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第三章 王城での一月

呪い、まじない、神の理

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「以前、わしがおぬしに伝えた言葉を覚えておるか? ……呪わしき贄の話じゃ」

 少しの間を置いて、まるで巨大な白パンのような塊から、くぐもったリリエラの声が弱々しく応えた。

「覚えている。……やはり、彼女がそうなのか」

 東方から訪れこの国に根を張ると言う、呪わしき贄。
 リリエラから伝えられた際、その贄の詳細については一切の言及はなく、唯一の手掛かりが「東方から来る」と言うことだけだった。その為、ミリアムがもしやそうなのではと一度ならず考えたものだが、まさか、自らの命を顧みず人を助けようとする心根の持ち主が呪わしき贄など、信じたくない話ではある。

「わしは、本当に楽しみにしておったんじゃよ……。わしがまじなった時に感じた呪いは、普段のまじないによる紛い物の呪いではなく、真実、神を穢して成された本物の呪いじゃった。そんなものにお目にかかれる機会なぞ、わしの一生でも片手で数えるくらいじゃ。じゃから、本当に……本っ当に楽しみにしておったのに……!」

 悔しさからか、語尾が震える白パンからにょきりと突き出た腕が、だんだんと石床を叩いて、行動でもその悔しさのほどを的確に表していく。
 つまり、それだけ楽しみにしていたものがようやくリリエラの目の前に現れたと思ったら、その人物はよりにもよってリリエラの嫌悪するリーテに連なる泉の乙女だった、と。
 なるほど、リリエラがリーテに楽しみを邪魔されたと表現するのも納得できる。
 だが、同時に一つ、疑問も出て来る。

「お前がまじなった際、贄が泉の乙女であることは見通せなかったのか?」
「ふん。わしは、神に最も近しいが、神ではない。故に、神が本気でわしのまじないを妨害すれば、わしが敵う筈もなかろう。……見通せるものも見通せぬよ」

 不貞腐れて聞こえる声音は、そこに嘘がないことをはっきり示していた。
 もっとも、リリエラの性格から考えれば、呪わしき贄が泉の乙女であるとまじないで視ていたとしたら、ミリアムがこの国に入ることを頑として拒み、何としても妨害しようとしただろうことは明白。キリアンに対し、事前に嬉々として伝えるなどと言うこともした筈がない。
 そして、リーテにとっては泉の乙女が再びこのエリューガルの地に戻って来ることは、歓迎すべきこと。それをリリエラに妨害されることをよしとしないのも、また当然だ。
 しかしそうなると、それはそれで妙な話になる。

 まじない由来の呪いですら、時に人を殺すほど強いものがあるが、それが本物の呪い、しかも呪いをかけられた対象が泉の乙女ともなれば、呪いが成就した際に、周囲へ何の影響も及ぼさないわけがない。場合によっては、大きな厄災を招く可能性もある。
 そんな危険極まりない存在を、リーテが、そしてクルードがそのままにしておくだろうか。それどころか、クルードに至っては、ミリアムを己が守護すべき愛しき民の一人とまで言ってのけたのだ。
 カルネアーデの一件で神の意思は人には測れないと思い知らされてはいても、あまりに不可解だ。

「リリエラ。呪いについては何か分からないのか?」
「……分からぬな。じゃが、クルードに害をもたらすものでないことだけは確かじゃ」

 何故か断言するリリエラに、キリアンは片眉を跳ね上げた。どうにも、リリエラの話は整合性に欠ける。

「は? お前、クルードに害をもたらすことがあれば殺すと、彼女に言い放ったんじゃないのか? それは、呪いにその危険性があるからではないのか?」
「ぐっ……。じゃ、じゃからそれは! 怒りのあまりに、うっかり出た言葉であって……! ほ、本当じゃぞ!? 第一、クルードやリーテがこの地に害をもたらす存在を、そうほいほい招き入れるわけがなかろう! それにわしだって、リーテの娘を殺すだのなんだのと本気で思うわけがないではないか! リーテのことは心底嫌いじゃし業腹ではあるが、この土地にあやつが欠かせぬことくらい、わしだって重々承知しておる! その娘を万一でも殺してみよ。わしがリーテに殺されるわ! じゃから、その……や、八つ当たり? してしもうただけなんじゃ!」

 これ以上クルードの怒りを買うことだけは阻止したいのか、必死な言葉に合わせてうぞうぞと動くローブの塊を冷めた目で見下ろし、キリアンは仄かな頭痛を覚えて額に手を押し当てた。
 そうしてキリアンが押し黙る間にも、リリエラからは、娘の血を舐めたが舌が痺れなかったのがクルードに害のない証だとか、今分かるのは随分古い呪いらしいことだけだとか、呪いの及ぶ範囲は恐らく限定的だろうだとか、こちらが聞いてもいないのにあれこれ煩く語ってくる。
 お陰で、リリエラの放った言葉が八つ当たりの暴言であることは確定し、当初のリリエラの予言通り、呪いがこの国自体に大きな被害をもたらすものでもないことも確かだろうと分かった。それでも、呪いの詳細が分からないのでは、ミリアムに対する心配は尽きない。

「クルードに害はなくとも、彼女に呪いがかけられていることは確かなのだろう? 何とかその呪いを解いてやることはできないのか? このままでは、いずれ彼女の命が脅かされないとも限らない」
「神を穢した呪いを、まじないの呪いと一緒にするでないわ。あの呪いは、呪いが成就するか、呪った側が解呪を願わねば解けぬ」
「……彼女を呪った者を探せと?」
「探したところで、神を穢すことをも厭わぬ相手じゃぞ? 素直に解呪に応じるわけがなかろう。そもそも、あの娘は呪われておることを知らぬ様子じゃったし、手掛かりのない中で探し出そうとすることほど無駄なことはないぞ」
「くそっ」

 組んだ足の膝頭を強く掴み、歯噛みする。
 クルードがミリアムを守護すべき民だと言うなら、キリアンにとっても同様だ。それなのに、呪いを解き彼女を助ける手段が見つけられないのでは、守ろうにも守れない。
 かと言って、キリアンにはミリアムが呪いに死ぬのを座して待つつもりも、毛頭ないが。

「そう苛立つでないわ。おぬしはすーぐ気難しく考えてしまいおる……」

 ようやく気持ちが落ち着いたのか、単に息苦しくなったのか、リリエラがしばらく振りにローブの塊から、わずかに赤くなった顔を覗かせた。それでも、まだキリアンと面と向かって顔を合わせることには抵抗があるのか、キリアンにはその横顔しか見えない。
 手で顔を仰ぐリリエラからの指摘に眉を寄せたキリアンに、明瞭に聞こえるようになった声が続いた。

「心配せずとも、リーテの娘は今しばらく死ぬことはない」
「その根拠は?」
「あの娘、まだ子供じゃろ」
「……そうだが」
「ならば、あの娘が子種を残すまでは、リーテが死ぬことを許さぬよ」
「……は?」

 まるで当然のような口振りでリリエラの口から出て来た単語に、キリアンは思わず目を丸くした。ややあってそこに含まれた意味を理解して、今度はぞっとする。血の気が引くように体が冷え、怒りの炎が底から燃え上がるようだった。
 神は、神の理で世を見る。そして、それが人の理と相容れるとは限らない。カルネアーデの一件のように。
 リーテにとってのミリアムは、泉の乙女の血脈を途絶えさせない為の母体――それ以上でも以下でもないと言うのだろうか。たとえその身が呪いに侵されていようと、いや、呪いに侵されているからこそ、彼女はこのエリューガルの地に子を産んでくれさえすれば、あとはどうなろうと構わないのだと。その血脈が再びこの地に根付くことが、リーテの望みなのだと。

 考え過ぎだろうか。

 だが、自らを神に近しい存在と言うリリエラの思考は、誰より神寄りだ。そのリリエラが平然と口にすると言うことは、キリアンにこの考えが間違っていると強く否定させない。
 あまりに一方的。あまりに自分本位。実に、身勝手極まりない。
 まさか、ミリアムを守るべき愛しき民と言ったクルードはそのようなことは考えていないと思いたいが、カルネアーデと言う前例もある。何より、神の真意は神に加護を授かっただけの人であるキリアンに、分かるものではない。
 愛し子としては抱いてはいけない感情の筈だが、キリアンは初めて、神を憎む父の気持ちに共感できると、はっきり感じてしまっていた。

 我ながら恐ろしい考えに、背筋が震える。この考えは、危険だ。
 キリアンが脳裏に湧いた考えを慌てて振り払ったところで、ローブに袖を通して立ち上がったリリエラから、更なる衝撃の発言が飛び出した。

「それはそうと、呪いで思い出したんじゃがな。あの娘、東の呪いの他に、既にモルムにまじないを受けておったぞ」
「はぁっ!?」

 予想外過ぎたそれに、キリアンは椅子を蹴立てて立ち上がり、リリエラへと迫った。

「いつ、どこでだ!?」

 声を荒らげながら、キリアンはこれまでのことを素早く思い返す。
 エイナーと共にミリアムを馬車から救い出して以降は、ミリアムに接触する城の者は厳選してきた。護衛に関してもキリアン付きの騎士隊から選出し、なおかつ、ミリアムの部屋へ出入りする者の監視も任せていた。城の中を自由に行動している今も、部屋から出る際には必ずレナートを付けている。図書館でだけはミリアムが一人になることはあったようだが、モルムのような悪意ある外部の者があの図書館に侵入することは不可能だ。

 だと言うのに、既にモルムの手がミリアムに伸びているとは、一体どこに穴があった?

 勢いに任せてローブの胸倉を掴んだキリアンの手をすかさずリリエラが叩き落とし、いつもの調子を取り戻したのか、キリアンへ向かって牙を見せる。

「そんなこと、わしに分かるわけがなかろう!」
「使えんまじない師だな!」
「何じゃとっ!? わずかに舐め取った血からここまで分かるわしは、そこらの聖域の者とは作りが違うんじゃぞ!? ヴィシュヴァの倅といいおぬしといい、わしを何だと思っておるんじゃ! リリエラ・ルルエラ様じゃぞ!」

 ふんすと鼻息を吐き出し、リリエラが胸を張る。その見慣れた姿は、キリアンに冷静さを取り戻させるのには十分だった。
 リリエラからわずかに距離を取り、努めて大きく、息を吐く。

「……悪い。少し、冷静さを欠いた」
「ぬ。……おぬしにそのように殊勝な態度を取られると、ちと調子が狂うのう」

 そう言うリリエラも、普段ならばキリアンの態度を揶揄う言葉が続く筈だが、まだクルードに叱られたことが尾を引いているのか、すっかり普段通りと言うわけではなさそうだった。
 乱れたローブを文句もなく直すと、リリエラは部屋の一角にある戸棚へと向かい、そこをごそごそと荒らし始める。引き出しを開けては探し、閉めては別の引き出しを開けて中を漁る。そうしながら、リリエラが存外真面目な声音で、声だけをキリアンへ放った。

「モルムにリーテの娘……。わしも詳細を聞いておかねばならんが、今のでおおよそ理解できたわ。わしが城を空けておる間に、随分とまあ楽しそうなことになったものよ」
「楽しいものか」
「相変わらず、おぬしは真面目じゃのう……」

 やれやれと零したあと、リリエラがようやく目的の物を見つけたのか、何かを手に持ってキリアンの元へと戻って来た。
 キリアンに差し出されたのは、液体の入った小瓶。

「娘に謝罪など絶対にするつもりはないが、クルードに誠意を示せと言われたからの。それに、イェルドの邪魔をしても悪かろう。昔、エイナーに飲ませた薬じゃ。娘に飲ませてやれ」

 これは、と目で問うたキリアンへのこともなげなリリエラの返答は、キリアンに、差し出された小瓶を受け取ることを躊躇させた。
 昔エイナーに飲ませた薬。その心当たりは、ある。
 当時、力の制御ができていなかったエイナーは、事ある毎に人の悪意を目にして精神的に参る日々を送っていた。それは、キリアン達がエイナーへ向ける好意だけでは到底癒しきれぬほどに。
 物心はついても言葉を満足に知らないエイナーには、自分に向けられた悪意や己の感情を正確に言葉で説明することは難しく、それが更にエイナーの心に負担をかけていたのだろう。キリアン達もエイナーに寄り添って可能な限り手を尽くしたものの、それにも限界はある。そこで、リリエラに頼ったのだ。

 そして渡されたのが、今、キリアンの目の前に差し出された薬――エイナーの精神を蝕むほどに強烈な記憶を、強制的に薄れさせるもの。

「クルードの愛し子に効いたんじゃ。リーテの娘にも十分効くじゃろう」
「……だが、それでは、彼女に呪いのことを告げるなと言うのか?」

 エイナーの場合は、まだよかった。
 いずれ成長すれば、エイナーは自らに宿った力を理解し、制御する術を覚える。そうなれば、理不尽に思えた過去の数々の悪意についてもエイナー自身で理解し、整理をつけ、自分の糧にすることも、何と言うこともない過去の一つと捉え直すこともできる。一時的なエイナーの精神的負担の軽減には、大いに役立つ薬だった。
 だがミリアムの場合は、薄れさせたところで何の解決にもなりはしない。むしろ、薄れさせることによって、自らに呪いがかかっていることを忘れさせてしまう危険性がある。

「モルムが娘に手を伸ばしたと言うことは、モルムもあの娘を使う気満々と言うことじゃろう? わしが触れたのは、ほんのわずかの血。わしが奴のまじないに気付いたことは、まだ気付かれておらん筈じゃ。それなのに、今ここであの娘に呪いだのまじないだのを意識させ騒がれては、モルムに警戒されてしまうじゃろうが」

 そうなれば、二十五年もの年月をかけるほど用心深いモルムは、また穴倉に潜りかねない。それは、父イェルドのこれまでの苦労も今後の計略も、全て水泡に帰してしまうことを意味する。ならば、ミリアムには一時忘れてもらう方が、好都合――
 分かったなら手を出せ、とのリリエラの言葉に反論できず、キリアンは半ば無理矢理その手に小瓶を握らされてしまう。
 隠し事はしないとミリアムと約束をしたのは、ほんの最近だ。それなのに、早速その約束をキリアンの側から違えてしまうことになろうとは。
 リリエラの言い分が正しいと理解できるだけに、またもや力のない自分自身の情けなさを痛感してしまう。軽い筈の小瓶がやけに重たく感じて、キリアンは眉根をきつく寄せた。

「そんな顔をするな。それに、娘が死に惹かれたのは呪いを意識しすぎた所為かもしれんのじゃ。今は忘れておいた方が娘にとってもよかろう」

 キリアンが小瓶からリリエラへと視線を戻したところで、リリエラの肩が竦められる。

「モルムは、地底の神モースの加護を宿す民じゃ。モースは死を祀り忌まわれておる故に、その力は負の感情には強く作用するものでの。モルム自身も、まさか己が娘にまじないをかけたばかりに、自死騒動を起こすとは思ってもおらんかったじゃろうな」
「……つまり、どうあっても、彼女には呪いのこともまじないのことも今は伏せておけと?」
「そう言うことじゃ。また娘に騒動を起こされても面倒じゃし、モルムのことが片付いたあとで、娘には改めて話せばよかろう」

 リリエラの手が伸び、キリアンの首の後ろへと回る。急に近付いた距離にキリアンが何をと思ったのも束の間、リリエラの手はすぐに離れ、その顔に普段よく見せるからかいの色が現れた。

「……何だ、これは」

 キリアンが渋面で摘まみ上げたのは、キリアンの小指よりも小さく細い、円筒形のガラス瓶。中身は、空だ。
 にやにやと笑うリリエラの様子から察するに、どうせろくでもないものに違いない。こんなものをキリアンの首にぶら下げて、このまじない師は一体何をするつもりなのか。
 真面目に話を聞くつもりはないものの、クルードを誰より信奉するリリエラは、クルードの愛し子であるキリアンには、基本的に無意味なことはしない。渋々リリエラからの返答を待てば、予想外の言葉がその口から飛び出した。

「お守りじゃよ」

 目線の高さに持ち上げた瓶とリリエラとを交互に眺め、キリアンはお守り、と口内で反芻する。

「俺には、ただの空のガラス瓶にしか見えないんだが?」
「何を言う。その瓶の中には、キア坊へのわしの愛がたーんと詰まっておるではないか!」
「気色の悪いことを言うな!」

 思わず立った鳥肌に、キリアンは瓶から手を離した。服の裾で瓶に触れた手を慌てて拭ったのは、完全に無意識の行動である。
 そんなキリアンの行動をどう思ったのか、リリエラはわずかに頬を膨らませたあと、キリアンの鼻先に指を突き付け、言い放った。

「とにかく、そいつは肌身離さず身に付けておけ。いつか必ず、役に立つ。このリリエラ様がこうまで言っておるんじゃから、決して外してくれるなよ、キリアン」

 そして最後に、全く気は進まないがとの前置きと共に、改めてリーテの娘の詳細を寄越すようキリアンへ言い置くと、これで本当に終いとばかりに背を向けて、鍋の元へすたすたと向かってしまった。
 鍋を火にかけ直し、一人の世界へ戻ってしまったらしいその様子に、キリアンからも十日は塔から出るなと念を押して、部屋の扉へと足を向ける。
 キリアンが扉を閉めざまに一瞥したリリエラは、無言のままに片手を挙げ、ひらひらと振っていた。

 *

 駆け上がった階段を今度はゆっくりと下りながら、キリアンは己の手に視線を落とした。一時の間、大きく、黒く、鋭く、人から竜のそれへと変じた、その手を。
 あのように自身の体が変化を見せたことは、初めてだった。決して死なない体を持つ程度にはクルードの加護が強く宿っていることを考えれば、この体が変じること自体には、さほど驚きはない。
 ただ、このことを、神を憎む父が知ればどう思うだろうかとの不安はある。
 キリアンは、あくまでも人だ。先天的か後天的かの違いはあっても、弟と同じ人間である。少なくとも、キリアン自身はそのつもりでいる。
 だが、一部とは言え人ならざる姿に変じる己は、本当に人間と言えるのか――そんな思いがわずかながら過ったことも、事実だ。
 見下ろした手を、握っては開き、開いては握ってみる。異常なく自分の意思で動かせることを確かめて、キリアンは考えを振り払うように小さく息を吐いた。

 今はキリアン自身のことよりもミリアムの、そしてモルムのことである。
 ミリアムに関しては問題の先送りにしかならないが、リリエラの言葉を信じるならば、猶予はまだある。ならば、まずやるべきは、モルムと言う父曰くの害獣の駆除。
 塔の入口に待機していた侍従にリリエラから持たされた薬を手渡し、キリアンは激しく降る雨の中へと一歩を踏み出した。

 己の手に感じた、わずかな痺れには気付かぬ振りをして――
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