黒竜住まう国の聖女~呪われ令嬢の終わりと始まり~

奏ミヤト

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第四章 母の故国に暮らす

新しい友人

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 この日、普段は静かなフェルディーン家の庭園は常になく賑わっていた。私が密かに心待ちにしていた、茶会の日である。
 庭師が丹精込めて育てた花々が咲き誇る中に、真っ白のテーブルクロスの掛かったテーブルが並び、料理人が腕によりをかけて作った料理が次々と運び込まれる。庭園の花だけでなくテーブル上も一気に華やいだその場にはたちまち食欲をそそる香りが漂い、招待客の目と胃袋を刺激していた。
 そこに広がるのは、小規模ではあるものの、私の記憶に慣れた茶会の光景だ。

 違いがあるとすれば、社交そのものが目的なのではなく、皆へこれまでの感謝を伝える場であることか。その為、この場に集まっているのは親しく見知った者ばかり。少々余所行きの格好こそしてはいても、それぞれの立場を忘れて皆が気安い会話を交わしている。
 これまで制服姿しか見たことのなかったラーシュやオーレンも、今日ばかりはそれぞれ気取った格好に身を包み、その新鮮な見た目は私の心を大いに弾ませた。勿論、テレシアとイーリスの女性陣も素敵な淑女と言った様相で、前者はキリアンと、後者はラッセやハラルドと会話を楽しんでいる。
 間違っても、形式ばった挨拶や堅苦しい口上を述べて主催者のご機嫌伺いをする者や、にこやかに微笑みながらも虎視眈々と相手の隙を窺う者と言った、アルグライスの茶会ではよく見た光景はこの場には存在しない。

「あら、嫌だ。もしかして、あたし達が最後? 遅刻しちゃったかしら……」
「ほらぁ! だから、あたしの化粧なんかどうでもいいって言ったんじゃん!」
「何言ってるの! お陰で、うんと可愛くなったじゃない」
「あたしは頼んでない!」

 庭園への入口から不意に聞こえてきた会話に顔を向ければ、到着を待っていた最後の招待客、エルムット親子が歩いてくる姿が目に入った。
 ジェニスは店で会った時同様、今日も女性物の服を見事に着こなしている。褐色の肌に映える鮮やかな青のドレス姿は、茶会と言うことでいつも以上に気合いが入って、実に華美だ。ただ一点、綺麗なその姿にはどうにも似つかわしくないものがジェニスの手に握られていたことだけが、気になったけれど。
 ジェニスの身長よりも長い、布にくるまれた棒状の何か。受け取った使用人が両腕に力を込めたところを見るに、それなりに重い物のようだ。
 果たしてあれは何なのか。そして、何に使うのか。その中身は全く想像ができないけれど、今日の茶会が私にとっては普通、けれど他の人にとってはどうやら普通ではない、と言うことに関係していることは明らかだろう。
 何となく見てはいけないものを見てしまった気がして、私は視線をジェニスから、その隣のライサへと移した。そして、目を瞠る。

「わぁ……っ」

 思わず声が出てしまうくらい、目にしたライサの姿は私を驚かせたのだ。勿論、いい意味で。
 膝下丈の、ジェニスと似たデザインの鮮やかな黄のドレスが、庭園の緑に一際よく映えている。ふわりと広がった袖とスカートからそれぞれ延びる褐色の細い手足は、不思議ととても華奢に映り、ジェニスに向かってぷりぷりと怒る態度は常のライサなのに、これまでの印象を覆す可愛らしい姿に目が離せない。
 と、私の視線に気付いたのか、こちらを振り向いたライサと一瞬、目が合った。その途端、ライサが気まずい様子で慌ててジェニスの後ろに姿を隠し、せっかくの可愛い姿がたちまち見えなくなってしまう。
 そのことを残念に思いながらも、私はこちらへやって来るジェニス達を笑顔で出迎えた。

「ジェニスさん、ライサさん。今日は、お二人共いらしてくださってありがとうございます。お会いできて嬉しいです」
「こちらこそご招待いただいて嬉しいわ、ミリアムお嬢さん。自画自賛になっちゃうけど、とってもよくお似合いよ、そのドレス」

 ジェニスに褒められて、私ははにかんだ。
 今日私が着ているドレスは、あの買い物の日に注文したものだ。橙がかった撫子色を基調としており、薄い布を重ねた袖や裾にフリルのあしらわれた巻きスカート、背中の編み上げ、大きな腰のリボンと、可愛らしくも上品さの漂う一着となっている。半分以上アレクシアの意見が取り入れられたデザインであることは、言うまでもない。

「ありがとうございます。ジェニスさんのドレスもとても素敵ですね」
「うっかり気合いを入れちゃったから、そう言ってもらえると嬉しいわぁ!」

 せっかく親子で招待されたのならと、ライサの分も合わせて大急ぎで仕立てたと言うジェニスは、自分の作品を見せるように、彼の背後に隠れたままだったライサをぐいと私の前へと引っ張り出した。

「娘にドレスを仕立てるのは初めてだったから、こっちはもっと気合いが入っちゃって! 我ながらいい出来だと思うんだけど、この子ったらドレスを着るのを渋るものだから、着せるのが大変だったのよー!」
「ちょっ! 父さん、何すんのさっ!?」

 慌てふためいて抗議の声を上げるライサだったけれど、上背もあれば腕力もあるジェニスには、力で敵う筈もなく。至近距離で私と再び目が合って、ライサが今度は恥ずかしそうに顔ごと視線を逸らした。
 肌の色が濃い上に今日は化粧もしっかり施されている所為で分かり辛いけれど、その顔は目元が真っ赤になっているように見える。それがますますライサを可愛らしく見せて、私はその気持ちに押されるままに、ライサの手を取った。

「ライサさん。そのドレス、凄くお似合いです。とっても可愛らしいです!」
「かわっ!? はぁ!? 何言ってんのっ!?」

 ライサは私の言葉に、信じられないとばかりにぎょっとして目を見開く。けれど、一層目元を赤くさせてそんな表情をされても可愛らしさが増すだけで、私は握った手を振り解かれないようにより強く握って、ライサへ顔を近付けた。

「私の正直な気持ちです。こんな素敵なライサさんとお茶会を一緒に過ごせるなんて、凄く嬉しいです」
「ほら、あたしの言った通りでしょう。あんたはあたしの自慢の娘なんだから、自信を持ってしゃんとなさいな!」

 ぱん、と威勢のいい音がして、ライサの背が反射で伸びる。痛みにか顔を顰め、すぐさまジェニスを睨み付けたライサだったけれど、ジェニスが顎で私の方を指すのを目にして、観念したように渋々私へと顔を戻した。

「あたしが……か、可愛い? とかはどうでもいいけどっ。父さんの服、褒めてくれたのは……嬉しい。ありがとう、ございます」
「はい」

 そして、改めてライサからも茶会への招きに対する謝意を貰ったところで、私は目の前の飾り気のない頭を目にして、はっとした。せっかくドレスが可愛く似合っているのに、とても勿体ない。
 私は、他の招待客へと挨拶に向かおうとしていた二人を慌てて呼び止める。

「あの! ライサさん、ジェニスさん。少しだけここでお待ちいただけますか?」
「え?」
「すぐに戻りますから!」

 そう言うや否や、私は二人からの返事を待たずに屋敷へと急いだ。
 今日の茶会で休憩室として準備された庭園に面した部屋へ入ると、茶会が落ち着いた頃に渡そうと思って持って来ていた、橙黄色のリボンの巻かれた箱を手に取って庭園へと戻る。
 二人は私の突然の行動に呆気に取られていたようで、私がわざわざ願うまでもなく、その場を動くことなく目を丸くしていた。ライサに至っては、私が手に何かを持って来たことに気付いて怪訝そうに眉を寄せている始末だ。
 警戒しているようにも見えるその顔に思わず苦笑しながら、私はライサへ呼び掛けて、手にした箱を差し出した。

「な、何?」
「本当はあとでお渡ししようと思っていたんですけど、ライサさんを見ていたら、今お渡しした方がいいと思って」
「あたしに?」
「はい。今のライサさんによく似合うと思うんです」

 恐々と箱を受け取ったライサが私の方を窺うので、開けるよう促す。
 手近なテーブルに三人揃って移動する頃には、興味を引かれてオーレンやエイナーがやって来て、ライサの手元に視線が集中していた。
 リボンが解かれ箱が開かれて、最初に感嘆の声を発したのは誰だったか。普段から大きな瞳を更に見開いて、ライサが私の顔を見た。

「これ……どうして」
「お店で見かけた時に目を引かれて、どうしてだかライサさんのことが思い浮かんだんです。勉強を頑張っているともお聞きしていたので、私の応援の気持ちと言いますか……」

 この商品を購入した店は、賑わう表通りに構えられたものではなかった。少し外れた、所謂職人街に程近い場所に小ぢんまりと構えられた、ラッセ曰くの穴場店。職人でもある店主が、自身で作った装飾品を売る店だった。
 日に焼けているのとは違う濃い肌は、店主が国外からやって来たことを示していて。ラッセとは顔見知りなのか、職人にありがちな頑固そうな相貌に反して語る口調はとても軽快で陽気。そんな店主が作るのは、店主の生まれ育った西海で採れる貝や珊瑚や真珠を、これまた人柄からは想像ができないくらい繊細に加工したものだった。

「流石、ラッセ。悔しいくらいいい店知ってるなぁ」

 オーレンが唸り、髪飾りをしげしげと眺める。
 私がライサへの贈り物として買い求めた髪飾りは、白珊瑚と小粒の真珠が使われたもので、白珊瑚で作られたいくつもの花が、レース飾りなどと共に箒状に配置されている。それが、左右一対ずつ。個別に使うこともできるし、それら二つを真珠が通された糸と繋いで使うこともできる。一か所、箒の根元に当たる部分に象徴的に紅色の珊瑚が使われているものの、それ以外は白で統一された髪飾りは、実際にライサを目の前にして見てみても彼女の橙黄色の髪によく映えた。
 少しばかり華美ではあるけれど、日常的に外出時に付けても派手過ぎることはないし、髪の長さにも関係なく使うことができる。
 ちなみに、揃いで買った私のものは白珊瑚の花のデザインが少々異なり、一か所の飾りに使われているものも、紅珊瑚ではなく琥珀だ。実は今日の私の髪を彩ってくれているのだけれど、ライサが気に入って受け取ってくれるか分からない今、この場で言い出す勇気は私にはない。

「素敵な髪飾りじゃないの、ライサ! よかったわね。着けてあげましょうか」

 密かにライサの反応を固唾をのんで見守っている私の前で、最初に明るい声を上げたのはジェニスだった。いつも持ち歩いているのか、どこからともなく取り出した櫛を手に、いまだ髪飾りを凝視したままの娘に向かって、その反応を窺うように顔を寄せる。
 けれど、それに対する肝心のライサの反応は、私が予想するものよりあまりに薄いもので。

「……うん」

 まるで心ここにあらず。ジェニスの言葉もまともに聞いているか怪しいくらい上の空と言った反応は、どう控えめに見ても喜んでいるとは言い難い。
 そのライサの姿に、今の今まで高揚していた私の心がたちまち萎んでいく。
 エイナーのお守りやイーリスのハンカチの礼としての贈り物ならばともかく、何の理由もなく突然贈り物を贈られたライサには、きっと迷惑だったのだろう。それも、普段は騎士として過ごすライサにとって日常使いできない髪飾りなんて、扱いに困るばかりで持て余す代物だ。ライサのことを少し考えれば分かったことだ。
 それなのに、きっとライサに似合うだろうと言う私の勝手な思いで手渡して、しかも複数の人の前で開けさせてしまった。そんな状況では、ライサはいらないと声に出すことはできず、受け取るしか選択肢がない。

「あ、あの……」

 失敗した。
 その事実が、私に咄嗟に口を開かせる。けれど、続く言葉は出なかった。それより先に、ライサと一緒に髪飾りを見つめていたエイナーが私へ振り向き、何かに気付いたようにぱっと笑顔を咲かせたのだ。

「ミリアムが着けてる髪飾り、お揃いだね」
「えっ!」

 その声にライサが勢いよく顔を上げ、反対に私は身を竦めてしまう。

「これは、その」

 慌てて口を開くも、当然ろくな言葉は出て来ない。そんな私に向かってライサが身を乗り出すのが分かり、思わず身構えて――

「何だ、もう! それならそうと早く言ってよ! あたし、無駄に悩んじゃったじゃん!」

 私に向かって放たれたのは、ライサの予想外にあっけらかんとした声だった。

「え……?」
「じゃあ、はい! 交換ね! 左側のでいい? あと、これ着けて、父さん!」
「はいはい。それじゃ、ミリアムお嬢さんもちょっと失礼するわよ?」

 呆気に取られる私の前で、ジェニスの手が私の頭から髪飾りの片方を取り、ライサが手にした、彼女に贈った髪飾りの片方を私の頭に着け直す。続けて、飾り気のなかったライサの頭へと、手際よく髪飾りを着けてみせた。

「はい、でき上がり!」
「どう? 似合う?」

 それぞれの耳の後ろに髪飾りをピンで留め、二つを繋ぐ真珠の糸が弧を描いて頭の後ろで踊っている。
 腰に手を当て首を後ろへ捻って出来栄えを見せてくれるライサは一段と可愛らしくて、その姿に、私は後悔も忘れて大きく頷いていた。

「は……はいっ。とってもよくお似合いです」
「へぇ。ライサの割には、様になってんじゃね?」
「はぁあ!? オーレンには聞いてないっての! エイナー様、似合ってます?」
「うん、よく似合ってるよ、ライサ。もう少しお淑やかにしたら、もっと可愛くて素敵なご令嬢に見えると思うけど」

 エイナーが苦笑すれば、ライサは途端にスカートの乱れを直して足を揃え、片手を胸に当てると、少しばかりスカートを摘まんで軽く膝を曲げてみせた。
 合同訓練の日に見せたものとは格段に美しくなった所作に、私のみならずオーレンとジェニスも軽く目を瞠る。

「あらやだ、うちのじゃじゃ馬が本当にお嬢様みたいだわ」
「私だってやる時はやる娘でしてよ、お父様!」
「うわー、胡散臭ぇ」

 すかさず茶々を入れて笑ったオーレンだったけれど、今度のライサはそれに噛み付くことはなかった。代わりに、オーレンに見せつけるように綺麗な姿勢で歩いて私の手を握ると、いつもの勝気なものではなく、今の格好に似つかわしい、ふわりとした笑みをその口元に浮かべる。ただし、オーレンへ向ける視線にはたっぷりの嫌味を込めて。

「あら、オーレンさんったら。そんなことを仰ってばかりだから、すぐ女性に逃げられてしまのではありませんの?」
「あぁ!?」

 たちまちオーレンの眉がつり上がる。けれどライサはそれを颯爽と無視して、私の手を引いた。私と変わらない大きさの、私よりも少しだけ骨張った手が、程よい力で手を握る。

「行きましょ、ミリアムさん」
「え? え……っと、はい……?」

 何が何やら分からぬまま、おい、だの待て、だのと声を上げるオーレンを気にしつつも、私はライサに手を引かれ、少し離れたベンチへ連れて行かれた。そのまま一緒に腰掛ければ、ライサのいつも通りの笑顔が私を振り返る。

「髪飾りありがとう、ミリアム!」

 そこには、少し前の薄い反応の気配は微塵もなく、その姿を目にして、ようやく私の中に、髪飾りを喜んで受け取ってもらえた事実が実感としてやって来た。

「いえ、そんな。喜んでいただけてよかったです」
「当たり前じゃん! 最初に見た時はびっくりしたけど」

 どう言うことかと私が小首を傾げれば、ライサの方も首を傾げて瞬いた。

「だって、あたしミリアムに嫌われてると思ってたんだもん」

 だから、今日の茶会も気が進まなかったのだと、ライサは続ける。それでも、アレクシアからは絶対に来るように言われ、ジェニスも行く気満々でドレスまで作るし、行かざるを得なかったのだと。
 ライサがドレスなんて着て行けば、どうせ笑い者にされるに決まっている。私とも比較され、更には合同訓練の時の話を蒸し返されて、きっと私や周囲から嫌味の一つでも言われるのだ――そこまで覚悟していたらしい。

「そんな! ライサさんのことを嫌うだなんて!」

 確かに、今思い出しても私の中の何かが削られるとんでもない行為をされはしたけれど、ライサは素直に非を認めて謝罪してくれた。その後は、エイナーの騎士として相応しくあるべく励んでもいる。
 元より、ライサは明るくて真っ直ぐで努力家で、目標に向かって突き進む覚悟と強さがあり、騎士としての剣の腕も見事だ。祈願祭での初戦の衝撃は、今でも忘れられない。
 そんな人を、どうして私が嫌いになんてなれようか。

「うん。ミリアムってば来てくれて嬉しいって言うし、真っ先に似合ってるって褒めてくれるしさ。ああ、あたし嫌われてなかったんだって分かったと思ったら、今度は……これでしょ?」

 どこかむず痒そうに口元を緩めながら、ライサが髪飾りにそっと触れる。その優しい手つきも、ライサが髪飾りを本当に喜んでいるのだとはっきり私に伝えてくれて、今度こそ私は胸を撫で下ろした。

「よかったです。髪飾りを見て呆然とされていたので、私はてっきり、ご迷惑だったのだとばかり……」
「えぇ! 迷惑なわけないじゃん! あれは、すぐ反応できないくらいびっくりしすぎてたんだって!」
「そんなに驚かれていたなんて……」
「だってこれ、トゥエレじゃん! まさか、こんなの貰えると思わないって!」

 トゥエレ――それは、西海に浮かぶ島々に住む者達が信奉する、海の神の名だ。
 かつて、その多くが漁で生計を立てていた西海に住む人々は、漁に出る者、その帰りを待つ者それぞれが、無事に漁を終えて帰り、再び会えるようにとトゥエレに祈り、漁へ出た。その際、無事の再会の祈りの証として、一つのものを別ってそれぞれ持つようになったのだと言う。
 現代では少しばかり意味と形を変えて人々に根付いており、西海の島々では「トゥエレ」と言えば、海の神と、一対のものとを指す言葉になっている。そして、後者は互いの絆を確かめ合う、少しだけ特別なものとして扱われているのだ。
 例えば今回の一対の髪飾りであれば、主に女友達の間で友情の証として、互いに同じものを贈り合って片方を交換したり、一つを二人で買って分け合ったりされている。

 もっとも、ここエリューガルではそのことは知られておらず、トゥエレとして買う客はまずいないと店主は言っていた。だから、気にせずただの贈り物として贈ればいいと。
 その為、私もライサが西海の生まれだと聞いてはいたけれどそのことは特段気に留めず、単に白珊瑚に彫られた花に、相手を勇気付けたり激励したりと言った意味が込められているとの店主の話から、ライサに贈ることに決めたのだ。
 けれど、ライサはトゥエレを知っていた。その意味も、贈られたものをどうすればいいのかも正確に。そして、驚きはしたもののすんなり受け入れて、何の躊躇いもなく私の髪飾りと交換までしてくれた。
 それはつまり――

「嫌われてると思ってた相手から、実は友達だと思われてたって知ったら、流石のあたしでもびっくりするよ! でも、エイナー様がミリアムのことを大切な友達だって言うのが、ちょっと分かった気がする」

 嬉しそうに笑って、ライサが私へ手を差し出した。

「順番が逆になったけど、友達としてこれからよろしく、ミリアム!」

 これまでで一番眩しい、太陽のように明るいライサの笑顔に真っ直ぐに見つめられて、私の心が大きく跳ねる。それと同時に、私はようやく自分の気持ちに気が付いた。

 ああそうか、と。

 どうして私が、髪飾りをライサに贈りたいと強く思ったのか。あんなにもライサの反応を気にしたのか。
 トゥエレの話を気にしなかったなんて、嘘だ。ライサが気付くかどうかを気に留めなかったなんてのも、大嘘だ。お揃いのものを持つことへの躊躇だって、期待の裏返し。応援の気持ちなんて、ただの建前でしかない。
 本当は、トゥエレの話をとても気にしていた。ライサが、髪飾りを贈る意味に気付くことを期待していた。私とお揃いであることに喜んでほしかった。私の思いに応えてほしいと願ったのだ。

(――私、ライサさんと友達になりたかったんだ)

 決して、テレシアやイーリスに不満があるわけではない。二人はいつだって私を受け止めてくれるし、二人と過ごす時間は楽しいばかりで、そんな二人のことは大好きだ。
 それでも、年齢差、大人と子供と言う壁はどうしたって意識してしまう。だから私は、どこかでずっと欲していたのだろう。同年代の、同性の友人を。
 私とは違う褐色の、無駄のないすらりと伸びたその手を見つめて、私の胸が不意に詰まった。何の躊躇いもなくその言葉を口にしてくれるライサに、言い知れない喜びが湧き上がる。

「――うん! こちらこそよろしくね、ライサ!」

 差し出された手を両手で強く握り締め、私もとびきりの笑顔で見つめた。
 ライサ・エルムット――私の新しい友人を。
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