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1章 最弱のドラゴン
隠れ潜むもの
しおりを挟む「……行ったか。」
冒険者たちが去った後、そこには誰もいなくなったかと思われた。しかしミニドラが倒された場所のすぐ近くの木の上。そこに潜むものがいた。
彼はとある理由で国から追われた暗殺者だった。物資の補給をしようと近くの町へ立ち寄り、追っ手を警戒し町の中に留まらずに木の上で休んでいたのである。闇のものの熟練の技により、ミニドラはおろか冒険者たちには全く気付かれなかった。そうして彼は一部始終を見届ける羽目になったのである。
「私が言えた義理ではないが、むごいことをする。」
逃亡の身では手っ取り早く戦力を得られるミニドラの経験値は魅力的であった。冒険者たちを殺し、ミニドラの恩恵を一身に受けることなど彼にとっては造作もないことだった。しかしそうしなかったのは彼らのあまりの醜さゆえだ。
ろくな抵抗もできない小動物をよってたかって傷つけ、痛めつけ、笑いながら命を奪う。平等に経験値を得るため細かいダメージを順番に与えていった結果なのだろうがあまりの所業に死んだはずの心が痛んだ。
しかして助ける利益も思いつかず、思い悩むうちにミニドラは力尽き、彼らは去った。今はもう崩れかけたミニドラの亡骸が残るばかりである。
「せめて墓でもと思ったが…。そういえば亡骸は残らないのだったな。」
特に意味もなく、崩れていく小さな体を眺めていた。だんだん元が何なのかもわからないほどボロボロに崩れていって、最後のひとかけらが崩れたその瞬間。
「…!なんだこの光は。」
それは光の柱だった。高さはひざ下くらいで太さは子供が手を広げた程の小さなものだったが、ミニドラの亡骸があった場所を中心にぼんやりと光る円柱が現れた。そして光がだんだん薄れていき…完全に収まるとそこには先ほどのミニドラがいた。
「突然現れた…。いや、生き返った、のか?」
彼は影武者に惑わされず目標を殺せるよう、徹底的に観察力を鍛えていた。そしてその目は、たった今表れたミニドラと先ほど倒されたミニドラは同一個体であると、そう判断した。
過去にミニドラを養殖して、楽にレベルアップができないかを研究したものがいた。しかし数体のミニドラをとらえ一緒に飼っても、生殖行動はおろか食事も睡眠も観測できず結局ミニドラの養殖は不可能との結論に至った。そしてミニドラの発見報告が年々少なくなっていることから、ミニドラは増えることがなく、現存しているミニドラをとりつくしたら絶滅すると結論付けた。
この研究を受け、いくつかの国では無許可のミニドラの狩猟は禁止し、住民の定期的な存在値報告を義務付けているという。違反したら強制労働を課し、レベルアップして強大になったその力を国に還元することが求められる。
だがもし、ミニドラが生き返るとしたら。待っていればひたすらレベルアップできるとしたら。
しかし今はそれを考える時ではない。彼の目の前には今、経験値袋が、転がっている。
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