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加藤凛はこの学園に入学して死ぬほど後悔した。
彼はいわゆる神童である。
小学生時代はテストで満点しかとってなかった。
おまけに運動も得意で顔立ちもそれなりであった。
両親は彼の教育に力を入れていた。
鳶が鷹を生んだと思い込んでいる。
だが、肝心の息子である凛は自分の限界を知っている妙にクールな少年であった。
公立学校では通用する学力も私学の名門学園に行けば月並みだ。
だから凛自身は普通に公立中学に進学して更に普通に公立高校に行って、それなりの大学に入って、無職にならなければOKの人生設計である。
手堅く公務員とかいいよな、と考えてる賢明な子供であった。
しかし、凛の頭脳を過大評価した両親は絶対に中学から私学に入れる気満々だ。
お陰で凛は遊びたい盛りに塾通い地獄となり、分不相応な名門私立学園を受験する羽目に陥った。
凛は地方公務員になりたかったが両親は凛を国家公務員にさせて自慢したかったのであった。
この、凛という子供は少し生真面目で責任感があるタチであり、親が期待するなら背く気持ちになれなかった。
そして、猛勉強の果てに都内有数の名門進学校に合格したのだ。
凛はひそかに絶望していた。
ここに滑り込めても落ちこぼれ確実である。
実際に湯島天神にて菅原道真に「不合格になりますように」と祈願していた。
だが、その向学心の無さが学問の神様のお怒りに触れて、見事合格してしまった。
抱き合って喜ぶ両親の前で自害したいと思っていた次第である。
「俺はこれが限界なんだ。この先も競争なんて嫌だ!」
凛がもう少し度胸ある子供だったら両親に入学拒否をしただろう。
だが、御馳走作って笑ってる母親と嬉し泣きしてる父親の前で入学辞退は言えなかった。
聡明な人間は後先が良くも悪くも見えてしまう。
凛には自分の学力の伸び代の限界が見えていた。
こうして加藤凛は暗い気持ちで天下の名門K成学園中等部に入学したのである。
K成学園は偏差値78強を誇る、国内屈指の進学校で当然だが学業優秀な天才の根城だ。
ここで凛は早くも退学したくなった。
今まで当然に満点だったテストの成績が下位に落ちたのである。
勉強しても成績は上がらない。
逆にさして勉強してなさそうな生徒が成績上位であった。
凛と同じクラスに学園が誇る天才がいる。
久世という愛らしい少年で親もK成の卒業生でエリート一家だ。
久世はバンド活動をしているがくせ者揃いのバンドメンバーは全員が学年トップクラスの成績で学園生活を楽しんでいる。
凛は存在感抜群の久世とその仲間が苦手であった。
何か嫌がらせをされた訳ではないが劣等感に苛まれる。
しかし、バンドメンバーのひとり、設楽は凛と気が合い、クラスで喋る機会があったのだ。
設楽は硬派でバンドをしてないと普通の真面目な優等生に見える。
だが、この設楽、少し……いや、相当に変人である。
設楽は幼馴染みで同じバンドメンバーの白珠という少年を熱愛して真顔で許嫁だと公言してはばからない。
1度、凛が「どうして、白珠君と許嫁なの?」と質問したら真顔で「神様が決めた!」と設楽は答えた。
その神が決めた許嫁の白珠少年は女癖が最悪なクズである。
過去に女性教師と関係を持って、バンドリーダーの久世に散々、叱られて別れた。
色白で美しい白珠は不遜な少年だが、久世を恐れて絶対服従していた。
久世はアイドルのような美少年で天使と謳われるが内面は鬼畜で性格が悪い。
設楽と白珠の話では親友をセフレにしている。
こんなクズと変態だけのバンドがよく存続していると凛は感心するが潤滑油が存在した。
工藤というドラム担当の少年はクズでも鬼畜でも変態でもない朗らかな少年である。
ドイツ人の母の影響で髪色が栗毛の愛嬌ある生徒だ。
凛もたまに話すが癒される。
でも、工藤は自分の母は魔女の末裔で自分を魔女っ子と自称する程度には変わっている。
工藤は設楽と話しに教室に来るがそれは赤信号のサインだ。
魔女っ子工藤は他人の空気の色彩が見えて、感情の変化を読み取れる。
白珠が浮気すると工藤は設楽に報告する。
すると教室内が修羅場となり、授業が中断するケースもあった。
凛は学業がふるわず、目立たない生徒なので、個性的で優秀な久世たちが羨ましかった。
彼らは変態の一言に尽きるが頭脳明晰で痺れる、憧れる。
なにより、青春してる。
恋のひとつもしたいが勉強ばかりで女子が苦手な凛であったが設楽と白珠のように同性で愛し合う度量はなかった。
どこまでも中途半端な自分に嫌気がさしていたある放課後の出来事。
凛が音楽室の近くを歩いていると久世や設楽たちの楽しそうな笑い声がした。
バンド活動かと思って聞き耳をたてると内容は壮絶なものだ。
久世とセフレの親友が自宅でエロいことをしてたら久世の兄に目撃されて大騒ぎになった。
久世の兄は俳優で、やはりK成のOBであり、有名人だ。
「兄さんが失神して父さんが介抱してた。父さんにやるなら鍵をかけろって叱られた。あと、防音してある部屋でやれって」
久世の言葉に白珠が爆笑している。
「鍵でOKなのが笑える!!俺と玄は廊下でしてても家族はスルーしてるぞ」
「旅人!お前、絶対にいま浮気してるだろ!急に俺と寝たがるときは大抵浮気だ!」
玄(くろ)と旅人(たびと)は設楽と白珠の名前である。
たしか白珠が浮気して設楽と喧嘩してたのは2日前だ。
あの時は解決したのに2日後に再び浮気してる白珠はドクズであり、それでも、別れない設楽はドMともいえる。
修羅場になるかと凛は思わず聞き入ったが工藤の穏やかな台詞にずっこけそうになった。
「落ち着けよ。浮気しない白珠なんて、辛くない蒙古タンメンくらい味気ない」
それ、例えとしてどうなんだと凛は思ったが久世は面白げに言った。
「そうだよ。白珠が貞淑になったら精神科案件だ。設楽、どうせ浮気してもお前は許すんだから騒ぐなよ」
普通は異性同性問わず、恋人には誠実に接するのが交際のルールだと思うが凛の常識と久世たちの常識尺度が異なる。
これくらい頭のネジが飛んでないとK成で好成績は無理なのかと暗澹たる気分になったところで気配がした。
同級生の多々良がそばで微笑んでいる。
多々良は目立たないがミステリアスで成績も良い生徒だ。
学校で飲み食いしているところを見たことないが久世たちとも親しい。
どこか底知れぬ不気味さを感じて凛は多々良が怖かった。
多々良は凛に小声で吹き込んだ。
「きみの成績をあげてやるよ。代わりに手伝ってほしい案件がある」
限りなく怪しい誘いに凛はゾッとした。
どこか妖怪めいた多々良に後退りしていると音楽室から久世が出てきた。
「多々良!聴こえてる。一般人を巻き込むなよ」
久世に睨まれて多々良はおどけて見せた。
「いい獲物が3年にいる。お前も気がついてるだろ?恋さんは現在恋人とラブラブで使えない」
「おとなしくコロッケ食べてろ!」
なにやら口論を始めた久世と多々良に凛は心底困惑していた。
成績は勿論あげたい。
でも、多々良とも久世とも断じて関わりたくない。
この場に乗じて逃げようとしたら誰かにぶつかった。
凛と衝突したのは黒髪が麗しい、高貴な美貌の少年である。
瞳が薄い紫色で印象的だ。
見たことがない生徒だと思ったら上級生らしかった。
多々良は彼を見ると嬉々として凛に紹介しだした。
「この人は近衛十六夜、中等部3年の先輩で自殺志願者なんだ。死ぬ前に君と恋人になりたいって。だから、ひとつ頼むよ」
ひとつ頼むと言われても凛は自殺幇助なんて真っ平だ。
自殺志願者らしい3年生の近衛十六夜は美しいが凛とは同性であり、絶対に頭おかしい。
なんで次々と変態が前に現れるんだと凛が久世に助けを求めると多々良が笑った。
「俺って屍を食べる鬼なんだよ!最近は屍って貴重だから身近に自殺願望あるやつを手放したくない!久世も本人の意思で自殺なら手出しする権利ないよな?」
多々良の主張に久世は言葉に詰まっていた。
そして、「勝手にしろ!」と言って、音楽室に戻った。
凛は多々良と久世がグルで自分をからかっていると結論づけた。
マンガじゃあるまいし鬼なんていてたまるか。
恐らくは少し電波な上級生を利用して成績不振な自分をバカにしている。
久世の性格を考えたらやりかねない。
凛はだんだん腹が立ってきた。
こういう心の病な人は速やかに専門医を受診するべきだ。
それを後輩が集団でからかうなんて非道すぎだと憤った。
だから、凛は近衛という先輩に言ったのである。
「こんな茶番なんてダメです。心の医者に行きましょう」
そして、可能なら多々良と音楽室にいる、久世たちは頭の医者に放り込みたい。
凛の説得に近衛はキョトンとした。
「僕は自殺したいだけで病んでないよ」
「その自殺したいが既に病んでる」
会話が噛み合わない凛と近衛に多々良が口を挟んだ。
「加藤、自殺を阻止するなよ。久々の若い肉なのに」
「うるさい!電波を畳み掛けるな!!」
凛が怒鳴ると五月蝿かったらしく再び、久世が出てきた。
今度はバンドメンバーも一緒である。
色々と面倒になったと見える久世は多々良に提案した。
「多々良は屍が食えれば満足だろ?なら、こうしろよ。近衛先輩は諦めて加藤を餌にしろ。自殺したい気分にさせるようもってくから」
「いいよ!久世がそこまで言うなら。近衛先輩は加藤を死なせたくないなら自殺はやめる。加藤が近衛先輩と恋人になれたら両方諦める」
多々良がそれで話をつけると聴いていた白珠が挙手した。
「はい!ふたりで心中したらどうするんだ?」
白珠の疑問に多々良は答えた。
「それが1番の狙い!!白珠君、賢い」
訳が分からない凛に対して久世が冷たく命じた。
「近衛の自殺を止めないとお前も道連れにさせるから覚悟しろ」
「はあ?俺は関係ないだろ?心の相談室でも頼れよ!!」
凛は抵抗したが久世は無視である。
そして、肝心の近衛は自殺から心中に魅力を感じている。
「一緒に仲良く死のうね!」
退学したい。
何度も思ったが凛はこの時ほど心から退学を志願したことはない。
変態と電波と鬼畜のせいで生命の危機に直面している。
話は済んだとばかりに設楽は冷静に近衛の自殺の動機を尋ねている。
設楽は根本的に白珠以外の人間の生命はどうでも良い男であった。
近衛の自殺の動機はふざけるなの一言に尽きた。
「コンビニから好きなプリンが消えた」
自殺する前にぶっ殺そうかと凛は思った。
こんなやつ放っておけばいいと思ったが久世は凛に手短に述べた。
「彼に死なれると面倒なんだよ。だから、止めろよ」
有無を言わさぬ迫力で見据える久世に凛は頷くしかなかった。
拒んだら本気で殺される気がした。
加藤凛はK成学園に入学したことを死ぬほど後悔したが美しい自殺願望ありの恋人ができたのである。
end
彼はいわゆる神童である。
小学生時代はテストで満点しかとってなかった。
おまけに運動も得意で顔立ちもそれなりであった。
両親は彼の教育に力を入れていた。
鳶が鷹を生んだと思い込んでいる。
だが、肝心の息子である凛は自分の限界を知っている妙にクールな少年であった。
公立学校では通用する学力も私学の名門学園に行けば月並みだ。
だから凛自身は普通に公立中学に進学して更に普通に公立高校に行って、それなりの大学に入って、無職にならなければOKの人生設計である。
手堅く公務員とかいいよな、と考えてる賢明な子供であった。
しかし、凛の頭脳を過大評価した両親は絶対に中学から私学に入れる気満々だ。
お陰で凛は遊びたい盛りに塾通い地獄となり、分不相応な名門私立学園を受験する羽目に陥った。
凛は地方公務員になりたかったが両親は凛を国家公務員にさせて自慢したかったのであった。
この、凛という子供は少し生真面目で責任感があるタチであり、親が期待するなら背く気持ちになれなかった。
そして、猛勉強の果てに都内有数の名門進学校に合格したのだ。
凛はひそかに絶望していた。
ここに滑り込めても落ちこぼれ確実である。
実際に湯島天神にて菅原道真に「不合格になりますように」と祈願していた。
だが、その向学心の無さが学問の神様のお怒りに触れて、見事合格してしまった。
抱き合って喜ぶ両親の前で自害したいと思っていた次第である。
「俺はこれが限界なんだ。この先も競争なんて嫌だ!」
凛がもう少し度胸ある子供だったら両親に入学拒否をしただろう。
だが、御馳走作って笑ってる母親と嬉し泣きしてる父親の前で入学辞退は言えなかった。
聡明な人間は後先が良くも悪くも見えてしまう。
凛には自分の学力の伸び代の限界が見えていた。
こうして加藤凛は暗い気持ちで天下の名門K成学園中等部に入学したのである。
K成学園は偏差値78強を誇る、国内屈指の進学校で当然だが学業優秀な天才の根城だ。
ここで凛は早くも退学したくなった。
今まで当然に満点だったテストの成績が下位に落ちたのである。
勉強しても成績は上がらない。
逆にさして勉強してなさそうな生徒が成績上位であった。
凛と同じクラスに学園が誇る天才がいる。
久世という愛らしい少年で親もK成の卒業生でエリート一家だ。
久世はバンド活動をしているがくせ者揃いのバンドメンバーは全員が学年トップクラスの成績で学園生活を楽しんでいる。
凛は存在感抜群の久世とその仲間が苦手であった。
何か嫌がらせをされた訳ではないが劣等感に苛まれる。
しかし、バンドメンバーのひとり、設楽は凛と気が合い、クラスで喋る機会があったのだ。
設楽は硬派でバンドをしてないと普通の真面目な優等生に見える。
だが、この設楽、少し……いや、相当に変人である。
設楽は幼馴染みで同じバンドメンバーの白珠という少年を熱愛して真顔で許嫁だと公言してはばからない。
1度、凛が「どうして、白珠君と許嫁なの?」と質問したら真顔で「神様が決めた!」と設楽は答えた。
その神が決めた許嫁の白珠少年は女癖が最悪なクズである。
過去に女性教師と関係を持って、バンドリーダーの久世に散々、叱られて別れた。
色白で美しい白珠は不遜な少年だが、久世を恐れて絶対服従していた。
久世はアイドルのような美少年で天使と謳われるが内面は鬼畜で性格が悪い。
設楽と白珠の話では親友をセフレにしている。
こんなクズと変態だけのバンドがよく存続していると凛は感心するが潤滑油が存在した。
工藤というドラム担当の少年はクズでも鬼畜でも変態でもない朗らかな少年である。
ドイツ人の母の影響で髪色が栗毛の愛嬌ある生徒だ。
凛もたまに話すが癒される。
でも、工藤は自分の母は魔女の末裔で自分を魔女っ子と自称する程度には変わっている。
工藤は設楽と話しに教室に来るがそれは赤信号のサインだ。
魔女っ子工藤は他人の空気の色彩が見えて、感情の変化を読み取れる。
白珠が浮気すると工藤は設楽に報告する。
すると教室内が修羅場となり、授業が中断するケースもあった。
凛は学業がふるわず、目立たない生徒なので、個性的で優秀な久世たちが羨ましかった。
彼らは変態の一言に尽きるが頭脳明晰で痺れる、憧れる。
なにより、青春してる。
恋のひとつもしたいが勉強ばかりで女子が苦手な凛であったが設楽と白珠のように同性で愛し合う度量はなかった。
どこまでも中途半端な自分に嫌気がさしていたある放課後の出来事。
凛が音楽室の近くを歩いていると久世や設楽たちの楽しそうな笑い声がした。
バンド活動かと思って聞き耳をたてると内容は壮絶なものだ。
久世とセフレの親友が自宅でエロいことをしてたら久世の兄に目撃されて大騒ぎになった。
久世の兄は俳優で、やはりK成のOBであり、有名人だ。
「兄さんが失神して父さんが介抱してた。父さんにやるなら鍵をかけろって叱られた。あと、防音してある部屋でやれって」
久世の言葉に白珠が爆笑している。
「鍵でOKなのが笑える!!俺と玄は廊下でしてても家族はスルーしてるぞ」
「旅人!お前、絶対にいま浮気してるだろ!急に俺と寝たがるときは大抵浮気だ!」
玄(くろ)と旅人(たびと)は設楽と白珠の名前である。
たしか白珠が浮気して設楽と喧嘩してたのは2日前だ。
あの時は解決したのに2日後に再び浮気してる白珠はドクズであり、それでも、別れない設楽はドMともいえる。
修羅場になるかと凛は思わず聞き入ったが工藤の穏やかな台詞にずっこけそうになった。
「落ち着けよ。浮気しない白珠なんて、辛くない蒙古タンメンくらい味気ない」
それ、例えとしてどうなんだと凛は思ったが久世は面白げに言った。
「そうだよ。白珠が貞淑になったら精神科案件だ。設楽、どうせ浮気してもお前は許すんだから騒ぐなよ」
普通は異性同性問わず、恋人には誠実に接するのが交際のルールだと思うが凛の常識と久世たちの常識尺度が異なる。
これくらい頭のネジが飛んでないとK成で好成績は無理なのかと暗澹たる気分になったところで気配がした。
同級生の多々良がそばで微笑んでいる。
多々良は目立たないがミステリアスで成績も良い生徒だ。
学校で飲み食いしているところを見たことないが久世たちとも親しい。
どこか底知れぬ不気味さを感じて凛は多々良が怖かった。
多々良は凛に小声で吹き込んだ。
「きみの成績をあげてやるよ。代わりに手伝ってほしい案件がある」
限りなく怪しい誘いに凛はゾッとした。
どこか妖怪めいた多々良に後退りしていると音楽室から久世が出てきた。
「多々良!聴こえてる。一般人を巻き込むなよ」
久世に睨まれて多々良はおどけて見せた。
「いい獲物が3年にいる。お前も気がついてるだろ?恋さんは現在恋人とラブラブで使えない」
「おとなしくコロッケ食べてろ!」
なにやら口論を始めた久世と多々良に凛は心底困惑していた。
成績は勿論あげたい。
でも、多々良とも久世とも断じて関わりたくない。
この場に乗じて逃げようとしたら誰かにぶつかった。
凛と衝突したのは黒髪が麗しい、高貴な美貌の少年である。
瞳が薄い紫色で印象的だ。
見たことがない生徒だと思ったら上級生らしかった。
多々良は彼を見ると嬉々として凛に紹介しだした。
「この人は近衛十六夜、中等部3年の先輩で自殺志願者なんだ。死ぬ前に君と恋人になりたいって。だから、ひとつ頼むよ」
ひとつ頼むと言われても凛は自殺幇助なんて真っ平だ。
自殺志願者らしい3年生の近衛十六夜は美しいが凛とは同性であり、絶対に頭おかしい。
なんで次々と変態が前に現れるんだと凛が久世に助けを求めると多々良が笑った。
「俺って屍を食べる鬼なんだよ!最近は屍って貴重だから身近に自殺願望あるやつを手放したくない!久世も本人の意思で自殺なら手出しする権利ないよな?」
多々良の主張に久世は言葉に詰まっていた。
そして、「勝手にしろ!」と言って、音楽室に戻った。
凛は多々良と久世がグルで自分をからかっていると結論づけた。
マンガじゃあるまいし鬼なんていてたまるか。
恐らくは少し電波な上級生を利用して成績不振な自分をバカにしている。
久世の性格を考えたらやりかねない。
凛はだんだん腹が立ってきた。
こういう心の病な人は速やかに専門医を受診するべきだ。
それを後輩が集団でからかうなんて非道すぎだと憤った。
だから、凛は近衛という先輩に言ったのである。
「こんな茶番なんてダメです。心の医者に行きましょう」
そして、可能なら多々良と音楽室にいる、久世たちは頭の医者に放り込みたい。
凛の説得に近衛はキョトンとした。
「僕は自殺したいだけで病んでないよ」
「その自殺したいが既に病んでる」
会話が噛み合わない凛と近衛に多々良が口を挟んだ。
「加藤、自殺を阻止するなよ。久々の若い肉なのに」
「うるさい!電波を畳み掛けるな!!」
凛が怒鳴ると五月蝿かったらしく再び、久世が出てきた。
今度はバンドメンバーも一緒である。
色々と面倒になったと見える久世は多々良に提案した。
「多々良は屍が食えれば満足だろ?なら、こうしろよ。近衛先輩は諦めて加藤を餌にしろ。自殺したい気分にさせるようもってくから」
「いいよ!久世がそこまで言うなら。近衛先輩は加藤を死なせたくないなら自殺はやめる。加藤が近衛先輩と恋人になれたら両方諦める」
多々良がそれで話をつけると聴いていた白珠が挙手した。
「はい!ふたりで心中したらどうするんだ?」
白珠の疑問に多々良は答えた。
「それが1番の狙い!!白珠君、賢い」
訳が分からない凛に対して久世が冷たく命じた。
「近衛の自殺を止めないとお前も道連れにさせるから覚悟しろ」
「はあ?俺は関係ないだろ?心の相談室でも頼れよ!!」
凛は抵抗したが久世は無視である。
そして、肝心の近衛は自殺から心中に魅力を感じている。
「一緒に仲良く死のうね!」
退学したい。
何度も思ったが凛はこの時ほど心から退学を志願したことはない。
変態と電波と鬼畜のせいで生命の危機に直面している。
話は済んだとばかりに設楽は冷静に近衛の自殺の動機を尋ねている。
設楽は根本的に白珠以外の人間の生命はどうでも良い男であった。
近衛の自殺の動機はふざけるなの一言に尽きた。
「コンビニから好きなプリンが消えた」
自殺する前にぶっ殺そうかと凛は思った。
こんなやつ放っておけばいいと思ったが久世は凛に手短に述べた。
「彼に死なれると面倒なんだよ。だから、止めろよ」
有無を言わさぬ迫力で見据える久世に凛は頷くしかなかった。
拒んだら本気で殺される気がした。
加藤凛はK成学園に入学したことを死ぬほど後悔したが美しい自殺願望ありの恋人ができたのである。
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