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南瓜から始まる
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今日も平穏に領地の畑仕事を手伝っていたユーリ・ラン・ヤスミカは野菜の収穫を終えると領民に感謝されて帰途についていた。
「お礼に南瓜を貰ったからシオンに渡さないとな」
シオンとはユーリが主人をしている屋敷の28歳の犯罪歴ある執事だ。
殺人と逃亡という重罪を犯しているが、シオンはもともとは隣国の貴族なのでユーリの家の領地がある国では捕まることはない。
シオンの罪状をそもそもユーリは詳しく知らないので追及もせず屋敷の厨房も任せている。
執事としても優秀だがシオンは料理上手だからだ。
「南瓜をパイにしてもらうかな?それとも……シチューも捨てがたい」
はやく帰って嫁のリンと相談しようと思っていたら当のリンが走ってきた。
「ユーリ!お疲れ様です。お迎えにあがりました!」
「ありがとう。リン、南瓜をもらったけどパイとシチューならどっちがいい?」
「2択ですか?えっと……?」
何気ない会話をしながら仲良くラン・ヤスミカ家別邸に戻るとシオンが丁寧にお辞儀をしてくれた。
「お帰りなさいませ。ユーリ様、リン様。夕食の前にお茶を御用意します」
「ただいま。シオン、南瓜をもらったから好きに料理してくれ」
結局どんな料理にするか決められなかったユーリとリンは料理担当のシオンに南瓜を委ねた。
「承知しました。南瓜のクリーム煮を作ります。紅茶を飲んでお待ちください」
南瓜を持ってシオンは厨房に向かったのでユーリとリンは紅茶の用意が整っている食堂に入るとエドガーが先にお茶を嗜んでいる。
「ユーリ殿、ご苦労だった。紅茶を飲みたまえ」
「エドガー義兄上、ありがとうございます」
エドガーはリンの異母兄でユーリにとっては義兄にあたる。
無害だが変態で破廉恥な妄想とエロ小説にしか関心を抱かない名門大貴族の次男だ。
リンとは異母兄弟だが仲は良好で親の金で異母弟の嫁ぎ先でニートライフを送る25歳無職である。
ちなみに執事のシオンと恋仲でもある。
ユーリの屋敷には少年花嫁のリンとその異母兄で無職のエドガーと執事で殺人犯のシオンが何事もなく平和に暮らしている。
他にも使用人が数人いるが全員が元ゴロツキさんでありシオンほどではないが犯罪歴はある者ばかりだ。
執事を含めて使用人が総じて犯罪者だがラン・ヤスミカ家別邸はいたって平穏である。
ユーリもそうだがリンも実害さえなければ使用人がオール前科持ちでも気にしていなかった。
エドガーは殺人歴があるシオンに熱愛中なのでやはりまったく気にしていない。
「都では間もなくダイアナ王女とミモザ王子の婚礼の儀が執り行われる。父上やミシェル兄上はお忙しいであろう」
紅茶を飲みながらエドガーが告げるとリンが楽しそうに微笑んだ。
「モモだってミモザ王子の側近なのですから大忙しですね!エドガー兄様、流石に王室の婚礼には参列されますよね?シルバー家の次男として」
忘れがちだがエドガーやリンの実家シルバー家は王家の傍流だが親戚筋であった。
本来ならば庶子であってもリンが田舎貴族の次男であるユーリに嫁ぐなど性別を抜きにしても絶対にあり得ないことであったが、様々な思惑が絡んでリンはラン・ヤスミカ家の嫁におさまっている。
それどころか貧乏没落貴族で、しかも次男のユーリは結婚も難しい状態だったのだ。
運命とは不思議なものだと思いながらユーリがカップに手を伸ばすとエドガーが厳かに告げた。
「王家の婚礼に際して父上からシルバー家の子息として列席せよと書簡が届いた」
「やはり!では、エドガー兄様は婚礼に合わせて都に戻られるので?」
リンは初めから庶子の自分には王家の大切な婚礼に参列する資格などないと理解しているので、帰京するエドガーに結婚式の様子を教えてもらおうと思っていた。
しかし、エドガーは突拍子もないことを口にしたのだ。
「私だけ戻るのは面倒でありシオンと離れたくないと父上にお断りの手紙を書いた」
王女と王子の記念すべき婚礼を恋人と離れたくないし面倒くさいで断るエドガー・イリス・シルバー25歳無職!
ミモザ王子は数少ないエドガーの理解者であり友人なのに婚礼に参列しないのは大概ではないかと思うが、そういう忖度もしないのがエドガーの凄いところではある。
「しかし…エドガー義兄上。流石に王家の婚礼をシルバー家のご子息が欠席は当主であらせられるクロード様も怒るのでは?」
ユーリが尋ねるとエドガーは澄ました顔で更にとんでもないことを宣告したのだ。
「父上は1人では億劫ならばシオンも同伴でよいと返事をくれた。だが、シオンが不在だとユーリ殿たちが困ると書いたら、それならユーリ殿とリンも連れてこいと仰っている。ユーリ殿、リン、面倒だと思うが参列してくれまいか?」
「え?俺が王家の婚礼に!?」
「エドガー兄様!私とユーリもダイアナ王女とミモザ王子の婚礼を見られるのですか!?」
こんな展開になるとは想定外でユーリは青ざめたがリンは破顔して喜んでいる。
久しぶりに実家の家族(父クロード除く)に再会もできるのでリンは嬉しいのだ。
「ミシェル兄上やモモとも会えますね!楽しみです!」
「リン!そんな軽いノリでいいのか!王家の婚礼だぞ!?リンはともかく俺なんか絶対に参列資格ない!」
ユーリ・ラン・ヤスミカの頭に非常事態宣言のランプが灯ったところで、厨房での支度を終えたシオンが入ってきた。
「間もなく夕食のお時間です。ユーリ様?何かございましたか?顔色が悪いですよ」
「シオン!聞いてくれエドガー義兄上が王家の婚礼に俺も参列しろと!」
「真ですか!?ではリン様もご実家に帰省されるのですね?」
自分まで道ずれにされると気づいていないシオンが微笑むとエドガーがさらっと言ってのけた。
「シオン、面倒だろうがお前も一緒に来てくれ」
どうしてエドガーは友人であるミモザ王子の晴れの婚礼をここまで面倒くさがるのか謎だが、動揺するかと思ったシオンはすんなり返事をした。
「わかった。婚礼まで時間がないから支度をする」
「ええ!?おい!シオン、そこは狼狽えてくれ!俺だけアワアワしてるって変だろ!?」
隣国で殺人罪に問われて貴族の爵位を剥奪された挙げ句に亡命したシオンは本来ならば1番エドガーの言葉に狼狽するべきである。
しかし、アワアワするユーリに対してシオンは落ち着いた様子で口を開いた。
「実はモモを通してミモザ王子から、面倒であろうがエドガーが欠席はシルバー家にとっては体裁が悪いので一緒に来ておくれ、と手紙で頼まれてました。このヴァカが公式行事をサボったらそれこそ面倒なことになるのでお供いたします」
ヴァカとはエドガーのことである。
隣国のイントネーションだとバカはヴァカらしい。
こうしてエドガーのお供としてラン・ヤスミカ家の代表としてユーリは王家の婚礼という大イベントに行くことになってしまった。
「ユーリ様、南瓜ですがクリーム煮と一緒にプディングも作りました」
平静な様子でディナーを整えるシオンを抱き締めるエドガーとそれを見て笑っているリン。
「まあ!エドガー義兄上とリンがいればなんとかなるだろ!シオンもいるしな!」
ユーリ・ラン・ヤスミカは18歳の田舎貴族の次男で多少イケメンで純朴な以外は平凡な好青年だが、こういうときに腹をくくる勇気は極めて非凡であった。
エドガーはユーリとリン、そしてシオンが了承したのでミモザ王子に手紙を記した。
「シオンも承知してくれたので出席させて頂きます。
婚礼の儀は長時間に渡るので途中退屈するので読書する許可をください。
エロ小説とはバレないよう装丁を施しますゆえ」
この手紙を受け取ったミモザ王子はモモに向かって「ここまで婚礼を面倒に思われるとは逆に愉快だ」とクスクス笑ったがモモはシオンの苦労を思うと頭が痛くなっていた。
「シルバー家の体裁を考えるならエドガー様を不参加にすべきだろ?」
モモの意見が正論だが王家と密接な繋がりがあるシルバー家の次男が欠席は許されず、婚礼の儀は刻一刻と近づいて王都はお祭り騒ぎムードであった。
実は婚礼の主役の1人であるミモザ王子も内心では長時間続く婚礼が面倒であり、最大の主役であるダイアナ王女も「絶対にミモザは長時間拘束されて面倒って思っているわ。わたくしも超絶面倒くさい!」と婚礼の衣装合わせの段階でうんざりしていたのであった。
そんな当事者たちさえも面倒で仕方ない王家婚礼の儀は容赦なく迫ってくる。
end
「お礼に南瓜を貰ったからシオンに渡さないとな」
シオンとはユーリが主人をしている屋敷の28歳の犯罪歴ある執事だ。
殺人と逃亡という重罪を犯しているが、シオンはもともとは隣国の貴族なのでユーリの家の領地がある国では捕まることはない。
シオンの罪状をそもそもユーリは詳しく知らないので追及もせず屋敷の厨房も任せている。
執事としても優秀だがシオンは料理上手だからだ。
「南瓜をパイにしてもらうかな?それとも……シチューも捨てがたい」
はやく帰って嫁のリンと相談しようと思っていたら当のリンが走ってきた。
「ユーリ!お疲れ様です。お迎えにあがりました!」
「ありがとう。リン、南瓜をもらったけどパイとシチューならどっちがいい?」
「2択ですか?えっと……?」
何気ない会話をしながら仲良くラン・ヤスミカ家別邸に戻るとシオンが丁寧にお辞儀をしてくれた。
「お帰りなさいませ。ユーリ様、リン様。夕食の前にお茶を御用意します」
「ただいま。シオン、南瓜をもらったから好きに料理してくれ」
結局どんな料理にするか決められなかったユーリとリンは料理担当のシオンに南瓜を委ねた。
「承知しました。南瓜のクリーム煮を作ります。紅茶を飲んでお待ちください」
南瓜を持ってシオンは厨房に向かったのでユーリとリンは紅茶の用意が整っている食堂に入るとエドガーが先にお茶を嗜んでいる。
「ユーリ殿、ご苦労だった。紅茶を飲みたまえ」
「エドガー義兄上、ありがとうございます」
エドガーはリンの異母兄でユーリにとっては義兄にあたる。
無害だが変態で破廉恥な妄想とエロ小説にしか関心を抱かない名門大貴族の次男だ。
リンとは異母兄弟だが仲は良好で親の金で異母弟の嫁ぎ先でニートライフを送る25歳無職である。
ちなみに執事のシオンと恋仲でもある。
ユーリの屋敷には少年花嫁のリンとその異母兄で無職のエドガーと執事で殺人犯のシオンが何事もなく平和に暮らしている。
他にも使用人が数人いるが全員が元ゴロツキさんでありシオンほどではないが犯罪歴はある者ばかりだ。
執事を含めて使用人が総じて犯罪者だがラン・ヤスミカ家別邸はいたって平穏である。
ユーリもそうだがリンも実害さえなければ使用人がオール前科持ちでも気にしていなかった。
エドガーは殺人歴があるシオンに熱愛中なのでやはりまったく気にしていない。
「都では間もなくダイアナ王女とミモザ王子の婚礼の儀が執り行われる。父上やミシェル兄上はお忙しいであろう」
紅茶を飲みながらエドガーが告げるとリンが楽しそうに微笑んだ。
「モモだってミモザ王子の側近なのですから大忙しですね!エドガー兄様、流石に王室の婚礼には参列されますよね?シルバー家の次男として」
忘れがちだがエドガーやリンの実家シルバー家は王家の傍流だが親戚筋であった。
本来ならば庶子であってもリンが田舎貴族の次男であるユーリに嫁ぐなど性別を抜きにしても絶対にあり得ないことであったが、様々な思惑が絡んでリンはラン・ヤスミカ家の嫁におさまっている。
それどころか貧乏没落貴族で、しかも次男のユーリは結婚も難しい状態だったのだ。
運命とは不思議なものだと思いながらユーリがカップに手を伸ばすとエドガーが厳かに告げた。
「王家の婚礼に際して父上からシルバー家の子息として列席せよと書簡が届いた」
「やはり!では、エドガー兄様は婚礼に合わせて都に戻られるので?」
リンは初めから庶子の自分には王家の大切な婚礼に参列する資格などないと理解しているので、帰京するエドガーに結婚式の様子を教えてもらおうと思っていた。
しかし、エドガーは突拍子もないことを口にしたのだ。
「私だけ戻るのは面倒でありシオンと離れたくないと父上にお断りの手紙を書いた」
王女と王子の記念すべき婚礼を恋人と離れたくないし面倒くさいで断るエドガー・イリス・シルバー25歳無職!
ミモザ王子は数少ないエドガーの理解者であり友人なのに婚礼に参列しないのは大概ではないかと思うが、そういう忖度もしないのがエドガーの凄いところではある。
「しかし…エドガー義兄上。流石に王家の婚礼をシルバー家のご子息が欠席は当主であらせられるクロード様も怒るのでは?」
ユーリが尋ねるとエドガーは澄ました顔で更にとんでもないことを宣告したのだ。
「父上は1人では億劫ならばシオンも同伴でよいと返事をくれた。だが、シオンが不在だとユーリ殿たちが困ると書いたら、それならユーリ殿とリンも連れてこいと仰っている。ユーリ殿、リン、面倒だと思うが参列してくれまいか?」
「え?俺が王家の婚礼に!?」
「エドガー兄様!私とユーリもダイアナ王女とミモザ王子の婚礼を見られるのですか!?」
こんな展開になるとは想定外でユーリは青ざめたがリンは破顔して喜んでいる。
久しぶりに実家の家族(父クロード除く)に再会もできるのでリンは嬉しいのだ。
「ミシェル兄上やモモとも会えますね!楽しみです!」
「リン!そんな軽いノリでいいのか!王家の婚礼だぞ!?リンはともかく俺なんか絶対に参列資格ない!」
ユーリ・ラン・ヤスミカの頭に非常事態宣言のランプが灯ったところで、厨房での支度を終えたシオンが入ってきた。
「間もなく夕食のお時間です。ユーリ様?何かございましたか?顔色が悪いですよ」
「シオン!聞いてくれエドガー義兄上が王家の婚礼に俺も参列しろと!」
「真ですか!?ではリン様もご実家に帰省されるのですね?」
自分まで道ずれにされると気づいていないシオンが微笑むとエドガーがさらっと言ってのけた。
「シオン、面倒だろうがお前も一緒に来てくれ」
どうしてエドガーは友人であるミモザ王子の晴れの婚礼をここまで面倒くさがるのか謎だが、動揺するかと思ったシオンはすんなり返事をした。
「わかった。婚礼まで時間がないから支度をする」
「ええ!?おい!シオン、そこは狼狽えてくれ!俺だけアワアワしてるって変だろ!?」
隣国で殺人罪に問われて貴族の爵位を剥奪された挙げ句に亡命したシオンは本来ならば1番エドガーの言葉に狼狽するべきである。
しかし、アワアワするユーリに対してシオンは落ち着いた様子で口を開いた。
「実はモモを通してミモザ王子から、面倒であろうがエドガーが欠席はシルバー家にとっては体裁が悪いので一緒に来ておくれ、と手紙で頼まれてました。このヴァカが公式行事をサボったらそれこそ面倒なことになるのでお供いたします」
ヴァカとはエドガーのことである。
隣国のイントネーションだとバカはヴァカらしい。
こうしてエドガーのお供としてラン・ヤスミカ家の代表としてユーリは王家の婚礼という大イベントに行くことになってしまった。
「ユーリ様、南瓜ですがクリーム煮と一緒にプディングも作りました」
平静な様子でディナーを整えるシオンを抱き締めるエドガーとそれを見て笑っているリン。
「まあ!エドガー義兄上とリンがいればなんとかなるだろ!シオンもいるしな!」
ユーリ・ラン・ヤスミカは18歳の田舎貴族の次男で多少イケメンで純朴な以外は平凡な好青年だが、こういうときに腹をくくる勇気は極めて非凡であった。
エドガーはユーリとリン、そしてシオンが了承したのでミモザ王子に手紙を記した。
「シオンも承知してくれたので出席させて頂きます。
婚礼の儀は長時間に渡るので途中退屈するので読書する許可をください。
エロ小説とはバレないよう装丁を施しますゆえ」
この手紙を受け取ったミモザ王子はモモに向かって「ここまで婚礼を面倒に思われるとは逆に愉快だ」とクスクス笑ったがモモはシオンの苦労を思うと頭が痛くなっていた。
「シルバー家の体裁を考えるならエドガー様を不参加にすべきだろ?」
モモの意見が正論だが王家と密接な繋がりがあるシルバー家の次男が欠席は許されず、婚礼の儀は刻一刻と近づいて王都はお祭り騒ぎムードであった。
実は婚礼の主役の1人であるミモザ王子も内心では長時間続く婚礼が面倒であり、最大の主役であるダイアナ王女も「絶対にミモザは長時間拘束されて面倒って思っているわ。わたくしも超絶面倒くさい!」と婚礼の衣装合わせの段階でうんざりしていたのであった。
そんな当事者たちさえも面倒で仕方ない王家婚礼の儀は容赦なく迫ってくる。
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