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9. 無能な女魔王と角を愛する勇者
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「君を愛している」
ローレンスはシャルティの手を取ると、手の甲に額を押し当てた。
震える声で告白をされ、シャルティは居心地が悪くなる。
握りしめられた手を引き寄せると、ローレンスは顔をあげた。頼りなげな表情である。いつもの飄々とした彼に戻ってほしくて、シャルティは口調を強めた。
「この世の終わりみたいな顔しないで頂戴」
「俺は君の仲間をたくさん殺してしまった。それなのに君を愛してもいいのだろうか」
「……弱ければ食われるものよ。貴方は強くて、彼らは弱かった。ただそれだけ。貴方が私を愛してくれることと何も関係はないわ」
「君に慰められる日がくるなんて思わなかったよ」
シャルティが言葉を重ねても、ローレンスは作り笑いを浮かべるばかりだ。
どうすれば彼はもとの彼に戻ってくれるのだろう。
「同情しているわけではないわ。私は貴方がその、す、好きで笑っててほしいだけで……」
シャルティが必死に言い募ると、ローレンスは作り笑いをひっこめた。
食い入るようにシャルティを見つめる。
「どうしたの、ローレンス?」
「今、なんて言ったの」
「同情しているわけじゃなくて」
「そのあと」
「貴方のことが……」
そこまで繰り返し、シャルティは自分が何を口走ったのかに思い至る。見る見る顔に熱が集まり、火を噴きそうになった。
「俺たち相思相愛だね」
ローレンスは嬉しそうに頬を緩める。
今までにみたどんな笑顔よりも自然で、シャルティは思わず見惚れてしまった。
「名実ともに夫婦になれて嬉しいよ、シャルティ」
自分は魔王で彼は勇者だ。
どちらの種族にも祝福されないだろう。
シャルティがローレンスの手を握りしめると、彼も強く握り返した。
△△
魔王を倒した勇者の到着を国王は待ちわびていた。しかし待てど暮らせど、勇者は姿を現さない。
その後、魔族が人族の領地を脅かすことはなく、国王はじめ王国民たちはいつしか勇者の功績を忘れた。
代わりに魔族領との国境付近の村では、とある噂がまことしやかに囁かれるようになる。
森の中で道に迷うと、どこからともなく見目の美しい女と青年が現れ、街道へ導いてくれるという。
女には立派な巻き角が生えており、ひと目で人外だとわかる。
淡い金髪の青年は人族であるにもかかわらず、人外の女から片時も離れようとしない。
まるで仲睦まじい夫婦のようだ。
大人しく彼女たちに従えば、街道までたどり着ける。
しかし女に手を出そうとすれば、青年は腰に下げた得物から、目にも留まらぬ早さで剣撃を繰り出してくるという。
その刀身はほのかに輝いているそうだ。
まるで聖剣のように――。
ローレンスはシャルティの手を取ると、手の甲に額を押し当てた。
震える声で告白をされ、シャルティは居心地が悪くなる。
握りしめられた手を引き寄せると、ローレンスは顔をあげた。頼りなげな表情である。いつもの飄々とした彼に戻ってほしくて、シャルティは口調を強めた。
「この世の終わりみたいな顔しないで頂戴」
「俺は君の仲間をたくさん殺してしまった。それなのに君を愛してもいいのだろうか」
「……弱ければ食われるものよ。貴方は強くて、彼らは弱かった。ただそれだけ。貴方が私を愛してくれることと何も関係はないわ」
「君に慰められる日がくるなんて思わなかったよ」
シャルティが言葉を重ねても、ローレンスは作り笑いを浮かべるばかりだ。
どうすれば彼はもとの彼に戻ってくれるのだろう。
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シャルティが必死に言い募ると、ローレンスは作り笑いをひっこめた。
食い入るようにシャルティを見つめる。
「どうしたの、ローレンス?」
「今、なんて言ったの」
「同情しているわけじゃなくて」
「そのあと」
「貴方のことが……」
そこまで繰り返し、シャルティは自分が何を口走ったのかに思い至る。見る見る顔に熱が集まり、火を噴きそうになった。
「俺たち相思相愛だね」
ローレンスは嬉しそうに頬を緩める。
今までにみたどんな笑顔よりも自然で、シャルティは思わず見惚れてしまった。
「名実ともに夫婦になれて嬉しいよ、シャルティ」
自分は魔王で彼は勇者だ。
どちらの種族にも祝福されないだろう。
シャルティがローレンスの手を握りしめると、彼も強く握り返した。
△△
魔王を倒した勇者の到着を国王は待ちわびていた。しかし待てど暮らせど、勇者は姿を現さない。
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代わりに魔族領との国境付近の村では、とある噂がまことしやかに囁かれるようになる。
森の中で道に迷うと、どこからともなく見目の美しい女と青年が現れ、街道へ導いてくれるという。
女には立派な巻き角が生えており、ひと目で人外だとわかる。
淡い金髪の青年は人族であるにもかかわらず、人外の女から片時も離れようとしない。
まるで仲睦まじい夫婦のようだ。
大人しく彼女たちに従えば、街道までたどり着ける。
しかし女に手を出そうとすれば、青年は腰に下げた得物から、目にも留まらぬ早さで剣撃を繰り出してくるという。
その刀身はほのかに輝いているそうだ。
まるで聖剣のように――。
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