お屋敷メイドと7人の兄弟

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【四男・五男】檻 後編

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 その夜以来、レイラが双子の一番のお気に入りになったようで、三人で寝ることが格段に増えた。体力的にはきつかったが、二人とも苦しいプレイは要求してこず、眠たい時には寝かせてくれる。どちらも上手にレイラの弱いところを見つけるせいで、気持ちよくして貰えることも多くなった。
 を終え今にも寝落ちそうなレイラの身体に、左右からたっぷりキスをしてくれて、これじゃどっちが夜伽してるんだかわからないわ、と思ったものだ。

 次の年の冷え込む冬の夜、リビから誘われた。
 その年はユジが海外の友達のところに遊びに行っていて、寂しかったのだろう。
 行きますと返事してから、その夜がクリスマスだったことに気がついた。
 ライラに渡そうと思っていたプレゼントを、朝一番には会えないから、と思って、彼女のベッドに置いて部屋を出た。中身は、彼女お気に入りの化粧品会社のホリデースペシャルギフトだ。
 喜んでくれるといいなと、思っていた。心の底から。


******


 リビと二人きりのセックスは、満たされる。
 彼は基本的に誰に対しても甘い。
 じっくり丁寧にキスして、頭を撫でて、可愛いよって囁いて、ぎゅっと抱き締めてくれる。他のご兄弟に比べ、性欲が薄い子だと思う。肌を寄り添わせる温もりだけで、彼は満足しているように見えた。
 恋人とのセックスってこんな感じなのかな、と思わせてくれる…メイドにとっては最高で最悪な男の子。
 抱き合いながら寝入ってしまった彼の髪にキスを落とし、窓の外を見ると、雪が降っていた。

 ライラは誰かに呼ばれたかしら。あの寝室は冷えやすいから。温かさをくれる誰かと、一緒にいてくれればいい。
 双子の妹のことを思うと、少し胸が痛んだ。最近ずっと暗い顔をしてる。私にはなんにも言ってくれないけれど。
 鼻の奥がツンと痛くなって、リビにほんの少しだけ、甘えるように身を寄せた。


******


 翌朝。リビにいっぱいキスしてもらってから寝室に戻ると、レイラのベッドの上に、ライラへのプレゼントがぶちまけられていた。限定の美しい小瓶が粉々になって。香り高い化粧品達が、汚ならしくシーツに染み込んで。壁には真っ赤なルージュで、呪いの言葉が連ねられていた。死ね、と。

 呆然とその場に座り込む。何、これ。

 瞬間、背中に衝撃を感じた。前のめりに倒れて、次に襲ってきたのは熱さ、痛み、混乱、恐怖。
 髪をあり得ない程強く引っ張られ、顔を上げさせられる。混沌とした意識の中でとらえたのは、刃物の煌めきと─憎しみに歪んだライラの顔。


******


 あたしはずっとずっと、リビ様に片想いをしていたのだ。本気で。だから、リビ様と二人きりで初夜を過ごしたかった─4人同室でもいいと言ったレイラを、邪魔だと思った。
 そうして自分が外されたあの夜以来、双子様はレイラに懐いた。なんで?一度に二人も相手するようなビッチが。
 他のご兄弟から誘いを受けても、体調が悪いといって強情に突っぱねた。あたしの身体はもうリビ様のものなんだから。なのに、一向にリビ様からはお誘いが来ない。

 リビ様。リビ様。あなたに性の手解きをしていた時、あたしを可愛いって、たくさんキスしてくれましたよね。優しくて、恋人同士みたいな甘いキス。
 なのに、なんで?

 なんで、クリスマスに、あの女を呼んだの。
 恋人達の夜に。
 許せない。
 あの女。何よ、化粧品って。あたしが、あんたより、ブスだって言いたいわけ。ふざけないでよ。全部、あんたのせいでしょ。あんたさえ、レイラさえ、いなければ、─。

 死ね。


******


 熱した油を浴びせかけられた私の背中は、赤黒い痣とひきつれを残しました。私の顔を切り刻もうとナイフを振りかざしたライラは、旦那様に取り抑えられました。
 ライラが変な様子で歩いている、と他のメイドが報告した直後の出来事だったそうです。
 あの子は警察に引き渡されました。

 数ヶ月かけてリハビリを終え、帰った私を、土砂降りの中待っていてくれたのはリビ様とユジ様でした。
 リビ様は泣いていて、私を抱き締めて離しませんでした。傘を差し掛けてくれているユジ様も顔面蒼白で、じっと唇を引き結んでいました。
 私は─たかだか一介のメイドに過ぎない私と妹が、お二人の心に、深い傷をつけてしまったことを知りました。

 お暇をいただくべきか、何度も何度も迷って、私はお屋敷に残りました。そして2年が経った頃、私はメイド長になりました。

 私は、事件以降、夜伽ができなくなりました。

 身体が醜くなってしまったことも勿論ありますが。
 恐いのです。どうしても。恋と錯覚してしまうあの行為が。ライラは私の唯一の肉親です。同じ血を分けた妹です。どうして、あの子に起こったことが、私に起こらないと言えるでしょう。


******


「…で、危うく指揮棒が掃除用具にされるところだった、あはは」
「うふふ。教授さま、たいそうお怒りだったのではございません?」
「いや、もう、呆れてた。掃除のおばちゃんには勝てないなって」
 リビ様はのんびりとクッキーをつまみながら、朗らかに笑いました。学校はとても楽しいようです。
 私は紅茶を彼のカップに注ぎました。
 本来なら、メイド長の部屋なんかでおやつを食べていい方ではないのです。それでも、リビ様は来てくださいます。
 自分は大丈夫だ、楽しくやっていると伝えるために。

 でも、私は知っています。
 リビ様がもう夜伽を受けたくないと思っていることを。
 彼は一人ではメイドと寝ません。
 ユジ様が一緒にいる時だけ、お相手してくれますが、挿入は嫌がると、バイオレットから報告されました。

 貴族である彼らにとって、異性と肌を重ねることは義務です。先祖から受け継いだ血を繋いでいく、義務です。
 私はそれを、不幸だと思います。

 セックスができなくなった私と、セックスをしたくないリビ様と。
 歪な檻の中をぐるぐる回るような日々の果てに、何があるというのでしょう。
 せめて、せめて。

 リビ様が、自由に誰かを愛せるように、なっていますように。
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