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寿里~kotori ~

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パリジュテーム!・1

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生命の危機を乗り越えて、フランスの地に上陸した凛だが空港に到着して、入国審査をパスして、ヨッシャ、パリに行こうの段階で「自由・平等・博愛」のトリコロールの洗礼を受けた。

「えっ?ストライキで交通機関が全面的にアウト?いや、でも、バスの切符は券売機で買えましたけど?」

中学生の凛が精一杯の英語で抗議しても空港のスタッフは一言。

「わたし、担当じゃないから知らない」

そうかも知れないが、博愛精神ゼロだな、フランス人!!

博愛ゼロだからフランス革命で大量の貴族をブリ大根みたいにギロチンにかけたんだな!

考えてみればフォアグラなんて動物愛護精神が死んでる食材を食べてる段階で博愛なんて概念ねーだろ!

なんてことを凛は心で叫んでいた。

このままでは、空港からパリ市街に行けない。

徒歩では絶対に無理だし、タクシーは既に乗り尽くされてる。

そもそも、学校側が往復航空券以外になにも手配してくれない。

宿も手配なしなので久世の父親が所有しているアパルトマンに決まった。

K成の修学旅行コンセプトは自己解決である。

海外に放り出されても余裕で観光して帰国できるだけの度量を求められる。

だから、現地でストライキに巻き込まれても自己解決能力で頑張るしかない。

凛は時計を確認して焦っていた。

管理人から鍵をもらう都合上、遅刻はできない。

どう対処するべきか凛が困惑していると白珠が近寄ってきた。

こういう面倒な場面で白珠が出てくるのは珍しい。

大抵は要領よく避けている。

なにか一緒に言ってくれるのかと凛が期待したそばで、白珠は小首を傾げて空港スタッフに微笑みかけた。

白珠がわざと、はにかんだ笑みを見せた瞬間に空港スタッフの態度が豹変した。

「わたしの車でよければ乗って!」

空港スタッフは仕事を早退して自家用車でパリまで送ってくれるらしかった。

ありがたいが先程の塩対応はなんだ、と凛は複雑な思いである。

博愛する奴を選ぶな!

絶対にあの職員、顔採用しただろ!

でも、国際的に人を誘惑できる白珠すげえ!

顔だけで世の中を渡っていける人種だ。

クズだけど悔しいが認めてやるよ。

などど、凛が感心してる横に久世が来て言った。

「最初から白珠を出しときゃよかった」

「久世……それ、思ってても言うな」

とにかく、空港スタッフが仕事サボってパリまで車をとばしてくれて凛たちはパリ左岸に到着した。

パリはセーヌ川で右岸と左岸に分かれている。

久世の父親が所有しているアパルトマンは左岸のエッフェル塔近くの16区にあった。

立派なアパルトマンで、いかにも高級そうだがパリのアパルトマンでは普通らしい。

「スゴいな!?久世のお父さん!!」

アパルトマンというより、豪華なお屋敷のようだと凛がテンションあげると傍にいた十六夜が教えてくれた。

「ここは千早さん……音の父親が株で大儲けして購入したんだよ。凄いよね」

「えっ!?ピアニストなのに株もやるの?意外!?」

凛は久世の親と面識ないが、久世の父親はK成でも屈指の著名人で中等部から高等部卒業まで万年首席だと聞いたことがある。

そのあと、アメリカのジュリアード音楽院に入り、現在は世界的なピアニストであった。

音楽家なので芸術家肌だと思っていたが意外な1面である。

株で儲けてるピアニストって想像つかない。

凛の顔を見ていた久世が笑って話してくれた。

「父さんは天才だからね。ピアノだって株だって武器製造もできる。十六夜の名前は父さんの守護姫神の名前なんだよ」

どうやら久世の父親は久世より遥かに強キャラでチートらしいが守護姫神ってなに?

あんまり深入り禁止かと凛が遠慮していると十六夜がアッサリと事情を吐いた。

「僕のお母様は僕を名付ける前に崖から飛び降りで死んだから、その衝撃で周囲の皆が命名するの忘れた。しばらく、無名で生活してたのを音の父親が気がついて自分の守護姫神と同じ名前にした」

つまり、久世の父親が気が付かなければ十六夜は名無しであった。

側室が遊び半分に見投げしてテンパってたとしても誰か気づけと言いたい。

それか予め名前を考えとけ!

久世の父親が名付け親になり、十六夜は近衛家という久世の遠縁に預けられた。

そこは深く突っ込むとデリケートなので凛は追及しなかったが近衛家ってそもそもどこにあるんだ?

凛は十六夜のことがもっと知りたいと思っていた。

だから、訊こうとしたら邪魔するように設楽と白珠が飛び込んできた。

「久世!シャワーが冷水のままだ!これが俗に言うパリのシャワーか!?」

「こんな高級アパルトマンでも冷水なんだな!」

パリのシャワーは結構高確率でお湯がでない。

久世が管理人に連絡したら「嘘だろ!?」な展開になった。

管理人に久世がなにやらフランス語で抗議している。

久世は親の影響で相当に外国語堪能だった。

凛は「流石、久世!」と感心していたが久世の口調が確実にキレている。

「ふざけるな!管理人なら手配しろ!」

なんか、もう、フランス語は初歩しか分からない凛でも久世がめちゃくちゃ怒ってるのが伝わる。

連絡を終えた久世にシャワーの件を尋ねると信じられない回答が返ってきた。

「管理人が今日は恋人とディナーだから業者には明後日に電話するとかぬかした。だから、ディナー行く前に連絡しろって怒鳴った」

「そっ、そうなんだ……なんで明後日に電話なの?業者の都合?」

「違う。明日は恋人と1日中ベッドにいるから連絡できないって。ベッドじゃなくて棺に入れるぞって脅かした」

久世をここまでキレさすパリジャンがすげえ!

あと、管理人さん、適当すぎる!

しかし、久世の脅しに命の危険を感じた管理人さんが修理に来てくれた。

業者呼ばなくても修理できるなら仕事しようよ、と凛はお国柄の違いにカルチャーショック!

久世が仁王立ちで見張っているので管理人さんが震えている。

「凄いな……アジアの島国の14歳に欧州の大国の大人が負けてる瞬間だ」

見守る常磐の言葉に凛は頷くしかなかった。

修理完了かと思ったら久世が厳しくフランス語で管理人に話し掛けている。

なにを言っているのか凛には不明だが十六夜が通訳してくれた。

「音はこう脅してる。シャワーの勢いが強すぎても殺す。熱湯しかでなくても殺す。タンクの水が空でも殺す。もう一度、部屋の隅々を確認しろ。でないとお前の首と胴はなき別れだ。」

「久世、メチャ怖い!!それと、十六夜さん、フランス語通訳が激うま!」

やはり十六夜も久世と同等に賢いと凛が目を輝かせると十六夜はニコリと微笑んだ。

「フランス語はそれなりに分かるけど、音の殺気だった顔を見てれば、ニュアンスは明白だよ。逆に久世の家の者が来るのに適当な管理人の方が怖いもの知らず」

管理人さん、久世の監視で震えながらライフラインの確認をしている。

なんだか、可愛そうになってきて凛が口を挟んだ。

「久世、管理人さんにも用事がある。シャワーが使えるなら今日はいいだろ?」

たしかにアパルトマンの持ち主の子供が使うのに管理してない管理人は悪いが久世が怖すぎて見てるだけでツラい。

管理人さん、人食い巨人に食われる寸前のモブみたいな顔になってるよ。

だが、凛の優しさを久世は「甘い!」と切り捨てた。

「ここは日本でなくフランスだ。ホスピタリティーに溢れた日本人と同じにフランス人を扱うな。こいつらは自分の都合でしか動かないクソ個人主義者だ。個人主義は与えられた責務を果たしてから主張させる。加藤の優しさはフランス人にはいらない。こいつが管理人なら部屋を完璧にする以外の道などない!」

つまり……情けを与えるなと言いたいらしい。

久世が管理人に確認をさせて発覚したが部屋のランプが数個点灯しない。

暖房器具が故障している。

果てに冷蔵庫が壊れていた。

管理がまるでなってない!

こりゃ、久世が怒るの無理もない。

凛だって真相知って、呆れてしまった。

久世は心臓が凍るような声音で管理人に告げた。

最後通牒のようである。

「明日までに全て修理しろ。でないとエッフェル塔から投げ捨てる」

管理人が「なにとぞ、御慈悲を!」と訴えてるのが凛にも分かる。

設楽と白珠はシャワー室に再び入った。

常磐は久世を諌めるでもなく数独を始めた。

日本から持参したらしい。

凛は冷蔵庫が使えないなら食材が買えないと考えていた。

すると、十六夜が思い出したように言ってきた。

「来る途中にケバブのお店があったよ。多分、長丁場になるから皆の分を買いに行こう」

「そうですね!久世の威圧感でこっちまで怖くなってた」

てなわけで管理人の裁きは久世に任せて凛は十六夜とケバブ屋さんに向かった。

車中からなのによく発見できたなと思う。

ケバブ屋さんで凛と十六夜は人数分のケバブを適当に注文した。

ソースも適当で肉は冒険して羊にした。

ケバブを待ってる最中に凛は十六夜に思いきってお願いしてみた。

「今度……十六夜さんのお家のこと教えてください」

小声で頭を下げる凛に十六夜は微笑んだ。

「遊びにおいでよ。僕も凛の家に行ってもいい?」

その返事に凛は「ありがとうございます!勿論です!!」と瞳を輝かせた。

そんな凛と十六夜の様子を見ていたケバブ屋さんが笑顔で質問してきた。

「君ら日本人か?実は俺の恋人のアランがクゼって日本人が所有する近所のアパルトマンの管理人なんだ!今日はデートするから楽しみだよ!!」

アラン!!現在絶賛、久世の支配下!!

ご機嫌でケバブを渡してくれるケバブ屋の男性に対して凛は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

あんだけ管理を疎かにしたアランの責任だが純粋にデートを楽しみにしてるケバブ屋の兄さんはどうなる?

悲しむよな!恋人とデートできなくて!!

凛は十六夜とケバブ屋さんを出ると宣言した。

「アランを解放するよう再度久世に頼みます。甘くても人の笑顔を台無しにすることはできない」

「音が聞く耳もつか微妙だけど頼もうか?」

十六夜も味方してくれたので凛は勇気を出してアパルトマンに到着すると久世に談判した。

「久世!!甘くてもアランとケバブ屋さんのデートを無しにしてはダメ!ケバブ屋さんが可愛そうだ!!」

凛の決死の嘆願に久世はため息を吐いた。

「わかったよ。おい、ムッシュ・アラン、明日中に壊れてる箇所は直せ。誓うなら今日はもういい。」

ケバブ屋さんの笑顔の為に行動した凛の勇気ある姿勢は良くも悪くも修学旅行を大きく変えた。

翌日、待てど暮らせどアランが来ない。

「だから、情けは無用だって先に言っただろ。これがフランス人だ」

冷やかな久世の台詞に凛は返す言葉がない!

シュンとする凛に十六夜だけは笑顔であった。

「僕はそういう凛が好きだよ」

結局、久世が再度、アランを脅して仕事をさせた。

良い変化はケバブ屋の兄さんが凛と十六夜には無料でケバブをくれる。

怠惰な管理人アランにも凛の真心だけは伝わったようだ。

情けをかけた罰として凛は十六夜とアランがキチンと仕事をするか見張る係となり1日潰れたがアランがケバブをおごってくれた。

「ボクの初恋も年上だったな~!!」

どうでもよいアランの初恋を凛と十六夜はケバブを食べながら聴くはめになった。

仕事しろと言いたいがケバブは美味しいので凛は適当に相づちうっていた。

凛、アランに十六夜との関係がバレてるが気が付かず。

夕方になってアランがすべての仕事を終えた。

凛と十六夜はお礼をのべたが、そもそも持ち主が来る前に管理しとけと思った。

「1日観光できなかったですね」

「僕は凛と一緒で楽しいよ」

まだ、出掛けた久世たちが帰ってくるには時間がある。

凛と十六夜は部屋で寄り添いながらキスをしてフランスでの1日を過ごした。

2人で寄り添って寝ているうちに久世たちが戻ってきた。

仲良く寝ている凛と十六夜を見ていた久世はソッと部屋に土産の焼き栗をおいてドアを閉めた。

幸せそうな凛と十六夜の寝顔に久世は隠しきれない憧憬を感じたが傍らの常磐の手を握った。

「俺も誰かの代わりでなく辰希を愛したかった」

弱々しい久世の呟きに常磐は冷静に答えた。

「代わりになることを選んだのは俺だ」

その言葉に久世は笑顔を見せると常磐を優しく抱きしめてキスをした。

end














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