花嫁と貧乏貴族

寿里~kotori ~

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父と子の往復書簡

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リン・ケリー・シルバーは大貴族の父クロードがロリコンであり、屋敷で働いていた13歳の美少女を手籠めにした結果誕生という超絶理不尽な生い立ちを背負っている。

更にその大貴族のクロードパパに繰り返し「お前は庶子で身分が低い」だの「庶子の立場を弁えろ」など言われ続けた。

聡明だが基本的に素直なリンは父親の理不尽を越えている躾に反発を抱かず自分は嫡出の兄姉より格下だと信じて成長した。

父親に反抗もせず15歳まで生活した後、ラン・ヤスミカ家という田舎の貧乏貴族の次男ユーリのもとで奉公しろと命令されて疑いもなく行ってしまう。

双方の意思をガン無視して夫婦ということにされて現在にいたる。

お互いに騙されて婚姻となったがユーリとリンは仲良く暮らしていた。

色々あり実家のクロードパパが改めて最低最悪と認識したリンは嫁ぎ先でプチ反抗期を迎えている。

15歳まで全然反抗しなかったリンも少し純粋が過ぎる。

しかし、そういう素直な優しい子供がなんらかのはずみでキレると1番怖いのだ。

今まで親に反発をしなかった分、怒りや不満を溜めているスパンが長いので破壊力が異次元になる。

そんな15歳で初めて反抗期になったリンが記した実家のパパへの手紙と、それを受け取ったクロードパパの反応を語っていこう。

「往復書簡」ならぬ「報復書簡」である。


シルバー家本邸の当主の執務部屋が凍りついていた。

暖炉の炎で部屋は暖かいはずなのに体感温度が極寒である。

当主クロードはリンからの手紙を何度も読みながらそばに控えているミシェルとモモに問うた。

「これは……暗号の類いか?何度解読しようにも(死ね)としか書いとらん。薬品につけて乾かすと本文が浮かび上がるかと思ったら更に(殺す)と書かれていた」

手の込んだ殺害予告だとは思うが、15歳なのに反発の仕方がストレートかつ幼すぎるとモモは爆笑したくなるのを堪えるのに必死であった。

隣にいるミシェルの様子を伺うと微妙に唇が痙攣しているので恐らくモモと同じ心理状態だと思われる。

しかし、当のクロードだけがリンの殺意あふれるお手紙になにかしらの意味を求めている。

モモとしては「もう手紙の内容を額面通り受けとれよ」と言いたくてたまらない。

ミシェルはリンの直球すぎる手紙を確認すると真面目な顔で言った。

「父上。赤いインクを惜しみなく使って綺麗な筆跡でリンが書いてきたのです。この手紙の真意はそのまま(死ね)と(殺す)というシンプルな殺意です。15年分の溜めていた殺気が私にも充分に伝わります」

「この赤いインクが絶妙に滲んでんのがセンスを感じるよな?」

軽く笑おうとしたモモに対してクロードは「うーむ」と唸り、首を傾げた。

「私……なにかリンを怒らせるようなことしたっけ?」

いや、怒るとかキレるとか通り越して、明確に殺意を滲ませたお手紙を送られる理由は売るほどあるだろとモモとミシェルは同時に心でツッコミを入れた。

実際に殺されても文句は言えない仕打ちをしていたのに全然自覚なしなクロードパパは少し思案すると息を吐いて告げた。

「よし!リンへの返事に(お前もな!)って書いとこ!」

少し思案した割には対応がガキの喧嘩の応酬かよ!

ここは嘘でも「ごめんなさい」と書いとけとモモは呆れ果てた。

ミシェルは色々複雑な想いはあるが、それなりに尊敬していた父上の思考回路がバカチン弟エドガーと同レベルな事実に衝撃を受けた。

バカと天才紙一重だということを如実にあらわす父子喧嘩である。

「父上!?こういうときは親としてリンの気持ちに向き合った方が……!リンはモモのように死ねと殺すを日常会話のように発する子ではありませんでした。そういう子がわざわざ手紙で明確に反抗するのは深刻です!」

「おい!ミシェル!俺だって毎日は言ってねーよ!頸動脈切り裂くぞ!?クソウジ虫が!!」

「モモよ。死ねと殺すをハイブリッドした返しは流石だ。リンにもこれくらいのボキャブラリーを期待したいものだ」

大切な嫡男ミシェルが罵倒されてるのにモモを叱らずクロードは感心している。

感心してる場合かとミシェルは思った。

「お言葉ですが父上。素直で反抗しない優等生な子供に限って何かのきっかけで親への反発が凄まじいと聞きます。親の期待に潰され壊れるケースもあるのです」

「エドガーに私は何も期待してないが、あんな感じだぞ?誕生から25歳までぶっ壊れとる」

「エドガーは除外してください!私だってエドガーの変態……いえ!生態には理解が追いつきません!」

父親に清々しく「何も期待していない」と断言され、割と変態の兄にも「理解不能」と言わせるシルバー家次男変態エドガー……恐ろしい子…!

彼は自由にのびのび、ラン・ヤスミカ領で絶賛ニートライフを満喫している。

「あのさ!エドガー様より今はリン様の手紙をどうにかするのが先だろ?こんなの何通も早馬で送られても人件費がもったいない!あと、紙とインクの無駄!」

モモの限りない正論にミシェルが頷き、クロードに進言した。

「父上。リンに直接返事を書かずユーリ殿に仲介を頼むのはいかがですか?ユーリ殿が間に入ればリンも少し冷静になるかと?」

「うむ…。ではユーリ殿に書簡を送るとするか。え~と……親愛なるユーリ殿……先日はラン・ヤスミカ家の家庭菜園で収穫された野菜をお贈りくださり感謝いたします。新鮮で美味しいと妻と娘たちが大変よろこんでおりました。近所の牧場のジェイムズさん御自慢の自家製ハムとチーズも誠に美味で国王陛下に献上したら大層感激され王妃がジェイムズさんに御礼を……」

「導入が長げえ!!本題に入れ!!あと、勝手にジェイムズさんのハムとチーズを国王陛下に献上すんな!!殺すぞ!?」

「モモ!殺すは禁止!父上!王妃がジェイムズさんに御礼のあとの内容が気になりますがリンの件に入ってください!」

ついに当主クロードにまで「殺すぞ!?」と罵倒して怒鳴り始めたモモをミシェルが必死になだめている。

クロードはモモの罵倒など完全スルーしてお手紙の続きを書いている。

「エドガーは壮健ですか?もし領内でパンツ等の盗難被害でお困りでしたら詫び金を別途送金いたします。それでパンツを被害者に弁償してください。あと…パンツのついでにリンのことですが……」

「おい!それが本題だろ!?ついでとか言うな!パンツのついでにする相談かよ!?」

伝えたいことの優先順位がバグり過ぎている。

モモが手厳しくツッコミを入れてもシルバー家当主クロード・ルカ・シルバーの心はまったくぶれない。

「リンのことですが……ユーリ殿から言ってやってください。死ねとか殺すとか安易に手紙に書かずにせめて鏡文字で書くなり工夫をするようにと。それか直接毒入りのワインなりを寄越すとかエスプリをきかせよと。ワインはとりあえず最初はモモに毒味させます。あの子は賞味期限が絶望的な食材を口に入れても元気なのですぐには死なないと思います。この前ですがモモは厨房のシェフがうっかり腐らせたエビのレモンマリネを平気で食べていました。それでも生存しているのでシェフのルドルフは驚愕しておりました。エビのマリネを1ヶ月も忘れていたシェフを解雇すべきかと悩みましたが……」

「父上!!話が相当脱線してます!世間話になっています!それとモモ!明らかに腐敗してそうなものを口に入れたら危ないだろ?」

結局、クロードがユーリへの書簡を書き終わった頃には夜になりシルバー家の専属シェフであるルドルフが晩餐を完成させていた。

こうして何を伝えたいのかよく分からない書簡がラン・ヤスミカ家別邸に住むユーリ宛に届けられたのである。

手紙を読んだユーリには「おっ!野菜とジェイムズさんのハムとチーズが大好評だった!」と「モモ殿は腐ったエビを食べても平気なのか!?」という本題から遠く離れた内容の方がインパクトが絶大で肝心なリンの反抗期相談はジェイムズとルドルフによって相殺されてしまった。

天然な狡猾親父クロード・ルカ・シルバーと15歳で反抗期している息子リン・ケリー・ラン・ヤスミカの戦いはまだまだ続く。

ちなみにシェフのルドルフは解雇されずに済んでいる。


end






















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