抱いたってしょうがないだろうさ。それに──」にやりと男は笑った。
「商品に手を付けるほど落ちぶれちゃいないんだよ」
彼の元から生贄として送られ、戻ってくること三度目。唐突にカイは彼女を呼んだ。百合、と。
「生贄の女は一回使ったら帰ってこないのが普通だからね。アンタみたいに何度もお取り扱いできるやつと過ごすのに名がなくちゃ不便だろう」
「ユリ、百合ですか。何故私に花の名など?」
「不服かい?百合の花っていうのは外つ国では処女に捧げられる花らしいよ。何度神に抱かれても帰ってくる穢れを知らないアンタにぴったりさ」カイは皮肉に笑って片目をつぶった。
今まで少女に名はなかった。名を与えようとする者もいなかった。カイからもらった花の名はカイだけが呼ぶ少女の唯一の持ち物となった。
ある時、北東の国で力の強い神による祟りが起こっているとの情報が舞い込んできた。カイと百合はすぐさまその地方に向かった。数日間の交渉の末、カイは何か嫌な予感がすると百合を差し出すことを渋った。しかし、百合は、自分は平気だから使ってくれとカイを説得し、神域へと向かって行った。
「ようこそ、噂は聞いているよ」
その日の神は今まで相手をした神たちとどこか違っていた。
「どうやっても精気を吸えない女がいると聞いたんだ。それでどうしても気になってね、こちらまで出向いてもらおうと祟りを起こしたという訳さ」
口調は明るいが、言っていることは空恐ろしい。
「私はただの娘です、けれど確かに私の身体から精気を奪うことは今までどんな神にもできませんでした」
「アラアラ、それは不甲斐ない」神はおかし気にケラケラと笑った。
「でもね、わたしはもうお前のヒミツの見当はついているよ。実は人に交わって生きた時期があってね。お前たちのことには少し詳しいんだ」
少女はひっそりと眉をひそめた。私の身体の秘密?そんなものはない。この体質は生まれつきだ。
「あぁ、今お前が考えていることが手に取るようにわかるよ。そうだね、口で説明するより実践する方が早いね」
そうして神の姿はゆらぎ、あっというまに見慣れた男の姿になっていた。百合は目を丸くした。
「え、カイ、さん?」
驚く百合を尻目に神は彼女をたちまち引き寄せて後ろから抱き込んだ。
「なにをするのです!」
「この身体で交わってみようじゃないか、それですべてわかる」
「あ、ぅあああ!」
神はカイの姿で百合の全身を撫で回し、女の敏感な部分をいじめぬいた。それは、いつもされていることと変わらないものだった。ただ、百合の全身に走る性感だけが大きな違いだった。
カイの姿をしたものに女として扱われるなんていやだ。彼はそういう人ではないのだから。
そんな百合の気持ちを裏切り、身体はカイの手に甘え、腰はとうに砕けていた。
「ふふ、こうも思い通りの反応をされるとは」
「どういう、ことです」百合は快感に耐えながら、必死に理性を保って言葉を紡いだ。
「こんなこと今まで万とされてきました。今さら感じるようなものではないはず。なのに……。」
「お前はね、心で感じるタチなんだ。どんな巧みな愛撫でもそれが好いた男からのものじゃないと身体が受け入れないのさ」
それが意味することは──
「惚れているんだね、この男に」
にいと切れ長の目をさらに細くして男は笑った。それはカイが機嫌がいい時にする笑みの形だった。どっと身体が熱を持つ。
「おやおや身体を桜色に染めて。この時期に花見とはなんとも風流なことじゃないか……さあ続きをしようか」
「ひぁぁぁ!いや、いれないで、いれないで……」
男の肉棒が百合の花びらをかき分け、その女の部分に食い込んでいく。
「そんなだだっこみたいなことを言うんじゃないよ、お前はコレをするためにここまで来たんだろう?」
「カイさんにされるのはいや!カイさんにこんな私を見られるのはいやなのぉ!」
カイにとって自分は快楽を感じることのない女だからこそ価値があるのだ。それが今や男の肉棒を突きいられ、ひぃひぃと喘いでいる。こんな自分は彼にとって用無しもいいとこだ。
「哀れなおんなだねぇ。好いた男と自分が結ばれることすら考えようとしないなんて」
「はなして、これ以上その姿で私にふれないで!」
「ほら、ほら暴れるんじゃないよ。爪なんか立てて子猫のようだね。大人しくしないか……百合」
ぴたりと百合の身体が硬直した。神はにんまり笑い、百合の顔を優しく撫でさすった。
「よし、よし、神の慈悲だ。哀れなお前に美しい夢を見せてやる。現世では決して叶わない夢に抱かれてお眠り……」
「あぁ、カイさん……」
「百合、可愛い百合、気持ちいいかい?……百合……百合」
カイに名を呼ばれながら、身体の中をかき回されると、胸の奥から甘いものがこみあげて体中に広がっていく。百合はとろんとした目をカイに向けて切ない心の内を吐露した。
「わたし、カイさんと一緒にずっと旅をしてたいの」
「あぁ、そうだね。二人でどこまでも行こう」
「誰に抱かれてもかまわない。カイさんといれるなら」
「アタシだってそうさ。ずっと一緒だよ、百合」
男は「お前の精気が尽きるまでね……」と呟き、神の顔で嗤った。
生贄が捧げられてから数日。娘を連れてきた男はまだ村に逗留していた。生贄の儀は済んだだろうに、この村に何の用があるのだろうと人々は不思議半分、気味悪さ半分で噂しあった。男は待っていた。いつも通り娘がすました顔で神の住処から帰ってくる姿を。
そうして半月が過ぎ、ついに男は村の宿を引き払った。
「嫌な予感が当たっちまったね」
村を出て、一人きりの旅路につく男はもう呼ぶことのない名を口の中で呟いた。
「ねぇ、今日水神様の贄になった娘の話聞いたかい」
村の女どもは生贄の恐怖から解放され、いつもより明るい声で噂話に忙しい。
「あの子の噂なら私も聞いたよ。なんでも今まで色んな神の生贄にされてきたのに、しばらくするとケロリとした顔で帰ってくるらしい」
「ばからし。大方お役目から逃げ出したんだろ」
「それが、神様の祟りはちゃんとおさまっているんだって、ねぇ、きっと今回も……」
ふと女たちの噂話が途切れた。生贄の娘を連れてきたよそ者の男が近くを通ったからだ。細面に切れ長の瞳。どこか女性的な色気のある男。彼は自分は神と人との仲介者であると長老にのたまったらしい。
「頭がおかしいのかもしれないね」こそこそと一人の女が話し出した。
「頭は変かもしれないけど、この村ではお目にかかれないようないい男なのは間違いないよ」
「あの娘とどういう関係なんだろう?恋仲?」
「馬鹿だね、自分のいいひとを生贄に差し出す男がどこにいるってんだい」
村の女たちの口さがない噂話を気にも留めず、男は水神の宮がある山の方を見やった。
どうどうと滝の音がする祭殿の中、裸身の少女と異形の化け物が絡みあっている。
「どうじゃ、これでも感じぬか!」
異形は激しく少女の身体を穿っているが、少女の白い面は動かない。
「はぁ、なぜじゃ、何故おぬしは何も感じておらぬのだ。これではわしは精気を得ることができん……っ!」
異形がその精の素を少女の中に吐き出す。それは儀式の終わりを意味していた。少女はわずかに身じろぎして肉棒を自らの身体から引き抜いた。そしてさっと立ち上がり、横に脱ぎ散らかされた自らの着物を素早い手つきで身に着け始める。その顔にも、動作にも性の交わりの余韻は一切漂っていなかった。
精を吐き出した後、その動きを止めていた異形がやがて動き出し、憎々し気に顔を歪めた。
「きさま何者だ、何故神と交わって何も感じずにいられるのだ。」
「私はただの生贄です。この一帯への水害を止める代わりにあなたへと差し出されました」
「お前がただの生贄であるものか!あぁ、これでは、わしは力を得ることができん……しかし、しかし、神として約束を破ることはすまい。この地への水害はもう起こることはないだろう……」
少女は一寸の乱れもない着物姿で神に向かって一礼し、祭殿をあとにした。残るは肩を落とした神の姿。
「ただの人間の娘が神と交わって正気でいられるなど……」
その呟きは広い祭殿の虚空に溶けていった。
少女が村に戻ると村の者たちはどよめいた。
本当に生きて帰ってくるなんて。
見てごらん、あの冷たい顔。普通の娘じゃないよ。
あの子、本当に人間かい?鬼や化け物の類じゃないだろうね。
水害を鎮めたにも関わらず、彼女を迎えたのは、理解できないものを見る眼差し。それを意にも介さず、少女は自分を生贄に差し出した男の元へと戻っていった。
「ただいま戻りました、カイさん」少女にカイと呼ばれた男は切れ長の目をさらに細くして笑った。
「なんだい、今回も戻ってきたのかい、百合」
「私が戻らないと損するのはカイさんでしょう」
「違いない!アタシもこの商売長いが、アンタほど生贄にうってつけの女にはもう100年生きたって出会えないだろうね。さて、用は済んだし、さっさと村を出ようか」男は陰口を叩く村人達を冷ややかな目で見ながら少女の背を押した。
「お泊りにならないの?」
「こんな田舎臭い村の飯をこれ以上食うのはごめんさ。今から出れば、少しはマシな宿にたどり着けるだろう。さ、行くよ百合」
「はい、カイさん」
百合とカイが出会ったのはほんの1年前。何度生贄に捧げられても生きて帰ってくる少女の噂を聞いてカイが彼女のもとにやってきたのだ。
少女は生まれながらの孤児であった。年頃になると生来の器量の良さが際立ち、良い値が付くだろうと養親に売り飛ばされた。最初のうちはみな美しい彼女に卑しい目を向け、その身体を好きに暴いたが、何をされても冷たく凍りついた面持ちに嫌気が差し、最後には彼女を手放すのだった。
初めて彼女が生贄に選ばれた時も、主人が少女の頑なさに倦んでいた頃だった。その地で起きていた不作をおさめようと神に差し出されたのだが、それは体のいい厄介払いでもあった。
しかし彼女は生きて帰ってきた。不作は止んだが、皆が彼女を気味悪がり、噂は広がった。その噂を聞きつけて現れたのがカイだった。ぜひ彼女をもらい受けたいと交渉を持ち掛ける男に、少女の主人は喜んで彼女を売った。
「アタシはカイってんだ。これからよろしく頼むよ。しかし、アタシも仲介屋としてずいぶん多く神様連中の好むおんなを見てきたが、こんな上物を見たのは初めてだ」
それからカイは彼女を「商品」として容赦なく生贄に送り出した。ただカイは彼女を抱くことはなかった。今までの人生で男に散々肉欲をぶつけられてきた彼女にとって彼は異質な存在だった。一度不思議に思って聞いたことがある。なぜ自分を抱かないのか、と。少女の問いにカイは片眉を歪め、「なーんも感じない娘っ子なんか、抱いたってしょうがないだろうさ。それに──」にやりと男は笑った。
「商品に手を付けるほど落ちぶれちゃいないんだよ」
彼の元から生贄として送られ、戻ってくること三度目。唐突にカイは彼女を呼んだ。百合、と。
「生贄の女は一回使ったら帰ってこないのが普通だからね。アンタみたいに何度もお取り扱いできるやつと過ごすのに名がなくちゃ不便だろう」
「ユリ、百合ですか。何故私に花の名など?」
「不服かい?百合の花っていうのは外つ国では処女に捧げられる花らしいよ。何度神に抱かれても帰ってくる穢れを知らないアンタにぴったりさ」カイは皮肉に笑って片目をつぶった。
今まで少女に名はなかった。名を与えようとする者もいなかった。カイからもらった花の名はカイだけが呼ぶ少女の唯一の持ち物となった。
ある時、北東の国で力の強い神による祟りが起こっているとの情報が舞い込んできた。カイと百合はすぐさまその地方に向かった。数日間の交渉の末、カイは何か嫌な予感がすると百合を差し出すことを渋った。しかし、百合は、自分は平気だから使ってくれとカイを説得し、神域へと向かって行った。
「ようこそ、噂は聞いているよ」
その日の神は今まで相手をした神たちとどこか違っていた。
「どうやっても精気を吸えない女がいると聞いたんだ。それでどうしても気になってね、こちらまで出向いてもらおうと祟りを起こしたという訳さ」
口調は明るいが、言っていることは空恐ろしい。
「私はただの娘です、けれど確かに私の身体から精気を奪うことは今までどんな神にもできませんでした」
「アラアラ、それは不甲斐ない」神はおかし気にケラケラと笑った。
「でもね、わたしはもうお前のヒミツの見当はついているよ。実は人に交わって生きた時期があってね。お前たちのことには少し詳しいんだ」
少女はひっそりと眉をひそめた。私の身体の秘密?そんなものはない。この体質は生まれつきだ。
「あぁ、今お前が考えていることが手に取るようにわかるよ。そうだね、口で説明するより実践する方が早いね」
そうして神の姿はゆらぎ、あっというまに見慣れた男の姿になっていた。百合は目を丸くした。
「え、カイ、さん?」
驚く百合を尻目に神は彼女をたちまち引き寄せて後ろから抱き込んだ。
「なにをするのです!」
「この身体で交わってみようじゃないか、それですべてわかる」
「あ、ぅあああ!」
神はカイの姿で百合の全身を撫で回し、女の敏感な部分をいじめぬいた。それは、いつもされていることと変わらないものだった。ただ、百合の全身に走る性感だけが大きな違いだった。
カイの姿をしたものに女として扱われるなんていやだ。彼はそういう人ではないのだから。
そんな百合の気持ちを裏切り、身体はカイの手に甘え、腰はとうに砕けていた。
「ふふ、こうも思い通りの反応をされるとは」
「どういう、ことです」百合は快感に耐えながら、必死に理性を保って言葉を紡いだ。
「こんなこと今まで万とされてきました。今さら感じるようなものではないはず。なのに……。」
「お前はね、心で感じるタチなんだ。どんな巧みな愛撫でもそれが好いた男からのものじゃないと身体が受け入れないのさ」
それが意味することは──
「惚れているんだね、この男に」
にいと切れ長の目をさらに細くして男は笑った。それはカイが機嫌がいい時にする笑みの形だった。どっと身体が熱を持つ。
「おやおや身体を桜色に染めて。この時期に花見とはなんとも風流なことじゃないか……さあ続きをしようか」
「ひぁぁぁ!いや、いれないで、いれないで……」
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「そんなだだっこみたいなことを言うんじゃないよ、お前はコレをするためにここまで来たんだろう?」
「カイさんにされるのはいや!カイさんにこんな私を見られるのはいやなのぉ!」
カイにとって自分は快楽を感じることのない女だからこそ価値があるのだ。それが今や男の肉棒を突きいられ、ひぃひぃと喘いでいる。こんな自分は彼にとって用無しもいいとこだ。
「哀れなおんなだねぇ。好いた男と自分が結ばれることすら考えようとしないなんて」
「はなして、これ以上その姿で私にふれないで!」
「ほら、ほら暴れるんじゃないよ。爪なんか立てて子猫のようだね。大人しくしないか……百合」
ぴたりと百合の身体が硬直した。神はにんまり笑い、百合の顔を優しく撫でさすった。
「よし、よし、神の慈悲だ。哀れなお前に美しい夢を見せてやる。現世では決して叶わない夢に抱かれてお眠り……」
「あぁ、カイさん……」
「百合、可愛い百合、気持ちいいかい?……百合……百合」
カイに名を呼ばれながら、身体の中をかき回されると、胸の奥から甘いものがこみあげて体中に広がっていく。百合はとろんとした目をカイに向けて切ない心の内を吐露した。
「わたし、カイさんと一緒にずっと旅をしてたいの」
「あぁ、そうだね。二人でどこまでも行こう」
「誰に抱かれてもかまわない。カイさんといれるなら」
「アタシだってそうさ。ずっと一緒だよ、百合」
男は「お前の精気が尽きるまでね……」と呟き、神の顔で嗤った。
生贄が捧げられてから数日。娘を連れてきた男はまだ村に逗留していた。生贄の儀は済んだだろうに、この村に何の用があるのだろうと人々は不思議半分、気味悪さ半分で噂しあった。男は待っていた。いつも通り娘がすました顔で神の住処から帰ってくる姿を。
そうして半月が過ぎ、ついに男は村の宿を引き払った。
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