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愛に独占欲をだすと大騒ぎになる例
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近衛十六夜の朝は早い。
可愛い凛にお弁当を作るのもあるが十六夜の世話をしてくれる咲の朝食作りを手伝うからだ。
十六夜の世話をする近衛咲は20歳の青年である。
天涯孤独の孤児だったが10歳の頃に近衛家当主の凪史に惚れられて近衛家に引き取られてきた。
凪史は基本は陽気で気さくな当主だが育成フェチであり、フェチが高じて咲を養子にしてしまった。
どういう育成をされたか十六夜も詳しく知らないが咲は破滅的方向音痴だが家事が得意で聡明な美青年である。
ちなみに咲という名前は仮名であり、本当の真名は当主凪史にしか教えていない。
近衛家の変な言い伝えで妻の本名は夫のみに教えるルールがある。
なので十六夜も咲の本当の名前は分からない。
こういう2人だけの秘め事もいいな、と十六夜は少し憧れている。
「十六夜、今日は唐揚げにするんだろ?凛君の好物!」
咲が味噌汁を作りながら笑っている。
「僕も凛と秘密を共有したいな」
十六夜は十六夜の本名なので秘密にならない。
なにか、凛とだけ交わせる秘密はないかと考えていた。
そんな、十六夜の気持ちがバレバレなのか咲が漬物を包丁でトントン切りながら言ってきた。
「十六夜、秘密を共有するってことは相手を危険に巻き込むこともあるからな」
「そうだね……あっ!熱い!!」
唐揚げ中に油が飛んで十六夜は手を軽く火傷した。
すぐに咲が手当てしたので痛くないが十六夜は凛が心配するかなと思った。
優しくて、思いやりある凛ならきっと十六夜が火傷したら心配する。
しかも、自分の為に作ってて火傷したと知ったら気にするだろう。
十六夜は凛の笑顔をまもる為に力を集中させた。
火傷は見る影もなく消えている。
咲は十六夜の力にため息を吐いた。
「そういう力はなるべく使うなよ。久世家にバレると面倒だ」
「咲さん、10歳で凪史さんを見たとき、どう思った?」
惚けたような十六夜の問いかけに咲は率直に答えた。
「変態野郎だと思った」
「なのに養子になって妻になったの?」
珍しく深掘りしてくる十六夜に咲は息を吐くと苦笑いした。
「10歳からリアルで舐めるように愛されたら情がわく。世間的には犯罪でも俺は凪史の妻だ。それが全てだ」
少し焦げた唐揚げを十六夜が弁当箱に詰めていたら当主凪史が起きてきた。
「おはよう!今日も咲の朝食が食べられて幸せだな!咲~!俺の味噌汁に唾液入れてくれた?」
「入れねーよ!そういう要求やめろ!さっさと食えよ!変質者!」
咲は朝膳を用意すると凪史にキスをしている。
こういう鞭と飴を自在に操れるのが咲という男だ。
凪史がそう教育したのか、生来の魔性か不明である。
「ほら、十六夜も早く食べろ!遅刻する」
キスを終えた咲に急かされて十六夜は弁当箱を包んだ。
それを見ていた凪史がウキウキと咲にお願いしている。
「俺も咲の愛情弁当が食べたいな~!!」
「はぁ?無職に作る弁当はねーよ!高等ムーミン!!」
こんな、調子で近衛十六夜の朝は大抵は咲の凪史への罵倒を聴いて始まる。
咲は散々罵倒した後に絶対に凪史の願いを叶える。
多分、お昼には愛情弁当もとい愛憎弁当が用意されていると察して、十六夜は朝食を終え、登校の支度をした。
学校での昼休みに十六夜が凛の教室に顔をだすと久世が待っていた。
「加藤は今度の学園祭のミュージカル練習でいない。設楽と白珠と3人で稽古してる」
「そう……なら仕方ないね」
帰ろうとする十六夜に久世はさりげなく言った。
「稽古場は覗くな。加藤が本気で好きなら」
「分かってるよ」
凛は十六夜のことを思って頑張ってるのは十六夜にも分かっている。
でも、自分だけ取り残されたような空虚な気分に襲われるのかなぜだろう。
可愛い凛を自分のなかだけに閉じ込めてしまいたい。
凪史が咲をそうしているように。
十六夜が教室を出ようとしたら廊下から凛の気配がした。
見ると設楽と白珠と仲良く笑っている。
自分を置いてきぼりにして笑っている!
十六夜が自分でも身勝手だと呆れるような怒りを放った瞬間に白珠が倒れてしまった。
素早く設楽が支えたが白珠は気絶している。
「旅人!?懐妊したか!?」
半狂乱になる設楽の叫びに白珠は意識を戻して、起き上がった。
「悪い……懐妊はない。急にフラッとした」
「産婦人科に行こう!!早退して!!」
混乱して会話が噛み合ってない設楽と白珠に凛が心配そうに声を掛けている。
「設楽、産婦人科より白珠を保健室につれてこうよ」
設楽は廊下で白珠を堂々とお姫様抱っこすると保健室に行ってしまった。
凛も付き添って行ってしまう。
十六夜が呆然と立っていると背後から殺気を感じた。
久世が鋭く睨んで十六夜を見据えている。
「自分がなにをしたか分かるな?あれは白珠でなければ死んでいた」
家神の加護を受けている白珠だから十六夜の憎悪の力の被害を最小限にできたのだ。
どんな処分を下すか十六夜が覚悟したとき久世が面倒そうに命じてきた。
「放課後に白珠の家に行くぞ。守護する対象を攻撃されて家神は怒っている」
久世はそれだけ言うと十六夜を追い出した。
自分の勝手な独占欲で被害をだした。
白珠の様子を見る為に十六夜が保健室を覗くと設楽が校医に訴えている。
凛はそれを止めようと必死だ。
「絶対に旅人は妊娠してます!お腹の子供は3ヶ月です!!そうでしょ?産科に行かせてください!!」
マジな設楽に校医は穏やかに言い聞かせた。
「それは君の願望だよね?白珠君は少し休むとして、設楽君は先生としては頭の病院に行ってほしいかな~」
結構、ハッキリと設楽を頭おかしいと結論づける校医から離れて、凛は白珠が横になるベッドに近寄った。
「白珠……本当に平気か?急に倒れてビックリした」
不安そうな凛に白珠は明るく笑っている。
「そんな顔するな!俺は元気だ!妊娠もしてない!ほら、恋人が来てるぞ」
白珠の言葉に凛が振り返ると十六夜が弁当箱を持って佇んでいた。
なんだか物凄く悲しそうにしている。
白珠に「もう、大丈夫だから行けよ」と言われて凛は十六夜の元に駆け寄った。
「もしかして俺のこと捜してました!?すみません!稽古してて、終わったら廊下で白珠が倒れて!設楽が産科に行かせろって騒いで!」
アワアワと経緯を説明する凛に十六夜は保健室の外で話したいと伝えた。
白珠と設楽を残して保健室を出ると十六夜は正直に告白した。
「白珠君が倒れたのは僕のせいだ。凛があの2人と楽しそうで、咄嗟に腹が立って、怒りを向けてた」
白珠は無意識に設楽を庇っていた。
守護神の加護がない設楽だったら最悪死んでいる。
どちらにせよ凛の大切な友達に危害を加えてしまった。
「僕は凛を独占したい。僕をおいて友達と仲良くしてるのが我慢できない。この先も凛を自分のものにしたい。じゃないと壊れる」
十六夜が本音を吐くと凛は少し沈黙したあとに喋った。
「十六夜さん、独占禁止法って法律知ってます?」
普段とは異なる冷ややかな凛の口調に十六夜は凛が怒っているとすぐに分かった。
「俺を独占しても十六夜さんは絶対に幸せになれない。俺がそんな幸せを望まないから。突発的でも俺の友達を殺そうとしたのは許せない。そんな、身勝手な独占欲の塊なんて嫌いだ」
凛はそれだけ言うとまっすぐに十六夜を睨んだ。
嫌いにならないでなんて甘えたことを言える立場ではないと十六夜は承知している。
凛には沢山、大切な存在がいる。
両親と祖父母、久世たちがそうだ。
凛にキッパリと嫌いと言われて十六夜は納得した。
こういう男の子だから自分は凛に惚れたのだ。
誰かを心配できる。
誰かの為に怒れるような凛だから十六夜は好きになった。
もっと、一緒にいたかったけど潮時だと十六夜が思ったとき凛が泣き出した。
「ごめんなさい。酷いこと沢山言って……!十六夜さんが好きです!嫌いじゃない!!でも、十六夜さんの好きと俺の好きは違いすぎて!!」
「凛……無理に好きなんて言わなくていいよ」
十六夜が諦めたように微笑むと凛は叫んだ。
「無理じゃない!こんな大迷惑なヤンデレに無理に好きなんて言うか!!本当に大好きなんだよ!!」
例え、お互いの愛情の方向性が違っても気持ちは同じだと凛は泣き叫んだ。
凛は本当に十六夜が好きだから、自らも傷つけるような力で暴走してほしくない。
それだけが言いたかった。
十六夜は淡い紫の瞳が潤んでくる感覚に戸惑っていると凛に抱きしめられた。
「アンタが病んでても、狂ってても、大好きだ!!十六夜!!」
「凛……初めて呼び捨てしてくれた」
こんな調子で凛と十六夜は抱き合いながらお互いの愛情を再確認した。
再確認したのはいいがお昼休みはとっくに終了して設楽と白珠は教室に戻りたいが、凛と十六夜がラブラブで戻れない。
「玄……俺らもしけこむか?」
「そうだな。旅人……大好きだ」
設楽の呟きに白珠は寄り添いながら囁いた。
「それも嬉しいが愛してるって言え」
凛は初めて授業をサボって十六夜の弁当を食べた。
唐揚げが若干焦げてたが十分に美味しく、十六夜の笑顔が嬉しい。
こうして、放課後になり、久世は十六夜を連れて白珠の家に向かった。
化け物である久世や十六夜でも守護神がいる人間に危害を加えたら謝罪が必要だ。
特に神様の類いは己が加護を授けた者への攻撃に厳しい。
久世が十六夜と店に入ると佳代神が笑顔で待ち構えていた。
「危うく私が守護する、たびちゃんを殺しかけたのは貴方ね?」
満面の笑みの佳代神だが確実に怒っている。
十六夜が素直に謝ると佳代神が慰謝料請求してきた。
もちろん、金銭でなく、力で返せという意味である。
この要求に久世が十六夜に代わって慰謝料を提示した。
「白珠を懐妊させた。それで十六夜の不始末はチャラにしろ」
「あらあら!たびちゃんを14歳の母にするつもり?」
「そういうこと。女と違って妊娠期間は2ヶ月だ。あとは、白珠家の力で戸籍を調整しろ」
それだけ言うと久世は十六夜を連れて白珠の店を出ようとした。
すると、佳代神が明るい声で土産を差し出した。
「新商品の白羊羹よ!たびちゃん、ビックリするわね!」
土産を受け取り、久世と十六夜は白珠庵をあとにした。
「音……本当に白珠君は?」
十六夜が念のために確認すると久世は長いため息を吐いた。
「嘘に決まってるだろ。佳代神を和ませる冗談だ。それこそ、妊娠なんて白珠を傷つける」
「でも、白珠君のひそかな願いは設楽君の子を産むことだろ?」
「だから、余計に叶えない!白珠の命とひきかえになるから!」
久世が動けば白珠を懐妊させられる。
だが、反動で白珠が死ぬことになる。
佳代神もそれは承知なので久世が冗談を言ったと分かっていた。
慰謝料は別に支払っている。
佳代神が帰り際に渡した羊羹は実は別物だ。
中身は御札で佳代神の望みが記されている。
十六夜と久世が手渡された御札を見ると佳代神からの希望が毛筆で書かれていた。
佳代神の希望は久世の御札には「御供物としてティファニーの新作ネックレスを買ってこい(メルカリでの購入不可!)」
十六夜の御札には「御供物としてゴディバのチョコレートを10箱買ってこい」と達筆で記されている。
「家神のクセにブランド厨かよ!」
「音……これから買いに行こうよ」
こんな流れで白珠の家の守り神兼祟り神である佳代は豪華な御供物を手に入れた。
佳代神が綺麗なネックレスをしてゴディバを食べている。
「佳代さん、なんか高そうなネックレスだけど買ったの?」
便乗してゴディバを食べながら白珠が尋ねると佳代神は笑って教えてくれた。
「たびちゃんのお陰で御供物がワッショイワッショイよ!」
事情を知らない白珠は設楽と首を傾げながらゴディバを口に入れた。
佳代神としては次はヴィトンのバッグが欲しいので白珠が再び倒れないかな、と守護神としてはダメな物欲を抱いていた。
そんな佳代神の野望も知らずに白珠と設楽は仲良くゴディバを口移している。
久世は兄からカードで大金を使ったことを叱られ、十六夜は咲からお小遣いを全額ゴディバに使ったことを叱られた。
凛は学校で白珠が持ってきたゴディバをもらって超喜んだが、元はと言えば全ての騒ぎの原因は凛だと言えなくもない。
十六夜は凛が述べた独占禁止法は正しいと反省していた。
end
可愛い凛にお弁当を作るのもあるが十六夜の世話をしてくれる咲の朝食作りを手伝うからだ。
十六夜の世話をする近衛咲は20歳の青年である。
天涯孤独の孤児だったが10歳の頃に近衛家当主の凪史に惚れられて近衛家に引き取られてきた。
凪史は基本は陽気で気さくな当主だが育成フェチであり、フェチが高じて咲を養子にしてしまった。
どういう育成をされたか十六夜も詳しく知らないが咲は破滅的方向音痴だが家事が得意で聡明な美青年である。
ちなみに咲という名前は仮名であり、本当の真名は当主凪史にしか教えていない。
近衛家の変な言い伝えで妻の本名は夫のみに教えるルールがある。
なので十六夜も咲の本当の名前は分からない。
こういう2人だけの秘め事もいいな、と十六夜は少し憧れている。
「十六夜、今日は唐揚げにするんだろ?凛君の好物!」
咲が味噌汁を作りながら笑っている。
「僕も凛と秘密を共有したいな」
十六夜は十六夜の本名なので秘密にならない。
なにか、凛とだけ交わせる秘密はないかと考えていた。
そんな、十六夜の気持ちがバレバレなのか咲が漬物を包丁でトントン切りながら言ってきた。
「十六夜、秘密を共有するってことは相手を危険に巻き込むこともあるからな」
「そうだね……あっ!熱い!!」
唐揚げ中に油が飛んで十六夜は手を軽く火傷した。
すぐに咲が手当てしたので痛くないが十六夜は凛が心配するかなと思った。
優しくて、思いやりある凛ならきっと十六夜が火傷したら心配する。
しかも、自分の為に作ってて火傷したと知ったら気にするだろう。
十六夜は凛の笑顔をまもる為に力を集中させた。
火傷は見る影もなく消えている。
咲は十六夜の力にため息を吐いた。
「そういう力はなるべく使うなよ。久世家にバレると面倒だ」
「咲さん、10歳で凪史さんを見たとき、どう思った?」
惚けたような十六夜の問いかけに咲は率直に答えた。
「変態野郎だと思った」
「なのに養子になって妻になったの?」
珍しく深掘りしてくる十六夜に咲は息を吐くと苦笑いした。
「10歳からリアルで舐めるように愛されたら情がわく。世間的には犯罪でも俺は凪史の妻だ。それが全てだ」
少し焦げた唐揚げを十六夜が弁当箱に詰めていたら当主凪史が起きてきた。
「おはよう!今日も咲の朝食が食べられて幸せだな!咲~!俺の味噌汁に唾液入れてくれた?」
「入れねーよ!そういう要求やめろ!さっさと食えよ!変質者!」
咲は朝膳を用意すると凪史にキスをしている。
こういう鞭と飴を自在に操れるのが咲という男だ。
凪史がそう教育したのか、生来の魔性か不明である。
「ほら、十六夜も早く食べろ!遅刻する」
キスを終えた咲に急かされて十六夜は弁当箱を包んだ。
それを見ていた凪史がウキウキと咲にお願いしている。
「俺も咲の愛情弁当が食べたいな~!!」
「はぁ?無職に作る弁当はねーよ!高等ムーミン!!」
こんな、調子で近衛十六夜の朝は大抵は咲の凪史への罵倒を聴いて始まる。
咲は散々罵倒した後に絶対に凪史の願いを叶える。
多分、お昼には愛情弁当もとい愛憎弁当が用意されていると察して、十六夜は朝食を終え、登校の支度をした。
学校での昼休みに十六夜が凛の教室に顔をだすと久世が待っていた。
「加藤は今度の学園祭のミュージカル練習でいない。設楽と白珠と3人で稽古してる」
「そう……なら仕方ないね」
帰ろうとする十六夜に久世はさりげなく言った。
「稽古場は覗くな。加藤が本気で好きなら」
「分かってるよ」
凛は十六夜のことを思って頑張ってるのは十六夜にも分かっている。
でも、自分だけ取り残されたような空虚な気分に襲われるのかなぜだろう。
可愛い凛を自分のなかだけに閉じ込めてしまいたい。
凪史が咲をそうしているように。
十六夜が教室を出ようとしたら廊下から凛の気配がした。
見ると設楽と白珠と仲良く笑っている。
自分を置いてきぼりにして笑っている!
十六夜が自分でも身勝手だと呆れるような怒りを放った瞬間に白珠が倒れてしまった。
素早く設楽が支えたが白珠は気絶している。
「旅人!?懐妊したか!?」
半狂乱になる設楽の叫びに白珠は意識を戻して、起き上がった。
「悪い……懐妊はない。急にフラッとした」
「産婦人科に行こう!!早退して!!」
混乱して会話が噛み合ってない設楽と白珠に凛が心配そうに声を掛けている。
「設楽、産婦人科より白珠を保健室につれてこうよ」
設楽は廊下で白珠を堂々とお姫様抱っこすると保健室に行ってしまった。
凛も付き添って行ってしまう。
十六夜が呆然と立っていると背後から殺気を感じた。
久世が鋭く睨んで十六夜を見据えている。
「自分がなにをしたか分かるな?あれは白珠でなければ死んでいた」
家神の加護を受けている白珠だから十六夜の憎悪の力の被害を最小限にできたのだ。
どんな処分を下すか十六夜が覚悟したとき久世が面倒そうに命じてきた。
「放課後に白珠の家に行くぞ。守護する対象を攻撃されて家神は怒っている」
久世はそれだけ言うと十六夜を追い出した。
自分の勝手な独占欲で被害をだした。
白珠の様子を見る為に十六夜が保健室を覗くと設楽が校医に訴えている。
凛はそれを止めようと必死だ。
「絶対に旅人は妊娠してます!お腹の子供は3ヶ月です!!そうでしょ?産科に行かせてください!!」
マジな設楽に校医は穏やかに言い聞かせた。
「それは君の願望だよね?白珠君は少し休むとして、設楽君は先生としては頭の病院に行ってほしいかな~」
結構、ハッキリと設楽を頭おかしいと結論づける校医から離れて、凛は白珠が横になるベッドに近寄った。
「白珠……本当に平気か?急に倒れてビックリした」
不安そうな凛に白珠は明るく笑っている。
「そんな顔するな!俺は元気だ!妊娠もしてない!ほら、恋人が来てるぞ」
白珠の言葉に凛が振り返ると十六夜が弁当箱を持って佇んでいた。
なんだか物凄く悲しそうにしている。
白珠に「もう、大丈夫だから行けよ」と言われて凛は十六夜の元に駆け寄った。
「もしかして俺のこと捜してました!?すみません!稽古してて、終わったら廊下で白珠が倒れて!設楽が産科に行かせろって騒いで!」
アワアワと経緯を説明する凛に十六夜は保健室の外で話したいと伝えた。
白珠と設楽を残して保健室を出ると十六夜は正直に告白した。
「白珠君が倒れたのは僕のせいだ。凛があの2人と楽しそうで、咄嗟に腹が立って、怒りを向けてた」
白珠は無意識に設楽を庇っていた。
守護神の加護がない設楽だったら最悪死んでいる。
どちらにせよ凛の大切な友達に危害を加えてしまった。
「僕は凛を独占したい。僕をおいて友達と仲良くしてるのが我慢できない。この先も凛を自分のものにしたい。じゃないと壊れる」
十六夜が本音を吐くと凛は少し沈黙したあとに喋った。
「十六夜さん、独占禁止法って法律知ってます?」
普段とは異なる冷ややかな凛の口調に十六夜は凛が怒っているとすぐに分かった。
「俺を独占しても十六夜さんは絶対に幸せになれない。俺がそんな幸せを望まないから。突発的でも俺の友達を殺そうとしたのは許せない。そんな、身勝手な独占欲の塊なんて嫌いだ」
凛はそれだけ言うとまっすぐに十六夜を睨んだ。
嫌いにならないでなんて甘えたことを言える立場ではないと十六夜は承知している。
凛には沢山、大切な存在がいる。
両親と祖父母、久世たちがそうだ。
凛にキッパリと嫌いと言われて十六夜は納得した。
こういう男の子だから自分は凛に惚れたのだ。
誰かを心配できる。
誰かの為に怒れるような凛だから十六夜は好きになった。
もっと、一緒にいたかったけど潮時だと十六夜が思ったとき凛が泣き出した。
「ごめんなさい。酷いこと沢山言って……!十六夜さんが好きです!嫌いじゃない!!でも、十六夜さんの好きと俺の好きは違いすぎて!!」
「凛……無理に好きなんて言わなくていいよ」
十六夜が諦めたように微笑むと凛は叫んだ。
「無理じゃない!こんな大迷惑なヤンデレに無理に好きなんて言うか!!本当に大好きなんだよ!!」
例え、お互いの愛情の方向性が違っても気持ちは同じだと凛は泣き叫んだ。
凛は本当に十六夜が好きだから、自らも傷つけるような力で暴走してほしくない。
それだけが言いたかった。
十六夜は淡い紫の瞳が潤んでくる感覚に戸惑っていると凛に抱きしめられた。
「アンタが病んでても、狂ってても、大好きだ!!十六夜!!」
「凛……初めて呼び捨てしてくれた」
こんな調子で凛と十六夜は抱き合いながらお互いの愛情を再確認した。
再確認したのはいいがお昼休みはとっくに終了して設楽と白珠は教室に戻りたいが、凛と十六夜がラブラブで戻れない。
「玄……俺らもしけこむか?」
「そうだな。旅人……大好きだ」
設楽の呟きに白珠は寄り添いながら囁いた。
「それも嬉しいが愛してるって言え」
凛は初めて授業をサボって十六夜の弁当を食べた。
唐揚げが若干焦げてたが十分に美味しく、十六夜の笑顔が嬉しい。
こうして、放課後になり、久世は十六夜を連れて白珠の家に向かった。
化け物である久世や十六夜でも守護神がいる人間に危害を加えたら謝罪が必要だ。
特に神様の類いは己が加護を授けた者への攻撃に厳しい。
久世が十六夜と店に入ると佳代神が笑顔で待ち構えていた。
「危うく私が守護する、たびちゃんを殺しかけたのは貴方ね?」
満面の笑みの佳代神だが確実に怒っている。
十六夜が素直に謝ると佳代神が慰謝料請求してきた。
もちろん、金銭でなく、力で返せという意味である。
この要求に久世が十六夜に代わって慰謝料を提示した。
「白珠を懐妊させた。それで十六夜の不始末はチャラにしろ」
「あらあら!たびちゃんを14歳の母にするつもり?」
「そういうこと。女と違って妊娠期間は2ヶ月だ。あとは、白珠家の力で戸籍を調整しろ」
それだけ言うと久世は十六夜を連れて白珠の店を出ようとした。
すると、佳代神が明るい声で土産を差し出した。
「新商品の白羊羹よ!たびちゃん、ビックリするわね!」
土産を受け取り、久世と十六夜は白珠庵をあとにした。
「音……本当に白珠君は?」
十六夜が念のために確認すると久世は長いため息を吐いた。
「嘘に決まってるだろ。佳代神を和ませる冗談だ。それこそ、妊娠なんて白珠を傷つける」
「でも、白珠君のひそかな願いは設楽君の子を産むことだろ?」
「だから、余計に叶えない!白珠の命とひきかえになるから!」
久世が動けば白珠を懐妊させられる。
だが、反動で白珠が死ぬことになる。
佳代神もそれは承知なので久世が冗談を言ったと分かっていた。
慰謝料は別に支払っている。
佳代神が帰り際に渡した羊羹は実は別物だ。
中身は御札で佳代神の望みが記されている。
十六夜と久世が手渡された御札を見ると佳代神からの希望が毛筆で書かれていた。
佳代神の希望は久世の御札には「御供物としてティファニーの新作ネックレスを買ってこい(メルカリでの購入不可!)」
十六夜の御札には「御供物としてゴディバのチョコレートを10箱買ってこい」と達筆で記されている。
「家神のクセにブランド厨かよ!」
「音……これから買いに行こうよ」
こんな流れで白珠の家の守り神兼祟り神である佳代は豪華な御供物を手に入れた。
佳代神が綺麗なネックレスをしてゴディバを食べている。
「佳代さん、なんか高そうなネックレスだけど買ったの?」
便乗してゴディバを食べながら白珠が尋ねると佳代神は笑って教えてくれた。
「たびちゃんのお陰で御供物がワッショイワッショイよ!」
事情を知らない白珠は設楽と首を傾げながらゴディバを口に入れた。
佳代神としては次はヴィトンのバッグが欲しいので白珠が再び倒れないかな、と守護神としてはダメな物欲を抱いていた。
そんな佳代神の野望も知らずに白珠と設楽は仲良くゴディバを口移している。
久世は兄からカードで大金を使ったことを叱られ、十六夜は咲からお小遣いを全額ゴディバに使ったことを叱られた。
凛は学校で白珠が持ってきたゴディバをもらって超喜んだが、元はと言えば全ての騒ぎの原因は凛だと言えなくもない。
十六夜は凛が述べた独占禁止法は正しいと反省していた。
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