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休憩時間 3
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メイド長のお部屋に入ろうとすると、ちょうどララが出てくるところだった。
「ああ、ルビー。お疲れ」
ぶっきらぼうな声に驚いて見上げると、なんだかすっごくご機嫌斜めで真っ赤な顔をしていた。
「お疲れ様です」
丁寧に挨拶をしてやり過ごす。ララのふて腐れた背中を見送りながら、メイド長に怒られちゃったのかな、と考えた。
が、部屋に入るとメイド長が珍しくにやにや笑っていた。何がそんなに面白いのか、紅茶のカップを持つ手が震えている。
「め、メイド長?」
「ルビーね。お疲れ様です、ふふ」
メイド長はきりりと表情を引き締めると、ルビーのぶんの紅茶を用意しながら、明日以降の業務の相談をした。
******
話が一段落して、ルビーは手作りクッキーをいただきながら、尋ねた。
「そういえば、さっきは何であんなに笑っていたのですか?」
「ああ、あれね」
また思い出しておかしくなったのか、メイド長が困ったように笑う。可愛い。
「午前中にシキ様がいらっしゃったんです。ララを探しに。それで、あの子は買い物に出ていたから、戻ったらお部屋に行くよう伝えておきますとお答えしたんです。
でも、そうしたらシキ様、少し考えて、ふふ、真顔で」
メイド長は噴き出すのを堪えるように、口元を抑えた。
「『いや、部屋に来させなくていいから。今日も愛してるよダーリン、って言っといて』って仰ったから、さっきララに言葉通りお伝えしました」
「そ、それで…」
「彼女、真っ赤になって出てっちゃいました。今頃抗議しにお部屋を訪ねているんじゃないでしょうか」
ルビーの脳内に、人前でそんなこと言わないでよ、恥ずかしい!とわめくララと、今日も恋人に会えて嬉しそうなシキが明瞭に浮かんだ。
「シキ様、策士ですね…」
「ね。ララに、自分から会いにきて欲しいんでしょうね。」
メイド2人のあいだに、和やかな空気がうまれる。ララとシキには、ぜひ幸せになってほしい。
「それにしても、シキ様が、真顔で…」
「「今日も愛してるよダーリン」」
唱和して、顔を見合わせる。同時に噴き出して、ルビーとメイド長はしばらく笑い続けた。
******
「この、ばか!なんで人前でそういう恥ずかしいこと言えるわけ!?ほんっとありえない、三文小説の読みすぎじゃないの!?」
シキの部屋でわめきながら、ララは頭を抱えた。彼は窓際に置いた籐の長椅子に寝そべって分厚い学術書を読んでいる。ララの罵倒が一通り尽きると、そっと本を閉じて言った。
「三文小説はもっと凄いこと書いてあるけど」
「…」
「言ってあげるね」
するりと猫のように立ち上がると、ララをがっちり抱き締めて、耳元に口を寄せた。
「いや!いい!いやです!」
「遠慮しないで」
低く、彼女にしか聞こえない声でえげつない口説き文句を囁く。
あまりの恥ずかしさにララが大人しくなるまで、そう時間はかからなかった。
「ああ、ルビー。お疲れ」
ぶっきらぼうな声に驚いて見上げると、なんだかすっごくご機嫌斜めで真っ赤な顔をしていた。
「お疲れ様です」
丁寧に挨拶をしてやり過ごす。ララのふて腐れた背中を見送りながら、メイド長に怒られちゃったのかな、と考えた。
が、部屋に入るとメイド長が珍しくにやにや笑っていた。何がそんなに面白いのか、紅茶のカップを持つ手が震えている。
「め、メイド長?」
「ルビーね。お疲れ様です、ふふ」
メイド長はきりりと表情を引き締めると、ルビーのぶんの紅茶を用意しながら、明日以降の業務の相談をした。
******
話が一段落して、ルビーは手作りクッキーをいただきながら、尋ねた。
「そういえば、さっきは何であんなに笑っていたのですか?」
「ああ、あれね」
また思い出しておかしくなったのか、メイド長が困ったように笑う。可愛い。
「午前中にシキ様がいらっしゃったんです。ララを探しに。それで、あの子は買い物に出ていたから、戻ったらお部屋に行くよう伝えておきますとお答えしたんです。
でも、そうしたらシキ様、少し考えて、ふふ、真顔で」
メイド長は噴き出すのを堪えるように、口元を抑えた。
「『いや、部屋に来させなくていいから。今日も愛してるよダーリン、って言っといて』って仰ったから、さっきララに言葉通りお伝えしました」
「そ、それで…」
「彼女、真っ赤になって出てっちゃいました。今頃抗議しにお部屋を訪ねているんじゃないでしょうか」
ルビーの脳内に、人前でそんなこと言わないでよ、恥ずかしい!とわめくララと、今日も恋人に会えて嬉しそうなシキが明瞭に浮かんだ。
「シキ様、策士ですね…」
「ね。ララに、自分から会いにきて欲しいんでしょうね。」
メイド2人のあいだに、和やかな空気がうまれる。ララとシキには、ぜひ幸せになってほしい。
「それにしても、シキ様が、真顔で…」
「「今日も愛してるよダーリン」」
唱和して、顔を見合わせる。同時に噴き出して、ルビーとメイド長はしばらく笑い続けた。
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「この、ばか!なんで人前でそういう恥ずかしいこと言えるわけ!?ほんっとありえない、三文小説の読みすぎじゃないの!?」
シキの部屋でわめきながら、ララは頭を抱えた。彼は窓際に置いた籐の長椅子に寝そべって分厚い学術書を読んでいる。ララの罵倒が一通り尽きると、そっと本を閉じて言った。
「三文小説はもっと凄いこと書いてあるけど」
「…」
「言ってあげるね」
するりと猫のように立ち上がると、ララをがっちり抱き締めて、耳元に口を寄せた。
「いや!いい!いやです!」
「遠慮しないで」
低く、彼女にしか聞こえない声でえげつない口説き文句を囁く。
あまりの恥ずかしさにララが大人しくなるまで、そう時間はかからなかった。
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